魔法省編再び2
クリスの躓いているところがわかった。
「レイカさん、ちょっといいですか?」
所作作法の練習が終わるとレイカに声をかける。
「どうしたの」
「レイカさんも一緒に練習しましょう」
「私も?」
「はい。」
レイカの耳元で、クリスの所作が練習が終わると元に戻っているから競争相手が欲しいと告げる。
元に戻るから次の練習の時に思い出すところから始め、中々身につかない。
「わかったわ。クリス、私にも教えてちょうだい」
「レイカもやるの?いいよ!」
練習が終わっても周りの動きが丁寧だとそれに釣られるし、駄目なところは指摘しあえる。
レイカも元々所作や作法は綺麗だからより磨きがかかると思う。それに、
「挨拶を教えてもらえるかしら」
「いいよ。あのね、男の人と女の人と挨拶の仕方がちょっと違うの。」
レイカに教えるクリスを見ながら母さんのことを思い出していた。
兄貴は教えたがりだったからそのバランスを取ろうとした母さんがよく私に算数や理科のドリルを教えてと持ってきた。
その間の家事は主に兄貴が兄の使命とやらで、やたらこっちを気にしつつやってくれた。父さんが手伝おうとすると怒って断っていたのは謎だが。
教える相手がいると勉強への意欲が湧くから、レイカがクリスに教わってくれると助かる。
「リオさん。」
ジュリエットの声に振り返ると、泣きそうな顔をしたジュリエットをみつけ、ぎょっとする。
「ジュリエットさん、どうしましたか?具合でも悪いんですか?」
「どうして、リオさんばっかり」
ジュリエットは自身の拗ねた言葉に気づき慌てて謝罪する。
気まずそうに顔を背けていた。
引き継ぎの時にうっすら感じたことを聞く。
「ジュリエットさんは、もしかして歳の近いご兄弟がいらっしゃいますか?」
「え、どうしてそれを」
私の質問に驚いた声を上げる。
「なんとなくそう思っただけです。」
勉強方法の違い以外は勘だ。
「歳の近い兄弟がいると競い合って成長するので、負けたくないって気持ちが原動力になって練習に励む傾向があるそうです。でも人それぞれ環境が異なりますからクリスの場合は私に近いかなって思って」
「リオさんに近い?」
「はい。私には歳の離れた兄がいるのですが、何と言いますか子供の頃から早熟で教えたがりな兄なんです。その姿をみて母が教えられるだけでは駄目だと考えて私に教えてって言うんです。計算だったり、物の名前だったり。それを母に教えるために私は本を読んで調べたりして結果、勉強するようになりました。だから、クリスも周りは大人ばかりなのでこの方法がいいかなって。」
私の説明にジュリエットは俯く。
「……わたくしは、間違えてましたの?」
「いえ、間違ってはいませんよ。私もクリスに合うかどうかはわかりませんでした。個人差がありますから」
慌てて訂正する。
「難しいですわ」
「そうですね。難しいです。正解がないのが問題ですから」
「正解がない」
「そうらしいですよ?母が言ってました。自分の正解が相手の正解ではないって」
「そうですの。知りませんでしたわ。あ、ありがとうございます、リオさん」
「いえ。私もいつもジュリエットさんの所作の美しさをお手本にしているのでおあいこです」
「えっ、」
ジュリエットの頬が赤く染まる。私達の様子を見ていた
「またたらし込んでるの?リオさん」
ニコルに揶揄われる。
「違いますよ、ニコル先輩。」
「レイカさんの気持ちが分かりましたわ」
「え、」
「あ!べ、別にたらし込まれた訳ではありませんのよ!」
ジュリエットが顔を真っ赤にしたまま、席に戻っていく。
可愛いなぁとにやけてしまう。
ミランダから静かに指摘され、表情を戻した。
その後、クリスの所作練習の先生はジュリエットに戻った。
クリスの好きそうなクイズをしたり色々工夫するようにしてからはクリスの成長が著しい。私も指摘された。
「リオは動きが急なのよ。もっと優雅に動かないと」
「申し訳ありません。クリス先輩」
「えっへん」
春の中頃になると私とミランダが休日に行なっている剣術訓練にニコルからクリスも混ぜて欲しいと打診があった。
「構いませんが、リオ様の指導に支障をきたすようなら止めますので」
「それで構わないよ」
「?ニコル先輩が教えたらどうですか?騎士爵の出ですよね」
素朴な疑問に
「出来るなら頼みません。」
すぐさま返答がある。
「すみません」
ニコルは騎士に向かなかったから諜報部にいったそう。
「オスカー先輩の元彼さんを殺しに行ったのに」
「殺すのに剣の腕は関係ありません。結局ヒジリさんに昏倒されて未遂ですが」
「オスカー先輩と結婚するからいいじゃないですか」
「今は、ね」
ニコルはオスカーの家に入ることになった。
元々ラリマー家はオスカーの代で返上するつもりだった。が、縁談が破断になり、新たな相手に継ぐ家はない。
ならとラリマー家の存続が決まった。オスカーの次はクリスが継ぐことになる。
次の休みの日。
朝からの訓練だが、早速クリスが合流した。場所は騎士課の訓練施設の一角。
「まずは走り込みから。リオ様は、いつもと同じ量を。クリスさんは向こうの木まで行って戻ってきて下さい」
ミランダの言葉を合図に開始する。冒険者訓練と同じく服装はいつも通りだ。ニコルも驚きで固まっている。
「流石にスカートは」
「何か問題でも?」
「問題しかないでしょう」
「何かあるのが動き易い格好の時とは限りません。文句があるのならニコルは参加しなくて結構です」
二人が言い争っている間にノルマの量をこなしていく。クリスも頑張って走っている。負けてはいられない。
丈の長いスカートで走るコツも心得ている。
勿論スカートの中にも気を使う。魔力は必須の方法だけど。
「終わりました。」
「はい、では次は素振りをいつもの量で。クリスさんはこちらを使って下さい」
走り終えるとすぐに素振り。クリスをミランダが指導している。持ち方から振り方まで。
素振りを終えると、今度はミランダと木刀で打ちあう。
「リオ様、踏み込みが甘いですよ。そう、ちゃんと踏み込んで。力で勝とうとしないで下さい。どこにどれだけの力で当てるかです。」
軽々と木刀を飛ばされる。それをクリスとニコルが口を閉じるのを忘れてみている。
何度か打ち合いを繰り返し、訓練を終える。
「どこまで鍛える気なの、ミランダさん」
「どこまででもリオ様が必要とする限りです、ニコル」
「リオはすごいね。僕も頑張る」
「ありがとうございます。クリスも初めの頃は手のひらの皮が捲れて痛いので、厚手の手袋を用意するといいですよ」
私は自分の使っている手袋を見せる。クリスはそれを触り本当だあ、厚いねと感心している。
「では、私達はこれから出かけるので」
「因みに何処へ?」
「冒険者ギルドです」
「……うん。いってらっしゃい」
ニコルはクリスを連れて帰っていった。
クリスは冒険者ギルドに興味津々だったけど一緒に行きたいとは言わなかった。
寮の部屋で着替えて出かける。
今日は採取と狩猟を同時に行う予定だ。
両方いっぺんに出来て新人を脱する試験を受けてもいい実力があるとミランダは考えている。
実際は依頼数と完了数、完了数の質の良さの割合をギルド側がポイントに変換してそれが一定数に達すれば昇級試験を受けられるらしいが、
「そんなので三級に上がっても効率良く依頼をこなせないようではそれ以降の上がりが悪いので無視してください」
とギルド職員が聞いたら喧嘩になりそうな事を言っていた。
王都の壁の外で、姿を隠す魔法より効果の薄い、気配を薄くする魔法を低レベルで使う。
そのまま警戒心の緩い獣達が姿をみせるのを待ちながら採取を行う。そして姿をみせた獣を素早く捕獲する。
採取はククルポと解毒剤の原料となるイバを各五株、狩猟は兎を三羽。
私の手際を見ていたミランダから、
「ふむ。三級の試験を受けても問題ありません」
昇級試験の許可がでた。




