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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
30/605

召喚29

フレッドの部屋に入ると、何故かジャックが同席していた。いつの間にきていたのか、戸惑っていると

「グラッド、クラリス。早く座りなさい。セシル、ミランダは外で待機。」

「はい」

「かしこまりました」

フレッドから手招きをされる。フレッドは笑顔だったが、何故か少しだけ違和感を覚えた。なんだろう?

ミレニアは少しフレッドを気にしている様子だ。

グラッドと二人、席に並んで座る。右手側の一人用ソファに座るジャックと目が合った。

「グラッド、おかえり。慌しくてすまない、此方は魔導局局長のジャックだ。早速だが、本当に面倒臭いことになった。」

フレッドの雑な紹介にジャックが小声でぼやく。

「私の扱い、酷すぎませんか?」

「今更だ。早速だがグラッド、確認したい。帰寮した際に接触があった者を教えてくれるか?」

二人のやり取りに色々考えるのを放棄した顔を一瞬したグラッドだが、淡々と返答する。

「はい、コランダム侯爵令息アレクシス様、マウリッツ伯爵令嬢アディル様、ウパラ領モーブ伯爵令嬢アリエル様、シノノメ侯爵令嬢コハク様、後は、カルセドニー子爵令嬢マリア様です。」

「カルセドニー子爵令嬢か。彼女はクラリスに心酔していたな。何か気付かれてはいなかったかい?」

「彼女は終始クラリスの体調を心配していました。ですが、『筆跡にいつもの軽やかさがなく、硬さがみられる。それでも必死に平静を装う様子が手に取るようにわかる』と返礼の手紙の筆跡をそう称していました。」

グラッドがカルセドニー子爵令嬢の言葉を口にすると、グラッド以外の全員が息を呑んだ。

信者怖い、背中を嫌な汗がつたう。

「彼女のこの能力は他の人にも活用できそうかな」

フレッドが眉間の皺を揉みながら私の方を見る。

やっぱり今日のフレッドは変だ。

「クラリス様から褒められれば、ある程度は期待できると思います」

「そうか。……他の方々はどうだった?」

「はい。アレクシス様、アディル様、アリエル様共に自領の貴族が関与していた事を謝罪されました。コハク様からは情報提供を受けました」

「ウォードではなくコランダムが謝罪するか。なるほど。それで、コハク様からの情報とは何だ?」

「捕縛者の学生達が参加したお茶会に自身も参加したこと。それから、その彼等をリリアナ様が引き合わせたのではないかと考えているようでした。この事件に関与している気がするともおっしゃっていました。」

「根拠は?」

「根拠はまだ足りないようで、此方でも探ってみると。ただ、彼が事件に関わっていることが不自然だと考えているようでした。コハク様は彼と同じ術式の講座を受講していて、普段の彼を知っているようでした」

「シノノメは安泰だな。殆ど情報のない中で当たりを引けるとは」

王の頭脳、王の軍師様々な二つ名を持つシノノメ侯爵領は学問の盛んな領地で、その中でもシノノメ侯爵一族は郡を抜いて優秀だ。

フレッドは少し考えて、

「グラッド、マウリッツは大勢できたか?」

こんな質問をした。

「はい、マウリッツ伯爵令嬢、他マウリッツ名門貴族の方々総勢八名で謝罪にいらっしゃいました。」

「そうか。マウリッツは静観、するつもりだな。モーブ伯爵令嬢だけか?パイライト伯爵令嬢は?」

「アリエル様だけです。自領の貴族を御せなかったことを悔いておられました。」

「ああ、他の令嬢は弁えているのか。……件のご令嬢はサイス領に向けて出発したと報告があった。大人しく言いつけを守って自領にいればいいものを」

「養父上がパイライト伯爵に何か働きかけたのですか?」

「ああ。これでも学園の同期だ。そのよしみで、彼女の行動を制限すれば今回の件で要求する賠償を軽くしてやってもいいと手紙を送ってある」

「脅迫状ともいうね」

ジャックが楽しそうに笑った。

「うるさい、黙れ。……実際、あいつは学園へ赴き、娘に忠告した。クラリスとは今後関わるなとな。報告もあった。が、今朝早馬でこの話しが飛び込んできた。本当に面倒臭い」

フレッドの言葉に違和感を覚えた。面倒臭いという割に召喚事件のサイス領公式発表はリリアナを煽っているように感じたし、賠償も嬉々として要求していたような印象がある。それにリリアナの父親に娘の行動制限の要求をするってことは召喚の件を暗に匂わせているのではないだろうか?逆撫でしてるように捉えられないだろうか?

「フレッド様は、何が面倒臭いと思われているのですか?リリアナ様を煽っているように感じましたが」

「心外な。事件の内容には触れてないし、ただ娘は面会謝絶だから手を煩わせるなって伝えただけだ。それに、ジャック達魔法省はリリアナが関与しているなら其れを捕縛したい、私は出来ることなら引いてほしい。手を引く切っ掛けを与えたのに無視する。私にとって面倒臭い展開になったってだけだ。ボヤきたくもなる」

「養父上、言い過ぎです」

手を引いて欲しかった、確かに自分なら手を引くと言ってはいたが、驚いた。

「フレッド様は、リリアナ様にこの件から手を引いてほしいんですね。クラリス様を害したかも知れないのに」

つい、責めるような言葉を口にしてしまった。

気付いて謝罪をする前にフレッドが

「伯爵というのは、ただの地位ではない。それにウパラはサイスとは立場が違う。侯爵領の伯爵位の血族の処罰は想像以上に禍根を残す。それに今回はモーブ伯爵の元からも捕縛者がでている。我々が受けたダメージよりもウパラが被ったダメージの方が大きい。だから、手を引いて欲しかった。巻き込まれた君の前でする話ではないと思ったが、気分を害したかな?」

なんでもないことの様に笑う。目は笑っていなかったけれど。

「フレッドは取り繕うのが面倒になっただけでしょ。面倒臭い云々は彼女に言わなくてもいいことだし。八つ当たりもいいとこだよ。リオさん、ごめんね。今しか気づかなかったけど大分感情的になってる。ミレニア、どうして止めない。君の役割だろ」

ジャックがミレニアを睨む。

「止めません。フレッド様にとって必要ですので。リオさんには申し訳なく思いますが、」

フレッドにとって必要、か。

なら、ミレニアは止めない。胸に残るもやもやに気づいた。あぁ、嫌だな。

私は、クラリスじゃない。私は、二人の娘ではない。

二人の言葉に悪意はない。私がもやもやするのは、凄く我儘な感傷。押しつけだ。

やられたら、やり返すは私の信条じゃなかったはずだ。兄と母は、そうだが。

私は息を長めに吐いて、テーブルに置かれたポットを掴み、カップに注ぐ。紅茶を淹れる余裕もなかった。グラッドのカップにも注ぐ。

紅茶の香りを胸一杯に吸い込み、一気に飲み干す。

そんな私の行動を、四人はぽかんと音のしそうな呆気にとられた顔で見ていた。

「ところで、リリアナ様の到着はいつになる予定でしょうか?フレッド様の五年ぶりに荒ぶってる感情は一旦脇に置いて、先ずはこれを片付けてからにしましょう。」

「明日の昼前には、クロムに着くはずです。」

ミレニアが返答する。

「それで、私は何をすればいいですか?リリアナ様を煽りますか?」

「そうですね、クラリスのふりをしつつ、口にしなさそうな言葉を選んで下さい。出来ますか?」

「やります。グラッドも協力して下さいね」

「は、はい」

「フレッドより彼女の方が大人だね。」

私はフレッドに向けて笑ったジャックをひと睨みする。

「ジャック様、フレッド様を煽らないで下さい。リリアナ様がボロをだしたら捕縛するためにいらしたのですよね?」

ジャックの驚き顔に私の方が驚く。

なんでそんなに驚いた顔をするかな?ひとまずこの件は横に置くことにしたはずだが?

「勿論だよ。どのあたりで決行するか、相談しよう」

「玄関先、自室、応接室、どちらにしましょうか」

仕掛ける場所の候補をあげる。

「クラリスの部屋の方が人目につかなくていいのではないですか?」

グラッドはクラリスの部屋。

「玄関はやっぱり人目につきますよね。私は先手必勝、不意を突く方がいいと思ったのですが。」

私は玄関。でも、人目があるとボロは出難い。

「不意を突く、ね。なら、緊張を長引かせて、圧をかけてみよう。迎えは、」

ジャックとグラッドと私の三人だけで、話しを進めていく。それを、フレッドはミレニアに寄り掛かりながら眺めていた。

「情けないな。コレをどうして制御しているのか、教えて欲しいよ」

「経験の差ですよ、フレッド様。激しい感情は慣れない内は対処が難しいものです。ましてや、普段は感情の起伏に振り回されることがないのですから。歩き始めた子供のようなものです。よく転びよく泣いて、段々上手くなっていくのですよ。焦ってはいけません。それに今はエリオン様が大切な友人だと認識していたことを大事にして下さい。そして受け流してくれたリオさんに感謝しましょう。」

二人にだけしか聞こえない声で話す。

「色々バレているのは何故だろうか」

「リオさんには、観察と分析の癖があるそうですよ。ミランダが言っていました。」

「そうか。」

フレッドの手をミレニアがそっと握った。

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