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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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事件の終わり1

「クラリスの加護属性、ですか?何をおっしゃっているのですか?クラリスは光属性で」

グラッドの言葉にリリアナが余裕を取り戻した。

「グラッド様、申し訳ございません。わたくしあまりにクラリス様が変わってみえたため、失礼なことを申しました。あの事件以降伯爵令嬢としての自覚がでてきたというのならば属性が増えているかも知れませんわ。加護属性を確認してみましょう?」

人形のように整った顔でそうしましょうと微笑む。その紫の瞳には愉悦の色が見える。

やっぱり、こうくるしかないよね。

ジャックとの話し合いの時に、リリアナがクラリスを別人だと指摘するために必要なことが何かという話になった。満場一致で加護属性だったわけだが。

「加護属性、ですって?そんなもの、魔道具を今から神殿に借りに行くとでもおっしゃっるのですか?」

「クラリス様、以前神殿より借り受けたものが此方にございます」

部屋の隅で控えていたミランダが、クラリスの机の引き出しから魔道具を取り出す。

「あ、…そうでしたわね。」

「クラリス様、加護が増えている可能があるのですもの。これは、良い事ですのよ。あら?どうかされましたか?」

リリアナは楽しそうに此方をみている。先程までの怒りっぷりが嘘のようだ。

「いえ、どうもしませんわ。ミランダ、持ってきてくださる?」

ミランダに向けて手を差し出す。リリアナを意識しながら、手に乗せられた魔道具をみる。

「リリアナ様は本当にわたくしが別人にみえるのですか?とても悲しいです。親友だと思っておりましたのに」

そして、握り締める。

「残念ですわ」

手を開き、魔道具を見せる。

「な、何故。闇属性のはずなのに、なぜ」

クラリスの手の上の魔道具は光属性の石と風属性の石が光っていた。

「リリアナ様、詳しく話をうかがう必要があるようですね」

闇属性の気配を消す魔法を使い隠れていたジャックが姿を表してリリアナを拘束する。

「ジャック、『ナイス』あ、良いところにいらっしゃいました。後は宜しくお願いします」

リリアナを無視して話を進める。グラッドの腕にくっついて悲しい振りをする。

「グラッド、わたくし本当にリリアナ様のことお友達だと思っておりましたの。『ラッキーじゃなくて』悲しいですわ」

「そうだね。パイライト伯爵には抗議しなくてはいけないね」

「グラッド様、騙されてはいけません!そいつは、本当にクラリス様ではないのです!」

「リリアナ様、先程からクラリスではないと言いますが、ではクラリスではなくて何だと言うのですか?」

冷ややかなグラッドの眼差しにリリアナは一瞬怯んだが、

「異世界人がクラリス様の中にいるのです」

クラリスを睨みつけながら言い放つ。

それ言っちゃう?と思いつつもクラリスの振りを続ける。

「一体どのような根拠があって、おっしゃっていますの?リリアナ様?」

「あんたがさっきから言葉の端々で言ってるじゃない。『ナイス』だの『ラッキー』だの。これらは転移者が口にする向こう側の、異世界の言葉よ!」

リリアナを拘束しているジャックがニヤリと悪い笑みを浮かべた。

「意味がわかりませんわ。ジャック、さっさと連れて行ってください」

「クラリス、待って。リリアナ様、その話は本当ですか?」

グラッドがクラリスから離れ、リリアナに近づく。

リリアナの顔に歓喜の色が見える。

「ええ、本当です。ですから、騙されてはいけません!」

「では、一体いつからクラリスではないのでしょうか?私は、いつからクラリスではない相手と親しくしていたのでしょう」

「グラッド様、あの事件です。闇の魔生物をクラリス様が撃退したという話自体が嘘なのです。」

「そんな、あれが、嘘だと?ですが、リリアナ様。何故それを貴女が知っているのですか?」

「わたくし実は現場を目撃して、あまりのことに驚いて、言い出せずにおりましたの。今日はあの時のことを確かめる為にきたのです。騙されていたグラッド様をお救いできて良かったですわ」

頬を赤らめ笑うリリアナ。

「では、連行して下さい。ジャック様」

「『OK』それでは、参りましょうか。リリアナ・パイライト伯爵令嬢。詳しくお話しを聞かせてくださいね」

拘束はとかれる事なく、ジャックが連れて行く。

状況を理解できない顔でリリアナがクラリスとグラッドを交互に見る。

「グラッド様、な、何故」

「?何故とは?」

「その女は偽者」

「いいえ、彼女はクラリス・サイスです。いかなる理由があろうとも、彼女を侮辱することは許しません」

グラッドに冷たい目で見下ろされ、一気に青ざめるリリアナ。

クラリスはグラッドの腕に抱きつくと、満面の笑みを浮かべた。

「リリアナ様、もう二度と会うこともないと思いますが、ご機嫌よう」

ジャックが防音の魔法を使う。リリアナが何か言っているが声は聞こえない。

罵倒されているんだろうなと想像はつく。

部屋から二人が出ていき、ドアが閉まる。

「はぁ、疲れたー」

「そうですね。少し休みましょう」

「お茶を用意致します」

グラッドと二人、長椅子に座る。

「こんなに上手くいくとは思っていませんでした」

「はい、私も同意見です。リオさん、あの台詞はどういう意味でしょう」

「?あの台詞?」

「あちらの言葉で話されていた」

ラッキーやナイスの意味合いの説明をする。グラッドがくる前に言っていた『マジかよ、本当に来たよ』とか、リリアナの耳元で囁いた『イケメン』云々については黙っておく。

ミランダの用意してくれたお茶を飲んで一息つく。

これでひとまず私達の役目は終わりだ。

あまりにも上手くいきすぎて不安が込み上げてくる。

こんなに不運が仕事しなかったことはなかった。

屋外行事は雨、たまに晴れていても予定変更など平穏に行事を楽しんだ記憶がない。

屋外行事は大体天候に関わる不運だが、屋内行事での不運は少し色合いが違う。

文化祭、音楽コンクールでは、なんでこんなことが!といったトラブル満載だった。衣装、小道具が壊れる、音楽が流れない、ピアノの弦が切れる。リハーサルではなんともないのに本番に起こるトラブル。

どちらも私が不参加だと何事もなく終わったときくと怖くて参加できなかった。

それなのに、こちらにきてから不運らしい不運がない。元々こちらの神様に因んだ力だからだろうか?もっと酷くなると踏んだのに全然違う。

軽減策のおかげ?屋外にでないから不運を感じない?

そういえば、本を選んだ時も何もなかった。いつもは、誤植乱丁破損汚れ等を発見する。

今回は内容も何もかも当たりだった。何もない事が怖い。何か大きな不運の前触れではないだろうか?

「リオさんぼんやりしてますが、どうしましたか?」

「いえ、あの上手くいきすぎててちょっと不安になっただけで。あ、そういえば耳の怪我は大丈夫ですか?他に怪我とかしてないですか?」


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