魔法省編再び27
出勤のため部屋を出ると、ミランダが怖い笑顔で待っていた。セシルの顔色が悪い。
「グラッド様」
「何でしょうか、ミランダ?」
怯える私とは違いグラッドは自然に返事をする。
「セシルと一緒に今日は別邸でお過ごし下さい」
「わかりました。」
今朝のグラッドはすんなりと了承すると私と手を繋ぎ、寮の入り口まで歩く。
「では、明日迎えにきます」
頬にキスをすると、グラッドは満足そうな笑顔で門へ向かっていった。
「リオ様。」
びくりと肩が揺れる。
「はい。」
「最後までされましたか?」
顰めっ面で問われる。
「へ?いやいやしてませんよ!?何を言いだすんですか!」
「本当ですか?」
「嘘ついてどうするんですか。ミランダ、そもそもグラッドが部屋にいたのはミランダが入れたからではないですか?」
流石にグラッドでも勝手には入れない。
ミランダは眉間に皺を寄せ、苦渋の選択だったのがわかる。
「あの日は、私もどうかしていました。」
言い方。あと少しで口にしそうになった。
「寮に戻るまでは落ち着かれていたリオ様の体調が全然良くならないし、ずっとうなされていて。ただ、グラッド様が手を握ると落ち着かれたので、藁にも縋る気持ちで」
そんな状態だったの!?初耳だ。
「気苦労をお掛けしました」
謝罪する。
「ミランダはあまり信用してませんが、私だって我慢するんです。」
「十五、六の自制心なんてあってないようなものだと思っていますので」
「何かあったんですか」
ミランダは渋い顔をしている。
「なんでもございません」
絶対何かあったのはわかるが、聞いてはいけないのもわかる。問いたい気持ちを飲み込む。
今朝は食堂に寄れなかったなぁと思ったら、
「朝食でございます」
包みを渡された。
「ふふ、ありがとうございます」
召喚課にはニコルだけがいた。
「おはようございます、ニコル先輩」
「おはよう。具合はどう?」
「お騒がせしました。もうすっかり良くなりました」
テーブルに包みを置く。ミランダは流れるようにカップを用意してお茶を淹れている。
「ん?珍しいね。食べてこなかったんだ」
朝食を食べているとブレンダンが出勤してきた。
「おはよう、リオさん。」
「おはようございます」
素早く食べ終える。
「あ、そうだ。朝食は三人とも食堂で取ることにしたから。」
その他今までの流れから変更した部分の連絡を受ける。
「なるほど。わかりました。ありがとうございます」
「サクラはまだ帰りたい気持ちが強いから、明るく振る舞っていても気をつけること。リオさんも気持ちがよくわかると思う。無闇矢鱈と踏み込まない、いいね?」
「はい。」
一番言えない事だ。レイカにもアランにも言えない。
二人共、私が帰れないのは知っている。
でも、千加はこっちへ自ら進んできたことや私と家族が会えるようにと考えてくれていることは知らない。
私には千加がこっちへ来てから確認していないことがある。
本当に帰れるのか帰れないのか。転移者も帰れるように手伝ってくれるのか。
千加がもう帰らないのは知ってる。ユル様がそう望んでいるから。
私も今はもう帰らないと決めている。
けどそれは他の転移者からしたら身分や立場があるから、恵まれているから、ちょっとでも帰るための手段があるからそう言えるのだと思われるのも知っている。
だから絶対言えない。
「ニコル先輩、ありがとうございます」
「また何かする前に釘を刺すことが大切だと考えただけだし」
心当たりがありすぎる。
「気をつけます」
私はローブの内ポケットから一枚の紙を取り出し、ブレンダンに近づく。
「ブレンダン、今少しいいですか?」
「?何?」
「この術式は武器に刻む術式なのですが、効率性や実用性を見て欲しくて。いいでしょうか?」
ブレンダンは私が差し出した紙を受け取り、術式を読む。
「武器も見ていい?」
「はい。これです」
刀を手渡すと鞘からだしてブレンダンは刃をじっくり観察する。
「刀身に刻むんだよね。へえ面白い術式、これはリオさんと助言した人がいるけど、方向性はリオさんの希望?」
刀を返すブレンダンはそう言った。
「は、はい。わかるんですか」
「うん。こことここは特徴的、効率性は群を抜いてると思う。武器の軽量化は上手くいくけど、この射出術式は必要?」
ブレンダンはもっと硬度を上げたほうがいいのでは?と考えているが、
「これなら私が苦手な射撃が実用的な手段になるかと」
刀を向けることによって照準が定まることが重要だと思う。
グラッドも驚いていたけど、その為の術式を一緒に考えてくれた。
「手数を増やしたいのか。なら鞘に入れたら?」
「え?」
「この術式だと刃先から射出することを前提としているから、もし打ち合ったら使えない。手数を増やすことにはならないから最初から鞘に入れたら、片手は射撃、片手は剣戟と増えるかな。まぁ僕は戦闘の経験がないので簡単に言ってしまえるんだけど」
「目から鱗です。ありがとうございます。硬度は上げた方がいいと助言をもらっていたのですが、射撃がどうしても捨てられなくて。」
「そう。なんだか、その人、リオさんのこと見透かしてる気がする。」
「??」
どういうことか尋ねるとブレンダンは少し照れたように視線を外す。
「リオさんは、この術式を契機に僕との距離を縮めようとしてるでしょ?」
「ぇ、ぁ、はい」
バレている。
「術式の出来を見るに、この人は助言だけじゃなく、効率性実用性についても色々指摘できる実力のある人だ。それなのに、術式作製だけの助言に留めているということは」
「武器に刻むだけの術式でないと理解しているってこと、ですか、」
「恥ずかしいけど」
「ブレンダン、それ私のセリフですよ?」
グラッドにはブレンダンのことは言ってない。武器に入れる術式を考えているって話をして、射撃は外せないことは力説した。ミランダからの試験くらいに考えてくれたのかもしれないが、確かに。
戦闘経験がないブレンダンが射出術式の穴を指摘したってことは、グラッドも気づいていたと考えていい。
「鞘に入れたら、確かに硬度も上げられます。ありがとうございます、ブレンダン」
「僕は、リオさんがあの人を、追い返してくれたから、今こうしていられる。ありがとう」
あの人、ブレンダンの兄と名乗った不審者のことか。
「不審者を捕縛しただけですから、気にしないで下さい」
「ふ、ふふ、不審者って、」
ブレンダンが私の言葉に笑いだす。
何処がツボだったのだろうか。
「不審者対策はまず口を塞ぐことを優先することをお勧めします」
「なにそれ、」
「あの人達って基本話が通じないので、まず口です。余裕があれば鼻は生かしておけば問題ないです」
「リオさん、ブレンダンに変なこと教えないで!」
黙って聞いていればとニコルに怒られる。
ちょっときなさいと呼ばれて、お説教をくらう。
「あの人達って、リオさんはよく不審者に遭遇するの?」
「はい。目を離すとわりとすぐですよ」
「そうなんだ、だから慣れてるのか」
ミランダとブレンダンの会話はニコルの説教に掻き消され私のところまでは届かなかった。




