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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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召喚1

私は、いつもの様に友達を待っていた。

日が暮れるのが、早くなってきたなぁ、なんてぼんやり思いながら。

「理央〜」

ちょっと面白いことでもあったのか、笑いを含んだ彼女の声に、振り向こうとした瞬間。

急な強い光に包まれ、そして立っていられないほどの目眩に襲われた。

「理央!」

先程とはうってかわった切迫した声を最後に、意識を失った。


十歳の頃、乗っていたバスが事故に遭った。

結構大きな事故で、怪我人もでた事故だった。私は、事故の衝撃で体を強く打って、意識も朦朧としていた。

バスの後ろの方から、誰かが歩いてくる。黒くて長い髪が、綺麗だと、思ってみてた。全身黒づくめの男性だった。

その時は違和感もなく、その光景を受け入れていた。その人は、私の側にくると、頭を撫でて

「ーーー」

聞き慣れない言葉で何かを囁いた。


「!ーーー。」

あの日と似たような言葉が、聞こえてきた。ぼんやりとした意識のまま、耳を澄ます。

初めは何を言っているのかわからなかった言葉が、次第に意味を持ちはじめた。

「クラリス様が、何故」

クラリス、様?テレビでもついてるのかな。海外時代劇とか?

「まだ、はっきりしたことは」

女性と男性の声だ、と認識した途端。

何故か、女性の方は『ミランダ』だと思った。

私は少し怖くなる。

怖いと思ったら、急に全然知らない光景が頭の中に流れ込んできた。クラリス・サイスという少女の記憶だった。

膨大な情報で押し潰されそうだ。じっと落ち着くのを待つ。物凄く長い時間、耐えていたような気がした。


記憶の奔流は収まった。

だけど、自分の身に何がおこっているのか、理解が追いつかない。情報で頭が飽和状態だ。考えがまとまらない。どうしよう。どうしたら。


『理央、こういう時は深呼吸だ!吐く方に意識を集中させるんだ』


軽くパニックに陥った私の脳裏に幼い日の兄の言葉が蘇る。

兄は早熟で、口達者な子供だった。『小さな哲学者』それが、兄の渾名だ。

私は、どちらかというとぼんやりした子供で、自分の言いたいことが、よくわからなくなっていた。

『いいかい、理央。考えがまとまらないときは、考えるのをやめるんだよ。一旦全部吐き出して、空っぽになってからまた考える』

『ほら、一緒にやろう。すってー、はいてー、もっとはいてー……はぁ、すっきりしたでしょ』


私は夢か現かわからない状態のまま、呼吸を整える。

飽和状態だった頭の中が、すっきりしてきた。

「兄貴のおかげで、助かったよ」

ほっとしたのも束の間、意識が浮上する。

意識が覚醒した。さっきより周りの声がはっきり聞こえる。知らないはずの『知っている』声。

話の内容は、さっぱり意味がわからない。耳から情報を得ることに限界を感じ、ゆっくり、目を開けた。

意識が覚醒した感覚はあっても、私は一連の出来事は夢だと思っていた。

そんな願望を打ち砕く光景が目に飛び込んできた。

薄暗い部屋、多分、ベッドの上にいる。天蓋付きのベッド。日常生活のどこにも、心当たりがない。カーテンは閉まっている。

ゆっくり、身体を起こす。視界の端に映った、髪の毛に動悸が激しくなった。見たくなくて目を瞑る。

(落ち着いて、理央。まずは情報の確認、から、やろう。怖いよね、わかるよ。でもやらなきゃ。落ち着いて、ゆっくり目を開けて、兄貴が教えてくれたから頑張れるよ。三歳の頃から鍛えられてるから大丈夫)

心の中で、自分を叱咤する。

目を開けて、視覚情報の確認に取り掛かる。

まず、髪の毛。薄暗い中でも、髪の色が薄いのがわかる。後、柔らかくてパーマがかかったように、くるんとしている。私は直毛なので、この心許ない感じのする髪質に少しソワソワした。

次に、着ている服。襟元は少し、緩められているけど、元々はキッチリ締めるタイプの服。レースや刺繍が綺麗、細部まで作り込まれている。刺繍は趣味だから、少しは価値がわかる。絶対、高い。ヨーロッパ辺りの民族衣装のような、少し古めかしいデザインの丈の長いワンピース。

そして、手。爪の形が違う。何かにつけて目に入る手が、他人の手。小さめの細い手。見れば見るほど、苦しくなる。

(弱気にならない。今大切なのは、情報。…切り替えて、クラリス・サイスの記憶について考えよう)

呼吸を整える。そして、先程の流れ込んできた記憶を思い出そうと試みる。が、中々思う様に、記憶を引き出せない。情報が意識に刷り込まれているわけではないようだ。…辞書の様な感じかな?

それから何度か方法を変えて試していく。

結果、わかったことがある。クラリスの記憶には、クラリス本人の感情が伴っていなかった。記録映像を観ているようだった。

クラリスの記憶から得られた情報を元にこれからのことを考えなくてはならない。

さっきまで聞こえていた話し声がしなくなったため、状況知るためには、このカーテンを開けるしかない。

けど、躊躇してしまうのは、クラリス・サイスという人物が特別な存在だったからだ。

この世界は、魔法が存在するファンタジーな世界のようだ。クラリスは、ほとんど持つ人のいない『光』の加護を持っていた。そのため、色んな人間が寄ってくる。彼女を取り巻く環境は、善意、悪意、好奇、羨望、嫉妬、妬み沢山の視線と言葉に溢れていた。

その中にあって、彼女は天真爛漫な人柄で曲がらず真っ直ぐ素直に育った。

悪く言えば、驚くほど考えなしに育った。

ソルシエール王国サイス伯爵領領主令嬢、言わば貴族として育てられたはずなのに。

感情のわからない記憶だったから、彼女の言動が意図的だったかまでは分からない。けれど周囲は、天真爛漫さをおおむね良い方に評価していた。

(どうしよう、クラリスのふりが難し過ぎる。隠し通せる気がしない…)

稀有な存在が別人に変わってしまったと知られたら、どんな事が起こるのか。考えるのが怖くなった。

それでも、勇気を振り絞ってカーテンに手を伸ばす。


『理央は、ぼんやりさんだから、絶対、考えるのを辞めちゃダメだからね!ぼんやりしてたら、あっと言う間に取り返しがつかないことになったりするんだから』

兄貴の言葉を反芻する。



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