休暇編31
屋敷から人が出てくる。
オリバーが倒れている男達を捕縛するよう命じていた。オリバーが私達の所へやってくる。
「兄上。」
「朝から面倒なことに巻き込まれたね。ってこれは何?」
魔力固めにされたアデルの外見は黒い岩、黒い玉にみえる。
「アデル様です。オリバー様」
「うわぁ。何できたの?馬鹿なの?」
全く何も隠さない本音をぶちまける。
「オリバー様!この女は闇の怪物が化けているのです!惑わされてはいけません!グラッド様をお助けしなくては!!」
アデルが叫ぶ。その言葉にオリバーはニヤリと悪戯を思いついた顔をした。グラッドと私のことを順にみる。
「へぇ?初耳だね。怪談?」
「違います!本当のことなのです!」
「本当なら真剣に調べないと。アデル様、どこからの情報ですか?」
アデルとオリバーの会話をグラッドが遮る。
「兄上、彼女は正気ではありません。」
「それは私が判断するよ。グラッドとリオ様は戻って」
オリバーはグラッドを見つめる。
その笑顔から真剣な声が出た。違和感しかない。オリバーに促され私達は屋敷に戻る。その際に空豆のような物を手渡された。耳に装着するよう手振りで指示される。
「はい。失礼します。いこう、リオ」
「はい」
私とグラッドはその場を離れた。
耳につけた空豆からオリバーとアデルの会話が流れてきた。
「……情報源は申し上げられません。危険には晒さないと約束しました」
「それでは無理だよ。アデル様。グラッド達は屋敷に帰した。君の言うことが本当だったなら情報源は私の胸の内だけに留めておこう。」
「ウパラ侯爵の愛妾だという女性が助けを求めてきました。学園で事件に巻き込まれたグラッド様に危機が迫っていると」
「ウパラ侯爵の愛妾、そう名乗ったのかい?わかった。良く話してくれたねアデル様。あ、そうだ。私の知っている女性かもしれない。瞳の色は何色だったかな」
「紫の瞳の美しい方です」
「ああ、彼女が。うんうん、わかった。建前上拘束させてもらうがいいかな。」
「はい!オリバー様も彼女をご存じでしたか。良かった」
空豆が消えた。アデルを拘束していた魔力固めを解除する。
「オリバー様、笑顔であんな真剣な声だせるんだろう。すごい特技ですね」
「兄上は器用なんだ。本人曰く器用貧乏だそうだけど」
「器用の領域超えてません?」
「兄上は至って普通だと思ってる。練習したらできるよって笑われたことがあります」
「無自覚」
「たしかに」
屋敷に戻るとミランダからクロムでもひと騒動あったようだと知らされる。
すぐに出発できるよう準備させる。
玄関先にアシュレイとフローラも出てきた。
「グラッド、リオさん。慌ただしくなってしまったわね。クロムに戻るのでしょう?道中気をつけて」
「フレッド様へ調査はお任せをと伝言を頼んでいいかい?グラッド。」
「はい。父上」
「身体に気をつけるのよ?」
「母上も。」
馬車が玄関先へ到着した。
「父上、母上。慌ただしく出発することをお許しください。またお会いする日を楽しみにしています」
「アシュレイ様、フローラ様。楽しい時間を過ごせました。お心遣いに感謝致します」
別れの挨拶をする。
アシュレイとフローラがグラッドを抱きしめた。グラッドも抱きしめ返す。
私は一歩下がる。
目の下に魔法を展開するのも忘れずにだ。
別れを惜しみつつ三人は互いの手を離す。
グラッドが振り向き、私の手を取った。馬車に乗り出発する。二階の窓からティエラが寝起き姿で手を振っていた。
「ティエラ様も朝弱いのかな」
「朝強いのは母上と兄上だけです。」
「アシュレイ様に似たのですね」
ティエラに手をふり返す。
屋敷から離れると、
「リオは号泣すると思っていました。」
とグラッドが意外そうに呟いた。
「え?あぁ!号泣してました。魔法を使って誤魔化していましたけど」
グラッドが一瞬固まる。
「リオ。原理説明は可能?」
「はい。闇属性魔法の吸収の応用です。薄さは極薄。目の下の縁取りに合わせて発動。涙を吸収しています。」
「ミランダは再現可能ですか?」
「消費魔力が多い為使用は躊躇いますが、可能です」
グラッドが何かを呟き、ミランダに白紙の準備を依頼する。
馬車に備え付けられているようですぐにグラッドに筆記具も併せて渡される。
それにグラッドは迷うことなく術式を書き込んでいく。
「ミランダ、これで試して」
「はい」
あまりの速さに驚きを隠せない。
「消費は少なくて済みます。使い道は」
「学園の卒業生に売れます」
「なるほど」
この商売っ気を見習わないと心の中で決意を固める。
少し落ち着いたグラッドは
「クロムのひと騒動の詳細は分かっていますか?」
ミランダに確認する。
「いえ。フォッグ子爵邸へ潜入していた調査員から、隠蔽と偽り押収した全情報を持って屋敷を後にする際に、冒険者らしき男がクロムでの予定が狂ったと話していたのを聞いたと連絡がありました。我々の出発後、しかもその男達は夕方頃の到着だったと。」
「援軍が遅いから追撃はしなかった。もしくは、クロムでの騒動が上手く行かなかったから……それだと今日の襲撃も見送るはず」
なんで襲撃を決行したのか。何故今日だったのか。
「グラッド、アデル様が本当に私を闇の怪物と信じているなら、夜は危険だからでは?」
「なるほど。だとしたらクロムの騒動と連動していると考えられます。召喚事件を知らない人間の前でリオを貶めるためか?」
「クロムには千加がいるので、事前に察知しててもおかしくないです。……ユル様。聞こえていますか?」
「お、流石は理央じゃ。妾のことが分かっておるのぉ」
宙に突如ユル様の姿が現れた。
「お褒めいただきありがとうございます」
「うむ。」
ユル様は私の膝に座ると、
「妾が説明してやろうぞ。こら、グラッドの坊主。嫉妬は見苦しいぞ」
可愛い動きでグラッドを指差す。
「失礼致しました」
「ふふん。よいかの?クロムに理央を排斥したい女がおる。全ては其奴の仕組んだことよ。もう既に千加が対応して、捕らえておる。安心せい。」
「そうでございましたか。ユル様も尽力していただいたのでしょう?ありがとうございました」
ユル様の髪を撫でる。
ちょっと無礼かなと心配しつつも、ユル様はご満悦だった。
「妾は千加に狂信の能力使用を許可しただけじゃ。千加を労わるといい。あやつは此度少々無茶をしたでな。ミゲルめも心配しておる。」
「千加が。かしこまりました」
「クロムに戻ったら、神殿からの招待があるはずじゃ。それは受けて構わん。狂信で其方の加護を神殿で計測しても闇3水1になるように魔法使用したそうじゃからの。何かあれば妾がでよう。安心するがよい」
「ユル様。ありがとうございます」
声が震える。
「ほら、泣くでない。ほら、撫で撫ですると良いぞ。たんと甘やかすがよい」
「はい。御心のままに」
クロムに到着するまでユル様を撫で、可愛がる。
ミランダの淹れたお茶を飲み、撫でられ、
「リオを独り占めはさせません。外は楽しいことばかりでしょう?遊びに行かれるといいでしょう」
グラッドと私を取り合う。
「其方やるのぉ、妾を神と知って尚挑む心意気、天晴ぞ!」
「フォッグには行きましたか?鉱山は中々見応えのある場所ですよ?」
「ふふ!行ってきたぞ!楽しかったのじゃ!」
「では、ニビは?」
「ま、まだなのじゃ。むぅ、何が楽しそうかのぉ」
「ニビは海と森が近く、大自然を感じることができますよ。」
「森も海もじゃと!!なんと贅沢な!」
「絶壁も中々見応えがあります」
「あれかの、ひゅんとなるやつかのぉ。むむ。」
そう言うとユル様は股間を押さえた。
「ユル様はどの程度の距離なら一人で行けるのですか?」
「サイス領内なら全域は可能じゃ。ウパラとコランダムも半分なら行けるのじゃ。妾は今のところフォッグからコランダムの行けるところまでは隅から隅まで楽しんだのじゃ」
ユル様は観光の土産話を聞かせてくれた。それにグラッドが補足説明をする。
クロムに着く頃には、
「グラッド!其方も愛奴じゃ!理央をよく守るのじゃぞ」
とグラッドの膝に移り、グラッドの腕をぺしぺしと叩き気軽に戯れるようになった。
そして、
「ニビに行ってくるのじゃ!さらばなのじゃ!」
瞬時に姿を消した。




