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不運な召喚の顛末  作者:
第三章
203/605

休暇編25

フォッグへ向かう直前にフレッドから渡された指示書を馬車の中で確認する。

『謀反疑いのあるフォッグ子爵子息ルーカスと令嬢レティシアの捕縛』

『子爵と次期子爵の関与度についての確認』

「子爵は黒ですか?」

私が問うとグラッドとミランダが頷く。

「あの場で冷静に自分は関係ないふりができるのは計画を知っているからです」

魔力封じが起こる前の話の内容も自分の無関係さを強調するものだろうとグラッドが続ける。

「アデル殿は仕事と言って私達から離れました。子爵邸における執務室は術式管理室の真向かい。あそこにいてはいけない人物です。」

「それじゃあ、二人共真っ黒ですか」

「セシルはそのままクロムに戻って報告をお願いします。彼らの身柄はフロストで面倒をみます」

ヘイルを出て、セシルと別れる。

フロスト家はヘイル内ではなくより山寄りの場所にある。

「面白いですね、ゾイレはクロムに家があるのにフロストはヘイルの外にあるって」

「ニビやスレート子爵のところも同じです。子爵との距離を保つためです。まぁゾイレは伯爵を監視するための家ですから」

「なるほど。今回の情報もフロストからでしたよね。でも少し変ですね」

「確かに疑問が残ります」

ルーカスとレティシアの理由はグラッドに婚約を考え直してほしい。でもこのやり方はどう考えても悪手だ。

「脅しでグラッドが屈すると思ってますし、あの程度でグラッドを捕らえられると思ってる。完全に実力をはかり間違えてます。ミランダもいるのにまず無理ですよ」

「他にどうするつもりだったのか。セシルを人質にとったのは、私が動けないと思った?腑に落ちません」

グラッドがセシルを切り捨てることを計算にいれてない。

「目的が分かりませんね。グラッド様を弑するのが目的なら戦力の見積りが甘すぎますし、婚約の解消を目的にするなら、リオ様を単独で狙うはずです。」

確かに目的が不明瞭すぎて気持ち悪い。

「もうアレに聞くしかないでしょうか」

ミランダがチラリと馬車の隅に横たわる二人をみる。

「抵抗されても面倒です。フロストについてからでいいですよ」

念の為フレッドからは魔力封じの腕輪を預かっている。既に装着済みなのだが、うるさそうなので起こすことはしない。

「あの計画って他の貴族なら成功するのですか?」

最高戦力の攻略には不向きだが、ある程度の効果は見込めるから計画に組み込んだのだろうし、魔術魔法に頼りっきりだとあっという間に捕縛されていたのはこっちだっただろう。

そういえば文官のウィルとアイゼンは戦えないって言ってたのを思い出したので聞いてみた。

「確かにグラッド様を文官、もしくは旦那様並みの戦力と見積もっていたなら成功しますね。」

フレッドは弓以外は文官並みだそう。

「ミランダを計算にいれてないのは、」

「私がフォッグで活動しないからでしょうか。単純に知らないのでは?」

ミランダ曰くフォッグはサイスでも珍しい魔獣被害の少ない土地で、荒くれ者も少ない。ギルドの依頼も穏やかなものが多いので武闘派には物足りなく、一度もヘイルでは依頼を受けた覚えがないそう。

「あとはミゲルの噂が一人歩きし過ぎて、私の話もミゲルの話になっていたりするので、それもあるかと思います」

あるあるだそうで、ミゲルも否定するのが面倒なので放っているようだ。ミランダ単体の話は意外と少ないそう。

「あとは、領内とはいえ護衛無しってありえませんよね?」

「まぁないですね。私もこれが他の用事ならハロルドを連れて行きますし。って、あ、あぁこれ、ハロルドが護衛につく前提の計画です」

グラッドが気づくのが遅かったと悔しそうにしている。

私は全然ピンときていない。

何か思い至ったミランダが納得した声をだした。

「魔力が使えないとハロルド様は起きていられないからですか。」

「あ!なるほど」

「グラッド様。確認ですが、アデル様との手合わせはどの程度の手合わせでしょうか。ハロルド様とはほぼ全力でしょうが、彼女のあの弱さで手合わせってかなり縛りをつけているはずです」

ミランダがうろんげな表情でグラッドをみる。

「利き手ではなく、左手で剣を持って、魔力行使なし。移動もなし。これだけ縛っても勝ちますし、弱いと言ってもアデル殿は一般騎士より実力があります。私は普段剣の訓練を殆どしないのでその訓練のつもりで手合わせしています」

眉間の皺をミランダが揉み始めた。

「つまりはそれをグラッド様の実力と鵜呑みにした、と。なんと杜撰な。ハロルド様だけをなんとかすれば勝てると思っているとは子爵家の人間として頭の出来が残念極まりない。とんだ茶番ですね」

吐き捨てるように言うミランダにグラッドも同意する。

予想としては、魔力封じの術式で護衛のハロルドを無力化。グラッドと私を捕らえ、私は殺害されたはずと。

命を助ける代わりにアデルを婚約者に?もしくはフレッドへ領主退任を迫ってグラッドを操り領運営を思いのままにする?のが狙いだろうと落ち着いた。

「恐らくリオに手を出した段階でフォッグが消し飛びますね」

「完全にですよ。グラッド様。チカがいます」

「あぁ」

「なんですか、そのあぁって。確かに絶対ないとは言い切れませんが」

何事もなくてよかったと三者三様に安堵の息をついた。

「魔力封じの術式って魔障にも使えますか?」

聞きたかったんですって言葉が続けられなかった。

ミランダとグラッドが、なんとも形容し難い顔をする。

「あの術式は禁忌術式といって使用が制限されている術式です。建物の中でのみの使用にとどめること、子爵、伯爵、侯爵の屋敷と王城、王都三公の屋敷でのみ設置使用が可能。」

「定められた場所以外で使用すると死にます」

グラッドの説明とミランダの言葉に

「え?」

驚いた。

「使用した人間は眷属に殺されます。あっという間だそうですよ。間違っても魔法を使おうと思わないように、いいですね?」

術式より魔法派の私に釘を刺す。

「はい」

怖すぎる。何その禁忌術式。こわっ。

フロスト家に到着した。

フロスト邸はフォッグ子爵邸よりも伯爵邸に近い趣がある。

安心感が段違いだった。

自分でも意外だったが、洋館の中の和の風合いにこんなに落ち着くとは思わなかった。新たな発見だった。

サイス領に帰ってきた時はクラリスの記憶もあるからと思っていたが、そうではなかった。

「ロナルド。馬車の中の彼等をどこか逃げられない部屋に移動させてくれないか。」

グラッドが侍従の一人に声をかける。

音楽室で見たことのある髪型をした年配の男性が馬車の中を確認して絶句する。

「グラッド様、これは」

「謀反人」

「……大変な目に遭われましたな。このロナルド、」

目頭を押さえ始めた彼を無視して

「父上はどちらに?案内は不要だから」

「は、応接間でお待ちです」

「わかった。リオ、行こうか」

グラッドとロナルドのやりとりを新鮮な気持ちで眺めていた。

グラッドから差し出された手をとり、屋敷の中へ入る。

慣れた様子で応接間へ向かう。

扉の前で待機していた侍従も目頭を押さえた。

「歳で涙腺が脆くて」

と扉を開けながらそう言い訳された。

応接間にはフロスト家全員が待っていた。


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