表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不運な召喚の顛末  作者:
第一章
17/605

召喚16

グラッドのエスコートで部屋に向かう間、すれ違った使用人達がみんながみんな驚く。

それもそのはず、こんな事初めてだから。

「グラッド、エスコートしない方がいいんじゃないですか?」

周りを確認しながら小声で訴える。

「義父上からの指示ですので、気にしないで下さい」

「指示、ですか。グラッド、クラリスの婚約者にされるんじゃないですか?嫌ならちゃんと断らないと駄目ですよ」

「ふふ、クラリスとの婚約は元より選択肢としてあったのでお気になさらずに」

どうという事はないと笑ったグラッドを見上げて少し苦しくなる。なんだか胸の辺りがモヤモヤして、変な感じがする。

「それでも、選択したくないならしなくていいと思います。グラッドはグラッドのことを支えてくれる相手を選ばないと駄目ですよ。相性悪い相手とは結局お互いが辛いだけです。」

「心配してくれてありがとうございます。」

「いえ、」

そんなんじゃないと言おうとして、私は気づいた。

「グラッド、耳怪我してます。」

グラッドの耳たぶに切り傷の跡を見つけた。

「あぁ、一昨日楽器の弦が切れた時に切ったんですけど、目立ちますか?」

「いえ、近くで見ないとわからないです」

痛くないですからと笑ったグラッドを見ながら、嫌な予感がした。もう、影響が出ているのだろうか。

「気をつけて下さいね」

それしか言えなかった。

グラッドと別れ、全然懐かしくない見知った部屋に入ると気持ちが少し降下する。クラリス専属の侍女はミランダだけだが、他の使用人がいないわけではない。

「ただいま戻りました。」

クラリスのように笑ったはずだが、部屋を整えていた使用人達は心配そうな表情をしている。

「クラリス様、こちらへ」

日当たりのいい窓辺で長椅子に腰掛ける。

部屋の作りは寮の部屋と似ている。広さは全然違うけど。奥に寝台やクローゼット、お風呂場への入り口があり、アコーディオンカーテンのような衝立で隔てられている。応接スペースに、学習用の机と応接用のテーブル、窓側の長椅子、本棚がある。勿論、側務め用スペースも併設されている。

ミランダが他の使用人へ仕事を割り振っている間、ぼんやりとクラリスの本棚を眺めていた。

見事に芸術関連の書籍しかない。芸術には興味がないが、手に取りページをめくる。

ジョルジュという画家がクラリスのお気に入りだった。

彼は転移者だ。画家として駆け出しの頃、街を歩いていたら、一瞬にして見知らぬ森の中で一人きりになった。空腹を森に生えていた果物を食べてしのぎ、雨風を洞窟でやり過ごす。そして、三日の後、近くを通りがかった冒険者に保護される。言葉の通じない状況に苦心しながらも、サイス領を代表する画家となった。力強いタッチで迫力のある絵。

「リオ様」

ほっと一息つく。部屋に私達だけになった合図だ。

「ミランダは、芸術に明るいですか?」

「いえ、私もクラリス様が話すのを聞いて知っているだけで、絵の良し悪しはわかりません」

「そうですか。私、芸術は全然わからないので、クラリス様の美的センスが羨ましいです」

本棚に戻す。美術、音楽の授業は筆記だけで点数を取っていた。犬を描いた絵を馬と言われ、リコーダーのテストは散々だ。一番下のドで何故あんなに高い音が出るのか、先生と二人頭を悩ませた。

「ミランダ、私はちゃんとクラリス様らしくできてましたか?皆さんの表情がなんとも言えない感じだったのですが」

「ええ、問題ありませんでした。皆、召喚事件に巻き込まれたクラリス様を案じているだけです。まぁ、侍従長はもしかしたら気づくかも知れませんが。」

侍従長は知っていると思っていたので驚いた。

「フレッド様は侍従長にも内緒にしているんですね」

「はい。今回の件で全てご存知なのは旦那様奥様グラッド様国王陛下、魔法省の数名と私、極少数に抑えられています。」

「では、もっと気をつけますね」

あまりの内密具合に、事の重大さを感じつつクラリスらしい振る舞いを頑張らないとと意気込む私にミランダが淡々と続ける。

「いえ、リオ様はリオ様らしくお過ごしください。研究をしたかったのですよね?読書もたくさんして下さって構いません。自室限定ではありますが」

「?え、でも、いいんですか?」

鳩が豆鉄砲をくらったような表情をしていたのか、ミランダが少し笑う。

「はい、私や奥様がそのサポートを致します。」

ミランダ以外の使用人は近づけないし、学習の名目でミレニアが直々に色々教えることもできると聞かされる。

「流石に夕食は食堂で旦那様達ととっていただきますが、それ以外は部屋に引きこもっても構いません」

「クラリス様らしくない行動ですよ?大丈夫なんですか?フレッド様はクラリス様らしくと」

「他者に対してはクラリス様らしくお願い致しますが、その他はリオ様でいて下さい。」

「わかりました。ありがとうございます」

「この世界での思い出が大変なことばかりではなく、楽しい思い出も作って欲しいと思っています。中々体験出来ることではありませんもの」

「あ、ありがとうございます」

それから夕食までの間は、今まで気になっていたことが、クラリスの記憶に残っていないか確認して過ごす。

一度全部の記憶を見たとはいえ、会話に重心をおいていたのでこの世界での常識などの知識は取りこぼしがある。

それにそれらを覚えないといけない。自然にそうだと感じている事象とそうでない事象とがある。声や顔などは前者、知識系は後者だ。

屋敷の柱などに使われている石材、門のこと、初代様、魔障、学園入学前の教育内容、首都クロム、他の領地について。

石材の名前は、というよりも、混ざっている方の鉱石の名前が守り石。

世界を構成する物質の中に、霊素という精霊が生み出す物がある。それに触れると人体に悪影響がでる。

それが悪さをするのを防ぐ役割があるのが、加護膜。加護膜は、名前に加護とついているが加護の有無は実際関係ない。転移者はこの加護膜が非常に薄いため、対抗免疫不全で衰弱死することが多い。

守り石は加護膜が未発達な赤子、他の対抗免疫不全者、転移者を霊素から守る働きがある。赤子は生後三ヶ月は家の中で過ごすことが奨励されている。そして建材に守り石を使うことが建築業界では義務づけられている。

なるほど、そんな働きがあったとは。壁や柱を見ながら、好きなだけ考えに没頭した。

転移者の他に対抗免疫不全の人がいるのは、守り石のない家、もしくは乳児期から外に出なくてはならない状況だったか。ん?さっきの転移者の画家は、免疫不全で亡くなってない。長生きだったはず、どういう事だ?えっと、あ、あった。

転移者は転移して約三日以内にこの世界の物質と混ざり合った魔素を取り込むことで加護膜が発達することが分かっている…果物、肉、野菜など食材から摂取することが可能だ。生の物であればより良い。また、血などの体液にも含まれている。皮膚に大量に不着しても一定の効果が認められている。

あぁ、果物を食べて飢えを凌いだのが功を奏したのか。

なるほど、なるほど。あ、じゃあ…あれは。



結論、クラリスの教育環境が整っていたことがわかった。淑女として必要な必要最低限の知識や振る舞い。どんな将来を選択しても良いように基礎は出来ている。もしかしたら、クラリスは将来の自分を描けなかったのではないかという考えがふとよぎった。

もしそうなら、私と一緒だ。私も、高校卒業後の自分の姿が思い描けない。不運体質のまま、どう社会に出ていけばいいのか答えが見つからなかった。就職?進学?千加はこれ以上酷くはならないと言ったけど、安心は出来なかった。


知識を沢山詰め込んだ充足感とクラリスも抱えていたかも知れない共通の悩みで形容しがたい気持ちになった。

もやもやした気持ちは結局晴れず、夕食の時間になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ