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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
23/605

召喚22

ミランダが本を運んでくるまで、と思っていたらうっかりうとうとしてしまった。

起きたら何故かグラッドもいて、説教コースが確定してしまった。

「リオさん」

一人で散々発散したのが功を奏したのか、驚くほど冷静だった。もしかしたら互いに説教モードだからかもしれないが。

「魔法使ったのでちょっと休憩してただけです。体調は悪くないです。」

弁明するも、子供の言い訳みたいになってしまった。

「魔法、ですか?何に使ったのですか?」

「書庫まで遠隔魔法を」

「遠隔魔法、魔術ではなく?魔法?」

「はい」

魔法と魔術は明確に違いがある。

魔法は現象を思い浮かべて具現化すること、使用者の発想力がものをいうが変幻自在、ただ場合によっては消費魔力が多いし、魔力不足の時は何も起こらない。

魔術は術式で魔法のような効果を発現させること、誰が使用しても同じ効果を得られるが、術式外のことはできない。ただ消費魔力は少ない。魔力不足の時は中途半端な効果だが、発動はする。

「あ、でも無差別広範囲とかではなくちゃんと最少の魔力で運用しましたよ。すぐに接続も切りましたし、ミランダが戻ってくるまでちょっとだらしなく過ごしてしまっただけです」

いかにして、このうたた寝がなんでもないことだと理解してもらおうと言葉を重ねたら、ちょっと残念な感じになった。

何か言いた気なグラッドとミランダだったが、追及されることはなかった。二人が何かを飲み込んだのがわかった。

ミランダがカートに積んだ本を持ってくる。書店や図書館でよく目にする本を運ぶ棚のようなカートだ。

「リオ様、暫く此方の部屋に置いていても構わないと許可を得ていますので、どうぞお好きにお読み下さい」

長椅子から立ち上がり、カートに近寄る。書庫でお願いした本が全部ある。

ミランダがミレニアに選書と言ったのは、ライラが居たからだろう。

「歴史書に、魔道具、魔生物、魔障、農業他自然科学。この本を選んだ理由を訊ねても構いませんか?」

グラッドも近くでカートの中の本を眺めている。

説教モードが解けて少しだけグラッドを意識してしまう。ぼんやりしてたら、絶対ずっと見てる気がする。

切り替えろと言い聞かせる。

「歴史書は初代様の話を読みたいと思って選びました。召喚者ってことなので、親近感というか、同郷だろうなっていう自身の推測の答え合わせがしたいんです」

「なるほど。この魔道具の本は?興味がある方なのは知っていますが、仕組みが知りたかったのですか?」

グラッドが手にしたのは魔道具設計百選という定番魔道具の設計図が記されている本だ。クラリスが一度手に取ってすぐに戻した本の内の一冊だ。少し、いや、大分気になっていた。

「あちらの世界にはない技術なので、興味があります。加護で動く仕組みが理解の範疇を超えているので、取り敢えず読みたい一冊ですね。魔障も魔生物も魔道具と同じ動機です」

「魔道具と加護の専門書は神殿の方で管理しているので、書庫には基本的な本しか置いてないんです。」

確かに本棚の大部分は魔素、術式、魔生物の研究結果の本が占めていた。あとは農業、畜産、酪農など自然科学的なジャンルも多い。

「まぁ確かに神様精霊関係は殆どなかったですね。必要があれば、神殿に行けばいいだけですからね。危険すぎて行けませんけど。」

クラリスも神殿から加護について調べさせてほしいと打診があった。貴重な光属性の加護。

それが今は闇属性単独加護。別人というのがバレバレでかつ珍しいを超えた超希少加護。

「リオさん、私が借りてきましょうか?何か指定があれば、それに沿って選書しますよ?」

「ありがとうございます。でも、結構です。まずは、書庫の本を読んで色々調べたいので。あ、そういえば、グラッドは書庫の本はどれくらい読んでいますか?」

魅力的なお誘いだったが、ぐっと我慢する。

「私は、全て読み終えています。今は執務室の隣の行政関係の資料を読んでいます。長期休暇の間は大体こもっていますよ」

なんだ同類じゃないかと思ったが、言わずにいた。のに、グラッドに釘を刺された。

「リオさん、私は自分の限度はわかっていますのであしからず。」

「バレてましたか。」

「今のは、分かりやすかったですよ。あぁ、何か聞きたいことでもありましたか?」

本棚の内容を見て、この棚を作った人の性格や思考、趣味を考えることが好きだ。だから、余計に考えてしまう。サイス領の領主一族がどれほどの思いで魔障と向き合ってきたのかと。

「はい。書庫には魔素や魔生物の本が沢山ありますよね?それを見て、思ったことがあって、私に何が出来るわけでもないのですけど。何かしたい、サイス領の役に立てたらと、思っています。次の魔障はいつ頃になるのでしょうか?先代伯爵様の時にあったとは知っているんですけど」

私の言葉にグラッドもミランダも驚いた表情をした。

グラッドは微笑み、首を振る。

「次は、50年程先になると思います。ですから、リオさんは、気になさらずに」

グラッドの言葉に「気になります」と被せ気味に言ってしまった。

「少しでも恩を返したいです。よく、していただいているので、何かしたいです」

思いがけず大きな声が出て少し恥ずかしくなる。

「ありがとうございます、その気持ちだけで嬉しいですよ。…それでは、納得してもらえそうにないですよね。じゃあ、こうしましょう。」

グラッドはカートの中から一冊の本を取り出す。歴史書の類だろうと選んだ本だ。

「この本は、魔法省の方もよく意味がわからないとおっしゃっていました。初代シノノメ侯爵も同様にです。リオさん、この本を読み解いてもらえますか?」

魔法省、初代シノノメ侯爵が読み解けないってなんだろう?意味がわからない。言語的な問題ではないってことだ。知識?いや『王の軍師』として名を馳せた初代シノノメ侯爵が分からないことってなんだ?

「わかりました。挑戦してみます」

グラッドから本を受け取る。

タイトルは『初代サイス伯爵手記』当時の事をどう残しているのか気になって選んだ本だ。まさか、難易度の高い本だったとは。

「それでは、私は戻ります。」

「?あの、グラッドは私に何か用があったのではないのですか?」

そうだ。何故この部屋にきたのか、まだ聞いていなかった。

グラッドは、少し気まずそうに笑った。

その瞳が光の加減で少し薄い緑に見える。綺麗だな。

「リオさんの様子を見にきたんです。特に用事はありません」

それでは、と帰っていくグラッドを見送った。

ミランダが私の様子を伺う。

恐らく私の顔が真っ赤になっているのだろう。私も、それはわかっている。体温が一気に上がった。叫び出したいのを必死に我慢する。

「なんですかね、あの天然さんは。凄く照れ臭いです」

「照れていらっしゃるのですか?」

「?」

既視感が私を襲う。一瞬にして冷静になる。

「グラッド様の言動に慣れたのかと思いました。いたって冷静でいらっしゃいますもの。寮でおろおろしていたのが嘘のようです」

パワーアップした仕事をしない表情筋に感謝するべきか、嘆くべきか。



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