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不運な召喚の顛末  作者:
第三章
181/605

休暇編3

その日の内にミランダは出発した。

夕食の後ニーナから明日はノヴァがつくことを聞かされる。

「わかりました。ありがとうございます、ニーナ。」

「いえ。お近くでお二人の仲睦まじい姿をみられて嬉しく思っております」

「恥ずかしいです。」

空気のような気配のニーナだからつい存在を忘れていた。

全部近くで見られていた。気づくと、とても恥ずかしくなる。

どこまで聞かれていただろうか。

「子供の話も聞かれてしまって恥ずかしいです」

「?お話しは聞こえないように距離を取っておりましたので、お子様のお話しということは奥様のお話でしたか。」

「あ、いえ私達のです」

「まぁ!」

ニーナは恥ずかしそうに口元を手で隠した。

「チカも子持ちになったと言っていました」

「キキちゃんですね、一度挨拶を致しました」

ニーナの表情からは特に何も感じなかった。

「そういえばミゲルさんは耳が良いそうです。新たに保護された転移者の方が耳も良いので話を聞いてみたいです」

「耳ですか?それならば、料理長も耳が良いそうですよ。」

「なるほど、ラビさん情報ですね」

「リオ様っ」

揶揄いつつ、観察するもやはり何も引っ掛からなかった。

何かあれば貴族の方々に異国訛りを揶揄われないように気をつけただけということにしよう。

「リオ様。それでは、失礼致します。」

ニーナが下がる。

明日からまた頑張るぞっとベッドの中で意気込んだのは覚えている。やっぱり神経は図太い。

「おはようございます。リオ様」

ノヴァと顔を合わせたのは久し振りだ。

「おはよう、ノヴァ。身体は大丈夫?」

「大丈夫ですよ。チカのおかげで、古傷も治りました。」

???

「そうなのですか?じゃあ、騎士に戻っちゃうの?」

「いえいえ。それはありません。今の仕事が楽しいですし、リオ様の専属ですよ?辞めません。まぁミランダのようにはいきませんが護衛ができるようになって嬉しくは思います。」

朝食の後はミレニアとの話し合いがある。

場所はミレニアの自室だ。本来なら書庫で資料を読みながら話をする予定だったが、ミレニアの体調を鑑みて自室に変更になったとノヴァの話を聞く。

「クラリス様を妊娠中は起き上がるのが億劫だったと聞いていますから。体調が良いのでしょうが、心配ですね」

「そうでございますね」

私がいつものように帯刀すると、ノヴァから止められる。

「ですが。……わかりました」

ベルトを外し、机に置く。

だが、何故か不安が消えない。自分の勘を信じることにした。

ノヴァの後ろから部屋を出る時そっと魔力を伸ばしつつ、隠して引き寄せる。魔力を操りベルトを着け、刀は見えないようにする。

音は魔力消費が大きいが、吸収を応用して消す。

ミレニアの部屋に到着する直前、私を探していた侍従長とでくわした。

「どうされましたか」

侍従長は周囲を警戒しているように感じた。緊張が走る。

千加から先程嫌な予感がしたと報告が入り、屋敷を守る術式の強度をあげ、備えていると小声で告げられた。

千加はフレッドとグラッドと一緒に執務室にいるそうだ。

「嫌な予感、そうですか。当たると考えた方がいいです。向こうでもそうでした。」

「あとリオ様、属性特化魔法は使わないで下さい。」

「何故ですか」

「闇属性の妨害術式の強度をあげています。ですから使うとレベルが」

「既に使っています」

「ならばバレないようにお気をつけて」

「ありがとうございます。闇属性特化魔法は全般を妨害するのですか?」

「いえ、隠匿系のみで」

「なら吸収系も足せますか?」

「吸収でございますか?」

「はい。細かい説明は省きますが、認識に影響を及ぼす魔法を使える可能性がありますので。あとチカにフレッド様の指示に従うようにと伝えて下さいお願いします。ミレニア様は私が守ります」

「かしこまりました。協力感謝します。では」

侍従長は一礼すると足早に立ち去った。

「リオ様、侍従長はなんと」

「不穏な情報が入ったそうです。ノヴァも警戒は怠らないで」

「はい」

ミレニアの部屋に入ると連絡があったようで侍女達が不安そうな表情をしていた。

「おはようございます、ミレニア様。本日は宜しくお願いします」

笑顔で明るく挨拶をする。私の様子にミレニアも笑顔をみせた。

「おはようございます。さぁ、こちらにいらして。」

今日は円卓が復活していた。円卓の上には山積みになった本がある。

「前回はソファでしたが、」

「でも今日は資料がたくさんあるからこの円卓でお話しましょう」

「はい。」

一度読んだことのある本が多くあったが、リオとしては初めて読む本になる。

「今日はサイス領の産業について話をします。よろしいかしら?」

「はい。お願いします」

資料を読みながら話をし始めた頃から魔力消費量が増した。

恐らく術式を強化したのだろう。吸収の魔法を解除する。

ただ刀を隠す魔法は継続しなくてはいけない。まだベルトに術式を仕込んでいる分消費は少ない。

息を整え、話に集中する。

それから昼食まで話をして、昼食後も話を続ける。

領主夫人は領主の代わりに指揮をとることもある。知らないことがないようにしなくてはいけない。仕事は周りに任せても最終判断は任せてはいけない。

「専門家の意見を真に受けすぎないように。片方だけの意見を聞きすぎると偏りが生じます。そして専門家も人間です。間違いはある。否定ではなく、疑い見落としがないか気をつけるのです、いいですね」

「はい。」

私達があまりにも自然体で話をしているからいつしか部屋にいる侍女達の雰囲気も落ち着いていた。

「ありがとう、リオさん。」

「?」

「普通にしていてくれたでしょう?朝の不穏な雰囲気が大分落ち着いたわ」

「特に悪い連絡も無く過ごせてよかったです。」

「このままお茶でもいかが?」

「ありがとうございます、いただきます」

ソファへ招かれそこでお茶を楽しむ。長時間話をしていたから体調が心配だったが、ミレニアの表情は穏やかだった。

ただ、まだ術式は強化されたままだ。

「昨日はフレッド様に遮られた魔法の話をしても構わないかしら?」

「は、はい。」

ミランダの報告書を用い、補足していく。それを楽しそうに聞いて書き込みをいれるミレニアの姿に頬が緩む。

絶対バレたら怒られるやつだ。黙っておこう。

少しずつ疲れがでてくる。

「リオさん、大丈夫?具合が悪いのかしら」

少しぼぅっとしていた。

「え、あ、大丈夫です。」

「そう?何か隠してない?」

「特には何も」

ドアをノックする音がした。

「奥様」

侍従長が部屋を訪れる。焦った様子はない。

「どうかしましたか」

「今朝の件で報告にあがりました」

「お願いします」

一人の男が逮捕されたこと。その男の狙いがミレニアだったことが告げられた。

ステファン・ドーン、シノノメ領の冒険者ギルドに所属している三級冒険者だった。

「わたくし、が」

「はい。どこからか懐妊の話を聞きつけ、逆上したようで」

ストーカーか、質が悪い。不審者の中でも思い込みはピカイチだ。そして妄想の内容が気持ち悪い。

「そうでしたか。」

「まだ危険が去ったとは考えていない、そうですよね?」

侍従長に問う。術式の強度が維持されているからだ。

「リオさん?」

「チカはなんと言っていますか?」

「ステファンが元凶なのは間違いないが、まだ不安感が取り除けないと。旦那様ができる範囲で力の使用を依頼してそれを受けていました。それでも不安感の正体が掴めないそうで」

できる範囲での力の使用、か。フレッド様の指示に従うようにと伝えた。千加が出し渋ったとは考え辛いが、無意識に制限をかけている場合もあるか?

深呼吸を繰り返し、思考の整理をしていく。

千加の力の及ばないもの。

神様だろうか?だけど、神様はそもそも人に関与することはない。

眷属?眷属は神の手足であり目だ。神が望んでいないことはしない。

新たな加護障害の影響?これはないな。私の不運ですら受付ないのだから。なら

「侍従長。チカに全力を許可すると伝えてください。私が命じると」

「かしこまりました」

侍従長は心配そうにミレニアをみつめ、部屋を出て行く。

「リオさん、どういうことでしょう」

「防音の魔力壁をお願いしてもよろしいでしょうか」

ミレニアに依頼する。

「え、えぇ」

「すみません、これ以上の魔力消費を避けたくて。」

「どういうこと」

「刀を隠す魔法を使っています。帯刀は控えるようにとノヴァから言われたのですが、不安が消えなくて。」

「まさか、朝からずっと?」

「はい。術式を仕込んでいるので微量の消費で済んでいますが」

「それでも長時間の魔力消費は心身共に負担になるわ」

首を横に振る。

「お気になさらずに。それから先程の話ですが、千加はフレッド様の命に従って力を行使したと思います。本人もその認識だと思います。ですが、私には力を制御したとしか思えないのです」

「チカさんが、手を抜いたと?」

「無意識にですが。彼女は人と違う世界を見て生きてきました。そしてそれは良いことばかりではない。飄々としている彼女ですが内面はただの女性です。神様の愛し子ではありますが、ただの十七の女性です。寧ろ傷はたくさんあります。私よりもたくさん傷ついた人。ユル様の望むままに力を使って傷だらけになった。私はそれが嫌でユル様に怒りました。千加を傷つけて何が楽しいんだと人の感情は神様のおもちゃじゃないって」

「怒ったのですか」

「はい。それからユル様は千加に人の感情、奥底を覗かせるのをやめてくれました。まぁ私に対する執着が深まったのですけど。そういうことがあってからは千加は感情を読むことはしません。だから今回も、奥深くまでは覗いていないと思いました」

嫌がることを命じた。嫌われても仕方ない。でも、

「命じたことを後悔はしていません。」

「リオさん。わたくし」

「大丈夫です。本気の千加はとても凄いのですよ」

魔力の消費が減った。術式の強度が下げられた。

「終わったようです。消費量に変化がありました」

私が言うとミレニアが安堵した。


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