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不運な召喚の顛末  作者:
間章
149/605

ミゲルと千加

話数を分けていないので長いです。

性描写あり、苦手な方は飛ばしてください。

理央の知らない千加はこんな感じです。

理央が王都へと出発した日。

私はノヴァの見舞いで再び彼女の家を訪れた。

メイドに案内され部屋に入る。ノヴァはベッドの上で身体を起こしていた。

「ノヴァ、具合はどうですか?」

「もう大丈夫だと言っているのに、先輩もチカも心配性ですね」

「安静にしててください。あと、理央様は王都に向けて出発しました。」

「そうですか。お見送りしたかったなぁ」

「う、ごめんなさい」

「責めてはいませんよ。」

「理央様とミランダ先輩はびっくりしてました。ミゲルさんが関わっていたから。あと旦那様にも報告しています。」

「そう。チカもゆっくり休んで、ね?」

「はい、そうします。じゃあ。」

ノヴァの家を出ると、ミゲルが居た。びくりと肩が震える。

「おい。お前。」

「何でしょうか」

「昨日のアレは何処に行った?」

「家にいると思います」

「案内しろ」

「何でですか。嫌ですよ」

ミゲルの眼光が鋭くなるが、知ったこっちゃない。

ミゲルを無視して帰路に着く。私の後ろを無言でついてくる。どうしたものかと打開策も見つからぬまま家に着いた。

「おかえりなさいませ」

「マーリン。ユル様は?客人です」

「お部屋にいらっしゃいます。ご案内いたします」

「ミゲルさん。何も言わずについてきて下さい。何か口にした際は追い返します」

私は後ろを振り返り一言だけ告げるとユル様の部屋に向かう。ユル様のことをアレコレ言われると不味い。マーリン達には闇の神の眷属だと説明しているのだから。

ユル様の部屋は屋敷の一番奥。マーリンがドアをノックして客人来訪を知らせる。

「うむ。通せ」

部屋にはミゲルと私の二人だけが残り、マーリンは下がった。

古めかしく豪奢な椅子に座るユル様が、ミゲルに発言を促す。

「あんた達はなんだ」

「昨日の説明では納得しておらんのか?頭の固い奴め」

「神だと言うのは、理解している。が、何故異界の神がこの地にいる。それにこいつは人だろう?」

「受け流すこともせんのか?石頭め」

「危険なものをグラッド様の近くに置くわけにはいかない」

「なるほど、其方はグラッドの関係者か。あやつは理央と同じで我等のような存在を認知する能力が皆無じゃからのぉ。心配するのも道理か」

ユル様は少し考え込むと、

「ではフレッドの判断に任せよう。妾がそう言っていたと告げて確認するがよい」

説明を全部フレッド様に丸投げした。確かに付き合いのあるであろうフレッド様に託すのが正解だ。

「あー、それから。千加は少しでておれ。妾は此奴と話があるでな」

「はい。失礼します」

さっさと退室する。少し離れたところで、待つ。

しばらくするとミゲルがでてきた。彼と目が合う。

ミランダ先輩の兄って、何処が似ているのかさっぱりわからない。ここまでその人の外見を覆い尽くすオーラは理央以外では初めて出会った。

他の人はちゃんと外見を認識できるのに、警戒を解かない限り無理だろうなとぼんやり思う。

目が合ったり、睨まれたり、そういうのはなんとなく分かる。

「ミランダ先輩の、お兄さんらしいですけど全く似てないっすね」

「ふん」

警戒が増した。さっきのグラッド様と同じ理論か。

「グラッド様とミランダ先輩が大切なのはわかりました。別に警戒を解かなくていいです。ただ名前で呼んでください。あんたとかお前は苛つくので」

「わかった。で、何という?」

「千加」

「千加か、わかった」

発音が完璧だった。

「理央って言えますか?」

「理央?リオ様のことか?」

理央は敢えて自分のことをリオと発音して自己紹介する。微妙な差だけどイントネーションが違う。此方の人が発音しやすいようにしてる。

「耳がいいんですね。」

なんだか嬉しくなって笑う。

「ユルから、お前の護衛をするように依頼を受けた」

「は?」

突然告げられ、間の抜けた声が出た。護衛?なにそれ。

でもそれより

「呼び捨てって怒られませんでしたか?」

こっちのほうが気になる。

「許可をもらっている。それで、一週間の護衛依頼だ。明日から外出時は俺がつく。勝手に出歩くなよ」

ミゲルは言うだけ言ってさっさと帰っていった。

「ユル様!護衛って何ですか?!聞いてませんよ」

ユル様の部屋のドアを開け放つ。そこには、窓から出て行こうとするユル様の姿があった。

「千加よ!妾は遊びに出かけるでな!ミゲルにしっかり護衛してもらうがよい。ついでにこの機会に其方に渡している妾の力は最弱にしておく。よいな!」

遊びに出かける感じは一切なく、私からの追及が面倒だから逃げるようにしか見えない。

「はぁ、わかりました」

ため息しかでない。

以前はユル様の行動範囲はとても狭く、私が一緒じゃないと何処にもいけなかった。

神社周辺半径三キロ圏内だったが、神に位が上がってからは、私に残す力を少なくすればするほど距離が伸びる。そのため比較的遠くまで出歩けるようになった。それが楽しいんだろう。

取り敢えず、執事のマーリンには話を通しておく。

面倒な事になった。

(護衛初日)

寝起きのぼんやりした頭で、朝食を食べに階下へ向かう。

何故かミゲルがいる。我が家かってくらい、くつろいでいる。

「はやくねぇ?」

「おま、千加が遅いだけだろう。」

お前と言いかけたのを言い直した。癖なのかもしれない。

まぁいいか。

食卓につき、食事をしていると

「千加。料理人は選んだ方がいいと思うぞ」

と言われた。意味がわからない。

「何で?」

「何で、だと?腕が悪いだろう。ちゃんと味わかってるのか?」

ミゲルは美味しくないと言いたいらしい。

「別に問題ないので。」

うちはうち、よそはよそだ。

私が普通の顔で食べているのを目を見開いてみている。

そんなにあれな味かなぁ?まぁ、理央にも大味が過ぎるとは言われたことあるけど。

「毒を盛られてもわからないんじゃないか?」

散々な言われようだ。流石にそんな事はないと言いたい。

使用人の選定時にも、本人から本当に自分でいいのか再確認されたけど。これから上手くなれば問題ないし、そのままでも構わない。

食後は、仕事の準備をして、出かける。

街に出て、そこら辺を歩き回る。ユル様の影響がどれだけないのかを確認しないといけない。ミゲルの位置を確認して、少し離れてみる。

すると早速、路地裏に引き摺り込まれた。

と思ったらミゲルが不審者から私を取り返す。不審者が一瞬でボコボコにされた。すげぇ。

「おい、なんだ今のは」

ミゲルに抱きとめられ、尋ねられる。

なんだと言われてもなぁ。

「私は、ユル様がいないと生きられない、死ぬんです。そのユル様の力の影響がとても弱っているということは死に近い場所にいるってことです。どれくらい影響があるか試したんですけど、すぐでしたね」

理央には黙っていることを告げる。

ユル様が力の影響を最弱にしてミゲルに依頼をするなら教えておかなくてはいけない。

「おい。自分のことだろう。はぁ、俺から離れるな」

「わかりました。腕組みますか?」

「ああ、好きにしろ。」

「この事は理央様には内緒にして下さい。心配されるので」

「わかった」

ミゲルと腕を組み、街を散策しながら情報を集める。どれだけ収集力が下がっているかも調べないと。

街行く人々を観察してみたが通常時と変わらない。これはユル様の力の強弱は関係ないのか。

神殿に近づくとミゲルに止められた。

「今の状態で神殿は危険だと思う。依頼達成に支障がでる可能性もある。」

「わかりました。じゃあ避けます。」

神殿を避け、他の区画を歩く。

一通りウロウロして、集めた情報は日本語で書き留めておく。まだ瞬時に此方の言葉が出てこない。

「ミゲルさん、お腹空いたので何か食べに行きましょう」

「ミゲルでいい。ならいい所がある。」

腹の虫が凄まじい音を立てている。呆れた声でミゲルが食事処を案内してくれた。『準備中』の札がかかっていた。

がドアを開け、さっさと奥の席へ向かう。なんだこの常連感。

「ちょっと、」

私は奥の席、その隣にミゲルが座る。

奥からガタイのいい厳ついおじさんがでてきた。怒られると思ったが、笑顔で話しかけてきた。

「ミゲルさん、久しぶりだな。今日は何にする?」

「いつもの」

「それしか言えんのか」

「それと、おっさんのおすすめ一つ。」

「お、女の前だからいい格好して」

「うるさい」

おじさんとミゲルの仲が良さそうな会話を聞きながら、料理を待つ。

「準備中なのにごめんなさい」

準備中の札を無視するのは大体ミゲルだからなと豪快に笑う。

ミゲルの前に運ばれてきた料理は、

「照り焼きっすか?」

照り焼きチキンだ。

「ん?ああ」

「ミゲルは照り焼き好きっと。」

「何故書き留める。」

「グラッド様に教えてあげようかと」

「いらん。やめろ」

私の前に運ばれてきたのは、ナポリタンだった。

「わーい。『ナポリタン』だ。」

「ナポリタン?そういう料理なのか?」

「ナポリタン、あー最初に作った奴もそんなこと言ってたな。一応店では赤パスタで出してる。」

「ふうん。」

「美味しい」

私が食べている横からミゲルが麺を横取りする。

「美味いな。」

「おいおいミゲルさん、いくらなんでもそれはないぜ」

「酷い。」

呆れたおじさんと私の声に

「ほら。俺のもやるから黙って食え」

ミゲルが照り焼きを二切れ私の皿に移す。照り焼きも美味しいかった。

「美味しい」

美味さを噛み締めていると、ふんとミゲルに鼻で笑われた。

何故だ?

「舌が死んでいるかと思ったが、そうではないようだな」

「いちいちうるさいっす。美味しいものは美味しいでいいじゃないですか」

「彼女の言う通りだぞ。ミゲルさん」

「ちっ」

舌打ちされた。

「理不尽な人だな。」

睨まれているが、気にしない。


この日は特に何もなく帰宅。ミゲルは帰るのかと思ったら、違った。

「へ?」

「あ?」

「帰らないんですか?」

「ああ。考えを改めた。屋敷にいても危険だと思うからな。ユルが戻るまでは泊まり込む」

「そ、そうっすか。宜しくお願いします」

私の部屋に入り、窓を確認する。開けて外装を確認し、また閉める。カーテンを閉めた。紙に何かを書きつけその周りに貼り付け始めた。

ホラー展開か?お札?えー、何があるんだろう。

「取り敢えず、しばらくは時間が稼げるか」

ミゲルは呟き、踵を返し部屋を出て行く。

「え、ちょっとミゲル!」

「何かあれば魔力壁を張って耐えろ。この部屋から出るなよ」

「は?」

一方的に言い残し居なくなる。

「魔力、壁?どうすればいいんだろう。あー、何だったっけ。ミランダ先輩が想像力って言ってたな。それでなんとかするしかないのかぁ」

仕方ない。何かあっても動けるように、服は着替えずに情報の清書をする。

カタカタと風で窓が音を立てる。それにすらビクついてしまう。

うぅ、ミゲルの馬鹿ぁ。早く帰ってきてー!!

コンコンとドアがノックされる。

「はい」

「チカ様。」

マーリンの声だ。

「屋敷の周囲を怪しい人物が徘徊していると警備部から連絡がありました。」

「戸締まりを確認したら、部屋に戻って下さい。何かあっても見に行ったりしないで逃げなさい。私のことは気にしては駄目ですからね!」

「はい。チカ様もお気をつけて」

足音が遠ざかる。

「マジかぁ、やべぇこえぇ」

私は魔力があるからまだなんとかなるだろう。

でもマーリンはそうではない。私に彼を守るだけの技量がないから、そう言うしかない。

どれくらい時間が経ったのか。ミゲルが戻ってこない。お腹も空いた。部屋から出るなと言われているし、出たら駄目なヤツだ。

『俺が見てくる』とか言って最初の犠牲者になるパターンだ。映画やドラマでみる、あるあるのアレだ。

コンコンとまたノックされた。

「はい」

何かあったのだろうか?

マーリンの言葉を待つが何も返ってこない。

不審者がドアの向こうにいる?いやいや、まさか。でも。

私は急いで部屋の奥、壁に背をつけて魔法を使う。自分を守る壁をイメージする。かまくらみたいな、ドーム型のシェルターみたいなものを想像した。

ドアがギィィィとゆっくり開く。

背の高い、知らない男が立っていた。

私は息を呑む。

気持ち悪いオーラをしていた、濁ったオーラだ。

男は私を見るとニヤリと笑った。

部屋に入ってきた男の手には大きな刃物が握られている。それを私に向けながら近づいてくる。

男が部屋の中央、窓の前を横切ると、急に魔法が発動して無数の弾丸のようなものが男目掛けて飛んでいった。

「ちっ」

男はそれを魔法の壁で防ぐ。

魔力を持っていることがわかった。

ミゲルが仕掛けた罠を凌ぎ切った男はまた私に近づき手を伸ばす。恐怖で体が震えて、声もでない。

壁に阻まれ、男の手は私には届かなかった。

男は壁に刃物を突き立てる。が、すぐに壊れてしまった。

それからは無言で殴り続ける。魔力で殴られているのか、消費が激しい。

近くに寄られると気持ち悪いオーラがより濃く感じて吐き気がしてきた。執着心、思い込み、色々な感情が気持ち悪い。

「おい」

男の声がする。頭を抱えて蹲る。怖い。

「見つけたぜ。」

急に笑い出して壁を激しく叩く。魔法に慣れていないからか、魔力が切れるのが早い。もう、もちそうにない。

男が何度目かの拳を振り下ろした時、私の魔力が尽きた。

壁が壊れた。

男の手が私の腕を掴む。力強く握られ、引っ張られる。床に転がされた。

「痛っ」

男は私の上に馬乗りになって、シャツに手をかけた。思いっきり引きちぎられ、肌が露わになる。首を絞められながら下着も剥がされ、胸を揉まれた。

苦しい、痛い、怖い!!

身体が動かない。息も出来ない、苦しい。

息を吸おうと喘ぐと、男が首をより強く絞めた。

「ぐっ」

もう、駄目だ。

男が、ベルトを外すのを意識が朦朧とする中見ているしか出来なかった。

「千加!!」

声と同時に、首を絞めていた手が外れ、乗っていた男が吹き飛んだ。

一気に空気を吸い込み、激しくむせる。

「遅くなってすまない」

ミゲルに支えられ、体を起こす。

「み、げる?」

あれ?オーラが面白い。怒ってる?やっぱりオーラが顔も体も覆ってる。変わってる人だなと場違いな事を考えた。

「これを羽織ってろ。」

マントを渡された。それを羽織り、胸を隠す。

ミゲルは、私にも何か魔法をかけて、自身が吹き飛ばした男に近寄り髪を鷲掴み引き摺る。窓を開けて軽々と男を持ち上げると外に投げた。

外に誰かいるのか、何か怒鳴っている。

なんでだろう、上手く聞こえない。耳鳴りがする。頭が痛い。目の前がぼやける。

「千加。しっかりしろ」

ミゲルに抱きかかえられる。ベッドに寝かされたところまでは覚えている。そこからぷつりと意識が途絶えた。


怖い、黒い大きな人影が覆いかぶさってくる。

苦しい、首を力一杯絞められる。

痛い、引き摺られて強引に身体を触られる。

怖い、助けて、ミゲル

ミゲル!

そこで目が覚めた。

「千加」

ミゲルに抱き締められている。あったかい。安心する。

「うぅ」

「すまなかった」

「ミゲル」

「なんだ」

「何でこの体勢」

「?嫌ならどくが」

「だ、だめっす。そのままでいいっす」

ミゲルの服を掴む。

オーラが、昨日とは全然違う。優しい、オーラだ。落ち着く。こういうオーラの時はミランダ先輩と似てる。

「何で遅かったんですか。こ、怖かった、っす」

あやすように頭を撫でられる。

「泊まり込むつもりだったからな、宿に置きっぱなしの荷物を回収して戻ったら不審者騒動があって南門の中に入るのに時間がかかった。」

なんでも商人の荷馬車の下にしがみつき侵入したようだ。

南門の中で警備部に不審者通報があり捜索していたため中に入れなかった。冒険者として捜査に協力すると申し出て入ることができたという。

「悪かった」

「ミゲル」

「ん?なんだ?」

「怖かったっす」

「そうか。もう大丈夫だ。俺が守るからな、安心しろ」

「うん」

また目を閉じる。もう怖い夢はみなかった。


(護衛二日目)

刑務部の女性文官が話を聞きにきた。

小さな石?パワーストーン?のようなものを渡され、それを握りながら話すようにと告げられる。

「何ですか、これ」

「被害に遭われた方の動揺を少なくする魔道具です」

「へぇ」

「それでは調書を取らせて下さい」

被害に遭った時の状況、男の言動、どのようなことをされたのか、次々に質問に答えていく。

特に質問を繰り返されることもなく短時間で終了した。

「ご協力感謝致します」

「あの。」

「はい、何でしょうか」

「あの不審者の人は何が目的だったんですか?」

「まだ調査中です」

「そっか。解放されるんですか?」

「いえ。現行犯のためすぐに類似犯罪者の監獄へ送られます」

「類似、犯罪者?」

「はい。似たような犯罪を犯した者同士を一つの監獄へ収監しています。絶海の孤島に点在する監獄の一つです」

周囲は海獣系魔獣がうようよしていますし、魔力も使用不可にするので、脱獄はほぼ不可能でしょうと素敵な笑顔で教えてくれた。

女性文官が帰ると、私は昨日の報告をするために支度を始める。清書した紙の枚数を確認して、文箱に収める。

首を絞められた跡が残っている。スカーフを巻いて誤魔化す。

「何処にいく」

「報告っすよ。理央様がいなくても私は情報官ですから。ミレニア様に日々集めた情報は渡すよう理央様から指示されてますし」

「フレッド様から聞いた。」

「じゃあ私と理央のことも?」

「ああ」

ミゲルが警戒心を解くことはない。それが少し寂しかった。

昨日の夜のオーラは夢をみていたのかもしれない。

「危険じゃないとわかってもらえるよう頑張りますよ」

心の声が思わずこぼれた。それに返答はなかった。

愛用のショルダーバッグに文箱をいれ、出掛ける。

「歩くのか?」

「歩きますよ、馬車を所持していないので」

「まぁ、一般貴族はそれでいいか」

領主屋敷で働く通いの人達は馬車で相乗りしたり、馬に単騎乗りして出勤したり、歩いたりする。独身使用人は屋敷に住み込みの場合がほとんどだけど、貴族の方々は違うらしい。

一部は家に居場所がなくて使用人用の家を借りて領主屋敷周辺で暮らしている方もいるとか。

領主屋敷に到着する。

「お疲れ様です。ミレニア様に報告書をお持ちしました。」

正面玄関ではなく少し離れた場所にあるドアから出入りをする。

「案内致します」

シナモン色の髪の侍女の案内でミレニア様のいる執務室へ向かう。その後にも予定があるので執務室案内だけで侍女には戻ってもらった。

執務室で、ミレニア様に昨日集めた情報を渡し、昨夜の事件の報告をする。

心配するミレニア様に

「怪我などもなく大丈夫です。ミゲルが護衛しているので」

というと余計心配された。

あれ?なんで?あ、攻撃された相手だからか?

執務室を後にして、今度は他の専属から話を聞くべく移動する。イザベラ、ニーナから話を聞いてメモをとる。

ノヴァは侍従長の所だったなと向かうと、その途中で侍従長に遭う。ノヴァも一緒だった。

「お疲れ様です。侍従長、ノヴァ、少しお話し宜しいでしょうか」

「チカさんにミゲル。旦那様から話は聞いておりましたが、実際目にすると違和感のある組み合わせですね」

そうだろうなぁ、殺されかけた人間と殺そうとしていた人間が一緒にいるんだから。

それにしてもノヴァの眉間の皺はなんとかならないのかな。

ミゲルが傷ついてるよ。傷ついている、……そっかミゲルは、ノヴァが好きなのか。

「ノヴァ。これから定期的に仕事の進捗などを聞き取りにきます。それをまとめて理央様に報告するので、協力お願いしますね」

ノヴァが頷く。侍従長に向き直り、

「ギルドカードのようなもので経費と報酬金を管理していると聞いています。それを受け取りにきました」

伝える。

「チカさん、これです。今朝納入がありました。ご確認下さい」

侍従長はスーツの内ポケットからカードを一枚出し手渡す。

「手続きの方法は、」

「ミランダ先輩から教わってます。」

「申告漏れなどがないよう。経理部を困らせないようにお願いします」

「はい。お金に関しては、きっちりしないと駄目だと言われて育ちましたのでそこは任せてください」

「頼もしいですね、ではここで失礼します」

「はい。お時間いただきありがとうございます」

二人を見送り、私達は服飾係の部屋に向かう。

ドアをノックする。出てきた女性がミゲルをみて固まる。

「あ、あのぉ。ソフィアはいますか?」

衝撃、困惑、リリ……ってなんだ?

「あ、はい。少々お待ちください」

「ミゲル、何したんですか?」

「ミランダに似てるから驚いたんじゃないか?」

「そんなに驚くほどかな。似てないし」

「ふん」

ドアが開き、ソフィアがでてきた。やっぱりソフィアも固まる。若干泣きそうになっている。

「ソフィア?こちらはミゲルです。諸事情ありまして私の護衛をしています。」

「そう、でしたか。失礼しました」

仕事の進捗を確認しに定期的にくることと、何か情報があれば教えてほしいと伝える。

「実は下着のデザイン画が完成しそうなのです。あと少ししたら良い話ができそうです」

「おぉ、すごいです。ソフィア。ではまた来ます」

手を振り別れ、屋敷内を少し歩きまわる。

「よし、帰るか」

異常なし。

「お疲れ様でした。」

と領主屋敷を後にする。

今日は大人しく部屋で仕事の続きをして就寝。

「ミゲル」

「なんだ?」

「これは必要」

「必要だと思うが、離れて寝てみるか?」

ミゲルに抱きしめられて寝るか一人で寝るか、ミゲルは抱きしめられて寝るのが必要だと思っている。怖い夢は見たくない。

「わかった。このままでいい」

「ほらさっさと寝ろ」

ミゲルの匂いがする。自分の匂いと混ざっているなんて不思議な気分だ。


(護衛三日目)

少し変な感じがする。胸の辺りが苦しい。

「ミゲル、あのさ。この辺りが苦しいんだけど。医者って何処にいけばいるかな」

ミゲルに尋ねると、眉間に皺を寄せた。

「街にもいるが、…少し触れるぞ」

「え、あ、うん」

ミゲルは私の首にそっと触れた。それから鎖骨、心臓の上と手を動かす。

「気分はどうだ?」

「?大丈夫」

「これは、怖いか?」

首を片手で軽く掴まれる。肩が揺れる。心臓がバクバクし始めた。呼吸も浅くなる。

「アイツにされたことが体に恐怖として残っているんだ。大人しく休んだ方がいい。」

トラウマになっているようだ。でも、

「昨日は何ともなかったですよ?」

と疑問が浮かぶ。

「興奮してたからだろう。反応が出るということは心に怪我をしている証拠だ。」

「怪我ですか。」

「ああ。何度でも繰り返すからな、さっさと吐き出したほうがいい」

ミゲルは私を抱きしめ、一緒にベッドに入る。背中を優しくさすり始めた。

「なんすか、これ」

「千加は泣かないからな。強いとも言えるが怪我は治りにくい。気持ちを言葉にできるか?」

怖かった時のことを話せと促される。事情聴取の時のように淡々と話すが、もう一度とやり直しさせられる。

何度か繰り返す内に、ミゲルが私の言葉にあわせて首や腕を触るようになった。

触られると恐怖が湧きあがる。声が震える。

「怖い、こわ、怖かったよぉ」

「よくできたな。偉いな。」

ミゲルが強く抱きしめる。頭を撫でられ、泣きながら眠った。昼過ぎまで寝ていた。

「具合はどうだ?」

「だ、大丈夫です。」

「ならいい」

警戒心は強めなのに、ふと笑う時だけ優しいオーラになる。

なんだか照れる。

昼ご飯を食べて部屋でゆっくり過ごす。

「暇じゃないですか?」

「護衛中だからな、別に暇じゃねぇよ」

「凄いっすね。私はちょい暇です」

「じゃあ、寝てろ」

「『うどん』作ろうかな」

「うどん?何をするつもりだ?」

ミゲルの目つきが鋭くなる。

小麦粉と水でこねこねして作る麺料理だと伝えるが、却下された。大人しく休めとベッドに追い立てられる。眠くないのに、何すればいいのか。

ベッドでゴロゴロしていたら、朝とは違う変化が襲ってきた。

何、これ。え?は、発情してる?なんで、急に?

身体が変だ。お腹の奥がきゅうきゅうして、むずむずする。息が荒くなる。こんなの駄目だよ!

目を瞑り、意識は別のことを考えて冷静にならないと。うどんの作り方を歌おう、そうしたら、ん!!

急に強い刺激が走った。声を出さないように堪える。

丸まってやり過ごす。

「千加?どうした。具合が悪いのか?」

ミゲルが私の肩に触れた。

「な、なん、でもない。しば、らくひ、とりに、して」

変な声を出さないように慎重に喋る。

「何があった」

「な、なにも、ない」

「千加」

ミゲルは納得してない。ど、どうしたらいいんだろう。

意を決して打ち明ける。

「からだ、へん。急に、発情し、て」

「やり方は分かるか?」

「ミランダ、先輩から、教えて、もらったから」

「なら、俺は部屋の外にいるから。」

「う、ん、!!、ん、」

ミゲルが部屋を出た。

服を脱いで、下着姿になり私は自分で慰めはじめる。

胸を揉んで下腹部に手を伸ばし、少し湿った所に触れる。優しく、丁寧に触れて刺激をする。指で慰めるけど足りない、胸を揉んで乳首を弄ってみるも、足りなくて全然熱情はおさまらない。下着も脱いで色々してみるものの駄目だった。

どうしたらいいのかわからなくて途方に暮れる。

ますます身体が疼いて、涙がでてくる。こんなん初めてでどうしたらいいのかわからない。

「助けて」

ミゲルが出て行ったドアを見る。

だ、駄目だ。こんなことまでミゲルに頼れるわけないだろう。馬鹿か、私は。

「うっ、うぅぅ、ずっ」

鼻を啜る。

「千加。」

「う、うぅ」

「入るぞ」

「だ、だめ、っん」

私の静止を聞かず、ミゲルが部屋に入ってきた。裸を見られた。

「何で泣いている」

「お、さまらないっ、こんなの、わかんない」

ミゲルは私の頭を抱きしめ、耳元でゆっくり話す。

「恐らく千加のせいじゃない。ユルがそういうことをしたがっていた」

「こ、ころあ、たりが、ありす、ぎます、ん!」

確かに以前からユル様は女性の性生活に興味津々だった。

でも急になんで?

「眷属の中にはしてくれる奴もいるだろうと言ったから」

「ミゲル、の、せい、じゃ、ないっす、かぁ、はぁはぁ」

「ああ。責任はとる」

「へ?」

ミゲルは私の頭を解放したかと思えば、深く口づけた。

「んんん!」

頭の奥で光が点滅するような感覚がした。

何度も口づける。胸を揉まれ、全身を愛撫される。

「ん!」

自分で慰めるのとは、全然違った。奥に指が挿入される。太さも形も全然違う。

「ミゲル、ん、」

「痛かったら、水属性魔法を使え、痛くなくなる」

「う、ん」

何度も中を擦られる。もっとして欲しくなって、ミゲルに縋るように手を伸ばした。すると指を抜かれた。

「み、ミゲルっ、ぅん、はぁぁ、っあ」

ミゲルはシャツを脱ぎ、ベルトを引き抜く。

衣服を脱ぐ姿をぼんやりと、思考のまとまらない頭で見ている。でも、やっぱり、警戒心は強いままだ。

「ミゲル、ごめ、ん」

ノヴァが好きなのに、私を抱くなんてことさせてごめん。

「謝るな。挿れるぞ」

深く口づけを交わす。舌が絡みあい、もっと、と求め合う。

そして、ミゲルのが私の中に挿入された。

「ん!!」

痛みが走る。急いで、痛くなくなるように魔法を使う。

「あっ、あっぅ、くぅぅん」

痛みは消えたけど、中に入っているのが分かる。

大きく熱い質量にこれだと、これを求めていたのだと身体が震える。

ミゲルが動く。

挿れて抜かれる度身体を快感が走り、我慢出来ずに声が漏れる。

「ミゲル、あっん、もっと、あん!!」

夢中でミゲルにしがみつく。奥を突かれ何度絶頂を迎えてもおさまらない劣情の中泣きながら、快感と罪悪感でぐちゃぐちゃになって身体を重ね続けた。

「ご、めん、な、さい」

こんなのの相手をさせてごめん。

「巻き込んで、ごめん、」

数え切れないほどイッて、やっと意識が途切れた。


ミゲル、ごめん。

あ、誰かが、泣いてる?ミゲル?ごめん私のせいだ。


「んっ」

目が覚めた。ミゲルの腕の中だった。

そうだ、ミゲルに抱かれたんだった。そう認識すると、急に涙が出てきた。罪悪感でいっぱいになる。

「千加」

「うぅ」

「まだ辛いか?」

「ち、がう。ごめん。ミゲル、ごめんなさい」

「謝るなと」

「巻き込んで、傷つけてごめん。もういいから、護衛もしないでいいから」

「千加。落ち着け。護衛はやめない。今の状態で放置したら一日ももたないだろう。死にたいのか」

ミゲルに叱られる。でも、どう償えばいいのかわからない。

泣き止まない私にミゲルは呆れたようにため息をつく。

「ユルに安易な提案をしたのは俺だ。これは俺の責任だ。お前が気にすることじゃない。」

「……」

「身体は大丈夫か。初めてだったろ。責任はとる。何か望みはあるか?結婚するか?」

ミゲルの言葉に益々涙が出てくる。

「馬鹿じゃないの。結婚とかしないし、別に責任とか、必要ないし」

「千加」

抱きしめられ、子供のようにあやされる。

自分の感情がわからない。まとまらない。バラバラでぐちゃぐちゃになったまま、戻らない。

ミゲルのオーラは変わらないことに気づいて、傷つく。

傷ついた自分に動揺する。

なんだよ、これ。私、ミゲルが、好きなのか?

馬鹿なの、か?ミゲルは。ノヴァが好きなのに。そう考えたら心が痛い。

きゅっと心臓が締めつけられたように痛い。

目をきつく瞑る。

ごめんなさい。ごめんなさい。

心の中で何度も謝る。なかったことにしたい。自分の気持ちなんて気づきたくなかった。

謝るなと言われているのに、謝罪の言葉しかでてこない。

何も言えなくなって無言で泣き続ける。

嫌がられたくない、面倒だと思われたくないのに涙が止まらない。こんなに涙って出るんだと、驚くほどに。

「千加は泣かない奴かと思ったが、ちゃんと泣けるみたいで安心した」

ふっとミゲルが笑った。その瞬間、オーラが変わった。

今まで警戒心の塊だったのに、それが消えた。

初めてちゃんと顔を見た。涙が止まった。

「千加?どうした、顔が赤い」

心臓が五月蝿い。身体が熱い。

「なんでもない」

「嘘だろう?何を隠してる」

首筋に鼻をあて、匂いを嗅がれる。くすぐったい。

「なんでもなくないけどなんでもない」

「?なんだそれ」

笑うミゲルを凝視する。なんで、好きなんだろう。

確かに顔はミランダ先輩と同じだ。でも、やっぱり全然似てない。

口は悪いし、殺されかけたし、でも助けてくれた。

警戒心が強くて、失礼な人。私じゃない人を好きな人。

なんで好きになったんだろう。駄目だろう。

もっと見ていたい。このままでいたい。

「ミゲルはノヴァが好きなのにごめんなさい」

一気にミゲルの雰囲気が変わった。また元に戻る。

これでいい。これで、いいはずなのに、胸が痛い。

「ひひひ、駄目っすよ。気を抜きすぎです。」

笑う。

「風呂入ってきます」

とベッドから下りる。膝が笑ってる。

ゆっくり歩いて部屋についている風呂場に入る。

ドアを閉めてその場で蹲って泣いた。


お風呂から上がると、ミゲルは居なかった。胸がまた痛くなる。

自業自得なのに傷つくなんて馬鹿だな。

一人でベッドに入る。

久しぶりだな、一人で寝るの。

また涙が出て、そのまま眠った。


真っ暗な空間で一人立ち尽くしている。

一人の男の子が現れた。

このあと言われるだろう言葉を知ってる。

『気持ち悪』

全身で拒否される。知ってる。

『近寄んな』

そんな怖がらなくてもいいと思う。悲しかった。

『化け物』

「知ってる。ごめん」

泣きながら目が覚めた。胃が痛い。気持ちが悪い。

久しぶりに見た。乾いた笑いがでてきた。

「ははは、」

知ってる。自分がいかに気持ち悪くて、化け物なのか。

初めて面と向かって拒絶された。好きな子だった。

小学生の頃、困っている彼を助けたかった。彼が探している物を先に渡して気がきく子と思われたかった。でもやり過ぎた。その加減がわからなかった。

それからはもう駄目だった。

(護衛四日目)

「頭痛い。」

階下に降りて、用意された食事を摂る。

「チカ様。ミゲル様からこちらを預かっています」

マーリンから一枚の紙を渡された。

術式が書かれている。私では読めない。無力感でいっぱいになる。

「マーリン、灯りって今ついてますか?」

「?はい。どうかされましたか」

「なんでもありません。部屋に戻ります」

ああ、駄目だ。なんでこんなに弱いんだろう。

「なんだ、ユル様関係なかったんだ」

部屋に戻りながら、ひとりごちる。

私の世界に色彩はなく、ずっと白黒のモノトーンだった。

ユル様の影響で次第に世界から色が無くなっているんだと思っていた。食べ物の味がしないのはそのためだと思っていた。

理央と出会って色が味が戻ってきた。

だから理央が特別で大切で理央にしか興味がなくて。

理央がいない世界は急速に色褪せて、だからこの世界にきた。

「なんだ、私が弱かったから。私のせいだったんだ。知らなかった」

手が震える。可笑しくもないのに笑いが零れる。ずっと自分で自分の首を絞めてた。なんて滑稽な。

知らなかった。私は強いんだと思ってた。

「嫌な奴だ。ユル様がいなければ生きていけないのに、強がって、何もできないのに。なんでもできるように偽って」

部屋に篭り、ミランダ先輩から貰った教科書を開く。

クラリスが使っていた教科書。

術式の読み方を調べながらミゲルの書いた術式を読む。

「護衛、やめないって言ってたけど。家の周りにいるのかな。部屋からでなければ、会わずに済むかな。」

ユル様が戻ってくるまで後半分もある。

ドアをノックする音に我に返る。

「チカ様。神殿の方がいらしております」

神殿。初日にミゲルが避けた方がいいと言っていた。

「具合が悪いので、お引き取り願って」

「かしこまりました」

神殿の人が何の用だろう。狂信のことを調べたいのか?

考えるのが億劫になる。思考放棄の為だけに教科書に視線を戻す。

ミゲルの書いた術式は防御の術式だった。

基本の魔力壁に追加で強化してあるようだ。術式一枚、理解するのにこんなに時間がかかる。

「ちゃんとしなきゃ。理央の側にも立てなくなる。」

ユル様が今回の事に味を占めて、力の分配を極端にして出かけることが増えたら、自分で自分を守らないといけなくなる。

ミゲルには頼めない。感覚が流れてきたことはユル様に止めてもらえればなんとかなるだろうか。

「頭が痛い。」

教科書を閉じて、ベッドに入る。寝るのが怖い。

でも目を瞑る。

案の定、悪夢だった。

(護衛五日目)

「チカ?大丈夫?」

あれ?夢?ノヴァの声がする。

「ノヴァ?」

掠れた声がでた。

黄緑がかった金髪が視界にはいる。額に手を当てられた。

「水飲みますか?」

体を起こして、ノヴァからコップを受け取る。水を飲む。

まだ駄目だ。味がしない。

「ありがとうございます、ノヴァ」

でも何でノヴァがいるのだろう。

「ミゲルが護衛だと言っていたから上手くやれてるか、心配で」

「大丈夫ですよ」

「でも、目の下にくまが」

「ミゲルの護衛は関係ないです、これは。私の問題で」

「そう。上手くやれているなら良かった。」

「ノヴァは」

ミゲルのことどう思ってるんですか。と聞きかけた。

寸前で言葉を飲み込む。何と言わせたかったのか。

自分の思考に嫌気がさす。

「チカ?」

「なんでもないです。ノヴァは副料理長と上手くいってますか」

「え?!あ、あの、うん」

二人の相性はいいと思う。オーラの色もそうだけど、考え方の中心が同じだと感じたから。

ノヴァは同僚で命の恩人でもある。理央を大切に思ってくれてる一人だ。幸せになれるのは、副料理長とだと思う。

気持ち悪いことを考えている。

ミゲルがノヴァと付き合う可能性がない訳ではない。ノヴァを悲しませる状況を生んで、そこにミゲルがつけ込めればいい。長続きするかどうかは別としてミゲルの想いを叶えることはできると思う。

こんなこと考えたことなかった。気持ち悪い。苦しい。

「チカ?」

「すいません、寝ます」

「あ、ごめんなさい。帰ります」

ノヴァが部屋を出て行った。

目を閉じてまた悪夢の中に身を投じる。

数え切れない悪夢と覚醒を繰り返しても時間が過ぎるのが遅い。幾ら寝ても足りなくて、一日の大半をベッドの上で過ごす。

(護衛六日目)

あれからミゲルとは会ってない。

「会いたいのか?会っても苦しいだけだと思うのに」

やっと警戒心が解けたのに、それを自分の手で壊した。

会いたいなんて馬鹿だと思う。それなら壊さなければいいのに。矛盾だらけで整合性がなくて馬鹿らしい。

自嘲する。

「ははは、、ま、また?ユル、様の、馬鹿」

急に身体が熱くなる。ユル様は性行為をお気に召したようだ。まさか、またすぐに体験することになるとは思わなかった。

自慰行為じゃ足りなくて、一人で必死に耐える。快感がひっきりなしに襲ってくる。身体の奥がひくついて、もうどうしたらいいのかわからない。頭がおかしくなりそうだ。

助けて

ミゲルの名前を呼びかけた。理性で必死に抑え込む。身体が誰でもいいから奥を突いて欲しいと訴えている。

ふとある存在を思い出した。

以前ミランダ先輩からもらった性教育で使った術式札、引き出しにしまったままになっていた。

あれなら。力が入らない足に喝をいれ、ベッドを下りる。

引き出しから術式札を取り出した。操作方法を思い出しながら、魔力を流し男性器だけの状態にする。

「自慰行為にも使えるんじゃないですか?ってその通りになってるし、」

あの日ミランダ先輩に質問したのと同じ用途で使うことになるなんて思ってもみなかった。

挿れて、動かす。指よりはマシくらいの差しかない。

した事がなくて下手なのか?性感帯に当たるように色々長さや太さを変えてみる。試行錯誤してさっきよりは大分マシになってきた。それでもミゲルに抱かれた時以上の刺激は得られなかった。

「早く終わって」

懇願する。絶頂をむかえられるほど強くはない快感がずっと続く状況に頭が狂いそうだ。

強い刺激で失神できたらどんなにいいか。永遠に続く地獄にいるようだった。

そんな時にまたドアがノックされる。

「一人にして」

無言でドアが開く。そこにいたのは、白い服をきた男性だった。神殿の人だ。なんで、

「おや、お楽しみ中でしたか、ふふふやはり狂信の神子様は淫乱でいらっしゃる」

「なんで」

「闇属性のレベルが3あれば隠れて見つかることはありません。安心して下さい、神子様。家人には手を出してませんから」

男が部屋に入ってきた。

「私が癒して差し上げます。ウパラでも神子様の相手をしておりましたから、お任せ下さい」

初めて見る。とても気持ち悪いオーラをしている。

初日の男よりも濁っていてもっと陰湿、粘度も高い。

屋敷用術式の施工前だから、弾かれずに侵入できたのか。ユル様にあと一週間後に遊びに行けと言えばよかったと後悔する。

「私に手を出して、ただで済むと思っているのですか?」

「おや、その状態で口にします?懇願してねだるようになりますよ。早く貫いて下さいってね」

「ならねぇから。」

男の頭を鷲掴む。ミゲルだ。

「住居不法侵入だが、警備部に突き出そうか?」

「ぐっ、離しなさい」

「五月蝿い。」

力を込める。ぎゃあと男が叫ぶ。

「ミゲル、離して構いません。後日神殿長に苦情をいれますから」

お腹に力を入れて声が震えないように集中する。私の声にミゲルが男を解放する。男は慌てて出て行った。

ミゲルは男を追わず、部屋に入り扉を閉める。

「千加」

「何ですか、今、忙しいんですよ」

「お前下手だな」

「五月蝿い、です」

ミゲルは私の側に寄ると、私の手から術式札を取り上げた。

ベッドに腰掛け、

「こうやるんだよ」

ミゲルが代わって動かす。自分でやるより強い刺激が走る。

「ん!」

すぐにイケた。こんなに違うのかと軽く絶望する。

「千加、どうして欲しい」

抱いて欲しい。

「部屋から出てって」

助けて欲しい。ミゲルが欲しい。

「わかった」

ミゲルは立ち上がるとおもむろに服を脱ぎ始めた。

「なにして」

「抱くに決まってるだろ」

全裸でベッドに上がったミゲルは、術式札を解除した。

そして私を抱いた。

濡れた陰部をミゲルが穿つ。何度も何度も奥を深く突かれて訳もわからないまま喘ぐ。身体が快感で震える。

ミゲルに触られたところが全部気持ちいい。自分では胸に触れても気持ち良く感じなかったのに、揉まれるだけで奥が締まる。

「ミゲル、だ、だめ」

駄目じゃない。もっと欲しい。

「本当に?」

「ほ、本当」

「わかった。これを鎮めたら、触れないから我慢しろ」

嫌だ、もっと欲しい。もっと触れて欲しい。

本音が五月蝿い。

「あっん、あっっんぁ、あ、あ!!」

喘ぎ声が我慢出来ずに漏れる。

顔を両手で隠す。すると、腕を掴まれ、顔を覗かれる。

「隠すな」

「うっ、やぁ、ん」

「すぐ楽にしてやる」

「ん、み、ミゲル、あん!ぁん!ん!」

こみ上げてくる喘ぎ声を押し殺し、ミゲルに見られている羞恥に耐える。頭の奥がチカチカする。

奥を突かれる度に色が戻ってくる、なんて現金な奴なんだろうか。愚かすぎるにも程がある。

何度も何度も繰り返し絶頂を迎えて意識を手放した。

(護衛最終日)

夢は見なかった。

目覚めたら一人だった。ミゲルはもう触れない。

せっかく色が戻ったのに、褪せてしまった。

理央に知られたら怒られる、言えないよなぁ。

色々面倒になってワンピースを着て、部屋をでる。

一階からマーリンの声がする。

どうしたのか。

「マーリン。どうかしましたか」

声のした方へ向かうと、そこにはマーリンと見知らぬ女性が口論していた。

「チカ様」

「あんたが、」

「マーリン。この方は?」

マーリンは言い辛そうにしている。男、夜、警備。

「警備部に引き渡した方の関係者ですか?」

「ええ」

「何の用ですか?」

「アンタがあの人をたぶらかしたんでしょ!!」

激しい感情は読みたくなくても刺さることがある。

「見覚えのない方です。人違いでは?」

「あの人はあんなことするような人じゃないわ!」

「どんな方かも存じません。お引き取り下さい」

「アンタが!」

「変質者と付き合っていたという現実を受け入れたくなくて私のせいにするのは勝手ですが、警備部か刑務部のほうへ行かれたほうがよろしいかと」

マーリン追い帰して下さい。と続けると女はいきなり手にしていた何かを投げつけた。

頭に当たった。

「痛っ」

石だった。額が切れて血が出る。服が汚れた。

「チカ様!!」

「大丈夫です。額は血管が多い分出血も多いですが大したことはありません。」

傷口を抑える。

「刑務部であの人の擁護する弁論をしたらいいじゃないですか。それよりも安易な私のところにきて、鬱憤を晴らすなんて別にあの人のことはどうでもいいんでしょう?自分のプライドを傷つけられたから怒ってるだけ。」

女を静かに見つめて、淡々と告げる。

次第に顔色が悪くなる彼女に、追い討ちをかける。

「あの人が問題を起こして、新しい彼氏に振られたからって私のところにくるのはお門違いってもんですよ」

「な、なんで、」

「さあ、なんででしょう」

「ば、化け物!!」

「知っていますよ、そんなこと」

笑って一歩彼女に向かって踏み出す。すると、

「ひっ!」

女は慌てて踵を返し逃げていった。

「チカ様。怪我の手当てを」

「うん。お願いします。」

マーリンに手当てをされ、その後は食事をする。やっぱり味はない。服の汚れは水属性魔法で綺麗にする。

「ミゲルは」

「ミゲル様でしたら、三日程前から屋敷用術式を屋敷に施しています。今も外にいらっしゃいます」

「なんで」

「未施工と知るとすぐに術式を書いて、急ぐ必要があるとご自身で、チカ様?」

私は家の外に出る。ミゲルの姿を探した。屋敷の裏手で作業をしているミゲルを見つけた。

「千加?家からでるな」

「なんで、こんなことしてるんですか」

「危険だからな」

「危険でも」

「神殿のアイツみたいな犯罪者は何処にでもいる。高レベルの闇属性魔法をろくでもないことに使う馬鹿がな。ああいうのを弾くための術式だ。まぁ、間に合わなくて侵入を許してしまったが」

「ミゲルの仕事じゃない、です」

「ふん」

ミゲルは作業の手を止めると、私に近づく。額の怪我に気づくと

「どうした」

「石が当たっただけです」

私に触れようとして、途中で手を止めた。

律儀だな。触れないって言った言葉を守るなんて。

「もう依頼期間も終わりです。」

「まだ残っている」

「屋敷用術式の費用も上乗せします。ユル様に請求して下さい」

「千加」

「失礼します」

ミゲルに背を向ける。表に戻るとこちらをみている少年と目が合った。勇気、負け、一人。

「肝試しか何かですか?古い屋敷だけど、何もでないよ?」

「本当?」

「うん。試しに入ってみる?」

「いいの?」

「構わないよ」

少年を連れて家に入るとマーリンに怒られた。無闇矢鱈と人を連れてくるなだそうだ。

「チカ様」

「ごめんなさい」

少年にも心配そうな目で見られる。

「マーリン。お客様です。お茶を」

「かしこまりました」

取り敢えず少年をお茶に誘う。

「君、名前は?」

「僕はギルバート・ソー」

「私はチカ宜しく」

お茶を飲みつつお喋りをする。

「チカはサイス領の貴族なの?」

「ん?どうして?ここに家をもてるのはサイス領の貴族だけじゃないの?」

「そうだけど、見たことないもん。空き屋敷は悪い事して貴族じゃなくなった人とか一族が絶えてしまった貴族の物を領主様が所有してるの。それを新しく貴族になった人や別邸を所有したい貴族に売るんだって、勉強したよ!」

「おー。新しくサイス領の貴族になりました。宜しくお願いします。先輩」

「そうなの?!どこからきたの?」

「遠い遠い所です」

「凄いねぇ。チカは小さいのに凄いね」

「??この国では十五で成人って聞いたけど、違うんですか?私成人してますよ?」

「へ?!チカ成人してるの?まだ十二歳くらいだと思った。」

十二だと?五つも下に見られたことないんだけど。

あれか?アジア人は歳若く見られるってあれか?

「君、幾つよ」

「僕は八歳」

「私は十七だよ」

「え、そうなの?!チカ、あ、あのね!」

ギルバートは私の歳を聞くやいなや勢いこんで

「僕と結婚しよう!!」

とプロポーズしてきた。

意味がわからない。

「何故?」

「一目惚れです!」

?これは違うな。なんだ?姉、母、妹?女家系で結婚にプレッシャーを感じてるか?うーん、家族の性格がキツくてタイプの違う私に目をつけた?

「嘘つきは好きじゃないのでごめんなさい」

「嘘じゃないもん」

「一目惚れって言えばいいと思ってるなら、怒るよ?」

「だってお姉ちゃんも妹もいいわぁって言ってたから。」

「私が結婚してたらどうしたの?」

「だって指輪してないから」

あっそっか。左手の薬指をみる。

「七年も後のこと今決めてどうするの?」

「だって今言わないと結婚しちゃうかもしれないから」

「そうだね。」

まさかこんな展開は予想してなかった。マーリンも同様で驚きを隠せていない。

「君と結婚する気はないよ」

はっきり断る。そっかぁと肩を落とすギルバートに

「占いをしてあげよう。ギルバートと相性のいい子を見てあげるよ」

「チカは男心がわかってないから、モテないでしょ」

図星をさされた。子供は酷いな。

「千加。こいつは誰だ?」

作業を終えたのかミゲルが戻ってきた。けど顔が見れない。

「ん?近所の少年」

「知らない奴を家に入れるな」

「すいません。ギルバート、急ですがお喋りは終わりです。表まで送る。」

「え、うん。」

ミゲルの横を通り、玄関先までギルバートを送る。

私の後ろでミゲルがこちらを見ているのがわかる。

「じゃあね、ギルバート」

「チカ。ちょっといい?」

手招きされて屈むと頬にチュッとキスをされた。

「大きくなってもチカが結婚してなかったら僕と結婚しようね!じゃあね」

ギルバートは、帰っていった。

元気に宣言されてもなぁ。断ったし。嵐みたいな子だな。

「今のは」

「可愛いプロポーズっすね」

和むわと思っていたら、ミゲルから

「隙だらけだな」

と苦情がきた。

「そう、すか?」

「ああ」

視線を落としているから、ミゲルがどんな顔でこちらをみてるかはわからない。どうせ呆れているんだろうな。

「部屋に戻ります」

私は部屋に戻ると、術式の教科書を開いた。

何かしてないとミゲルのことばかり考えそうだ。

あと少ししたら、ユル様が帰ってくるからと自分に言い聞かせる。無心で教科書を読む。

ドアがノックされた。ミゲルの声に顔を上げる。

「ユルが帰ってきた」

「わかりました」

急ぎユル様の部屋に向かう。

ユル様は大満足といった顔で椅子に座っている。

なんか、苛つく。

「おかえりなさい、ユル様」

「うむ。千加も息災そうで何よりじゃ」

「これで依頼は終了だな」

「おお、ミゲルよ!其方のおかげで、妾は楽しい時間を過ごせたぞよ。礼を言う。」

「そうか」

「報酬じゃが、何が望みよ?」

依頼の報酬はお金じゃないんだ、とミゲルを見た。すると、目が合う。なんで見られているんだろう。急いで視線を逸らす。何かしたかな?

「ユル。千加にユルの感覚が流れないようにしてくれ。今後一切だ。」

何を言っているの?

「それで良いのかぇ?感覚が流れてきたと?そうなのかぇ千加」

ユル様に問われ頷く。

「はい」

「それはすまなんだ。今後一切感覚が流れないと誓おうぞ。しかしミゲルよ、お主は欲がないのぉ。もっとあったであろう?」

「これでいい」

こんなの私がユル様にお願いすればいい話だ。ミゲルの報酬は、もっとミゲルのためのものであるべきだ。

「ユル様、ミゲルの報酬は、」

「千加」

ミゲルに遮られる。厳しい目で見られ、余計な事を言うなと釘を刺された。

一週間守ってもらって、散々迷惑かけて、色々してもらったのに報酬が、私にユル様の感覚が流れないようになんて、それだけなんて駄目だ。

「それでミゲルよ。千加を抱いたのかえ」

「ユル。黙れ」

ユル様の言葉に耳を疑う。

「え、」

「むぅ。妾の感覚が流れたのなら相当の快楽であったはずじゃ。それこそ誰彼構わず股を開くような、のぉ。それなのに千加はここにおると言うことはお主が抱いて満足させたのじゃろ?」

「ユルさま、どういう」

「ミゲルにはお主を抱いて欲しいと頼んでいたのじゃ」

ミゲルに抱くように頼んでいた?だから、ミゲルは、

「ユル、黙れ。千加、その依頼は、」

「一週間、ありがとうございました」

ミゲルの言葉を聞きたくない。

言葉を被せ、急ぎユル様の部屋を出て、自室に逃げ込む。お風呂場に逃げ鍵をかける。

なんだ、依頼か。仕事、嫌な仕事させちゃったな。

胸が締めつけられるように痛い。

ミゲルは追ってこない。

本当のことなんだ。訂正することはないから、誤解はないから、私に何と思われてもいいから、なんとも思っていないから、追いかけてこない。本当は違うと言われたかった。

「うぅぅぅ、ひっ、ぅく」

声を殺して泣き続けた。

自分勝手で嫌になる。

勝手に好きになって、ミゲルが心を開いてくれたのに自分の手でその関係も壊した。抱かせたことを申し訳なく思っていた。依頼、仕事だったから傷つくとか、勝手過ぎる。

仕事だったんだ、気にしなくてもよかったんじゃんくらいに思えればよかった。

少しは気にしてくれてるかもなんて妄想してたのか?ははは、ないない。こんな、

「化け物好きになる人なんていない」

あの子もあの子も好きになる人に拒絶され続けた。

初めの失敗を繰り返さないように気をつけて、それでも拒否される。

「ミゲルも、仕事だから」

自分で自分に言い聞かせる。勘違いしたら駄目だ。仕事だ、ユル様からの依頼だ。優しいオーラは、夢だったんだ。

苦しい、痛い、自分の言葉で自分を傷つける。

理央に知られたら怒られる。理央なら、どうするんだろ。

私は、これしか方法を知らない。

「理央、助けて、理央」

苦しいよぉ、どうしたらいいのかわからないよ、どうしたいのかもわかんない、自分で自分がわからない。

「千加、開けろ」

ドアを叩くミゲルの声に胸が熱くなる。

「嫌だ」

縋りつきたくなる。

「もう一度言う。開けろ」

私を好きになってって縋って泣いてしまいそうだ。

「嫌だ」

「わかった」

面倒で嫌な奴だと思われただろうか。でも、それでいいんだ。嫌だ。嫌だ、好きになってほしい。違う、駄目だ。

ミゲルに嫌われたくない。私を好きになって欲しい。

言えない。苦しい。正反対の気持ちが入り乱れる。

背にしたドアが開いた。

「え?」

鍵を掛けていたのに、なんで?

驚き振り返るとミゲルが私を見てる。

「千加」

私を呼ぶ。ミゲルを覆っていたオーラが晴れている。

私の視界に色が戻ってきた。

「なんで?」

「何がだ。ドアか?あー壊した」

ミゲルはドアを壁に立て掛けると、床に座り込んだ私を抱きかかえる。ベッドに下ろすと、そのまま押し倒された。

「千加。好きだ」

言葉が理解できない。

「嘘だ」

「嘘じゃねぇ、好きだ」

意味がわからない。

「俺のこと好きか?」

好き

「好きじゃない」

「嘘の匂いがする」

「好きじゃない」

「なんでそんな見え透いた嘘をつく?」

嘘、そんなの決まっている。

「嫌われたくない」

「?」

「気味悪がられたくない。拒絶されたくない。一人に戻りたくない」

苦しい。ミゲルを睨み口にする。

「千加」

「私は、化け物だから」

ミゲルが私の口を塞ぐ。息が苦しくなるほど深く長く口づける。

ミゲルの胸を押す。全然びくともしない。

「人の話を聞かない奴だな」

「ミゲルに言われたくない」

身体を服の上から触られる。身体が喜ぶのがわかる。

「俺のことが好きだって顔してる」

「違う」

「強情だな」

胸を揉まれる。また唇を重ねて、身体に熱が灯る。腰が揺れる。

「抱くから」

「駄目」

「本気で嫌なら魔法使って拒め」

ミゲルがスカートを捲る。太ももを触られ、ビクッと身体が震えた。そのまま奥に手が伸びる。下着の上から触られるだけで次を期待している。

「うぅ」

「なんで泣いている」

わからない、ただ涙が出てきた。

「だめって」

「はぁ、わかった。」

ミゲルは手を引くと、スカートを直す。そして、私を抱きかかえてベッドに横になる。

「千加が俺の為に切り捨てたい俺への気持ちは全部俺にくれ。捨てられると困る」

とそんなことを言った。

「困る?」

「ああ、お前らは必要とあらば自分の事を平気で切り捨てられる。俺はそれが怖い。」

「お前、ら?」

「ミランダにグラッド様、フレッド様もミレニア様も、ノヴァも千加も。」

「私も?」

「お前が一番タチが悪い」

「なんで」

「俺のことが好きなのに、俺のために自分の気持ちを殺してるから。しかも、それが正しいと思ってる。」

「正しい、よ」

「間違えてる。捨てんな」

「ノヴァのことは」

「顔が好きだな」

「顔。私とは違う」

「確かに千加はノヴァと比べたらブスだな」

「うるさい」

抱きしめる腕に力がこもる。耳たぶを甘噛みされた。

「好きだと認めろ」

ユル様と感覚が繋がっていた時のような快感がゾワッと全身を走る。

「す、すき」

反射的に口から出た。

「やっと言ったな」

ミゲルが楽しそうだ。私はミゲルの胸に顔を埋める。

「悪趣味」

言ってしまった。拒絶は、ない。

「それでいいさ。さて抱くか」

「うへ」

まさかの発言に変な声が出た。

「なんだ、うへって」

「うるさい」

「抱きたい」

「だめ」

首を横に振る。

「まだ駄目か。ノヴァのことか?」

「違う。あ、」

「化け物ってやつか?」

「う、」

嫌にならない保証はない。

「わかった、試してみろ」

「は?」

思わずミゲルを見上げる。

ユルが言うには感情を読み取ったりするんだったか?と首を傾げている。

「理央と約束してる。踏み入ったことは読まないって。無意識以外では読まない」

「ん?黙っててやるから」

本気で、試してみろって言ってる。そこには恐れはない。

「……各地にいる女の人はどうするの」

「全部切る」

最初からそのつもりだった。本命ができるまで。

「根無草なのに」

「そこは要相談」

多分ここが譲歩できるギリギリのところ。

「ユル様の依頼は、あの、抱くってやつ」

「断った」

嘘じゃない。

「なんなの、ミゲル。」

全然怖がらない。本当に出会い頭にナイフ投げてきた人と同じ人?

「まだあるのか?」

「化け物だって思った?」

「凄い能力だなとは思ったな」

「殺そうと思ったのに、なんで好きになるの」

「そこに関係性はないな。あれは反射だ。好きになったのは、あーお前、俺に護衛しなくていいって言っただろ?初日から死にかけているのに、馬鹿だなと思った。その後俺のことが好きだって顔になったのに、すぐにノヴァのことを口にした。」

自分で関係を壊した時だ。私の気持ちが気づかれていたのは知らなかった。

「あの時気づいた。こいつもミランダ達と同じ類の人間だって。ただミランダ達と違うのは切り捨てるのが自分の心だと思ったら苦しくなった。切り捨てないでほしい」

「う、ん」

「あと乱れてる千加がすげぇきた」

「変態」

背中を指でなぞられる。

「ん!」

「声、我慢するなよ」

お尻を揉まれる。外側、内側、さらにその奥までしつこく愛撫される。

「あっ、み、ミゲル。」

「欲しいか?」

「う、ん。」

「ちゃんと言えよ」

「ミゲル、だ、抱いて欲しい」

「よく言えたな」

羞恥で真っ赤な私をミゲルが組み敷いて、服を着たまま繋がる。下着が普段当たらない所に当たって変な感じがする。

「服脱ぎたい」

「わかった」

ミゲルは私の中に入ったまま、そう言うと魔力を操って器用に私の服を脱がせていく。

「へ?」

ぷにぷにした触感の魔力に身体を起こされ、腕を上げられ、自分で脱ぐことなく裸になった。服を脱がせた後もミゲルはそれを解除せずにいる。

「ミゲル?」

魔力で私を包み、絶妙な動きで全身を隈なく刺激される。

「ん!あっ、えっまって、これ、ぁん!!」

ミゲルは自身を抜き、私の下着を脱がせて、再び中に侵入してくる。腰を引き寄せられ打ちつけられる。

口づけと魔力での愛撫、奥を擦られる気持ちよさで、すぐに乱れていく。

「あっ、いっぃん!だ、だめぇ、そ、こぉ、んん!!」

緩急のついた刺激に翻弄され、嬌声がでる。

「千加は、ここが好きだろ?」

胸を揉まれ、乳首を弄られる。ミゲルの大きな手で触られると小さい胸がより小さく見える。

ミゲルの硬い指のひらで擦られるととても気持ちいい。

「す、きぃ!ぁ、あっあっん」

少し強めに摘まれると、自分でも驚くほど高い声が出た。

「後は、うしろからも好きだな」

「そ、そんな、こと、ない、はぁはぁん!」

「そうか、なら止めるか」

「や、やめないで。」

知らなかった。ミゲルに色々知られてたなんて、私の知らない気持ちいいところを刺激されて、何度もイク。

私はもう息が荒いのに、ミゲルはめちゃくちゃ元気そうだ。

「ミゲル、絶倫?」

「ふん。今更何を言うかと思えば」

そうか、ユル様の感覚が流れてきて大変だった私を抱いていたミゲルは言うまでもない。

「流石に、体力が、ない、てす」

その日は夢も見ずに眠った。


ユル様とミゲルが私に残す力の配分を決めた。

ユル様が二割だとミゲルは反射で攻撃する。最低限にすると私が死にかける。一割五分以下でミゲルは警戒に意識を持っていかれないことがわかった。最終的にユル様が自由に遊び回るためにも一割三分にすると決まった。

危険度は大分マシになる。

「久しぶりに外を歩きます」

「?ああ、ベッドの上ばっかりだったな」

春の冒険者ギルドランク上位者の宴に参加するべく領主屋敷へ向かっている。同伴者は一名まで追加参加が可能だ。

急に参加して大丈夫なのか聞くと結構な数の冒険者がやっぱり参加するとしないと直前で変更の連絡があるらしく、もしくは連絡もない場合もある、そこのあたりは緩く企画されているようだ。

領主邸の庭で開催されている。受付をすませ、庭にまわる。

「知らない人ばっかりだ」

冒険者がたくさんいる。その中にグラッド様を見つけ、二人で挨拶に向かう。

一瞬固まったけど直ぐに切り替えたようだ。ここらへんが理央と似てる。

「グラッド様、お招き頂きありがとうございます」

「ミゲルとチカさんは一緒にいらしたのですか?」

「はい。この度付き合うことになりましたのでその報告も込みで」

「ミゲル。後で詳しく窺います」

色々飲み込んで出てきた言葉と笑顔に、要さんみたいな笑い方するなぁと面白がっていると

「チカさんも、いいですね?」

ひんやりとする笑顔に慌てて勿論ですと頷く。

それから私達は別行動をすることにした。

「ミレニア様。」

報告がある。

ミレニア様に以前ユル様の力について話したことがある。あの時は全然わからなかったが、新たにわかったことが出てきた。

「チカさん。どうしましたか?」

「ユル様の件で報告があります」

「窺います」

以前は三割で異言語通訳が可能で、私自身に五割ついてても制御可能だった。神になったら、最低限でも異言語通訳は可能だし、能力の制限は殆どない。やるかやらないかは私次第な状態だった。

他者からの感情などの流入は二割で制御可能。ただ私に向けての強い感情は別だ。

二割でミゲルは危険だと判断し、七割で侍従長が武器を抜き、ミランダも武器に触れる。となると、ミゲルは大分敏感なタチだ。ユル様もそうそういないと太鼓判を押していた。

通信の為に残していた三割のユル様も向こうでは過ぎたるものだったらしい。

急いで連絡をとったら、最初は分からなかったけど日に日に神威を感じるようになってきたと姉貴に言われた。敏感な人は流れるように自然に拝み始めるらしい。

それもユル様が引き受けることになった。

神社に一割を残し、一割弱を私が後はほぼユル様に統合した。ユル様は小躍りしている。あんなに俗世に塗れた神がいるだろうか。

話を聞いたミレニア様が絶句している。

「ミレニア様。私は最初に言ったとおり故意に人の感情や潜在意識を読むことはしません。理央と約束しています。そこは変わりません。」

「信頼しています。」

「あ、ありがとうございます。へへ」

面と向かって言われると照れる。

「あと、理央がやりたい転移者支援のことでも報告があって」

ミレニア様の表情が厳しくなる。

「こっちにくるまでは、見つけ次第送り返そうかな位にしか考えてなかったんです。でも、ユル様の力が上がっても干渉できない領域でした。まだ理央には報告していません」

「そうでしたか。リオさんへの報告は一旦待ってもらえませんか?フレッド様とも相談してリオさんが休みで戻ってきた時に伝えようと思います」

「時期はお任せします。でも伝えるのは私が伝えます」

「わかりました」

ミレニア様がこほんと咳払いすると聞きづらそうに

「それと、ミゲルとは」

尋ねられた。

「あ、あの、恋人になりました」

「そう。ミゲルにはミランダとグラッドが結構無茶をして心労をかけてばかりだったから、支えてあげて」

「は、はい」

ミランダ先輩にグラッド様、何したんだろ。

ミレニア様と別れ、ミゲルのところに戻る。

料理長と話していた。

「戻りました、ミゲル。何を食べているんですか」

皿を覗く。また照り焼きだ。

「照り焼き、好きっすね」

「嬢ちゃん。この馬鹿と付き合ってるって本当か?!」

「はい。本当ですけど、どうしたんですか」

料理長が意気消沈している。ぶつぶつとなんでこんな奴がモテるんだと文句を言っている。

「恋人が欲しいんですか?」

「欲しいよ!」

切実な表情をしている。理央がお世話になっている方だ。何か力になってあげたい気持ちはある。

「占います?どんな人が理想ですか?」

占い師を装ってみた。

「嬢ちゃん占いもできるのか凄いな。それじゃあ、頼む、」

料理長は家に帰ったら料理作って待っててくれるような方が理想らしい。

大袈裟な動きをして占い師感を出す。ミゲルがなんともいえない顔で見てるが無視だ。

「無理っすね。その理想に合う女性がいませんし、料理長の性格と腕前的に張り合うので喧嘩になります。あ!でも世話焼きの後輩さんからのアプローチは受けて大丈夫です。相性いいんで」

私の言葉に料理長が愕然とした。

いやだぁとその場に崩れ落ちる。なんだか泣きそうだ。

「ごめんなさい、ご期待に添えなくて。理央様がお世話になってるから力になりたかったんですけど」

「い、いや。いいんだ、嬢ちゃん。ありがとな。ほら、食べな」

と皿に料理を盛りつけ渡された。それを食べながら、会場を見回す。副料理長のところのテーブルに冒険者が集まってる。

「副料理長のところ、人だかりができてますけど、何かあったんですか?」

「ヘルマンは元騎士だ。コランダムにいた時は冒険者と騎士の混成部隊を指揮していた。その時胃袋を掴まれた奴らだな」

「へ?」

胃袋?なんで?

「あいつ、野営ん時料理作るんだよ。初日は特に。」

「それって普通は」

「やらないな。大体は新人の役割だからな。まぁそのおかげかどうかわからんが、ヘルマンの隊の落伍者はほぼゼロ。脅威の数字だ、普通混成部隊ってのは大体上手くいかないんだ。冒険者は依頼で来てるが、達成困難だと手を引く。が騎士はそうではない。それが元で亀裂が入るからな」

「副料理長凄いっすね。でもなんで辞めたんだろ」

「本当は料理人になりたくて家族と揉めてたらしい。でも騎士団で五年以内に部隊長になれれば好きにしていいという妥協案を引き出せたらしく、有言実行五年で部隊長になった。が、人気が高すぎてすぐには辞められなかったみたいだ。そのあと五年で後継を育てて辞めたと聞いている。」

「ミゲル、副料理長のことも好きなの?情報通だね」

「千加。口塞ぐか?」

「いえ、結構です」

私達のやり取りに仲良しかって料理長がいじけだした。

料理が美味しいので、おかわりを要求する。

なんでも食べる私に料理長も笑顔だ。よく食べて大きくなれよぉと子供を見る目で言われても困る。

「成人女性に言うセリフじゃないっす」

「チビだから仕方ないんじゃね?」

「ムカつく」

確かに少し小さいけど、平均的な身長だし。この世界の人達が大きいだけだし。

理央は今も前も背が高い。ミランダ先輩も高い。私と同じくらいなのは、ソフィアくらいか?胸は負けてるけど。

「チカ。楽しんでる?」

侍女の制服姿のノヴァが空の食器を手に声をかけてきた。

「美味しい」

「そう、顔色も良くなってよかった。まだ護衛は続いているの?」

ノヴァの眉間の皺が深くなる。

ミゲルが傷つくからやめてほしいが、どうしたものか。

「ううん。ミゲルの同伴者で参加してる」

「え?」

「恋人になった。から、」

「チカ騙されてない?大丈夫?」

ミゲルの評価が酷い。料理長の肩が震えている。

「ノヴァ。ミゲルのこと悪く言わないでほしい。あと眉間の皺もやめてくれると嬉しい」

「あ、ごめんなさい。気をつける。……チカ」

ノヴァは私の耳元で

「ミゲルの何処が好きなの」

と問う。

ミゲルの好きなところか、うーん。オーラの変化のギャップが最高だと言っても通じるのかな。

「不意にみせる優しさとか、」

他には、照り焼き好きなのも可愛いし、ほかには、えーと

「あ、そうだ。身体の相性がいい」

口にした瞬間、ノヴァが鬼の形相でミゲルを睨んだ。

「千加」

「あると思う」

ミゲルを振り向くと

「確かに。あるな」

ミゲルも頷いた。

「チカ、自分の事大切にして」

「?ノヴァに言われるとは思わなかった。」

人の事を身をていして守る人間に心配されるとは。なんだか変な気分だ。

「リオ様に何て言えば」

ノヴァが頭を押さえ肩を落とす。

「?ちゃんと報告するよ。ミレニア様にも伝えたし、」

「ミランダがミゲルを殴りにきそうで怖いんですよ。」

ミランダ先輩が殴りにくる。それは怖い。

「その時はミゲルを連れて全力で逃げます」

「お前がか?」

「なんすか」

私達のやりとりを見ていたノヴァはため息をついて仕事に戻っていった。料理長にお前らもうあっち行けと追い払われる。理不尽な。

「じゃあ、ラビさんの玉子焼き食べに行こう」

ミゲルの手を引き、ラビのいるテーブルへ向かう。

「意外と食い意地はってるんだな」

「料理長とラビさんの料理は理央様が好きだから、食べて感想を言いあうため。あと自慢する」

悔しがる理央も可愛い。

「ラビさん。玉子焼き残ってますか?」

「あ、ごめん。もうないや」

「なんと。料理長のとこで油を売ってたら」

「言い方酷いなぁ。そうだ、これ食べてみる?」

ラビに渡されたのは、プリン?

「ミランダさんから作れないかって打診されてたんだけど、リオ様の出発に間に合わなくてさ」

「いいんですか?」

「感想きかせて」

スプーンでプリンを掬い口に運ぶ。弾力のあるプリンで、しっかり卵の味がする。濃くて美味しい。カラメルも甘苦くてプリンの良さを引き立ててる。

「千加、感想とか言えるのか?」

「ミゲルさんもどうぞ」

「ああ」

「美味しいです。この弾力と味の濃さ、カラメルと合ってて最高です」

私が感想を言う隣りでミゲルは無心で食べていた。

「見て下さいよ、私に感想言えんのかっていって自分が夢中なって食べてるとか。」

ミゲルに頭を握られる。痛い!ミゲルの手を振り払い、

「理央様に報告しておきます。帰ってきた時にまた作って下さい」

とラビに伝える。

「二人共面白いね」

流石ニーナの彼氏だ。オーラが似ている。

「ご馳走様でした。」

「美味かった」

ラビのところから庭の所々に用意されているベンチに移動する。二人で並んで座り、冒険者達を眺める。

オーラが面白い。一応メモしておこう。

冒険者に混ざって談笑しているグラッド様を見つけた。

一緒にいる相手も目立つオーラをしている。

「グラッド様と話している方ってどなたですか?」

「あれは、ビアスだな。一級冒険者に成り立てだったか。気になるか?」

「目立つなぁと思って。笑顔で刺してくるタイプの人なんで」

「そこまでわかるのか」

「グラッド様は笑ってますけど怖いっす。ってことは理央のこと悪く言ったかな。ミゲルの可能性もありますね」

「俺だろうな。あいつとは合わん」

書き留める。それから色々な冒険者のオーラをみて、ミゲルの見解も書き加える。

「ミゲル、チカさん。何をしているのですか?」

グラッド様が私達に気づき、近づいてきた。私達は立ち上がる。

「冒険者観察記録をつけています。後でミレニア様に提出する予定です」

「なるほど。以前みせてもらった情報のようなものですか」

「そうです。あれのミゲルの意見付き版です」

「それは楽しみです。」

成り行きを追及されるかと思ったが、そうではなかった。よかったと安心した瞬間

「どうして付き合う事になったのですか」

切り出された。なんだろ事故にあった気分。

察知できなかったよ、なにこのノーモーションで攻撃されてる感。凄いな、グラッド様。つか理央はこういうのも好きそうだなぁ。金属性の加護共通のオーラのせいかな?

「ユル様の依頼で護衛してもらって」

「好きになったから」

「付き合う事になりました」

「互いに想い合ってて付き合っているならいいんだ。チカさんはリオの大切な友人だからね。」

微笑むグラッド様は理央の為に写真に残したいほどイケメンだった。

ミゲルが堪らずグラッド様の頭を撫で撫でする。その気持ちはわからないでもないが、行動に移せるミゲルは凄いと思う。

「ミゲル。」

「なんだ?」

「なんだ?じゃないです。手をどけて下さい」

「抱き締めたほうがいいと?」

「違います。チカさんはミゲルの手綱握れますか?」

「わかんないっす。」

取り敢えずミゲルの上着の裾を引っ張って、

「ミゲル。私も撫で撫でしてほしいっす」

上目遣いでお願いしてみた。二人して撫でられる羽目になった。

「状況が悪化しました」

「駄目か。いつもはミランダが遮るので失念していました」

ミゲルの気がすむまで撫でられ続ける。

「グラッド様はミゲルに撫でられてても恥ずかしいとか一切外に出ないのが凄いです。私は嬉しいけど結構恥ずかしいです」

「外にでないですが、大分恥ずかしいですよ。この状況は」

「やっぱり金属性加護のおかげですかねぇ、」

「どういうことですか?」

「例えですよ?金属性加護を持っている方は心の中に金属の箱があってその中に感情の大半は収まっているって感じの『オーラ』えーと気配みたいなのが視えてるんですよ。」

「なるほど。ならチカさんが視たら相手の属性判別も可能ということですか」

「金属性に限れば、です」

「面白い話をありがとうございます」

私とグラッド様は、セシルさんが止めに入るまでミゲルに撫でられ続けた。


春を寿ぐ宴が終わり、諸々の報告書をミレニア様に提出後。

理央宛の報告を書く。

「千加。ちょっとリーベックに行ってくる」

ちょっとコンビニ行ってくるみたいな軽い口調で言うミゲルに抱きついて胸に頭をぐりぐり押しつける。

「私が浮気しない程度の期間で帰ってこい」

「わかった」

「後、各地の女の人にミゲルの子供が出来てたら、私が引き取る。」

「……わかった」

そういうとミゲルはリーベックに出かけていった。

本当、風のような男だな。

春の宴の後、ミレニア様に報告書を提出して帰る時にセシルさんと偶然鉢合わせた。

ミゲルは根無草で一つの場所に居着けない男だが大丈夫かと尋ねられた。その日の夜にミゲルに「最終的にサイスに帰ってくれば構わない」と告げた。

「大丈夫か?」

「わかんない。でも駄目だったらまた考える」

「わかった」

「絶対死ぬなよ」

「わかった」

「死んだらミゲルの魂をユル様に頼んで私が独り占めするから。絶対外に出さないからね」

「それは怖いな。わかった、約束する」

その日はミゲルに沢山愛された。


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