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不運な召喚の顛末  作者:
第三章
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休暇編8

「相性良くない相手なんて五万といるから気にすんな。で、次の報告が、ニビ子爵。弟が爵位を無事継いだ。これで組織の歪みも整うでしょうと。それから貴族街に不審者が出没した件は私に対する『ストーカー』、妄執型不審者でした。あとは、」

さらりと流そうとした千加に待ったをかける。

「千加、流すな。詳しく」

「いやぁなんて言えばいいんですかね、街で私をみてつけ狙い、商人の荷車の下にしがみつき南門の中へ侵入。屋敷に侵入してきたのをミゲルが退治って感じで、あれは本当に怖かった。」

世間話のように軽く話す。

「怪我はない?」

「ん、ないない」

「嘘っぽい」

「はいはい。後は、」

追及されたくないようですぐに次の話題に移る。

「新しいお店は盛況、主人の人柄が良いらしく近隣と揉めることも今のところなし。一応近隣との相性をみて燻りそうな火種は潰しておいた。」

「火種、人気があるってきいたけど、やっかみ?」

「うんそう。だから、近くの店にこんなの食べたいって注文して新商品増やしてもらった。」

ソフィアが言ってたのは、千加が関わっていたのか。

「美味しいものいっぱいだと理央、幸せでしょ?」

食い意地がはってるって言われたような気がするが、間違いではない。千加の自信満々の笑顔につい私も笑みが零れる。

「確かに。ありがとう」

新商品の内容を聞いているとイザベラが戻ってきた。

「理、リオ様の今日のご予定は?グラッド様とお出かけですか?」

ニヤニヤした千加に聞かれ

「特に予定はなくて、急だけど誘ってもいいかな?」

イザベラに確認する。

「リオ様の外出許可は初日に降りてますのでグラッド様次第です。グラッド様には連絡を入れておきますか?」

「はい!お誘いの手紙を書きます」

イザベラはすぐに便箋と筆記具を用意する。

外出の誘いを便箋にしたため、イザベラに託す。

「リオ様が、楽しそうで良かった。帰りにでもうちに寄って下さい。娘を紹介します」

「チカは一緒に行かないの?」

「流石にお邪魔虫なので」

「じゃあ後で寄るね」

「それでは、失礼します」

千加は手をひらひらと振り出て行った。

「ミランダは今日はお休みしますか?」

「いえ、私が護衛でつきましょう。イザベラには別の仕事をお願いします」

イザベラがグラッドの返事を持って帰ってきた。

返事には街を案内しますと書かれていた。とても楽しみだ。

「洋服は何を着よう。イザベラ、街を散歩しても目立たない服を数点選んで下さい。」

イザベラはすぐにクローゼットから服を選び出す。

「では、これとこれ、もしくはこちらとあちら。帽子と日傘、手袋など小物類はいかがいたしましょう」

「日傘は片手が塞がるので、帽子にします」

服を選び、小物を考える。箇所箇所で選び直したり、チョイスへの突っ込みがあったりして楽しく服を選んだ。

玄関でグラッドが待っている。

いつもきっちりしている印象があったが、今日は少しだけ襟元を緩めているしノータイだ。かっこいいなぁとつい見惚れていると、

「リオ。今日は街歩きですが、南門までは馬車で行きましょう。ここから歩くと目立つので」

手を取られた。

「今日も可愛いですね。帽子を被っているのは初めてみました。似合っていますよ。」

「ぐ、グラッドもかっこいい、です」

「そうですか?気を抜きすぎて見えませんか?目立たないように生地に気をつけて選んだんですが」

「かっこよさは隠れてないです。あ、本当だ。生地がいつもと違いますね。」

生地に気をつけて選んでいるのか、勉強になる。

「二人ともいちゃいちゃは馬車の中でお願いします。行きますよ」

ミランダに馬車の中に追いやられた。

伴をするのはミランダだけで、御者もしてくれる。

南門までは馬車で移動して、そこからは歩く。南門で馬車を預け門をくぐる。

門番の青年がグラッドと私を見て驚く。

「グラッド様、馬車で行かれた、ほうが、あれ?」

私の格好をみて青年が首を傾げた。それもそうだ、一見したらお嬢様風なのに帯刀している。冒険者が身につける道具ベルトもしている。

「街歩きなので、歩いていきますよ。ご苦労様。」

南門を抜けて、街を歩く。中央部には街の主要施設が並んでいる。神殿、騎士団本部、冒険者ギルド、商人ギルドに職人ギルド。

「あ、あれがマウリッツから移転したお店ですか?」

店の前に行列が出来ていた。

「そうです。どうしますか?並びますか?」

「いえ、並びたくないです。隣のお店にしましょう。新商品が気になります」

長時間並ぶという苦行はしたくない。隣のお店のメニューを確認する。

ここのパン屋は店舗型式ではなく、ショーケースが表にありそこで商品を選ぶ。商業施設の食品を扱うテナントのような、移動販売車のような感じだ。奥にパン窯がある。パンのいい香りが漂って食欲をそそる。

「おじさん。このクリームベリーパン下さい。」

「私は紅茶パンを」

千加がベリーの酸味と甘さ控えめクリームがいい塩梅だと語っていた。結構試作したよぉと自慢気だった。

「はいよ!っと若、どうしたんですか。」

語尾は店主がグラッドに気づいたため小さくなった。

若って呼ばれてるのか。初めて聞いた面白いな。

「婚約者と街歩きを」

グラッドの言葉に照れる。

「はじめまして」

笑顔で挨拶する。表情筋しっかりしろ。

「若。こんな美人と結婚するんで?お嬢、若のこと宜しくお願いします」

私はお嬢、か。任侠映画に出てきそうだな。

「ふふふ。任せてください」

店主はショーケースからパンを取り出し、窯の隣でパンに焼きを入れて、加工をする。クリームを挟み、そこにベリーのジャムソースをかけた。

出来上がったパンを受け取る。支払いを拒まれそうだったが、

「こういうのは駄目ですよ。」

ときっちり支払いをすませた。

パンを一口食べる。

「美味しいぃ」

千加は基本的に味にこだわりのない人間だ。

だけど、美味しいのはわかる。その千加が自信満々なら絶対美味しいってわかっていたけど、やっぱり美味しい。

「酸味と甘さの塩梅が、絶妙です。美味しい、幸せ。グラッドも食べますか?半分こします?」

「一口いただいてもいいですか」

「割りますね、」

食べていたところを割って口をつけてないほうをグラッドに差し出したら、食べかけを食べられた。

「食べかけ、食べられる人なんですね。」

その行動に思わず言ってしまった。

「なんだと思っていたんですか」

「なんとなく駄目な人かと」

潔癖ではないけど、他人の食べかけを食べられない人はいる。大雑把で若干ズボラな兄貴は意外にも食べられない。

「リオは苦手ですか?私のパンも食べますか?美味しいですよ」

「平気ですけど、食べかけじゃなくてもいいと思います」

「わかりました。はい、お好きな量ちぎって下さい」

グラッドから分けてもらった紅茶パンも風味豊かで美味しい。幸せだぁとパンを頬張っていると、

「すみません、私も一つ下さい」

「私も」

とお客さんが増えた。店主に合図をしてその場を離れる。

それから服飾品店や雑貨屋、貴金属を扱う店を覗いた。

「グラッドはどういったものがお好きですか?」

アクセサリーのショーケースを覗きながらそう尋ねる。

「好きなアクセサリーはありませんけど、こちらの髪飾りはリオに似合うと思います」

「私のことはこの際どうでもいいです。グラッドが見てつい、にやにやするような石とか金属の話です」

「贈ってくれるんですか?」

楽しそうに私をみつめる。

「参考にするんです。本人に聞くのは駄目かもですけど、にやにやするほど好きなほうがいいじゃないですか」

本当は内緒で贈って吃驚させたいけど、自信がなかった。考えれば考えるほど難しくて答えは一向にでない。

恥ずかしいけど、聞くしかないと意を決して口にしたのだ。

グラッドから顔を背ける。羞恥で体温が上がる。

「リオが贈ってくれる物はなんでも嬉しいですが、そうですね、強いて言えば最近は黒曜石をみるとつい笑みが溢れます」

腰を抱かれて、耳元で囁かれた。

「黒曜、石、ですね!わかりました、は、離して下さい、恥ずかしい」

深く考えられる状態じゃなかったが、ショーケースにあった黒曜石のあしらわれたネクタイピンを購入した。女性店員の頬も真っ赤になっていた。

恐るべし、美形。


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