魔法省編再び21
「リオ様。顔色が良くありません。」
「少し寝不足なだけです。大丈夫です」
朝からミランダに指摘された。
確かに昨日夢見が悪く何度も夜中に目が覚めたが、すぐに寝直せたから気にしていなかった。
それに朝、鏡をみてもなんとも思わなかった。
出勤した時も全員に指摘される。
「そんなにわかりやすいですか?」
「見慣れてるからじゃないか?」
同じく寝不足を指摘されていたアランに尋ねる。枕が変わると眠れない質だったことに初めて気づいたらしい。
「シノノメではどうしたんですか?」
「……シノノメには枕を持っていった。レイカが荷物に詰めてた」
「わぉ」
レイカも旅先へ枕を持っていくタイプだそう。
「抜かりない。かっこいいです。レイカさん」
「おはよう。みんなちょっといいかしら。」
レイカが咲良を連れて部屋に入ってきた。
「彼女はサクラさん。保護されて時間がそんなにたっていないから混乱することもあると思う。上手くフォローしていきましょう。『さくら、自己紹介できる?私が訳するから日本語でいいわ』」
『咲良。二十歳、大学生。趣味は音楽。つか、この自己紹介意味ある?仲良くする気ないし、』
「サクラ、二十歳、学生、趣味は音楽だそうよ。ブレンダン、ミランダさん。今のところ言葉は通じないけど困ってたら力になってあげて」
二人を見ながらレイカがそういうと咲良が驚いた表情をする。最後の呟きは完全無視だ。
『ちょっと、レイカ。今二人しか名前呼ばなかったよね!あっちが「ミランダ」で、そっちは「ブレンダン」?!』
レイカは名前を聞き取った咲良に驚きつつも肯定する。
『さくら、耳がいいのね。そうよ。二人に言葉は通じないけど』
『え?!じゃあ、他は?!』
咲良は私とアランを見る。
『はい、わかります』
『わかる』
「『召喚課の職員を紹介するわ』ニコルからお願い」
『ニコル・トライラト。二十五歳、大体この部屋にいるから困ったらいつでも声をかけてほしい。』
『アランだ。俺も転移者で、イングランド出身、歳は、今いくつだったか。多分十九歳。犬が苦手だ』
『リオです。十七歳です。私は転移者の保護支援を勉強するためにサイス領から召喚課にきました。これから宜しくお願いします』
私をみて咲良が顔を顰める。既視感が凄い。
『さくら、ブレンダンは召喚課の仕事の一つ、召喚術式管理を任されているわ。あちらの机にある書類は触らないこと。ミランダさんはリオの護衛兼侍女よ。』
『護衛、侍女。リオさんはお嬢様か何か?』
『そうよ。この国の貴族令嬢よ。私達や貴女にも気安く接するけど、それは忘れないこと。いいわね』
『はっ、お嬢様のお遊びか』
咲良が英語で呟く。
『サクラ。聞こえている。訂正しろ』
アランが強めの口調で、咎める。咲良はふん、とそっぽを向いた。その態度に詰め寄ろうとしたアランを止める。
『アラン。構いません。』
レイカにも似たようなことを言われたから、やはりそう見えるようだ。
レイカが少し心配そうな顔をした。
『今日は私達がどのように生活しているか、教えるからさくらもできそうな仕事があれば言ってちょうだい』
レイカは咲良を伴い、朝の家事、朝食の準備と片付け、勉強の時間、昼食を挟んで風土の勉強の流れを日本語で書いた紙を見ながら説明していく。
宿舎へも直接赴き、洗濯場や食堂、施設の説明をする。
「あら、アランのとこの。元気かい」
「おばさまも、元気そうで。腰は大丈夫?」
「リオちゃんのマッサージで良くなったよ」
「無理しちゃだめよ」
洗濯場で顔見知りのおばさんから話しかけられ、
「今度一人増えたの。まだ言葉が不自由だけど、宜しくね」
「あいよ!他の人等にも言っておくさ」
「ありがとう」
新たな転移者が増えたことを伝える。
『レイカ。あの、アランの名前がなんで出てきたわけ?』
『私がアランの彼女だからね。アランは宿舎の人達と仲がいいから』
『はぁ?へ?つき合ってるの?』
『そうよ。あ、ほらこっちから食堂に行くと近道よ』
二人の様子を観察しながら、レイカの交友関係が広がったことを嬉しく思った。宿舎を回った後は言語学習をする。
がその前に、転移者資料の作成をすることにした。奥の部屋で聞き取りをする。
『いくつか質問に答えてほしいの。これはどんな転移者がいたのかを残すための資料になる。協力してくれる?』
『わかった』
「リオ、書記をお願い。『名前と年齢は聞いたわね。この世界にきた時、事件や事故に巻き込まれなかった?害されそうになったりはない?』」
咲良の話だと、そんなことはなかったようだ。
海辺で、途方に暮れていたら白い服を着た人達が声をかけてきた。全然言ってることがわからなかったけど、女の人だったからついて行った。白く大きな建物に連れていかれて、食事をご馳走になった。やっぱり何を言ってるかわからなかったけど、一日はここにいた。それから、片言で魔法省、行く、王都に、移送と言われて、王都へきた。
『そこでも、言葉は通じなくて、ここまできたのよ』
はぁと大きなため息をつきぼやく。
『そしたら、異世界だし、帰れないし、マジないわ』
「リオ、書けた?」
「はい。確認してください。あと、加護と加護膜はどうすればいいですか?」
「あ、そうだった。『さくら、これを握って。はい』」
レイカはスカートのポケットから加護測定器を取り出し、咲良の手にのせる。
反射的に咲良はそれを握った。
『え?何これ』
手を開くと、加護を表す光が灯っていた。
「火、風がレベル1ですね。」
「加護膜はーっと、大丈夫。つくれてる。」
更に取り出した魔道具を咲良の腕に当て測定している。
『何よ』
『この世界で生きていくために必要なものの調査をしたの。加護膜といってこれが作られないとすぐに弱って死んでしまう。でも安心して、つくられていたから。』
『と同時に加護の測定も行いました。さくらさんの加護は火と風属性のレベル1です。加護があるとこの世界で生活しやすくなります』
レイカの言葉に追加補足する。
すると咲良が私を睨みつけた。
『喋らないで。』
『さくら?どうしたの?』
『あんた、キモい。なんなの?まじうぜぇ。黙って』
一瞬何を言われたのかわからなくなる。息ができない。あからさまな強い悪意。
『さくら!いきなり失礼でしょ!謝って』
『嫌だ。レイカ気づかないの?こいつの話し方、気持ち悪い!全ての言語で同じ理解度の話し方するとかまじ無い!普通じゃない』
胸の辺りが苦しい。気持ちが悪い。
「ミランダさん!リオを連れて部屋を出てくれる?ごめんなさい、リオ。私の説明が悪かった」
『あっち行けよ、まじ気持ち悪りぃ』
咲良の声に、言葉に耳鳴りがする。
『さくら!やめなさい!』
私はミランダに連れられて急いで部屋を出た。
「リオ様、何があったのですか?!」
ミランダが私を見て表情を変えた。
「リオさん!顔色が」
部屋から出てきた私達に気づいたニコルが駆け寄る。
はぁ、はぁ、息が荒い。息が苦しい。喉が渇いて、声がでない。耳鳴りが酷い。目眩がする。
「ミランダさん、宿直室に運んで休憩したほうがいい。」
「リオ様。失礼致します」
急にミランダが私をお姫様抱っこで抱えて召喚課をでる。そして、宿直室のベッドに降ろされた。
「リオ様。顔色が悪いのでここで休んでください。」
額を撫でられた。不意にミランダの腕を掴む。
「リオ様?」
「み、ミランダ。苦しい」
「苦しいのが何処か、わかりますか?」
「胸の辺り」
「失礼致します。」
ミランダは私のシャツのボタンを外し、襟を広げた。
「ぅぅ、」
涙が訳もわからず流れる。
「リオ様」
「ミランダ、ぎゅってして」
「わかりました。失礼致します」
ミランダは私の隣に横になり、私を抱きしめた。
背中をゆっくりさすられる。
「ミランダ、ごめん」
急に意識が遠のいた。




