召喚27
屋敷の玄関先に馬車は停まり、暫くするとドアが開いた。そこにいたのは、フレッドとミレニアだった。
「少し時間が出来たからね、私達も一緒しよう。ジャックには面白いものを見せよう」
視線を逸らしているミレニアの様子から察するに、後からの単身合流は失敗で無理矢理時間を作ったといったところか。
フレッドとミレニアが馬車に乗り込む。私の隣にミレニア、ジャックの隣にフレッドが座った。
馬車が動き出すのを待ってジャックがフレッドに問い掛ける。
「何処に向かうのかな?フレッド」
「すぐ着くから大人しく待ってろ」
フレッドの声に棘があるなと思ったら、ジャックが苦笑いした。
「おい、化けの皮が剥がれてるがいいのか?」
フレッドは眉間に皺を寄せて、深く息を吐いた。
「構わん。我ながらよく我慢したほうだろ」
「確かに。普段なら屋敷に入ることもできないか」
二人の関係性も去ることながら、フレッドの豹変振りにも驚かされる。
「リオさん、あのこれは」
「ミレニア様、大丈夫です。私の勝手な想像で折り合いをつけますので真相は闇の中で」
「リオさん、結構動揺してるでしょ。意味の分からないこと言ってる」
「リオさん、その想像を聞いてもいいかい?貴女の中で私がどんな男になってるのか興味があります」
ニヤリと笑うフレッドと目が合う。
「えー、それは、アレですよ。ミレニア様に近しい男性をちぎっては投げちぎっては投げで排除してきたのに、未だに纏わりついてるジャック様を忌々しく思っているも、なまじ高位貴族なだけにちょっとした嫌がらせしかできないっていうジレンマに陥っている可愛い男性ですよ」
妄想を披露すると、次第にジャックとミレニアが肩を震わせる。フレッドは笑顔で固まった。
「何それ、凄いな。クラリス嬢は何処でそんな情報を仕入れたのかな」
「いえ、フレッド様の溺愛っぷりを鑑みての妄想なので、クラリス様がどう思っていたかはわかりません」
「フレッド、墓穴を掘ったな」
「好奇心は猫を殺す、か。まぁ、いいさ」
ジャックが揶揄い、フレッドが嫌そうな顔をする。じゃれ合う二人を微笑ましく眺めていると、馬車が停まった。
ミランダが後部車輌からでてきて、馬車の扉を開ける。
屋敷からそう遠くない場所にある、果樹林の前だった。半自然というか、本格的な手入れはされていなかった。
フレッド達が降りるのを見て、降りたくなかったが馬車から降りる。その前に、ミランダが日傘をさしてくれた。よく見れば、ミレニアも日傘をさしている。
日傘を受け取り、密かに深呼吸をした。
足を踏み出した途端に、頭上でパタパタと何かが飛び散る音がした。
「……」
四人の無言の視線が痛い。私にとってはいつもの事だ。何事も無かったように振る舞う。
馬車と御者を置いて、フレッドを先頭に果樹林の中へ入っていく。何処へ行くのだろうか?
この先は確か、広場になってたはず。特に変わった所はないはずだけど。
果樹林を抜けると記憶通りの広場にでた。
「ここまでこれば、大丈夫だろう。ミランダ、周囲の警戒を頼む」
「はい」
ミランダは果樹林の方を向き、エプロンのポケットから何やら紙を取り出し、魔術を発動した。
その様子を確認したフレッドが、今度は私に
「これから、リオさんには魔法を使ってもらいたい。昨日、ミレニアにメモを渡しただろう?その中に書いてあった魔法をお願いしたい」
魔法行使の依頼をする。
「はい。それでは、順番に。まずは、『カメラ(仮)』あらため『カメラ付き携帯電話』」
ミレニアに渡した読書メモには、疑問質問その他諸々の他に思いついた魔法を書き留めていた。順番通りに魔法を使う。
カメラ付き携帯電話、防音ドーム、魔素を認識できるサングラス、魔素を飛ばす扇風機、魔素を故意的に集める掃除機型と除湿機型、液状魔力壁、暗視ゴーグル。
防音ドームは元々ある防音の魔力壁と同じ物だった。闇属性で中の様子を見えなくさせているだけの違いだ。液状魔力壁よりも硬化魔力壁が主流のようだ。
「えーと、これでメモに書いてあった魔法は全部です。」
その後は、仕組みについての質疑応答を繰り返す。
「なるほど、おっ、かなり魔力消費が抑えられるな」
ジャックが魔素認識サングラスをかけ、魔素集めの掃除機型を使って楽しそうに魔素採取をしている。
フレッドは液状魔力壁の効果を試している。
「リオさん、昨日の話ででた術式ですが、これをみて下さい」
そんな二人を見ていたら、ミレニアから一枚の金属製の板を手渡された。術式の彫られた板だった。
「これが、魔生物から魔素を取り出す食肉加工の為の術式ですか」
「えぇ、ここの部分が術式の要ですが、」
「うわぁ、こんなに細かい術式初めてです」
「はい、それが改変が難しい理由です。生きている魔獣からという書き換えでは、消費と効果が釣り合いません。できることはできますが」
「限界はどのくらいですか?」
魔力は体内の魔素循環器を通して空気中の魔素が変換されたものだ。一度に変換できる最大値は個人差がある。ただ、大量消費は心身共に負担が大きい。
「一度に10体です。術式ですらこの有様です。一日で術者が何人も使い物にならなくなります」
「ミレニア、これを改良した術式を組んでくれないか?」
ジャックが魔素採取の掃除機をミレニアに渡す。
「どういうことですか?ジャック」
フレッドが魔法実験を打ち切り、戻ってくる。
「この魔素採取と衝撃反射の術式と掛け合わせる。魔生物を罠にかければ効率的に討伐ができると考えた。どう、これなら大量の術式を防衛ラインに敷いておくだけでいい」
「なるほど。でも、それだと常には敷いておけないだろ、サイス領は冒険者が多い土地だからな。彼等の仕事を無闇に奪えない」
「では、魔素濃度を設定して、衝撃ではなく魔素濃度に反射するように組んでみます。確かに魔獣の魔素を空気中に返還よりは上手く組めそうです。発動魔力の問題もありますが、考えてみます」
一気に話がまとまる様子を呆然と見ていた。
「リオさん、ありがとうございます」
ミレニアが私に微笑みかけるも、
「いえ、私は何も」
していないと変な気持ちになる。
「リオさん、違いますよ。貴女が魔素を認識する魔法の原理を教えて、そして魔素が採取できるものと思い実行しなければ、わたくし達の誰もこの考えに至れませんでした。切っ掛けを与えてくれたのは貴女なのです。」
胸を張りなさいとミレニアに諭される。
魔素を認識する魔法や魔素に関連する魔法は、人に伝えにくい魔法のため術式として残せなければ、後世に引き継がれず消えてしまう類の魔法らしい。消費魔力も膨大で人によっては発動すらしないとのこと。
「リオさんは新魔法の開発、ミレニアはそれを術式として組み上げる。それでいこう。なんともサイス領の領主一族らしいだろう?」
初代様が領主になった時、独り仕事を抱える初代様が腹心の一人から進言されたことが元になっている家訓のような言葉だ。
『役割を分けると効率的でいい仕事ができる。時には意見交換して役割を入れ替えると更なる発見がある』
一人で抱えないでいいと思うと肩の力が抜けた。
フレッドに頭を撫でられる。ふとクラリスの記憶が甦る。フレッドの褒める時の癖なのか、クラリスが何か成した時はこうやって褒めていた。
初めてお客様のお出迎えが上手に出来た時、光属性特化魔法を披露した時、描いた絵の出来が良かった時、求められているレベルは高いけど、それを上回った時は必ず褒めてくれる。
クラリスの記憶に私の気持ちが引き摺られて瞳が潤む。
「フレッド、もっと良い言い方があるだろう。リオさん泣いてるじゃないか」
「あの、違います。これは、嬉しくて、つい。うるっときただけです」
「…だそうだ。そろそろ戻るか、ジャックは」
「泊めて下さい」
「…か」
「泊めて」
「フレッド様、古い友人が訪ねてきたことになってるのですから泊めないのは、どうかと思います」
「リオさん、もっと言って」
「急用で帰れ」
「フレッド様、それはちょっと」
「わかった。」
ミレニアの言葉がないと許可したくないとか、大分だな。と思った途端にフレッドと目があった。ちょっと怖い、お説教モードのグラッドみたいな背筋の伸びる目だった。
馬車へ戻り、日傘を確認する。六回被弾していた。




