婚約者編 夏65
ミランダが戻ってきた。
「彼はすぐに南門の外に出しました。騎士が監視についています。部屋の私物については明日引き渡します。」
「わかりました。養父上は何と」
「旦那様は明日彼の発言の信憑性と実家の調査を急遽行う予定です。お二人の引きの強さに驚いていました」
グラッドと顔を見合わせる。
「リオの呟きのおかげですね」
「グラッドが誘ってくれたおかげです」
発言が、はもった私達をミランダが同類ですとツッコむ。
「そろそろ戻りましょう」
果樹林を後にする。屋敷に戻った私達はフレッドではなく、ミレニアに呼ばれた。
「大変だったわね」
滅茶苦茶労われた。お茶とお菓子を勧められる。
「養母上。平気ですよ、予想外な展開だっただけで何もされてませんし」
「はい。ミランダが取り押さえてくれましたが何かをするつもりもなかったと思います」
ミレニアは少し不安そうに
「でも彼が本物の大鎌があるって叫んだと聞いたわ」
口にする。
「あはは、それですか?確かに離れの大鎌は初代様の使っていた大鎌の後に作られた品です。でもそれは前の大鎌が破損したから作り直しただけなんです。」
魔法省管理棟の資料室で私が転移者についての資料を読んでいる横でミランダは召喚者についての資料を読んでいた。
その中に初代様の記述も多く残っていた。
リーベック製の武器が壊れたというのは外聞が悪い。だから隠れて作り直した。
その間大鎌を持っていないことをどう誤魔化すかと初代様と当時のリーベック伯爵が考えたのは、サイス伯爵の大鎌をリーベック領でも英雄の大鎌として飾りたい。そのため武器の傷まで再現したレプリカを作るから伯爵に預けた、だった。
戻ってきたのは当然偽物ではなく、本物の大鎌だ。
「そんなことがあったのね」
「歴史書には書いてないことですし、リーベック伯爵の手記にも初代様が鎌を持ってないことを怪しむ人はいなかったと書かれていました。どんな凄い武器だって整備は必要ですから部下の方達も特に気にも留めていなかったのだと思います」
「それでは彼の言葉は歴史書で読んだ知識ではないってことね。その情報と近しい情報を元に離れにある大鎌が偽物だと判断したってことは、彼は本当にアン・フレイマンの子孫なのかしら」
「そこはあまり気にしなくていいですよ、養母上」
グラッドも私も実は彼についてあまり興味がない。
何故なら魔力もなく、どうしたって貴族になれないからだ。
アン・フレイマンの子孫だという事を発言できる神経の図太さは褒められるかもしれないが、世間的には公にしたくない事実だと理解していない点は評価できない。
「取り立てて変な行動は報告されていなかったから驚きが強いわ」
ミレニアと少し話しているとアンナが庭師の責任者を連れてやってきた。
庭師のおじさんは混乱している様子だった。
「この度は」
「ルドルフ。謝罪はいいわ。謝罪すべきことはないの」
「は、い。」
「彼について教えてほしいの。良く果樹林に行くのかしら?」
「果樹林管理へ配属希望はありませんでした。休日も果樹林に行くようなこともありません。ただ、最近帰省してからは思い詰めたような表情をしておりました。彼と親しい者に話を聞くように言っていましたが、何でもないの一点張りで。少し休むようにと休みを与えることしかできませんでした。」
「なるほどわかったわ。ありがとうルドルフ。」
挙手して尋ねる。
「自分のことをアン・フレイマンの子孫だと言ったことについて気づいたことはありますか?」
「いえ。そのような話を聞いたことはありません」
俯いたルドルフの声は険があるように感じる。
「何か言いたいことがあれば伺います」
ルドルフは一瞬躊躇ったが口を開いた。
「何故、リオ様とグラッド様はアルフを拘束したのですか。もし拘束されなければ彼は自分から名乗るようなことはしなかったのではないかと、愚考します」
「そうですね。ですが、考えてみて下さい。果樹林の奥で担当者以外の人間が作業しているのです。それは見て見ぬ振りをしてもいいことなのですか?」
急なことで頭が回っていないようだ。
「いえ」
「不審極まりないですよね?ミランダが取り押さえたのはわたくし達が領主一族だったからです。最悪を考えて動いてくれただけです」
彼の顔色が変わる。
「言い訳も考えずに作業していたことが私としては驚きです。例えば、前に来た時に気になった箇所があったけど担当者に直接言えず自分で作業してしまったとか言えば、貴方の所に連れて行きました。なんなら作業着を着ないで果樹林で祈っていたと言われたほうがまだましでした。奥にいたことの理由は他の人に見られたくなかったとすれば怪しくもこんな急に追い出されることもなかったでしょう」
まぁ本人としては作業着のほうが怪しまれずに済むと考えてのことだろうけど。
「申し訳ございません。考えが及ばず恥ずかしく思います」
「仲間が急に追い出され感情がついていかなかったのでしょうけど、責任者たるもの冷静に客観的に考えなくてはいけません」
私とルドルフの会話を黙って聞いていたミレニアとグラッドが
「ルドルフ。今回のことで庭師達に混乱を与えてしまったことについては謝罪する」
「貴方達、使用人を管理する人間を処罰するつもりはないから安心して。」
そう補足する。
ルドルフは礼をしてアンナと共に下がる。
「ルドルフもリオに気やすさを感じていた側の人間でしたか。全く」
気安さの悪い面が出ていた。
気安さ故に「何で」が先に立ち勝手に裏切られたような気持ちになり冷静な判断が出来ない。
「私は気にしてません。」
「駄目ですよリオ。責任者は理解していないと駄目なのですから、そんなことを言っては駄目です。」
「はい。すみませんでした」
グラッドに叱られて謝る私を見てミレニアが微笑む。
「二人は仲良しね。でもどうして果樹林に行ったのかしら」
「それは初代様へ改めてご挨拶をしたくて、リオを誘って行きました。」
「はい。改まると少し照れますが報告をしてきました」
「ふふふわたくし達も婚約中に果樹林でご報告したわ。そうだわ、今度離れの案内もしなくてはね。」
「はい。お願い致します」
離れの案内は大体婚約して半年以上経ってからという決まりがある。正確には婚約解消の懸念がない状態になるまでだ。
離れにある品々は領主一族の遺品だ。
面識のある相手の品以外を離れから出すことは出来ない。
先代夫人の鏡を用意できたのはミレニアと嫁姑仲が良かったからだ。




