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不運な召喚の顛末  作者:
第三章
210/605

休暇編32

嵐のようなユル様が去り、クロムに入る。

伯爵屋敷に無事到着した。

「おかえりなさいませ」

少し顔色の悪い侍従長が私達を迎えた。

「ジョージ、御苦労だった。ユル様から概要は聞いている。養父上は執務室か?」

「いえ。自室で休まれています。奥様が会議室でお待ちです。ご案内致します」

フレッドが休んでいる。

「養父上の具合は?悪いのですか?」

「ご説明致しますので、会議室まで」

「あ、ああ。すまない。取り乱した。いこう」

グラッドと手を繋ぎ、会議室へ向かう。グラッドの手が震えていた。強く握る。

会議室にはミレニアとノヴァ、ミゲルがいた。

「おかえりなさい。グラッド、リオさん」

席をすすめられ、座る。

「養母上、養父上は」

「大丈夫。心配ないわ」

「ユル様から概要は伺っています。リオを貶める為の騒動だったと」

グラッドの説明にミレニアが頷く。

「順を追って話します」

「まずは、一昨日の事だ。」

ミゲルが口を開く。

一昨日、ミゲルがウパラでギルドの依頼ボードを眺めていると怪しげな女が声を掛けてきた。

サイス領クロムまでの護衛を募っている。

紫の瞳に銀色の髪、人形みたいに整った顔。ギルドに集まる輩と一線を画す雰囲気に嫌な予感がして、断った。

急ぎサイスへ戻り、昨日千加を訪ねた。

「すると、いきなり「紫の目、グラッド、召喚」って呟いて、家の外に飛び出していった。それを追いかけて、事情を詳しくきいたら急いで門を閉じないと駄目、フレッド様に連絡しないとって混乱してるから南門はフレッド様の名前を使って立ち入り禁止にした。それから屋敷に行って侍従長に連絡した」

侍従長がミゲルから引き継ぎ話す。

「チカ様は私をみるなり、助けてくれと泣き出して。ミゲルが宥め落ち着きを取り戻しましたが、あそこまで取り乱した彼女は初めてみました」

千加が取り乱す、か。時間がなくて、追い詰められてた?もしくは、情報が足りない、端的な天啓だったか。

「初めは紫の目の女性がクロムにくる。リオ様に害なす人間だと言っていたので、彼女はもう貴族ではないし、南門の内側に入るのは容易ではないと説明しました。」

「チカはそれでもくるって言い張った。そして何かぶつぶつ呟いて祈り始めた。しばらく祈ってかと思うと急に、身分証偽造、貴族に近づく、神殿で騒ぐ、ルルー、リオ様の加護、神殿で計測、闇の怪物の化身、婚約者不適格、と言うと鼻血を出して倒れた。」

天啓に、介入したんだ。身体の負担が大きいからもうしないって言ったのに。

目に力を入れて、泣くのを堪える。

「聞き捨てならない単語が多すぎて、すぐに偽造身分証を持つ不審者情報があったので門の行き来を封じたと旦那様の命で証書をつくり、門で一人一人確認しました。その際に貴族には、その不審者は貴族に接触するつもりのようだ、詐欺などには注意するよう牽制をかけました」

「その時に怪しい人物は?」

グラッドが質問をする。

「ゾイレを訪問予定だった貴族が一人来なかったと今朝連絡がありました」

ゾイレ、伯爵家を監視する役割をもつ家を狙ったのか。

「ルルーの名前が、出たのでノヴァに監視と護衛を頼みました。」

「休日だった彼女は神殿に行くと出掛けていきました。神殿に用事があるから一緒に行こうと誘い同行することができました」

ノヴァとルルーが神殿に着くと、神殿内が既に騒がしく何事かと窺っていると銀髪の女性が神殿長に会わせろと直談判しているところだった。

「その女性にルルーが声を掛けようとしたのを阻止しました。すると女性は大声でグラッド様の婚約者は闇の怪物が化けているのだと騒ぎ始めました。ルルーが逆上して、女性を黙らせたのです。周囲は騒然となり、一部の神官はどういうことかと女性の言葉を待っている様子でした。」

そこに千加が現れ、リオ様の属性は闇3水1だと大声で訂正した。神官達も千加が現れた事で、女性の言葉を嘘だと認識し始めた。

問答を繰り返し、千加の言葉の正当性を周囲が認めると女性は侮辱罪の容疑で刑務部が連行していった。

「その女性が、リリアナでした。」

貴族位を剥奪後リリアナはパイライト伯爵の別荘で軟禁生活を送っていた。しばらくは大人しく生活をしていたが、冬頃に監視の目を欺き行方をくらました。

「パイライト伯爵家に連絡があったのは春だったそうよ。監視を怠ったとしてパイライト伯爵は罰を受けた。伯爵位を息子に譲ったと聞いているわ。リリアナは今、身分証偽造と侮辱罪で刑務部で取り調べを受けているところ」

ミレニアは苦しそうに言う。

フレッドが休んでいるのは、パイライト伯爵のことがあるからだろうか。以前も感情が荒ぶっていた時もパイライト伯爵が不利益を被るのが分かっていたからだ。

「養母上。フォッグ子爵邸で起こった事の裏にも彼女が関わっています。」

グラッドが口を開いた。

今朝の襲撃について説明をする。

ヘイルに潜入していた調査員の言葉、それからアデルの証言。

「彼女は自らをウパラ侯爵の愛妾と称しているようです。フォッグ子爵の子息ルーカスと子女レティシア、アデルに近づき唆した疑いがあります」

ウパラ侯爵の愛妾、その言葉にミレニア達は言葉を失う。

「調査はフロストが責任を持って行います」

「わかりました。御苦労様でした、グラッド。リオさんも今日は部屋に戻ってください」

「ミレニア様、」

「養母上」

「二人共心配性ね。ちゃんと休みますから。安心して頂戴」

「侍従長がついてるんだ、大丈夫だろ」

ミゲルが伸びをして、グラッドの横へ立つ。

いきなり頭を撫で始め、

「あんま、難しく考えんなよ。グラッド様。守るもんだけはっきりさせておけ。」

ミランダが剥がすまで撫で続けていた。

「リオ様はチカの見舞いにくんなよ?あいつが嫌がるから」

「知っています。伝言をお願いしてもいいですか。ミゲルさん」

「なんだ?」

「ありがとう。でも怒ってるからって伝えてください。」

「すげぇな。」

「?何がでしょうか」

「チカが、怒られるって言ってたからな。なわけあるかって言ったけど本当に言いやがった」

「身体の負担が大きいからもうしないって約束を破ったことは怒っています。でも、私のことを思ってしたことだと知っています。感謝しています。」

「わかった。伝えておく。じゃあな」

ミゲルが会議室を出て行った。

「リオ。行こう」

グラッドに促され席を立つ。

「先に失礼致します」

会議室を出て、部屋に戻る。

気持ちが落ち着かない。

グラッドの手を握ったまま、離したくなかった。

「グラッド。一緒にいたい。」

「ええ」

言葉少なに伝えると抱きしめてくれた。

ミランダが淹れたお茶を飲んで一息ついても、胸の奥が気持ち悪い。

「リオ」

椅子に腰掛けたっきり何ももてなしてないことに気づいた。

「ぁ、ごめん。なにも、」

「ちょっと失礼します」

グラッドが私を抱き上げ、そのまま、ベットまで運ぶ。

私が困惑している間に、靴を脱がされ、襟元を緩められベットにグラッドと一緒に横になる。抱きしめられた。

防音の魔力壁も張られている。水属性魔法でのコーティングも完璧だ。

「グラッド」

「言葉使いに気をつかなくていいし、なんなら言葉にしなくていい、泣いて構わない。リオが落ち着くまで側にいます。」

背中をさすられ、髪を梳かれる。

「ぅ、ぅ」

グラッドの胸に顔を埋め、苦しい気持ちを吐き出すように泣く。意味のない呵責が苛む。

意味がないってわかってるのに、勝手にどんどん湧き上がってきて苦しい。

自分勝手に召喚して、上手くいかなかったからって私を責めるのはお門違いだ。私とクラリスを入れ替える前にできることはいっぱいあっただろうに、それをしてないのに文句言われる筋合いは一切ない。

ひとしきり泣いて涙も止まった頃。

「グラッド、キスしたい」

ぼーっとした頭で、呟いた。

額と瞼、頬、それから唇。

「魔法、ですか?ひんやりして気持ちいいです」

「もっとしましょうか?」

「うん」

何度も唇を重ねた。


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