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不運な召喚の顛末  作者:
第三章
212/605

休暇編33.5

周りの大人達の胃が心配。

ジャックは魔導局局長室で調査員の報告を受けていた。

その内容に頭が痛くなる。

「…陛下に逢いにいく」

重い溜息を吐き、低い声で呟く。

侍従のエンフィは短く返事をすると、緊急謁見の先触れ出しや馬車の手配をしに部屋を出て行った。

もたらされたのはサイス領で次期伯爵夫人の教育のために休暇中のリオについてだ。

彼女の正体について荒唐無稽な発言をした人物が逮捕されたという。紫の瞳に銀色の髪をした女性。

闇の怪物が化けた姿だと神殿で騒ぎ、居合わせた一般女性によって黙らされ、狂信の加護障害を持つリオの部下から追及されその場は彼女の逮捕で収まった。

「胃が痛い」

何をしているのか。

リリアナは自分が何をしているのか分かっているのか?馬鹿なのか?まだ貴族のつもりなのか?

エリオンは全て失った。馬鹿娘のせいで。伯爵位も、家族も、仕事も。

『いいんだよ。私はとことん貴族に向かないみたいだ』

と笑っていた。

貴族に向かないほど善良な男だった。

フレッドは、本人は絶対認めないだろうが、エリオンに憧れを抱いていた。今回の事は相当堪えたはずだ。

エリオンは友人としてラングストン家で滞在してもらっている。こんなこと聞かせたくない。だが、黙っててもいつかは知ることだ。

「局長、準備が整いました」

エンフィが戻ってきた。

「わかった。行こうか」

気持ちを奮い立たせ、部屋をでる。


王城の奥。

「ジャック、今時の子は何考えてるのかな。僕もうやだ。」

陛下は人払いすると半泣きでそう言った。

髭面のいい歳した大人のセリフではないが、同感だ。

「自分の娘が巻き込まれたのにフレッドは、僕が介入できるように引いてくれた。はぁ、それなのになんでこうなるのか。重罰金、貴族位剥奪に魔力封じだけじゃだめなのか?」

「重い罰に現実を受け入れられず自棄になったのでしょうが、罰を軽くするわけにもいきません」

「フローラの息子も災難だったな。そういえばジャックも学園時代に結婚しなきゃ死ぬって言ってた子いたじゃん。あの子どうなったの?あの子も銀髪だったでしょ?親戚?」

「他国の貴族と結婚して、国内にはいません。それに銀髪はリーベックに多いので特別珍しい髪色ではありません。私の話はいいんです。陛下」

「現実逃避したい」

「陛下。」

「わかってる。わかってるよ、フレッドを呼ぼう。報告をきいて、ウパラのことは考える。」

ウパラ領の貴族を制御できていないとウパラ侯爵に退任を要求するか、否か。

「君の報告通り、彼女は善良な人間だ。その善良な人間ほど怒らせると怖い人間はいない。ウパラのことはちゃんと僕が責任を持って判断する」

「はっ」


魔法省に戻ると速達が届いていた。

フレッドからだった。

「休暇の延長か、当然だな。王都は危険すぎる。」

管理棟へ久しぶりに足を運ぶ。召喚課の扉を開けて、ニコルを呼ぶと相変わらず一瞬嫌そうな顔をする。

事件の概要を説明し、リオの休暇を延長することを告げた。

「リリアナは契約で縛られているのですよね。頭の回転はいいのに、愚かすぎる。」

契約に触れない範囲の言葉を操り周りを動かしているのは、確かにすごいことだ。だが、罰を受けた根本を履き違えている。

「わかりました。期間は、リリアナとウパラ侯爵の処分が決まるまででしょうか」

「それで頼む。新しい転移者と揉めたと聞いたが、」

「レイカが上手く解決しました。局長。じつは最近、レイカを口説こうと近づく貴族がいるとアランから報告がありました。一応彼等には忠告をしています。局長も気を配っていただけると助かります」

「わかった。注意しよう。あれかな、入省式の時のお披露目で好感を持った輩か」

「でしょうね。アランは騎士から声をかけられることが増えたと言ってましたから」

春の始まりに行われる入省式。リオのことは婚約発表で不在をいいことに報告だけで済ませた。

その場でレイカを魔導局召喚課職員として発表した。貴族の集まりの中に魔力もない平民、さらにいえば転移者。

多くの視線にさらされた。

式の後の交流会でレイカに心無い言葉を投げた男がいた。

それに対して

「わたくしが交流のございます貴族の方々は、わたくしにそのような品のない言葉を投げつけは致しませんでした。少々お勉強が足りないのではなくて?」

と笑顔で反論していた。

アランがレイカを庇うように立つと、その姿を見た騎士の一人が騒ぎだした。

「魔獣殺しの」と。

アランは転移時に魔獣の群れの中に転移したとみられている。それを全滅させた上に生き残った。魔力も無しに出来ることではない。当時の記憶がアランにないため詳細はわかっていないが、保護された当初騎士課全体が騒然としたのを覚えている。

「レイカも変わったね、自立は無理だと思っていた。侮りすぎたか」

「リオさんのおかげもあると思います。衝撃が勝ったところもあります」

「そうか。」

「局長はもし、レイカがあのままだったらどうしたのですか」

保護した時の彼女は、ジャック以外の男性が近づくことを許さなかった。

「?最初に言った通り私の愛妾として引き取ったよ?」

「本気だったのですか。」

ニコルが、驚く。

「冗談でそんなことは言わないよ。」

「愛妾の前に正妻からでしょうよ。ラングストン家大丈夫ですか」

「君のとこのトライラトにその言葉そっくりそのまま返すよ。長男と三男が一人の女性を巡って争ってるって噂だけど」

「あの兄達は、全く」

二人して溜息が出た。

「ジャック様。いらしていたのですね。」

噂をすれば、レイカが黒とピンクの斑髪の女性を連れて管理棟に入ってきた。

「リオさんの休暇が延長になったと知らせにきた。レイカは頑張っているようだね。あまり無理しないように、いいね?」

「はい」

「それでは、これで失礼するよ。ニコル後は頼んだ」

「かしこまりました」

管理棟を出る。胃の痛みは不思議と治まっていた。


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