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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
22/605

召喚21

暫く堂々巡りを繰り返し心の内をぶちまけてスッキリしたので、魔法を解除する。いつの間に戻ってきたのか、ミランダと至近距離で目があった。

「リオ様、今のは」

「えー、えっと防音室です。」

部屋の中央に黒い半球体の正体不明の物体、なんともシュールな画だ。

「もしかして結構な時間、こもってましたか?」

少し一人にとは言ったが限度があるのは分かっている。すると、ミランダが躊躇いながら短時間で戻ってきた事を告白する。

「あの実は、わたくしは殆どクラリス様から離れる事がないので、怪しまれない程度の時間しか稼げませんでした。申し訳ありません」

「大丈夫です。少しでも一人にしてくれてありがとうございます。クラリス様から離れる事がないって、ミランダにお休みの日はちゃんとありますか?今はちょっと難しいですけど、ちゃんと休んで下さいね」

「ありがとうございます、リオ様。」

ミランダの手を借り立ち上がる。

「リオ様、何故防音室が必要になったのですか?奥様とのお話の中で何かございましたか?」

忘れてても良かったんですけどと笑う。

言いたくないと言えばミランダは無理には追及しないだろうと確信している。でも同じ報告されるなら、隠し事は極力避けるべきだと思う。バレなければ良いのだろうが、私はそこまで器用ではない。言える事は言う。

「恥ずかしながら、自分の鈍感さ加減に気づいたんですよ。」

「リオ様」

「ミレニア様、真っ赤になってましたよね。やってしまったと焦って一杯一杯になってしまいまして。恥ずかしいです」

リオ様と淡々とした声で私の名前を呼ぶ。

誤魔化されないようだ。まだ足りない。

「ミランダはそれだけじゃないって思っているんでしょ?はは、私ってそんなにわかりやすいですか?自信なくなるな」

「リオ様は立派に自らの感情を制御しているとわたくしは思っております。ですが、それを危うくも感じているのです。こちらにきてまだ日が浅く、まだ不安で仕方ないでしょう。弱音を吐いても宜しいんですよ。無理に溜め込まないで下さい。」

おや、そっち路線?乗っかろう。

「ミランダ、ありがとうございます。ちょっとお母さんに会いたくなってしまいました。泣いちゃいそうです」

ミランダには何度か家族の話をしたことがあった。

本当に他愛ない日常の光景。早く戻りたい。涙脆いのは父さん譲りだな。ちょっと本当に泣けてきた。

「リオ様、街にでてみませんか?観光の思い出を持ち帰っても良いのでは?神殿に行ってみませんか?馬車の中で気にされていたようですし、外観を見るだけでも」

差し出されたハンカチで涙を拭く。

行ってみたいが、躊躇してしまう。不運体質が恨めしい。

「日傘は用意しますし、わたくしも一緒に参ります。不安ですか?」

「そうですね。でも、屋敷にいるだけでも観光気分で楽しいですよ。初代様の要望で建てられたのですよね。この建物の様式はどこか懐かしい気持ちになります」

「そうですか。では屋敷の中を案内したいところですが、リオ様の負担が大きくなってしまいますね。ご負担を軽くしたいのですが、難しいですね」

「ミランダの気持ちはとても嬉しいです。…あ、そうだ。」

いい事を思いついた。

「影人形でお散歩してもいいですか?視覚や聴覚なんかも繋げてみれば部屋にいても楽しめます」

イメージは遠隔操作ロボットだ。

この前の影人形より小さくシンプルな人形、顔にはカメラのレンズが付いている。意識を集中させ魔力を流す。

前回のように影から人形が出てくる。顔にはちゃんとイメージ通りのカメラがついている。私は目を閉じる。すると、視覚が切り替わった。低い位置から私を見上げている。ひとまず、視覚は繋がっている。

次に人形を動かすイメージを足す。あれ?上手くいかない。視覚の共有が途切れた。止まると繋がる。

目を開けた。

人形を見ながら動かす。これはできる。

片目を開けて、視覚を繋げる。そして動かす。これもできる。

両目を閉じて、視覚を繋げる。そして動かす。ぎこちないながらも動いた。

「中々難しいな。もっと、スムーズに動かすにはどうしたらいいか…あ、あれだ。ラジコンみたいな操縦桿があればどうだろう?」

ラジコンの操縦桿を作る。左に上下レバー、右に左右レバーのついた箱型の操縦桿ができた。それを手に目を閉じ、操作してみる。スムーズに移動が出来るようになった。

目を開け、ミランダを見ると、目が点になっていた。

かなり珍しい表情だ。それをみて、またやらかしたことに気づいた。

「リオ様、見つかったらどうするおつもりですか?」

大分色々飲み込んだミランダに注意されたのは、散歩にでかけた後の危険だった。

「リオ様はどちらに行きたいのでしょう。私が誘ったから無理に出かけようとされていませんか?」

行けるなら行きたい所は何箇所かある。でも無理にでも行きたいかと問われて行きたい場所はひとつだけだ。

「あー、書庫には行きたいです。でも、クラリス様が行く理由づけが難しいので、こっそり行ける方法を考えたんですけど」

「私が選書するのでは、足りませんか?」

「そういう訳ではなくて、……書庫には沢山本があるんですよね。私、本が沢山並んでるのを見るのが好きで、落ち着くんです。」

あまり言いたくなかった。囲まれたいとかではなく、ぎっしり本で埋まっている本棚を見るのが好きなのだ。千加には二度聞きされたし、兄貴もそうかとしか言わなかった。

「わ、わかりました。では、そちらの影人形を私が書庫へ連れて行きますのでリオ様はこちらでお待ち下さい」

ミランダも若干引いてる気がする。が、ミランダの提案に気分が一気に上がる。

「いいんですか?やった、じゃあ、いっその事こと作り変えます。視覚だけじゃなくて耳と口もつけます。ミランダ、ちょっと待ってて下さいね」

どうせなら、自分で選びたい。移動系をカットして、作りも出来るだけ単純に。ミランダのみに声が届くように片耳イヤホンをつけよう。

「はい、できました。コレを耳に入れて、コッチのレンズ、目の部分を見せたい所に向けて下さい。この棒の部分を握って魔力を流している間はミランダの声が私に届きます。やってみて下さい」

小さな立方体が乗っている万年筆程の長さの棒をミランダに手渡す。立方体には、レンズのついた面、集音のための小さな穴があいた面が二つ、レンズの反対側の面からは片耳イヤホンのコードが伸びている。

ミランダは私に背を向ける。私も背を向けて目を閉じる。すると、視覚が繋がる。ミランダがカメラ(仮)を横に振るのがわかった。小声で

「ミランダ、もう少しゆっくりお願いします」

注文する。ちゃんと聞こえたようで、ゆっくり動かす。ミランダは私に声が聞こえない位置まで移動してから、

「リオ様、聞こえていらっしゃいますか?」

と小声で話す。ミランダが映る。

「はい、聞こえてますよ」

「それでは、これから書庫へ行って参ります。書庫までは、エプロンのポケットに入れていきますので、声をかけるまでは接続を切っていて下さい」

「はい、お願いします」

目を開けて、振り返る。ミランダが部屋を出て行くのが確認できた。長椅子に腰掛け、ミランダからの合図があるのを待つ。集音器の機能はそのままにしておいた。布に擦れる音の他に足音、他の使用人の声が聞こえてくる。

『ミランダさん、お疲れ様です』『クラリス様のお加減はいかがですか?』などなど普段クラリスが耳にしない使用人達の横の繋がりが垣間見えるようで面白い。

暫くすると、ミランダの声が聞こえた。

早速目を閉じて、映像を確認する。そこに広がっていたのは、想像以上の本の数だった。

「す、凄いです。ミランダ、左端から右端までゆっくり見たいです。あ、そうです」

はあ、至福のため息が溢れる。

この棚はサイス領の歴史書のようだ。気になったタイトルを伝えて、ミランダにとってもらう。

そして、一通り全部の棚を満喫した所でミランダが焦った声で奥様ですとカメラ(仮)をポケットへしまう。

『ミランダ、どうしてこちらに?』

『奥様、クラリス様の学習用の本を選んでおりました』

『結構大量あるようですが?』

『はい、こちらの中から更に選書する予定でございます』

『そう。何かあれば、報告してちょうだい。ライラ、少し外を見ていて下さい。』

『はい』

『ミランダ、あの子はどうしていますか?先程お話しした時後半少し様子が変化したように感じたのですが』

『奥様を赤面させてしまった事と自身の母君様を、思い出されたようでした』

『そうだったの。ミランダ、あの子のこと宜しくお願いしますね』

『はい。かしこまりました。奥様』

『……ねえ、ミランダ。どうして、こんな事になったのでしょうね。クラリスはどうしているかしら。』

『奥様』

『この寂しさを共有できる相手が貴女しかいないんですもの。突然、ごめんなさいね』

『旦那様は』

『フレッド様も心配はしていますが、少し温度差があるの。でもわたくしはそれでいいと思っています。それとは裏腹に共感して欲しい気持ちもあって、我儘でしかないのですけど。』

『奥様、わたくしも寂しさを感じております。リオ様がクラリス様の振りをされる度、クラリス様を思い出して寂しさが押し寄せてくるのです』

『ミランダの気持ちが聞けて嬉しかったわ。ありがとう』

私はそっと魔力の流れを切った。

長椅子に横になる。少し疲れてしまった。

「早く帰りたいなぁ」


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