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不運な召喚の顛末  作者:
第三章
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休暇編28

道具倉庫で作業していた庭師のおじさんに婚約者として挨拶したら泣かれた。

「あんなに小さかった坊ちゃんが」

と感極まった様子に私もうるっときた。そして胸が温かくなってとても嬉しかった。

「夕食の時間までには戻ってくださいね、兄様」

ティエラに見送られ、鉱山へ向かった。

仕事終わりの時間だったからか、とても賑やかだった。

筋骨隆々なおじさん達に囲まれる。

「グラッド坊ちゃん!!」

「みんなよく気づいたね、十年は会っていないのに」

「フローラ様に似て美人ですから。見間違えたりしません」

「今日はどうしたんですか!」

「美人さんが一緒だ」

みんなが口々に喋るから大変だ。

「彼女はリオ。私の婚約者です」

グラッドの言葉にまたしてもおじさん達が号泣する。

あちらこちらで「うおおぉ」と叫び声が聞こえる。

あまりの出来事に呆気にとられる。

でも、面白い。

「坊ちゃんをよろしくお願いします!!」

「はい。お任せください」

「今日は宴だ!!」

盛り上がるおじさん達はそのまま近くの料理店へ移動していった。

「坊ちゃん、どうしてこちらへ」

比較的冷静な男性が質問する。

「リオに私の思い出の場所を案内していました。」

「それは嬉しい、あいつらが聞いたらまた泣き叫ぶでしょう。しかし鉱山内は」

危険ですからと続けた彼に

「いえ。おじさん達に会えただけで」

グラッドは素直な気持ちを伝えた。

「グラッド坊ちゃん、…宴に参加していって下さい。」

「いえ、私は家に戻ります。みんなで楽しんで」

「グラッド。少しだけでも参加しましょう?皆さん喜ぶから」

誘いをグラッドが断ろうとするのを遮る。

「リオ」

「少しだけ、ですから。」

「わかりました」

宴会が始まっている料理店に入ると、ところどころから昔話が聞こえてきた。坊ちゃんー!!と号泣しながら酒をあおっている人もいる。

なかなかの混沌とした場になっていた。

「坊ちゃんも何か食べますか?」

「えっと」

「揚げ鳥ありますぜ」

他のテーブルからグラッドに気づいた鉱山夫のおじさんが皿を置く。満面の笑みだった。

「坊ちゃん好きでしょ」

皿の上には唐揚げっぽいのが盛られている。

「ありがとう、覚えててくれたんだ。」

グラッドが食べ、私も食べた。グラッドは私の反応をじっと観察している。

「美味しい」

「リオの口にあってよかった」

安心したようにグラッドが笑った。

「噛む程に溢れる肉汁は野性味があって、癖になります。油と混ざってより旨味が増幅しています。美味しい」

気持ちが口から溢れ出す。

「坊ちゃん、こっちもどうすか!?坊ちゃんが不在の間にできた料理っす!!」

「いやいや!坊ちゃん!俺のオススメはこれっす!」

私達のテーブルの周りに人だかりができる。ひしめきあっているおじさん達を料理店の女将が一喝する。

「ほら!さっさと席に戻んな!」

叱られたおじさん達は蜘蛛の子を散らすように席に戻っていった。

「ほんと、すみませんねぇ。坊ちゃん。」

「女将さんも元気そうでよかった」

「坊ちゃんももう婚約者ができる歳ですかぁ、時の流れは速い。私も歳をとるもんですね」

「女将さんは変わらず美しいですよ」

「口の上手さは変わりませんね。ほらこちらもどうぞ。婚約者のお嬢さんもどうぞ。」

煮つけのような小鉢だ。早速食べる。

「美味しいです。みなさんが夢中になるのもわかります」

「あら嬉しいねぇ。うちの娘もお嬢さんみたいだったらよかったのに。全く。」

女将曰く家の手伝いもせずに遊び歩いているそう。話を聞いていると、

「母さん、いる?」

私と似たような年頃の女性が一人台所から店舗に顔をだした。女将に似た金の髪に、目鼻立ちのはっきりした女性だ。

「噂をすれば、なんとやらだよ。じゃあ、楽しんどくれ」

女将が台所へ戻っていく。

「グラッドは口が上手いって女将さん言ってましたけど、小さい頃からそうだったんだ。」

クラリスも知らないグラッドの話に、話を聞けた嬉しさと同時に少しだけやきもちをやく。

「なんですか?その顔は」

「いえ。ちょっと嫉妬で心が狭くなってるだけです」

「可愛い理由でしたね。はい、これも美味しいですよ。あーん」

「ひゅー!坊ちゃん流石です」

流石ってやっぱり昔からやってたな。可愛いすぎる。

「仕方ありません。」

いちゃいちゃしながら楽しんでいると、さっきの女将の娘がテーブルにやってきた。

私のことを無言で睨む。

私は彼女を無視して、グラッドと食事を楽しんだ。

同じテーブルや近くのテーブルにいたおじさん達はその状況を困惑した表情で見ている。彼女に戻るよう説得していた。

そして、

「私達は先に失礼します」

と席を立つ。見送りに出てきたおじさん達と女将に別れを告げていると、私達を追って彼女が店から出てきた。

「あんたにグラッド様の何がわかるのよ」

私に投げられた言葉だったが、無視する。周りは驚き、彼女を止める。続けて投げられた言葉は

「グラッド様の初恋の相手はわたしなんだから」

ん?それは違うだろうな。

「それ違いますよ?初恋かは定かではありませんが可能性があるなら女将さんのほうです」

グラッドの思い出の場所でいざこざを起こしたくなかったから敢えて無視していたのに、つい反応してしまった。

私の言葉に彼女以外の全員が大笑いした。

確かに!とか違いねぇ!など腹を抱えて笑っている。

真っ赤になって震えている彼女を女将が店の中へ追いやる。

「坊ちゃん、お嬢さん。お二人が望んでいないから、口を挟まなかったのに娘が申し訳ありません」

注意しない私達の意図を汲んでくれていた女将が謝ると、グラッドが女将の手をとり

「気にしないでください。私が初めにはっきり言っていればよかったのです。今日は本当にありがとうございました」

微笑む。

「坊ちゃんのこういうところが誤解されるんですよ」

呆れた様子の女将の言葉におじさん達も同意する。

「気をつけます。」

「お嬢さんもありがとうございました」

「とても美味しかったです。ありがとうございました」

帰路につく。

「美味しかった。幸せです。」

馬車の中で、女将の料理を思い出しながら話していると、

「リオ。さっきはありがとう」

グラッドがお礼を口にした。

「いいんですよ。揉めたくない場所ですから。私のほうこそ、根拠の薄い話をしてしまってごめんなさい」

女将が初恋相手って噂されないだろうか。

「根拠は薄かったのですね。なんで知ってるんだろうと思っていました。私の知らない間におじさん達がリオに教えたのかと」

なんと当たっていた。

「可愛い初恋です。抱きしめていいですか?」

腕を広げると、グラッドはやれやれといった顔で私の肩に頭をのせた。優しく抱き締める。

屋敷に着くまで抱擁は続いた。


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