表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不運な召喚の顛末  作者:
第一章
18/605

召喚17

食堂に向かう支度をしていた所にグラッドが迎えにきた。

迎えは要らないと思いますと言いかけたが、フレッドの指示だったことを思い出した。

大人しくエスコートされて、食堂へ行く。やっぱり、使用人達は驚いた表情で此方を見る。

「もう、お父様もお母様も過保護ではありませんこと?わたくし、一人で歩けます」

「クラリスは、私のエスコートがお気に召しませんか?」

文句を言うクラリスにグラッドが苦笑まじりに問いかける。

「悪くはありませんわ。学園でお会いした殿方の中では、グラッドが一番エスコートが上手でしてよ」

「クラリス、外聞が悪いよ。エスコートをしてもらう仲の方が複数いるように言ってはいけない」

「ダンスレッスンの話ですわ。それに家に帰ってきたんだから、別にいいじゃない。」

「言葉遣いも崩れてる」

「グラッドは口煩いですわ」

いつもの掛け合いに少し周りの表情が柔らかくなる。

私は凄くグラッドに申し訳ない気持ちになるし、グラッドは笑いを噛み殺している。

その後も食堂につく間、クラリスらしく素直に思ったことを口にしてはグラッドに嗜められるを繰り返す。

私は食堂に行くだけで、疲れてしまった。

なんでもっと出来ると思ったのか、ミランダのいう通り人前だけ頑張ろうと思い直した。

食堂には既にフレッドとミレニアがいた。

挨拶をして、席につく。

本日の夕食の献立は、クラリスの好きなハンバーグに、ポテトサラダにパン。フレッドがリクエストしたらしいスープ、なんのスープだろう?グラッドも知らないメニューだったようで、じっと観察している。あれ?この香りは。

「数日前からシノノメ領から取り寄せたレシピと調味料で作らせたんだが、どうかな?」

具材は置いといて、味は味噌汁だった。

「美味しい…」

一気に懐かしさが胸一杯に広がり、自然と涙が溢れた。涙が止まらない。どうしよう。

「美味しいよね、私も食べた時は不覚にも泣きそうになったんだ。」

フレッドのフォローを無駄にしないように、背後のミランダから差し出されたハンカチをとり、涙を拭く。

「お父様、これはなんですの?凄く美味しいスープですわ」

「ふふふ、びっくりしたかい?初代様は子供達に自身の故郷の料理のレシピを残す事を禁じた。でもね、シノノメ領では受け継がれていると、聞いて早速取り寄せてみたんだ。どうかな?『味噌汁』という料理だよ」

「驚きましたわ!は、早く、もっと早く教えていただきたかったですわ」

白米と一緒にいただきたいと言いかけた。危ない、懐かしい味にテンションがおかしくなってる。落ち着け、落ち着け、私。

「不思議な味わいですね、養母上はいかがですか?」

「えぇ、美味しいです。フレッド様が嬉しそうなのもいいですね」

グラッドは口に合わなかったのだろうか?そっと窺うと、そうではないようだった。スープの減りが早い。ミレニアは、何度か食卓に上がっていたのか、特に驚きはない。

美味しい夕食に舌鼓をうちながら、食堂内を気づかれないようさりげなく観察する。使用人達はいつものクラリスだとほっとした表情を浮かべている。逆に侍従長と侍女頭、セシルの三人は少し表情に強張りが見える。

侍従長はフレッドの、年嵩の侍女頭アンナはミレニアの、セシルはグラッドの給仕をしている。そんな彼等と何度か目が合う。その度に、きょとんとした表情を返す。首を傾げてみせる。

食事が終わり、給仕役以外の使用人が退室する。普段なら今日一日の報告などをする時間だ。食後のお茶を楽しみながら、私はそっと気合を入れる。

「ジョージ、今日はどうしたのですか?わたくしの顔に何かついているのですか?さっきから、チラチラと」

少し拗ねた声で指摘する。

「あと、アンナもなんなんですか?ちゃんとおっしゃってください。わたくしに何か言いたいことがあるのでしょう?」

「ジョージ、アンナ、セシルも、何かあったのかい?言ってくれて構わないよ」

フレッドが促し、侍従長が口を開く。

「クラリス様が、急に涙を流されたのでお疲れなのかと案じていただけでございます」

「わたくしも同様でございます」

アンナも同じように続く。セシルは、少し躊躇うも

「私はクラリス様が少し変わられたような気がして戸惑っておりました」

クラリスの変化を口にした。侍従長と侍女頭が揃ってセシルを少し睨む。二人も気づいていたのだろう。やっぱり気づく人は気づくのだ。想定はしていた。ミランダと帰領前に話し合った通りだ。

「貴方はセシルだったわね。素晴らしい、観察眼ですわ。わたくしの身に起こったことは知っているのでしょう?」

少しオーバーに振る舞う。

「わたくし、あの日命の危機を感じたのです。闇の怪物の攻撃に晒されて、死に物狂いで魔法を撃ち続けました。あの時の恐怖が忘れられないのです。いつも通りに生活しても、ふとした拍子に思い出すのです。その恐怖を隠していたのに、見破られてしまうなんて」

頬に手を寄せ、ため息をつく。しおらしく目を伏せる。

「クラリス、すまないね。今日はもう休みなさい。」

フレッドがミランダに合図を出す。

わかりましたと頷き、退室する。閉まった扉の向こうでは、三人にクラリスの部屋に人を近づけないよう指示がでることになっている。

部屋に戻り、お風呂に入ると思いの外疲れていたのか眠気が襲ってくる。ミランダに寝ないでくださいと言われながら、休む支度を整える。髪を乾かされながら、つい舟を漕いでいた。

「リオ様、寝台の準備が整っております。さぁ、此方です」

半目でベッドに潜り込むと、すぐに深い眠りに落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ