休暇編22
夕食の後、グラッドとグラッドの部屋で過ごすことにした。
ソファに並んで座り話していると、お茶の準備を終えたミランダとセシルが部屋から出て行った。
「え、いいんですか?」
「肌合わせを終えたら、二人きりになっても構いませんし、勿論泊まっても問題ありません」
「そ、そうなんだ。知らなかった」
ミレニアの話にもそんな話は出てこなかった。
以前二人っきりになったのは例外中の例外だったようだ。
「それで、話とは?」
「あ、あの。グラッドが、母さん達に結婚、の挨拶をしたって聞いて。どんな話をしたのかなぁって思って」
「セシル達の指輪の話ではなかったのですか、」
あ、忘れてた。
「忘れてました。」
そう言った私にグラッドは小さく笑う。
「二人がどうかしましたか?」
私は千加から話を受けてミランダに命じたこと、そして二人で立てた予想についても話す。
「でも何故今なのかと疑問で」
グラッドは少し考え込むと、セシルの実家の話をする。
「アラバス家は一般貴族の中でも特殊な位置にいる家です。騎士爵の名門アラバスター家の分家で、歴史の古い家でもあります。」
名家なら最初からミランダは婚約すらできなさそうだが。
「元々アラバスター家の人間が貴族でない女性を妻に迎える為に作った家で、血筋に拘る家ではありません。ですが、セシルのお婆様はアラバスター家からアラバス家に嫁いだ方で、セシルには貴族の妻をと望んでいると聞いています。長年セシルの母親と対立していましたが、去年大病を患い、アラバスター家へ戻りました」
「病気をしたから、急いで断れない婚約をセシルさんに持っていこうとした?」
大きな病気を体験すると価値観が変わると聞いたことがある。時間がないと思ったのか?
「今まではセシルの両親がミランダとの婚約に賛成していたので、セシルのお婆様も反対はすれど、強硬な手段には出れずにいました。」
「セシルさんのお父様は、」
「セシルの父親は、四年前に病気で亡くなりました。彼は、ごく平均的な文官でした。ただ自身のことを客観的に見る目が他者よりも秀でていました。自分にない才覚を、セシルの母、ナタリア様と婚姻することで埋め、アラバス家の存在感を消すことなく次代に繋げた。」
四年前にセシルがアラバス家の当主になった。
その頃からセシルのお婆様からミランダへの風当たりが酷くなったそう。
時期はちょうどグラッド達が学園に通う直前。ミランダがクラリスの侍女になった頃で、ミランダにもセシルにも余裕がなかった時だった。
「セシルとミランダが一度大きな喧嘩をして、婚約が危ぶまれた事がありました。結局仲直りをしたのですが、長期間二人の間に溝が出来ていました。」
「そのまま別れると思っていたら目論見が外れたと」
「そこをナタリア様に追い詰められ、かつ病気になり、実家へ戻った。それでも諦められずに、立場が上の家との婚約を整えようと画策していたのではないでしょうか。推測ですが。」
「でも指輪をしてる相手に婚約話は持っていけないから、一安心ですね。」
「指輪をしてくれて良かったです。」
「本当にそう思います。」
自分の薬指に光る指輪を見る。
「そういえば、リオの両親との話、でしたね。」
「はい。聞いてもいいですか?」
「勿論ですよ。」
グラッドが思い出し笑いをした。
「え、な、何ですか?!」
「リオにしてはいけないことを教えてもらいましたよ」
「えぇー、何ですかそれ。」
グラッドが指折り数える。大体五か条はあることがわかった。
母さん!!
「あとは、そうですね、夫婦として幸せであるためにどんなことをするかとか。将来計画の話になりました。カナメさんに質問責めにあいましたよ」
「名前で呼び合うとか?」
「えぇ。彼方では子どもが産まれた後お父さんお母さんと呼び合う場合が多いって聞いたので驚きました」
「そっか。こっちにはない風習ですよね」
「はい。あとは子供はいつ頃がいいとか、妻に何を求めているのか。たくさん質問がありました」
妻に何を求めているのか。
「グラッド、は、結婚後、私にどんなことを求めますか?女性貴族の社交とか?ミレニア様の仕事の補佐とかですか?」
「いいえ。まずは自身の事業を成功させ、領に貢献することに注力してほしいです。次期伯爵夫人という地位はリオが思っているより危うい立場です。領内の貴族の反発が強まれば覆されることもあります。ですから、基盤を盤石なものとしてほしいのです」
「は、はい。」
「その後に適材適所で仕事を分けていけたらと思います」
「伯爵夫人の仕事ですね、ミレニア様は術式部や医務部、ギルド部、管理部を主体で監督していると伺いました」
ミレニアに習った伯爵夫人の仕事内容だ。
「そうです。養父上の苦手を補助しています。」
「そうなのですか。意外です」
「養父上は病気もしないので、その気持ちがわからない自分がどうこう言っても無駄だと養母上に任せたと聞いています」
「それは大切です。わかる人が担当したほうがよりよくなると思います。じゃあグラッドの苦手って何でしょうか。私の出る幕ないとか言わないでくださいね!」
病気をしない人にとって病気になった人の気持ちは理解し難いと思うし、看病をした経験があるかないかでも適性は分かれると思う。
「ありますよ。それは追々話し合いましょう。それよりも、リオは結婚後私に求めることはないのですか?」
「グラッドに求めること、ですか?えっと、あ、の」
ソフィアから結婚の話を聞いてから考えていたことの一つだ。
「?」
生活の速度が違うからすれ違いが生まれると思う。
だから、すれ違いを生まないようにしたい。もしくは発生してもすぐに解消したい。
「部屋を隣にして欲しいです」
「リオ?」
グラッドの声に
「駄目ですか?」
不安になる。
「違いますよ。駄目ではありませんが、他には?」
他!?一緒にいる時間を確保したいとかかな。
「他!?えっと、休みを合わせてとる?とか?」
「理由を聞いてもいいですか。」
「夜会いたくなったらすぐ会えるように部屋は隣りがいいです。一人の時間は邪魔したくないけど隣りの部屋ならちょっと覗いてグラッドの顔を見るだけでも嬉しいから。それに休みの日が一緒なら気楽かなって。色々、よ、夜とか」
「リオ。もっと我儘言っていいんですよ?」
グラッドが真剣な顔で言う。
「へ?我儘じゃないのこれ」
困った。思い浮かばない。
「育児は一緒にしましょう!これでどうですか?」
育児問題は万国共通の問題では?
「本当に無欲ですね。わかりました。でももっと求めていいんですよ?」
グラッドが私を引き寄せて唇を重ねる。
「だって、これからずっと一緒に年を重ねていくんです。それだけで特別なことなのに、もっとなんて考えつかない」
深く口づけて、身体を優しく愛撫される。
後頭部に手を這わされ、ぞくっと身体が震えた。
「ん、グラッド」
「抱いていい?」
「うん」
ソファに押し倒された。




