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不運な召喚の顛末  作者:
第四章
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婚約者編 夏66

やっぱり私の手からは何かが出ているようだ。

就寝前にマッサージしますねと約束したので、約束通りグラッドの背中を手圧したら直ぐに寝息が聞こえていた。

「え、どうなっているんですか、リオ様」

下がる準備をしていたセシルが後ろから覗き込む。

「どうと言われても、疲れていただけだと思います」

取り敢えずマッサージの全行程を施し、ベッドから降りる。

「グラッド様はマッサージが苦手なんですよ。なんでもむず痒くなるそうで」

初耳だ。まぁ最初も押し切るようにマッサージしたからなぁ、言う暇なかったね。

「リオ様はどうされますか?お部屋まで送っていきましょうか?」

「お願いします。」

グラッドの額におやすみのキスをして、天蓋のカーテンを閉め部屋を出る。

セシルに部屋まで送ってもらう。ミランダが丁度部屋から出てくるところだった。

「?リオ様。お泊まりの予定だと思ったのですが」

「大分疲れていたようなので戻ってきました。」

「そうでしたか。ではリオ様もお休みください」

「はい。おやすみなさい」

私も早々に寝ることにした。

翌朝、訓練に出ようと支度をしていると千加が部屋に入ってきた。

「おはようございます。リオ様、報告にきましたよっとお出かけでしたか?」

「いえ、訓練に行こうかと」

「良かった。その前に報告いいですか?」

「わかりました。お願いします」

千加に席を勧める。

「えーでは、まずは支援センターが始動して約一月。色々あったのでその内容がこちら。それからリオ様が考えている計画がこっち。それに付随してウィルとアイゼンが商業ギルドに登録して運用資金を増やした、その内容がこの一覧。」

「運用資金を増やしたのですか?」

「はい。アイゼンとウィルが優秀で助かっています。特にウィルが商品開発とかの感覚が冴え渡っていてその考えをアイゼンが商業ギルドが欲しがる形に整え直して資金にしています」

商業ギルドに登録した商品一覧を確認して金額に驚いた。

「最近登録申請が完了してお金が入ってきたから、やっと報告できます。」

それからと千加がショルダーバッグから追加で書類を取り出す。

「これは各人の言語学習の進捗状況です。ユーリは語学力が飛び抜けているので、今はクレアさんやアカリから発音の細かいところを習っています。アイゼンは日本語の聞き取りが進んでいます。ウィルは英語と相性いいようで、アカリから教わって簡単な単語を交えて会話ができるほどになりました」

「え、凄く優秀」

「マジでリオ様の引きが半端ないです。驚いています。」

「そうだ。あれからスバルの体調はどう?変化はない?」

「問題ありません。逆に調子良いみたいです。」

良かったと安堵する。

「スバルは言語学習に関しては二人のように著しい成長はありませんが、全員の胃袋を掴んでいます。そして、」

千加が姿勢を正す。

「新たな転移者を保護しました。アカネ・スミス君、十五歳です。ニビの方で冒険者が保護、昨日クロムに着きました。加護膜は既に出来ていました。冒険者の方に感謝しているようで、料理をご馳走になったと本人が言っています。」

特に怪我などもなく保護されたと話す千加の表情は厳しい。

防音の魔力壁を張り続きを促す。

『ファンタジー世界に憧れてたタイプの人間で、危機感薄くて楽観的、しかもそれが口から出る。アイゼンとウィルが笑顔で防音壁張ってた。やっぱり貴族すげぇって思ったのは顔見てどんな発言しそうって勘が働くことかな。』

日本語で説明する。

異世界転移ラッキーと宣ったようでアカリも同じ場にいたので二人の対応は正直助かった。

『取り敢えず躾けてみて無理そうなら早々に手放すつもりだと四人には伝えてある。』

「チカも難しいと思ってるの?」

「正直難しい。まずこのスミス君が、今すぐにでも出て行けって追い出したらいくら治安の良いクロムでも身包み剥がされて野垂れ死ぬことを想定していないのが、問題その一」

冒険者をあまくみてるのが問題そのニ。

魔獣をゲームのモンスターみたいに経験値になると思ってるのが問題その三。

と千加が次々と問題点を挙げていく。

少量ながら魔力を持っているらしく面倒臭そうな顔をしている。

「ウィルとアイゼンに説明しづらいし、スバルも戸惑ってる。スガワラさんの冷静さが特筆すべきものだったと今になって思う」

「スガワラさんは魔獣に襲われてたからだと思うよ」

「魔獣と対峙させるか…」

「スバルが実力みてあげるって言ってぼこぼこにしたら?」

「なるほど。流石、思考が物騒だね」

「流石って兄貴が調子乗ってたら母さんが締めてたから、言ってみたけど。たしかに物騒だね。」

「それやってみるよ。ありがとう」

魔力壁を解除する。

「次は収穫祭の屋台の報告です。冷やしうどんとクラフトコーラを出す予定です」

「コーラって作れるのですか?」

「試作しましたけど、クラフトコーラの定義もよくわかりませんが、『ドクターペッパー』や『ルートビア』っぽい味わいで美味しかったです。レシピみたら驚きますよ」

「え、何が」

「体力回復剤が入ってます」

ん???

隣りで聞いていたミランダと顔を見合わせる。

「甘さを砂糖で表現したら単価が高くなるので、体力回復剤を入れて、柑橘類と他のスパイスを煮て作りました。」

アカリから甘い物って何があるのと問われて、色々捻り出した結果スバルが言った体力回復剤が採用された。

「楽しみにしててください」

報告は以上ですと千加が言った。

「想像以上の成果です。ありがとうございます、チカ。みんなにも伝えてください」

「かしこまりました。ではこれはリオ様が持っていてください。私はこれで帰ります」

私に資料を渡して席を立とうとする千加を、玄関まで一緒に行こうと引き留める。

「なんだか大変なことになってますね」

「うん、でもそこまで大変ではないかな。私は新しい転移者のほうが気になるよ」

玄関まで話しながら歩くと、前方からセラが焦った様子で早歩きでやってきた。

「リオ様、チカ様。申し訳ありません、すこしよろしいでしょうか」

「どうしたのですか?セラ」

「は、はい。実は旦那様から昨日の件の調査の手伝いをしてほしいと依頼が入っております。リオ様の知識を貸してほしいと」

アルフの件か。

「わかりました。ではどうすればいいのでしょう。」

「玄関先に調査員が待機しておりますので、その方達に同行してください。ご案内致します」

「ありがとうございます。セラ。」

玄関には男性と女性の文官が待っていた。

「おはようございます。リオ様」

「ご協力いただけるということでよろしいんでしょうか」

「はい。宜しくお願いします」

男性文官はレギー、女性文官はレオナ。文官管理室所属の調査員だった。

南門までは千加も一緒に馬車で行く。

「リオ様。くれぐれもお気をつけて。それでは、ご機嫌よう」

南門で別れる際に態々気をつけるように言うとは何かあるのかもしれない。ただ単に調子には乗るなよと釘を刺しているだけかもしれないが。

アルフの実家はクロムの職人工房近くの住宅区画にある。

「お疲れ様です」

家の前には騎士が立っていて、アルフが外に出ないように監視している。

家の中に入ると、母親らしき年配の女性とアルフが険しい顔でこちらを見ていた。

「本日はアン・フレイマンの子孫だという貴殿の言葉の信憑性についての調査で伺いました。言動の元になった資料があれば提示して下さい。この調査は任意ではありません。強制調査です。ご理解いただけましたら、資料の提示をしてください」

レギーが淡々と告げる。レオナは室内を見回す。

「……これです」

苦々しい表情でアルフが一冊の本を差し出す。

「これが」

レギーは軽く中身を確認すると、私に手渡した。

「リオ様はこちらの真贋を判断していただきたく思います。魔法省で仕入れた知識と照らし合わせてください。」

「はい。わかりました」

レオナは一通り室内を見た後、手当たり次第に棚の中を改めていく。その行動にアルフの母親が反応する。

「ちょっと、何をするんだい!」

「あれだけなのかの調査です。全ての棚、箱の中を確認します。勿論片付けますのでご安心ください」

表情を変えないレオナにアルフの母親は怯む。そして大人しく椅子に座った。

「レギー、あった。これも」

「ふむ。提示していただくよう申し伝えましたが、不足でしたかな?全ての資料の提示をしてください。もう一度、言いましょうか?」

レギーはアルフに一歩近づく。

「ちっ」

アルフは舌打ちをすると書棚から数冊の本を抜きレギーに投げつける。

「これで全部だ!」

「おやおや、こんなに。では、レオナの調査が済むまで、私は貴殿から事情を伺いましょうか。」

レギーが更に近づく。と忌々しそうにアルフは話し始めた。



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