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不運な召喚の顛末  作者:
第二章
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魔法省編再び11

翌日。

出勤すると見知らぬ人物がいた。

「ブレンダン・ルビー、です。」

目線を合わせず、床を見たまま挨拶する彼は終始ニコルの後ろに隠れていた。彼の方が背が高いので全然隠れられていないのだが。

「リオです。宜しくお願いします」

「ミランダです」

「ブレンダンは魔術式局の所属だったが、今日付けで召喚課へ異動になった。ジュリエットさんが担っていた仕事を任せる。ゆっくり慣れてもらうからそのつもりで。」

ニコルが私をみて、釘を刺す。

「絶対に距離の詰め方を間違えないでよ、わかった?リオさん」

「はい。慎重に行動します」

ブレンダンは光の当たり具合では朱色にみえる明るい茶色の髪色に髪質は毛先がウェーブしている。瞳の色は俯いているので確認できない。肌は青白く、細身。歳は同じぐらいだろうか?十代後半から二十代前半にみえる。

「ブレンダンさんは魔術式局でどんな仕事をしていたのですか?」

「……術式査定。」

ボソリと答える。

「それって術式の効率や不具合がないか確認する作業ですよね?結構危険もあると聞いた記憶がありますが、本当なんですか?」

魔術式局の局長からの菓子折りが届いた時に仕事内容をオスカーから聞いたことが甦る。

「き、危険ある。でも、大切」

ちょっとまえのめりになりかけた私を

「リオさん。そこまで」

ニコルがすかさず制止する。

「う、すみません。ブレンダンさん、また教えて下さいね」

「わかった。」

ブレンダンが小さく頷いた。

「ブレンダン、あっちの机が君の仕事場。で、こっちが休憩する場所。この部屋の棚にある資料は僕個人の資料だから貸し出しは自由。声さえかけてくれればいいから。」

「うん」

「それから、ブレンダンのカップはこれ。」

ニコルは手にした袋から真新しいカップを取り出す。

ラベンダー色のカップだ。

「あ、そうだ。ミランダさんのカップも用意したから、今日からはこれを使って。」

水色のカップだ。ミランダの瞳の色と一緒だった。

「わかりました」

「ミ、ミランダさん、は一級冒険者の、ミランダさん?」

ブレンダンが震える声で尋ねる。人と話すのが苦手なのだろうか。

「はい。そうです」

「……」

会話が続かない。ブレンダンの方は言葉を選んでいるようだが、声にならなかった。

「もし、依頼でしたらギルドを通していただければ内容によってはお受けしても構いません」

「サイス領で、伯爵夫人の、術式査定を、してたっていうのは、本当?」

意を決したようにブレンダンがミランダに問う。初めて顔をあげた。綺麗な朱色の瞳をしている。

「はい。しておりました。」

「危険は、」

「暴発の危険はありませんが、効果の危険性を上げろと突き返したことはあります」

「効果の危険性」

「弱い攻撃魔術に意味はありませんから」

二人の会話が続いている。内容は物騒だが、二人が楽しそうなので私もニコルも何も言わず見守る。

「一撃で殺せるように効果をあげるよう言いました」

「術式札でそこまで求めるのですか?」

「そうでないと死にますから。兵を無駄には出来ません」

「……また、色々聞いてもいいですか」

「はい。ぜひ」

話が終わると、我に返ったブレンダンはまた俯いてしまった。

ニコルに連れられ仕事の説明を受けている。

「ミランダはブレンダンさんと会話が続いて羨ましいです」

私は机を運びながら、そう零す。

「リオ様は魔術より魔法派なので難しいと思いますよ。」

「うぅ、術式も勉強してるんですけど。確かに難しいです」

「昨日の『刀』に刻む術式を彼にみてもらえばよろしいかと。査定しているのならすぐ効率的か判断がつきますし、好きな範囲の話題ですから会話も続くでしょう」

武器に刻む術式は慎重に検討しなくてはいけないと昨日寮に戻ってきてから聞いた。

まだ考え中だが、案ができたらみてもらおうと決めた。

こつん。

資料室の入り口に刀がぶつかる。

「うぅ、またぶつけた。」

いつ何があっても対応できるように武器、道具は身につけることを言い渡されている。

帯刀して生活するのは初めてで無造作に動くと刀をぶつける。

「慣れですよ、リオ様」

「ミランダはだからナイフなんですか?」

ナイフはぶつけたことなかったから、つい口にする。

「……違います」

「なんですか、その微妙な間は」

「だからミゲルは投擲ですとだけ申し上げておきます」

ミゲルさん……!!

「頑張ります。」

動きに気をつけて行動する。

資料を読む時も、そのあとも慣れるまで大分時間がかかりそうだなと思うことだらけだった。

気をつけて動いている私を見てオスカーが

「本格的な訓練だね。慣れるまで頑張って」

と笑っていた。騎士を目指していた頃は同じことをしていたと教えてくれた。今は魔力武器ばかりだと笑う。

「オスカーはそれでいいと思います。魔力操作も術式も無駄がなく運用できていますから。リオ様はまだ魔力操作も術式も無駄が多いので出来ることを増やして選択肢を広げている最中です」

「無い選択肢を選ぶことはできないけど選択肢が多ければ必要に応じてとれる行動が増えるし、いいと思う。ミランダさんは騎士にもなれそうだけど、興味ない?」

「ありません」

「ミランダはすごいよ。剣をぴゅーんって飛ばすのよ」

「まぁ、すごそうよね」

クリスがレイカに剣術訓練の様子を伝えている。レイカもユニシアを圧倒したミランダの姿を思い出したのか頷いていた。

「レイカ。家具の配置替え、完了した。確認してくれ、ってどうした?」

奥の部屋からアランが出てきた。汗だくだ。

「あ、アラン。ありがと、別になんでもないわ。ミランダさんがすごいって話よ。じゃあ休憩は終わりにして頑張ろうかしら。」

「そうしてくれ。俺は休憩するから」

レイカは伸びをすると席を立ち、奥の部屋に入っていく。

アランはカップにお茶を淹れる。作り置きのため熱くないから汗をかいててもすぐに飲める。

「結局配置替えしたんですね。」

「まだ完成ではないらしい。今度保護されるのが男か女かわからないし、でも色々試すのはいいと思う。」

「アランも宿舎に移動する予定ですか?」

「ああ。新たな転移者を確認してからになるけど。」

「そこはレイカさんと一緒なんですね。指輪だけでは不安ですか?」

「五月蝿い」

アランはシノノメから帰ってきた後、レイカにきちんと告白したらしい。その時指輪も一緒に贈ったそう。

あまり多くを語らないアランだが、私を手本にしたと言われた時は驚きのあまり声がでなかった。

レイカも恥ずかしがって言いたがらないから私は黙っている。でも相当嬉しかったのは伝わってくる。指輪を眺めては、にやにやしてるレイカを目撃することもしばしば。

二人が幸せそうで嬉しい。

「私達もブレンダンが仕事に慣れたら、コランダムへ行かないと、ね?クリス」

「うん。緊張するね、オ、」

「ん?」

「パピィ」

「クリス?やり直し」

クリスは今、オスカーを、お父さんと呼ぶ練習中だ。

パピィ、ダディまでは言えた。大分恥ずかしいらしい。

ほっぺたが真っ赤になっている。

「おとうさん」

とても小さな声だったが、言えた。

「よくできました。」

クリスの頭を優しく撫でるオスカーの表情はもう「お父さん」のそれだった。



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