婚約者編 夏72
レオナルドの件が一応解決してしまった。
「すんなり行き過ぎてて驚いています」
もっとごねられるかと思っていた。
ギルドから徒歩で帰る途中、支援センターの前で男性がアカリに話しかけているのが目に映った。
反射的に動き、
「何か御用ですか?」
二人の間に割り込んだ。
アカリを背に守り、相手を見据える。
「え!?リ、リオ様?あ、あの」
「リオ様、『どうしよう、話してただけってなんて言えばいいのかな』」
背後から聞こえてきた言葉に、自分がやらかしたことに気づいた。背中を嫌な汗が伝う。
アカリを振り返り恐る恐る確認する。
「アカリさん。『話していただけなの?あの、ごめんなさい。わたくし勘違いしてしまって』」
「『いえ、いいんです!嬉しいです。ありがとうございます』リオ様」
相手に向き直り謝罪する。
「わたくしの勘違いでございました。申し訳ございません。これからもアカリさんと仲良ししてくださいませ」
「は、はい!彼女は俺が守ります!」
二人からさっと素早く離れミランダの元に戻る。
「どうしたのですか。」
「私の早とちりでした」
「あぁ、絡まれているようにみえましたか」
「はい」
「ですが、良いと思いますよ。本当に絡まれていたら大変ですし」
南門を抜け屋敷へ戻る。
早速事の成り行きをフレッドに報告した。
「良かった。ひとまず安心だね」
と笑われてしまった。
すっかり予定が空いてしまった私は取り敢えず庭に出る。
日傘を差してゆっくり散歩する。温度調節術式の欠点を知った日以来だ。
あの日以来機をみて術式に魔力を流すのをやめたりしている。現在は至って健やかだ。
「リオ様。セラから報告があります」
庭を彩る花々を観察しているところにミランダから声がかかる。
「どうぞ」
セラに向き直り報告を聞く。
庭師の彼の処遇に関してだった。
逆恨みに巻き込まれただけだったこともあり、本人が望むならば復職を提案していたが、どうやら断ったようだ。
「旦那様は答えは急がないと返事を保留にしています。」
「そう。申し訳ない気持ちで復職は断る予想は立てていたでしょうし、落ち着いて考える時間が必要ですね」
「それからウォルター工房から商品を預かりましたので、部屋に運ばせています。」
「?セラが預かったの?」
「はい。家が隣りでございますし、妻が工房主をしておりますので、その関係もありお付き合いがあります」
「そうでしたか。ありがとうございます。それで、ウォルター工房はまだ忙しそうですか?」
「かなり忙しそうで、人を雇ったと聞いています。ご挨拶しましたが、ちょっと風変わりな子でした。」
「風変わり?」
三日前カウツが新しい従業員だと紹介してくれたのは成人したてくらいの年齢の女性だった。
言葉が不自由な人で名前はモモ。料理や家事全般と会計の手伝いをする予定だという。
「この辺りでは見た事のない服装だったので変わった子だなという印象です。でもお洒落で似合っていましたし大人しい子で悪そうには見えませんでした」
セラの話を聞きながらちょっと引っかかる。
「身振りで何かを伝えようとしていました。カウツ君がお兄さんのように見えましたよ。挨拶する時もカウツ君の後ろに隠れてしまって。人見知りなのかもしれません」
「外国語を話すのではなく、言葉が不自由なのですね?」
一応確認しておこう。
「はい。カウツ君と筆談をしていたので、そうなのかと。カウツ君に確認はしていません」
「こっそり確認していてください。一瞬転移者を疑いました」
「かしこまりました」
報告を終えセラが下がる。
入れ替わるようにマオカがやってきた。
「ミランダ先輩。オリビア様がお呼びです。」
「…わかりました。ではリオ様についていて下さい」
「はい」
「リオ様、しばらく所用でお側を離れます」
「いってらっしゃい」
「失礼致します」
再び庭の散歩に戻る。
「お仕事はどうですか?」
「覚える事が沢山あって充実しています」
「そう。無理はしないでね」
「はい、ありがとうございます」
温室のほうまで散歩する。サイスより南の地域の花達を鑑賞してから部屋に戻った。
セラの言っていた荷物を開け中身を確認する。
武器化を依頼した扇子と日傘だった。
メモが添えられていて、武器化と軽量化は両立が難しいことと一時凌ぎを目的とした改良に留めたことが書かれている。
「刺突以外の選択肢を模索する時間が足りず、今後改良を加えて再度納入するため、お金は要らない。って親方はもう。」
扇子を手に取り開く。特に変わった様子もない。若干重たく感じるくらいだ。骨組みの素材が変わってる?
閉じて手のひらを軽く叩く。痛い。
打撃武器になっているようだ。
「日傘はどうかな。」
日傘はメモにあった通り刺突武器になっていた。先がレイピアのようになっていて、丸いカバーのようなものを被せることで先端の摩耗を防いでいる。
新品のボールペンの先みたいだな。
本来なら先の部分を飛ばしたり鞭のように使用したりする予定だった。忙しすぎて手が回らないようだ。
日傘を開いてみる。
「マオカ、どうかしら?似合う?」
「違った雰囲気になる色合いで、良いと思います」
普段使い用で購入していないから色は気にしていなかった。オレンジってあんまり身につけないから新鮮だ。
リリ用にしようかな。
日傘と扇子を箱に戻す。
マオカの淹れたお茶を飲みながら、リリの運用方法を考える。オレンジの扇子や日傘を持っていたらリリだと千加に言っておけば使えるかな。お忍び、または危険からの脱出時にリリになる時の持ち物にするか。
「ただいま戻りました」
ミランダが戻った。
「リオ様。申請通り来週の中頃から一週間お休みをいただきます。その確認の呼び出しでした」
「いよいよですね。ふふ、楽しみです」
「気が重いです」
来月頭の光の日、ミランダが結婚する。
婚姻式は結構な数の貴族が参加するようで今から憂鬱なのだと言う。
「セシルさんとナタリア様の手綱を握れるのはミランダしかいないと思うので頑張ってください」
「浮かれている二人を宥めながら一日乗り切るなんて無理ではないでしょうか。はぁ、それにミゲルも居るのですよ。嫌な予感しかありません」
ミランダが招待状を送るのを渋っていたら、セシルがさっさと出していたらしく参加の返信をみて頭が痛くなったと話を聞いたマオカは
「ミランダ先輩はお兄さんと仲が悪いのですか?」
尋ねる。
「悪い訳ではありませんが、癖の強い兄なので何か起こりそうで憂鬱なのです」
「ミランダ先輩。兄という生き物は大概にして面倒くさい生き物です。諦めたほうが楽です。」
男兄弟に囲まれて育ったマオカが拳を握る。
この場にいるのが妹として育った三人だけなので概ね共感だけで話が広がっていく。
そうか、マオカのところのお兄さんも面倒臭いのか。




