休暇編11
千加の家を辞して屋敷に戻ってきた。
その日はその後もグラッドと過ごし、幸せいっぱいな一日になった。
イザベラはミランダから課せられた仕事に目を爛々と輝かせ取り組んでいる。どんな仕事かは出来上がりをみてくださいとミランダが内容を教えてくれなかった。
翌日。
ミレニアと転移者保護と支援についての話し合いでミレニアの部屋を訪れた。
事業計画書を読みながら、必要な人員についての話をする。
「言語支援についてはどなたが担当するのかしら?」
「それは、私が」
「リオさん。それでは駄目よ。貴女は領主一族です。現場の仕事ではなく管理する立場にいるの。今魔法省で携わっているのはその経験を現場で活動する人間に教えるためのもの。これから貴女がまずしなくてはいけないのは人員の確保と教育」
「……わかりました。」
「では必要な人員については、どのように確保、教育していくのか具体的な案はありますか?」
「確保は、転移者の方達に打診してみようと考えています。それから一般からの公募も。」
「貴族ではなく?」
「貴族の方達の中にも自ら進んで志願してくださる方なら歓迎します。ですが、私との繋がりを求めて集まられても困ります。保護や支援を疎かにされては元も子もないですから」
「なるほど。ですが、有能な人材が利益もなしに味方につくとは限りません。ある程度は利用しあう気持ちでいないと。それから一、二人は貴族を配置することをお勧めします。悪意に対する抑止力だと考えてください。」
「抑止力、ですか」
「転移者は弱い立場の方々です。その彼等から更に搾取しようとする人間も存在します。その彼等を守るには権力が必要になります。あと単純な力の差もです」
以前レイカに言ったことと同じだ。レイカはそれを踏まえてニコルに協力をお願いしたし、自分の出来る範囲を狭めた。全部を一人でみるのではなく、女性や子どもの転移者を主に担当することにした。防犯魔道具の作製依頼書を書いていたのも知っている。
「わかりました。貴族を配置します。それからその下には転移者を一人か二人。最大四名の人員を確保するところから始めます」
「では次に教育に関して、チカさんが持ち込んだこちらの本の写本を進めて下さい。」
ミレニアは父さんが作った本を指す。クラリスの絵に涙目になったけど堪えていた。
「はい」
奥付があるから他の人には見せられない。
「それから支援をする施設だけれど、」
「空きのある建物はないですか?」
「既存の建物なら後で調べてみるといいわ。それじゃあ次は、就業支援だけど、この情報は?」
ミレニアは就業支援の項目に書かれた職業分布の情報を指す。
「召喚課の転移者資料から統計したものです。近年の転移者がこの世界で就いている職業です。」
各種ギルド員、職人、神官、冒険者、個人事業主とさまざまだが、商業ギルドの職員が一番多い。理由は安定した職業かつ地球での経験を一番活かせそうだから。
「この情報を元に商業ギルドでの仕事につきやすいように商品になりそうな情報を売ったりつきあいを増やしていくのはどうかと考えました。」
「そう簡単に利益になる情報を持っているものなのかしら」
「多分持っていることに本人が気づいていないことはありそうですが全く持っていないわけではないと考えます。同じ人間はいませんし、趣味嗜好が違えば色んなものの見方があります」
「では情報を上手く活用できる人材を育てなくてはね」
「はい」
話して出た内容を更に事業計画書に書き込んでいく。
「リオさんの課題はまずは人員確保と教育。ここが解決できなければ、その先を許可することができないわ。後の計画はもっと練ること。まだまだ甘い。」
「はい。あ、あのミレニア様。人員って何処で確保するものなのですか?」
「そうね。働く文官達を管理している部署があるわ。そこで相談してみるといいわ。あとで紹介状を書いて提出して置くわ。場所は」
執務室の隣の隣。行政関係の資料室の隣に文官管理室がある。そこでクロムで働く文官達の所属、評価や給料を管理している。
事業計画に関連して考えていることがあと一つある。
「あ、あのミレニア様。私、服飾係に新しい下着を作らせたのですが、見ていただけますか?」
「ええ、構いませんよ」
ニーナに下着を持ってくるよう合図を出す。ニーナが下着を渡した。
それを確認するミレニアの表情は真剣そのものだ。
「これがお金にならないかと考えました。どうでしょうか」
「リオさん。これは素晴らしい出来です。商業ギルドで特許申請をしておくこと。新しい事業の軍資金になるわ」
「はい。ではニーナ、その申請手続きを。わからないことがあればノヴァに相談して」
「かしこまりました。」
ニーナに指示を出す。すぐにニーナが部屋を出ていく。代わりの侍女が一人控え室から出てきた。
サーシャではなかった。
「リオさんからの教育提案書読ませていただきました。とても嬉しかったわ。ありがとう」
「いえ。ミレニア様も指示書を書かれていたと聞いて余計なお世話だったのではないかと心配していました」
ミレニアが優しく微笑む。
「昨日から教育体制を変更しています。教育全般をみている教育係以外に技術指導のみの指導員を数人任命して一日の最後に教育係の試験を受けるよう変更しました。少しでも仕事量が減らせればいいのだけれど。アンナ達からの意見を取り入れて調整する予定よ」
「よかった」
「試験のくだりはリオさんの意見を採用したの。指導員は技術だけの指導にするって念押しされていたのも気になったのだけど」
「あ、それは幼い頃近所の井戸端会議に偶然居合わせたことがあって。そこで結構頻繁に出る愚痴に種類があることに気づいたんです。一つ目は旦那さんの愚痴。二つ目は職場の愚痴。三つ目は姑の愚痴。この二つ目の愚痴、立場の違う人に怒ってるのもあるんですけど、同じ立場の人からうける説教に怒ってるのも多くて。だから、先輩だからで指導するんではなくて指導員という立場上指導しているってすると受け入れやすいのかなぁって、立場を逸脱しないようにと考えて、それで書きました」
「井戸端会議、参加したの?」
困惑しているのかミレニアは瞬きが多くなる。
「面白いので数日は通いました」
「面白いの?」
「はい。鬱憤が溜まると人は話して発散する生き物なのかと観察日記をつけた記憶もあります」
「日記を」
どう反応していいか戸惑うミレニアを見て、
「変な話をして申し訳ありません」
謝罪する。変な空気になってしまった。
ミレニアが話題を変える。
「ところでリオさん。明日の夕方から肌合わせだけれど、心の準備はいいかしら?」
「は、はい。」
「ちゃんとその他の準備も整っていますか?」
潤滑剤などの道具が入ったバスケットをニーナから渡されたことを思い出した。
「はい。必要なものは揃えています」
「そう。グラッドが水や金属性をもっているからと準備を怠ることは許しませんよ。初めての経験は何があるかわからないのですから」
「ミレニア様も肌合わせの時は準備をしっかりしたのですね」
確かフレッドは水属性持ちだったはずだ。
「……わたくし、肌合わせの前に結婚したので」
少し言いづらいのか、歯切れが悪い。
「へ?」
「婚約が決まって一年もしない間に、先代様が亡くなられフレッド様が領主を継ぎました。わたくしは大奥様から伯爵夫人としての心得を習っている最中でした。本来なら肌合わせを先に行うのですが、ある程度の教育を先にしたいと大奥様の考えをフレッド様が汲んでくれて、延ばしていました」
「そ、そうだったのですね。」
「どうせ、肌合わせが上手くいかなくても妻にする気だろうからと」
大奥様の言葉にフレッドの本気をみた。
「フレッド様、暴走し過ぎではありませんか?」
「いいのです。フレッド様の気持ちが嬉しいので問題ありません」
片想いじゃなくてよかったと心底安心する。
「では初夜は上手くいったのですね。気をつけることはありますか?」
あ、またやっちまった。
ミレニアが真っ赤になりながら
「受け入れる気持ちをみせるといいと思うわ。冷静さを保つことも必要ではありますが、あ、あの。熱烈に求められていると分かると嬉しいですしそれを伝えあうのが肌合わせですから」
そう説明する。




