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不運な召喚の顛末  作者:
第三章
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休暇編1

グラッドが迎えに来た。

馬車の中で昨日ミランダから聞いた魔力阻害の指輪の話をすると、

「中々痛いで済むような生ぬるいものではありません。信じてはいけません」

と真剣な顔で諭された。

ミランダがあまりに淡々と試すのでミゲルも一緒に試したのだが、痛すぎて声が出なかったらしい。

「少量流すより一気に流した方が痛みは軽いです」

曰く痛みの種類が変わる。刺されるか切られるか。

「対処方法を知っていると知らないとでは生存確率が違います。覚えていて損はありません。もし使用されたとして、粗悪品である可能性が高いですし、しかも大概一般貴族並みを想定して作られている。金額的にも技術的にもそれ以上のものをたかが盗賊程度が所持していることはないので。」

「あったら、完全に貴族が裏にいます。わざわざ露見するようなことはしないでしょうから、それは正しいでしょうね」

その後も毒の指輪や憂鬱の指輪の話をして、気づけば王都郊外だった。転移前の小休憩に入る。

「うう、ずっと痛い苦しい話ばかりで辛い」

セシルがそう零すと

「まだ慣れないのですか?十年の付き合いも考えないといけませんね」

ミランダがそう宣った。

すると、セシルは顔色を変えて、そういう意味じゃないと弁明し始める。そんな二人を和やかに眺めていた。がちょっと不思議に思う。

「まだ話が進んでいないのですか?結婚するって言ってたのに」

私がそう言うとセシルが驚いた。初耳だったようだ。

不運実験の時にそう言っていたのにまさか話もしてないとは思ってもみなかった。

「ミランダ、」

「リオ様に口止めをしなかった自分が悪いので何も言えません。結婚します」

ミランダの宣言に

「ミランダ……!」

「面倒くさい男ですね、全く」

感極まって泣き出したセシルにミランダはやれやれと呆れる。でも楽しそうだ。

休憩後クロムへ到着する。

実際にはまだ数度しか見たことのない街の景色に、クラリスの記憶が混ざり懐かしい気持ちになる。

屋敷に着くとそこには専属侍女達が待機していた。

「おかえりなさいませ。」

「ただいま帰りました」

ミランダがイザベラとノヴァに指示を出し、ニーナが

「リオ様、旦那様と奥様が書斎でお待ちです。」

と先導する。

書斎へ向かう。ドアの前で侍従長が待っていた。

「おかえりなさいませ。グラッド様、リオ様」

扉を開け、室内へ足を踏み入れる。

「おかえり、二人共」

フレッドがミレニアとソファでくつろぎながら手招く。

「ただいま帰りました。フレッド様、ミレニア様」

「取り敢えずこちらへどうぞ。」

二人と向かい合うように座り、すすめられた紅茶を飲む。

やっぱり美味しい。

「リオさんはまた一段と動作が洗練されてきたね。それに少し冒険者としても実力をつけたのかな?動きがミランダに似てきた」

「ありがとうございます、もっと精進致します」

「でもあまりミレニアに研究材料を与えないでくれるかい?」

一瞬『動物に無闇に餌を与えないで下さい』という看板がよぎったが、すぐ打ち消す。イルミネーションてんこ盛りのあの魔法だ。

「申し訳ありません」

「全く妊娠初期で大人しくしてて欲しいのに目を離した隙に研究に没頭するんだから、大変だよ」

「???へ?」

妊娠?ミレニア様が?

急な知らせに驚きで固まる。

「?グラッド、伝えてないの?」

私の反応にフレッドはグラッドをみた。

「はい。色々ありまして」

グラッドはそっと視線を逸らす。

「リオさんに会って嬉しくて忘れてたんだろうけど、そういうとこ私に似なくてもいいと思うよ」

フレッドが苦笑した。

「み、ミレニア様。おめでとうございます。あ、あと具合はいかがですか?無理しては、いけませんよ」

「リオさん、あ、あの。ありがとうございます」

何故かミレニアがお礼を言う。身体の心配へのお礼かな?と思っていたら、

「生姜や身体を温める方法を試して冷えが改善したの。」

以前話した冷え性対策の話だった。

「いえ、それはミレニア様が私の話を試してくれたからです。でも良かったです。」

医者に妊娠は体質改善や精神面の影響もあると言われたそう。キラキラ闇魔法についても礼を言われた。

そして気づいた。

「グラッド、どうしましょう。」

その事実に少々狼狽えた私はグラッドの腕を掴む。

「?どうしました?」

「私、お姉さんになったことなくて。どうしたらいいでしょうか。グラッドはお兄さん歴があるので助言をいただければと」

「歴って言うほどありませんし、カケルさんをお手本にしたら」

「駄目です。絶対真似してはいけない相手です。妹でしょうか、弟でしょうか。今から緊張してきました。」

兄貴を真似るとか絶対に駄目だ。でも姉とはどういう生き物なのだろうか。千加に相談しよう。

「早いよ、リオさん。落ち着いて、ね?」

フレッドに呆れられる。

「は、はい。失礼致しました、取り乱しました。」

「なら、フロスト家に出掛けてみてはどうだろうか?」

グラッドの妹がいるし、姉として接してみてはどうかとフレッドが提案するが、

「養父上。しかし」

グラッドが渋る。そんなグラッドにフレッドは優しく微笑むと、

「リオさんを伴って出掛けることは傍からみたら婚姻に関することだ。そして養子縁組を結んでいても実の家族がいるなら挨拶に出掛けるのは正しいこと。それにあちらにも話は通している。休暇の間に挨拶に行くと。誰にもとやかく言わせない。久しぶりに手紙以外の交流を持っても良いと思うし、なんなら私からの指示だと口実をつくっておく。」

絶対行くことと命じる。

「……わかりました。ありがとうございます」

グラッドが実家と連絡を表立って取らないのには理由があるようだった。

礼を述べるグラッドは少し嬉しいような複雑な表情をしている。

それからライラの出産の話、無事に女の子が産まれて、旦那さんがメロメロらしいことや、コランダムの視察で『鮮血の眠り姫』とハロルドが手合わせした話を聞く。

「ハロルド君が楽しい、面白いと称する相手は少ないから実りある視察になった。戦力分析も進んでいるし、そういえばリオさんも面白い相手に認定されたときいたけど」

「そうですね、手合わせが面白かったまたしたいと言われましたが、一括りに面白いでも差がありますよ。私の場合は見た目や肩書きとの差で面白いって思ったんじゃないでしょうか」

グラッドの婚約者として見ているなら、普通の令嬢っぽくなくて面白いと思われても仕方ない。

「リオ。ハロルドは戦闘とヒューゴ、魔道具以外に興味がありません。彼が面白いといったのは、純粋に手合わせが面白かった。彼の利になるものだったってことです」

戦闘とヒューゴと魔道具にしか興味がない、それはすごい。

「それでは何を見て面白いと思ったのかが謎ですね」

「本気で言っています?」

「?はい。」

「そうですか。驚きました」

結局面白い理由は分からずじまいだった。

「リオさん勉強会はいつから始めましょうか。都合は、」

「ミレニア様のご都合に合わせます。あ、ちょっと待っていただけますか」

予定表を取り出し、グラッドと埋めた予定以外の日に伯爵夫人になるための勉強会を書き込む。

「ちゃんと休みも考慮しなくては、駄目ですよ?フロスト家に連絡も入れなくてはいけないから、行くのは後ろの日程にした方がいいのではなくて?」

「はい。ミレニア様。グラッドの都合もききたいです。いつがいいですか?」

「私はここまで休みなので、この辺りに行きましょうか。」

「はい。」

予定が埋まっていく幸せを噛み締める。頬が緩んでしまう。

「嬉しそうだね」

「はい。計画を立てられるのが、嬉しいです。」

「そうか、それはよかった」


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