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不運な召喚の顛末  作者:
第四章
325/605

婚約者編 夏64

フォッグからクロムに戻ってきた。

フレッドに婚約パーティーの内容を記した書類を渡し、その後は休暇になった。

グラッドは明日からまた文官研修だ。

今年は収穫祭に文官として参加するため、誰も招待していないと言う。

文官研修の最大の行事だ。これを合格しないと新たな新人研修に進めない。

それまでに刑務部、法務部、総務部の三部署の研修終了は必須で、出来たらギルド部までの研修を終わらせるといい。

新人研修は受け入れ人数も限られているため春の三ヶ月、この四カ所はてんやわんやだ。

それもあってグラッドの文官研修は後回しになっていた。

研修先で合格をもらうまで次に進めない。

合格をもらえば、さくっと次に進めるが大体の新人は一月かかる。

話を聞いた時はグラッドの研修期間が短すぎだと驚いた。

概要と事務処理目的と手順を確認したらひたすら実務をこなし一週間が終わるそう。

思い出したのか遠い目をしたのが過酷さを物語っていた。

「グラッド、マッサージする?」

「……いえ。大丈夫です。」

「葛藤しましたね。断らないでくださいよ」

「寝てしまうのでリオと過ごす時間がなくなるじゃないですか」

「ふふふ、グラッドが私みたいなこと言ってます。じゃあ就寝前にします。これからどうしますか?」

街に出るにしては時間がない。

庭の東屋か部屋くらいしか選択肢がない気がしたけど、

「果樹林に行きませんか?」

と誘われた。

果樹林へは馬に二人乗りして向かう。近いといえ結構距離があるためだ。

私達の後方をミランダが続く。

果樹林の前で馬から降りる。入り口に馬を繋ぎ奥へ向かう。

半自然の果樹林に最近はほぼ毎日通っている。

「グラッド、どうして果樹林なのですか?」

防音の魔力壁を張るとグラッドは

「リオと二人で行きたいと思っていたので、丁度良い機会だからと誘いました。初代様に祈る際はここか離れにある大鎌に向かうのが通例ですから。報告を兼ねて、ね」

果樹林の真ん中、広間で祈る。

その姿を見て私も続く。

『お兄ちゃん。ごめんね、日記の内容喋っちゃった。あと継承禁止料理を作って食べた。だから、あの世で会ったら二人を怒ってほしい。それまではグラッドとサイス領を守っていくから、安心してね』

涙が頬を伝う。

「リオ。」

「えへへ。」

照れ笑いして涙を拭う。

「ほぼ毎日来ていますが、グラッドと改めて祈ると感慨深い気持ちになりました。」

果樹林を散歩する。

「今度は離れの大鎌を見たいです。クラリス様の記憶にもあることはあるんですけど、怖かったのか殆ど見ないようにしていて。」

「クラリスはそういうのは敏感な人でしたから、殺伐としている物には目もくれません。」

そういうとグラッドはクラリスが好きじゃない祖先の遺品をあげる。

初代様の大鎌、三代様の弓、四代様の剣、四代夫人の甲冑等等。

戦いを匂わせるものは苦手だったみたいだ。

「甲冑かぁ、鎧は着たことないです。」

「術式を服に入れているから魔力保持者の鎧は簡易的になっていきます。四代夫人の甲冑は目印だったから、一目見てこの甲冑が誰なのか知らしめることで、これを着て彼女が戦場で鼓舞すると騎士達の士気を上げられた。」

四代様の時代は魔障があった。領主一族は最前線で戦ったと歴史書に書かれていた。その一人が四代夫人だ。

シンボルか、憧れる。

「胸当ては作ってみようかな。」

下着を改造しても激しく動くと揺れは抑えられない。

「それ、誰に相談するつもりですか?」

グラッドの声に、親方達は駄目だと悟る。

「えっとぉ、あ、そうだ。ピオーネに頼みます。これなら問題ないですよね!」

設備係の女性使用人ならば、文句はないだろう。

親方にワイヤーを作ってもらった時の行動は、黙っていよう。親方にも慎みをもってと言われたくらいだ。

「えぇ問題ないです」

良かった、男性職人の名前をあげたらどうしようかと思いましたと笑われる。

セーフ。

「私の場合は絶対にグラッドの贈ってくれたペンダントを残して欲しいな。これに祈られたら仕方ないなぁと話を聞きに行っちゃいます」

「リオ、あまり自分が遺す物の話はしないでください。サイス領では迷信ですが、迎えがくると言われて避ける話題ですから」

「え、あ、すみません。気をつけます。」

迎えがくる。それは怖い。気をつけよう。

折角来てもらっても一緒に行くつもりはないのだから。

「民俗学の本はまだ読んでませんでした。帰ったら読みます。」

「リオの興味の順番がわかるね」

「難しい内容なのでつい後回しに」

「文学と近いって分類してるのが面白いです。歴史書は読んでいたのに、歴史書だと思って読むといいんじゃない?」

「やってみます。淡々と事実だけが書かれている本ならいいんですが。」

私見が語られているのが苦手だ。仮説検証系は大丈夫なのに。

研究に思い至った感情は別のところに書き記してほしい。前書きに書かれている本なら読める。

本の至るところに思い出とかこの研究への情熱とか関係ないものがあると途端に難解で読めなくなる。

「でもリオは手記は読めるのですよね?何か違いがありますか?」

「手記は過去にあった事実への感想だったり真相だったり推察だったり、とにかく過去にあったことを書いています。正しくなくてもいい。その人にとっての真実がわかる貴重な資料です。なので読むことに問題はありません。あ、グラッドは勘違いをしています。物語だって読むことは可能です。理解しているかどうか食指が伸びるかどうかの問題ですから!」

「それは読むことにはなりませんよ。字面を追っているだけです。まぁ文学作品をこよなく愛する方達との交流の際はお気をつけください」

「気をつけます。ぅぅ、グラッドは古典文学が好きなのに、理解し合えなくてごめんなさい」

「?謝る必要はありません。好きは好きで受け入れてくれているではありませんか。それだけでいいです。」

「グラッドの解説は面白かったのでまた聞かせてください。」

「ええ。いつでも。」

果樹林の奥に作業している庭師がいた。

「ご苦労様」

「グラッド様!リオ様も!」

恐縮した彼に

「お仕事頑張ってください」

と声をかけるとすぐに離れる。

あまり緊張させるのも良くない。

「たしかニーナ達と同期の方ですね。アルフさんでしたか。……あれ?果樹林の担当じゃなかったはずですけど。変更があったのかな」

私の呟きにグラッドが、ミランダに視線を向ける。

それに気づいたミランダがアルフを背から押し倒し拘束した。私もミランダの行動に驚く。

「み、ミランダ様?!何故、このようなことを!?」

「貴方の仕事範囲に果樹林は入っていませんが、何をしているのですか?」

「そ、れは」

アルフの顔色が変わった。言い淀み、周りに視線を走らせる。

私達を、いや、グラッドを見ると

「初代様に子孫が会いにきたのだと声を届けるためです!」

叫んだ。

初代様の子孫?ゾイレ、フロスト、ロット、スピナの家の出だった?

「なら果樹林の広間で祈れば問題ありませんよね?」

ミランダの声に

「思い入れがある品に思いが宿り故人へ思いを届ける媒体になる。初代様の大鎌しかその役目を果たしません。」

アルフは嘲笑した。

「貴方は何を言って、」

「は!何も知らないのですか!離れにある大鎌は後から作られたもので、初代様の本物の大鎌はこの果樹林に隠されているのですよ!!」

自信満々に叫ぶ。

「貴方はどこの家の子孫だと言うのですか?」

「ふん!初代様とアン様の子孫ですよ!他の家と一緒にしないで下さい」

「…ミランダ、彼を屋敷から追い出してください。アン・フレイマンの子孫を屋敷に入れるなとサイス家には決まりがあります。」

グラッドが冷たい表情でアルフを見下ろす。

「はい。すぐに対処致します。しばらくお側を離れることをお許しください」

ミランダはアルフを引きずり離れる。

「な、何故!?アン様こそ本物の初代夫人だぞ!ぐっ!」

二人の姿が見えなくなると、グラッドと二人大きなため息をつく。

「とんでもないのがすぐ近くに居ましたね。」

「ええ。まさかサイス領に居るとは。」

アン・フレイマン。

初代様と共に戦乱の世を戦い抜き初代夫人へと望まれたニビ出身の王国騎士。

王からの許しも得て、婚姻を結ぶ予定だったが、その寸前で初代様をサイス領に残し王都へ戻った。

『わたくしは王の騎士です。サイスの元には戻りません』と初代様を捨てた女としてニビでは彼女の話を忌み嫌う。

ニビの恥だと言われている。

初代様は、その後リーベック伯爵の妹を妻に娶り、子供にも恵まれる。アンについては何も言わず、アンとその子供が訪ねてきても屋敷に入れるなとだけ言い残した。

召喚課で読んだ資料の中にアンについて書かれたものがある。それには

『縁も縁もない土地を統べるのは大変だろう。サイスはアンが側で支えてくれたからあの土地を選んだのに、サイスが憐れすぎる。』

『シノノメが怒っている。アンに何かしそうで怖い。当の本人は全然気にしていないどころかシノノメのことを鼻で笑うからシノノメと会わせないように気をつけなくては』

『王がアンから話を聞いたというが、王はそれ以降この件について何も言わなくなった。ただアンを王国騎士から外した。不問にすることは出来なかったようだ』

とあった。

「言わなければわからなかったものを、はぁ」

「そうですよね。初代様もフレイマン家を疎んじたわけではないし、フレイマン家自体はアンの件を受けて王都に移住しましたけど、結構引き留めているんですよね初代様。」

戦友でもあるアンの兄や従兄弟などを引き留めている。

「何人かは名前を変えてスレートの騎士爵で続いているし、それにしてもまさか子供がいたとは」

「しかも子供に教えているのが質が悪いです。それを子々孫々伝えていく神経がわかりません。ならば受け入れれば良かっただろうと考えてしまいます」

「やりきれません」

さっきまで楽しかった気持ちが下降する。グラッドと二人果樹林中央の広間に戻った。



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