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不運な召喚の顛末  作者:
第二章
153/605

魔法省編再び4

資料の読み込み中に、ニコルが慌てた様子で資料室に入ってきた。

「リオさん!ミランダさんも!直ぐにきて下さい」

その様子に、すぐニコルについていく。

何があったのだろうか、緊張が高まる。

管理棟を出て、本館へ向かっている。

かと思ったら、本館を過ぎ、魔法省の出入り門が目的地だった。そこには、一台の馬車が停まっている。

「ニコル先輩、もしかして」

「そのもしかしてですよ」

ニコルから以前から言われていた新たな転移者を受け入れる機会がきたようだ。予想よりも大分早い。もう魔障は終わったのだろうか?連絡はなかったはずだが。

緊張で手が冷たく感じる。強く握る。

「召喚課です。」

馬車に近づき、名乗る。馬車の横にいた魔法省の職員が書類を渡す。

それを確認しながら、ニコルは私達に向き直り

「転移者疑いのある人を保護した場所は王都の北西部。冒険者が保護し、ギルドから直接魔法省へ連絡があった。名前は不明、性別男性、歳の頃は二十代、髪は黒、肌は白、身長は高く、痩せ型、混乱がみられる。リオさん達は、僕が対応するのを見ていて下さい。言葉がわかっても黙っていること。いいですね。」

手短かに転移者疑いの方の情報を伝え、釘を刺す。

「わかりました」

「行きますよ」

ニコルは馬車のドアをノックして、開ける。

そこにいたのは怯えた様子の男性だった。街の人達と似たような服を着ている。着替えたのか?以前の服はどうしたのだろうか。

『こんにちは、言葉はわかりますか?』

ニコルは日本語、英語、中国語、フランス語、イタリア語で同じ言葉を繰り返す。

『ここは、どこですか』

英語で返答があった。どこか違和感のある英語だった。

なんだろう。英語圏出身者ではない。そんな気がする。

『名前は言えますか?私はニコル。』

『レオ』

『貴方は何処に住んでいますか』

『……』

男性は答えない。

『もう一度聴きます。貴方は何処に住んでいますか』

『……わからない』

顔色が悪くなっていく。

『生年月日はいつですか』

『わからない』

わからないって記憶喪失?かと思えば

『家族は何人ですか』

『五人』

次の質問には答える。どういうこと?

『家族の名前を教えて下さい』

『トーマス、ベル、メアリー、アイク』

「『トーマスさん』は『どんな性格』をしていますか?」

言語を混ぜた。

『父は大人しい、でも頼り甲斐のある男です』

理解の及ぶ範囲だ。

「『ベルさん』はお母さん?」

『はい』

ん?今ので「はい」って頷いた。何を聞かれたかわかったってこと?

『貴方の住んでいる国は何処ですか?』

ニコルの口調が少し強くなった。

男性の顔が強張る。

『わかりません』

先程と同じ言葉を繰り返す。怯えた表情で声が震えている。

『もう一度聞きます。貴方の住んでいる国は何処ですか?』

『わからない……』

男性は両手で顔を覆うと項垂れる。

「本当に?『貴方の母国語で話して構いません』

しばらくの沈黙の後

「許してください」

レオと名乗った男性は突然頭を抱えて泣き崩れた。

『ニコル先輩、どういうことですか』

あえて日本語で尋ねる。

「『騙り、だよ。神殿か、別の組織か。』話を聞きます。移動します。君達は戻って構わない。後で説明する。」

ニコルはそのまま馬車に乗る。御者に指示をだし、本館へ馬車を向かわせた。

私とミランダは管理棟へ戻る。

「騙り、だそうです。神殿か別の組織かと言っていました。」

「魔法省の中に潜入する手段として使われるってことでしよう」

「そうかもしれません」

召喚課へ戻ると、レイカが緊張した面持ちで待っていた。

「転移者がいるの?」

「いえ。騙りだとニコル先輩が言っていました。」

「そう、だったの。」

「騙りは多いのですか?」

「まあ、一定数いるわ。王都で発見された転移者疑いの人は半々ね。」

「そんなに」

「魔法省に就職するか下働きで入るか、出入りの商人になるか。どれも交友関係とか調査されるから、身辺調査ができない転移者を騙って潜入しようとする人達は多いわ。」

以前もいたものとレイカは安堵したように話す。

ニコルが戻るまで、再び資料室に戻り資料を手にするも彼がどうなったのか気になって全然集中できなかった。

「リオ様。気分転換にこちらの資料を読んでみては?」

ミランダから召喚者に関する資料を渡された。

「これは、」

「初代様達の話が載っておりました」

「え」

『お兄ちゃん』の。

緊張しながらページを捲る。

サイス領で読んだ歴史書と内容はほぼ同じだったが、違うのはもっと個人的な感想が書かれていた。この資料を書いた人のものだろうか。

『シノノメは多分友達少ない、いやいないだろ。』とか、『サイスはあんな大鎌振り回してるけどいい奴。』とか。

ふっ、と思わず笑ってしまった。

これを書いた人は初代シノノメ侯爵のことを結構弄っている。仲が良かったのかな。

初代サイス伯爵とも面識のあることが分かるが、シノノメ侯爵程近い存在ではないといった関係。

『サイスは何を考えているのか、わからない奴だ。シノノメのことを大切にしているのはわかる。が、なんだろうか違和感が付き纏う。陛下に対しても気安いと思えば冷たい目をして監視しているような時もあり、よくわからない』

『シノノメは割と風邪をひく。意外だ』

『シノノメが結婚した。まさか、結婚できるとは思ってもみなかった。貴族令嬢となんて心配で仕方ない。本当に大丈夫だろうか。』

『サイスのところの二人目は身体が弱いらしい。とても心配だ。シノノメはお見舞いに行くといって少し周りを困惑させている。こういう時自由だった頃を羨ましく思う。』

『サイスは自身の故郷の痕跡を消しているとシノノメが心配している。だからシノノメでは残すのだと息巻いている。名前も言葉も歴史も食文化も。全部サイスのためか、私では立ち入れない領域だ。少し寂しく思う』

手記に書いてあった。

屋敷を建てた時は何も感じなかった。でも年々故郷を思い出して辛いと。

もしかして味噌も醤油も、最初はあったのかもしれない。だからクロムでは禁じたのだろう。

「リオ様は初代様の手記をご覧になったと旦那様から窺っています」

ミランダの言葉に頷く。

「うん、ただの日記だった。」

もしかして、ずっと気になっていたのだろうか?

「何故もう一度読もうと思われたのですか。一度目もただの日記だったと言っていたので気になって」

「最初は軽く中を見て、すぐ日記だって気づいて閉じました。前書き部分に日記だ、ただの感傷しかないと書かれていたからそれをそのままフレッド様に伝えて。でも、全部を確認していない。本当はその中にサイス領の役に立つ情報があったのかもしれないって思ったら確認するしかない。確認しないという行為はサイス領領主一族になる人間として駄目だと思いました。それで」

「他の人に頼んでもよかったのでは?」

ミランダの言葉に小さく笑う。

「もっと駄目ですよ。初代様に怒られるなら私が怒られるべきです。」

「旦那様がどうしてもっとおっしゃったらどうするのですか」

「日記ですもの。フレッド様がどうしても研究したいとおっしゃっても歴史に影響のあった事柄は何もないのです。歴史書と反する内容もありませんでした。フレッド様と二人でこっそり読むなら考えてみないこともないです」

多分グラッドとミレニアから反対されそうだ。

「では何故状態保存の術式まで組み込まれて」

状態保存の術式。物の劣化を抑える為の術式。

一年に一度のペースで魔力を流せば保存が続く。この術式のおかげで二百年前の書物も読める。

「状態保存は水濡れも防止してくれますし。泣きながら書いてもいいようにだと考えます。恐らく本来なら初代様が亡くなられた際に一緒に燃やされるはずだったと思います。それを遺言出来なかったか、惜しくなって残されたか、わかりませんが残ってしまった。」

「泣きながら書いても、」

「感傷的な内容が多かったですし、郷愁の念が強くでている時もありました」

「そうでしたか。」

「領主の条件についての記載もないので、私としては燃やして初代様に返して差し上げたいです。が、」

「難しいと思います」

「そうだと思いました」


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