魔法省編再び25
休暇中の予定を予定表に記入していると、ノックの音がする。
そっとドアを開けるとそこには、レイカと咲良がいた。
「あ、」
「リオ。今いいかしら、部屋で話せる?」
「あの、部屋でですか?」
「そうよ。立ち話するような内容じゃないから」
「あの少しだけまってて下さい。部屋片付けてきます」
「ええ。『珍しいわね、部屋は綺麗にしているほうなのに』」
何度か部屋に遊びにきたことのあるレイカは不思議そうに日本語で呟いた。その横で咲良が青ざめた。
追い詰めているようだけどやりすぎてはいないだろうか。
ドアを閉める。
「グラッド。レイカさん達が来たので、台所に移動してもらえますか?魔法もかけます」
台所なら気づかれないはずだ。
「わかりました」
グラッドはテーブルの上を素早く片付けると台所の方へ移動する。
「もし私が言葉に詰まったりしても絶対口出ししないでください。顔色悪くなってもですよ。いいですね?」
「わかっています。そうなったら彼女達が帰った後に甘やかします」
姿を隠す魔法を使用する。
椅子を用意して、部屋を見回す。ブロマイドは引き出しに隠した。
「よし、大丈夫」
弱々しい感じってどんなだろうかと、考えつつ、ドアを開けた。
「どうぞ、」
咲良と目が合ったが、すぐに逸らす。
二人を部屋に招く。椅子は二脚しかないので二人に勧め私はベッドに腰掛ける。お茶をすすめたが、レイカに断られた。
「レイカさん。話って、何ですか?」
動悸が激しくなる。
「サクラが話があるって言うから」
「サクラさんが?」
レイカに促された咲良が私を見る。そこに以前のような攻撃的なものはなかった。
『ごめんなさい。とても、失礼なことを言いました』
深く頭を下げて謝る。
『私は、ここが異世界だって、日本とは違うって言われても保護されるのがどっかで当たり前で正しいことだと思ってた。ありがたみみたいのはなくて、傲慢だった。ごめんなさい』
レイカを見るとレイカは静かに頷いた。
『私に向けた悪意の理由を聞いてもいいですか?』
ゆっくりと顔をあげた咲良の表情は暗い。眉間に皺が寄っている。言いづらそうに口を開く。
『同じ日本語でもレイカは日本人らしい言葉の発音で、アランやニコルさんは母国語が別にある人の発音をしている。それがここの言葉では、レイカとアランの発音がそう聞こえる。ニコルさんは母国語なのが分かる。滑らかさが全然違う。その違いがわかるけどリオさんのはその差がない。』
クラリスの記憶がありつつ、日本人である私はどちらの言語も母国語のように操る。そしてそれを咲良は正しく聞き取る。
『それは、違和感でしたね。ごめんなさい』
『え、あ、あの、謝らないで下さい。私が悪いんです』
『精神的ストレスに晒されてそれが兆候として体に現れるのは聴覚である場合が多いと聞いています。気づけず申し訳ありません』
『う、ぅぅ』
咲良がいきなり泣き出した。
『サクラさん?大丈夫ですか?レイカさんどうしたら』
『ごめんなさい、ごめんなさい。ゔぅぅぅ、き、傷つけて、ごめん、なさい』
咲良の側に寄り、背中をさする。ハンカチを顔をあてる。
『これ、使ってください』
『う、ずっ、あ、ありがとう』
『どうしたら、サクラさんが楽になりますか?』
『へ?私?』
『発音を変にする?例えば、コレクライナラキニナリマセンか?』
『私が気にするわ!却下。何そのワレワレハウチュウジンダみたいな発音』
何故かレイカが却下する。
『レイカさん、それはわかりませんが、単語、だけ、にする?とか』
『駄目却下』
レイカから却下の嵐だ。
『訛りとか?』
『出来るの?やってみて』
『これくらいなら気になりマセンか?』
涙を拭きながら
『大分楽。』
咲良が驚いたように言う。
イントネーションを少し変えて話すと、別地方の人の話し方になるから違和感が薄れるようだ。
『あ、ありがとう、リオさん』
咲良が私の手を握る。嬉しそうだと思ったら驚いてすぐ手を離した。
『何、これ』
新たな問題だろうかと息を呑む。すると咲良は私の手を再び取ると、手のひらを確認し始めた。
『何でこんなにマメだらけなのよ!』
あ、なんだ。マメか、と安心する。
『剣術を習い始めて出来たマメです』
『はぁ?貴女貴族令嬢でしょ?なんで?』
『私が嫁ぐサイス領は魔獣の被害が多い土地です。どう言ったらいいでしょうか。えーと、サイス領の役に立つ人になりたい。その為に必要なことなので手のひらのマメでさえ誇らしいです。』
『嫁ぐ?へ?まじゅう?』
『この世界には魔獣って怖い生物がいるのよ。それと戦うつもりなのよ、リオは。』
『その為の力をつけたいだけです』
『あ、サクラ。これ、この人がリオの婚約者よ。イケメンだけどなんかムカつくわ』
レイカは飾ってある肖像画を勝手に咲良に見せる。まぁいいけど。
『なんですか、レイカさん。人の婚約者をつかまえてムカつくとか』
『うわぁっ!超絶イケメン!性格悪ければいいのに!』
肖像画をみた咲良が頭を抱えて、酷いことを言う。基本的に口が悪いのか?それともイケメンに悪い思い出でもあるのか?
『二人共失礼ですよ!』
流石に私でも怒る。
『完全にサクラが失礼だったわ』
咲良にしれっと罪を全部擦りつけたレイカを追及する。
『レイカさんもです。何ですかムカつくって』
『ん?だってさ、さらっとリオは自分のってアピールしてくるからイラってきたのよね』
『え、溺愛系?イケメンに溺愛されてるの?漫画だけだと思ってたーすごーいヤバい』
レイカの話に咲良が色めき立つ。キラキラした目でみられている。なんだろう、恥ずかしい。恋バナが好きなのだろうか。
『じゃあレイカは?アランと付き合ってるって言ったじゃん。どうなの??』
自分にお鉢が回ってきたレイカはしまった!という顔をした。こういう話題は恥ずかしがってしたがらないレイカだが、私の話をした手前話を回避出来ずに
『どうなのって、何よ』
応じる。
『年下彼氏ってどんな感じ?』
『アランはあまり年下って感じしないし。まぁ優しいわ』
グラッドも、年下だがいじられるのがわかっているので沈黙を貫く。そっとベッドに座り直す。
『確かにアランは優しそう。いいなぁ、私も彼氏欲しい』
『日本で彼氏はいたの?』
『いなかったけど、これから付き合うのかなぁ?みたいなのはいたよ。』
『そう。じゃあこの際だからタイプも聞いておくわ』
『えー、レイカなげやりなんだけど。別にタイプとかないし、好きになった相手がタイプだよ』
『それ初めて聞いたわ。テレビ的なアレかと思ってた』
『ひどい』
『そういう仲になりそうな相手がいたら教えて。性病予防の薬とか避妊薬の説明もするから。それと、魔法省で性被害に遭った場合も隠さず教えて。いいわね?』
『へ、あ、そうか。うん、わかった。そんなの考えたことなかった。』
『痴漢にも遭ったことなかった?』
『不審者は?』
私とレイカの質問に咲良は首を横に振る。
『ない。でも私胸ないし』
胸に手を当てる。
『それは関係ないわ。あろうがなかろうが被害に遭う人はいるの、魔道具に防犯ブザーみたいなのがあるらしいからそれの準備をしているけど気をつけること』
真剣なレイカの表情に咲良は息を呑む。ちょっと怯え頷いた。
『じゃあ戻りましょう。リオは、明後日から長期休暇だったわね。明日は出勤してちょうだい』
『はい。』
『長期休暇?夏休みみたいな?』
『いえ、二週間サイス領へ戻って、なんと言えばいいでしょうか。研修?』
『伯爵夫人になるための勉強会みたいなのだったわね、たしか』
『は、伯爵夫人??』
咲良が驚く。
『相当ヤバいのに喧嘩売ってたのが分かったでしょ』
レイカは軽くそう言うと咲良を連れて帰っていった。
その背中に、私よりもっとヤバいのに喧嘩売ってるレイカさんに言われたくないなぁと内心思った。




