休暇編9
店を出た所で
「贈り物をいただけるんですか?」
とグラッドから期待の眼差しを向けられる。
「むぅ。私が何を買ったかグラッドも見てたじゃないですか。それに今日はネクタイしてないですし、」
「拗ねた顔も可愛いですけど、じゃあこれなら贈ってくれます?」
グラッドはポケットからネクタイを取り出した。
「は?」
ネクタイをしてみせる。おい、可愛いな。
「用意周到」
「褒め言葉ですか?」
「そう聞こえるならそうです。」
「それで、リオ?」
可愛く首を傾げても駄目だと言いたいが、とことん弱いらしい。ネクタイピンを箱からだして、グラッドに近づく。
ネクタイピンをつける。
グラッドのネクタイにピンをつけると、急に照れが湧き上がった。心臓の音がうるさい。耳の奥から出てきそう。
「ありがとうございます、リオ。大切にします」
心の底から嬉しそうな笑顔のグラッドに頭が真っ白になる。
それからは若干記憶があやふやで、気がつけば冒険者ギルドの依頼ボードの前にいた。
「三級なら手始めに採取、狩猟から、その次に調合の講習受けたり、失せ物探しだったり、ってリオ?」
「へ?なんで冒険者ギルド?」
「?職人工房に行くか冒険者ギルドに行くかと聞いたら冒険者ギルドがいいと言われたので、どうしました?」
「ちゃんと聞いてませんでした。」
「具合が悪いのですか?」
「いえ。防音室に篭りたいだけです。」
「恥ずかしがっていたのですね。あまりにも自然な態度だったので気づきませんでした、私もまだまだです」
グラッドと依頼ボードの前で話していると後ろから、
「おい!依頼を受けねぇんならさっさとどけ」
と怒鳴られる。その相手を一瞥して、周りを確認する。
私達の周りは人だかりも少なく怒鳴られる謂れもない。
他の人達は上手く人だかりを掻き分け依頼票を手にしている。
「これにしましょうか」
と気にせず依頼ボードに向き直る。
サイス領特有の薬草の採取依頼票を手にすると、
「テメェに言ったんだよ!無視すんな!」
と乱暴に肩を掴まれた。
流れるように抜刀し、相手の首元に刃を向ける。
「言いがかりはやめて下さい。依頼票をみたいならもっとボードに近づけばいいでしょう。ほら、私の隣のスペースは空いてますけど?」
「ギルド内での私闘は禁止です。武器を収めて!」
騒ぎに気づいた職員が駆け寄る。
私は刀を収めた。
そして何事もなかったように依頼票を受付窓口へと持っていく。止めに入った職員も窓口の職員も戸惑いの視線を向ける。武器を向けていた方があっさり引き、武器を向けられた方が騒いでいるのだ。
止めに入るなとかなんだかんやと騒いでいる。
「い、依頼内容に間違いはありませんか?」
受付窓口の職員が内容確認をする。騒ぎの中心にいた相手にも対応が丁寧だった。
「はい。お願いします。お騒がせして申し訳ありません。あの、少々お伺いしてもよろしいでしょうか」
「へ、あ、はい。」
「あちらの騒いでいる方はどなたですか?」
尤もな疑問を口にすると、
「え!し、知り合いじゃないんですか?!」
驚かれた。
「はい。全然知りません。初対面です」
そう伝えると職員の顔色が悪くなる。心配になる位に悪い。
「申し訳ありませんでした。面識のある方達のいざこざかと思い対応致しましたが、間違っておりました。」
職員は謝罪し、すぐさま窓口からでて依頼ボードの前で騒いでいる冒険者と職員に事情を説明しに走る。
すると向こうでざわめきが大きくなる。周りの冒険者も騒いでいる相手を諭し始めた。
「どういうことですか?」
グラッドに尋ねる。
「サイスのギルドでは、面識のない相手への苦情は職員に対応してもらうように決められています。ギルド内での揉め事を減らすための措置です」
「あ、なるほど。じゃあまずあの人は職員に苦情をいれないといけなかったってことですか。ギルドで決め事が変わるのですね。私も気をつけないと。規定を確認しなきゃ」
グラッドの側を離れ窓口に設置されているギルド規定の冊子を隣の窓口で購入する。その行動に購入手続きをした職員も目が点になっていた。
「あの、どうしました?」
「サイスのギルドは初めてとのことですが、本当に面識のない相手なのですか?」
「はい。知りません。吃驚しています。あ、そうだ。三級冒険者の使用できる施設の一覧をいただきたいのですが、そちらも購入ですか?」
「いえ。そちらはお渡ししています。どうぞ」
「ありがとうございます」
グラッドの元に戻る。
「リオは物おじしませんね。」
「流石はリオ様です」
今の今まで存在感を消していたミランダが感心したように言う。刀の扱いにも慣れて、抜刀のスムーズさを褒められた。
「じゃあ行きましょうか」
騒いでいる人達を放って出て行く私達に職員は更に青ざめ、冒険者達は唖然となった。
調合施設で薬草の資料を確認して、北門から外に出る。
採取依頼をこなし、ギルドに戻る。窓口で依頼完了報告をしていると、
「リオ様。先程の騒ぎの件で報告がございます。今よろしいでしょうか」
と騒ぎの仲裁にはいった職員から声をかけられた。
「はい」
「先程の冒険者はクック。三級冒険者でございます。規定違反により罰金を言い渡しております。」
「動機はなんですか?」
「大変申し上げにくいのですが、」
「八つ当たりですか?」
「!は、はい」
職員曰く恋人に手ひどく振られむしゃくしゃしているところに仲良く依頼ボードをみている私達に苛立ち、あのような事をしでかしたと。
「ギルド職員も大変ですね。ご苦労様です」
「いえ。それでこちらがリオ様への慰謝料でございます」
「これは受け取らないといけない物ですか?」
「受け取っていただきたい物です。それで今回の件を水に流してほしいという気持ちが込められています」
「気にしてないからと拒否してはいけないのかぁ、まいったなぁ」
「へ?」
私の言葉に職員が驚く。その反応に
「へ?」
私も驚く。
「リオ様。もらえるものはもらっておけばいいのですよ」
ミランダが呆れた声でそう言う。
「そういうものですか?」
「はい。そういうものです。」
「では、受け取ります」
職員から慰謝料を受け取る。現金で渡されるとは思わなかった。しかも結構な額だ。
ギルドを出ようとすると
「お、さっきの。流れるような剣捌き、良かったぜ」
「今度一緒に依頼受けない?」
など声をかけられた。
誘いは丁重に断る。グラッドとミランダの圧力が半端ない。
その中で挫けず声をかけてくるなんてなんと命知らずなのか。思わず心配になった。
それから千加とミゲルの娘へのお土産を買って、南門へ戻った。




