魔法省へ
グラッドと楽しく午前中を過ごした。出発の時間が近づく。
リオ様とミランダに声をかけられ、挨拶へ向かう時間だと気づく。
「楽しい時間はあっという間ですね、そろそろ出発の挨拶をして参ります」
グラッドは席を立つと、私のエスコートをする。
「ありがとうございます」
二人でフレッド達と約束している執務室へ向かう。
ドアの前にいた侍従長が私達を中へ入れてくれた。
「やぁ、リオさん」
書類に目を通していたフレッドが顔をあげる。ミレニアも私達に気づき、資料を棚に戻した。フレッドの隣に立つ。
「お忙しい中ありがとうございます」
「すまないね。本来なら玄関まで送りにでるのだが、」
山積みの書類をみてフレッドが笑う。
春は忙しい時期だとクラリスの記憶にある。それを知っていても活用できていない自分が悔しい。
「いえ。構いません。これから王都に向けて出発致します。たくさん学んで帰ってきます。必ず」
「そうか。では気をつけて」
ミレニアが近づいてきて、私の手を握った。
「無理しないのよ」
以前より体温が高いように感じた。
「はい。ミレニア様もお体には気をつけて下さい。ありがとうございます。行ってきます」
いつもより丁寧に挨拶の礼をする。
執務室を後にし、そのまま玄関へ向かう。
そこには千加とニーナ、ソフィア、イザベラが待機していた。
「リオ様、いってらっしゃいませ」
「留守をよろしく頼みます。」
皆を見回しそう告げ、
「千加。」
一人神妙な顔をしている千加に近づき、
「はい」
「ユル様とちゃんと話をしてギリギリのラインをさぐって下さい。お願いします。」
小声で話すと
「かしこまりました」
千加は幾分か調子の戻ったような笑みを浮かべた。
「理央様。これは馬車での暇つぶしにどうぞ」
と布の包みを差し出す。
「ありがとうございます。開けるのは」
「馬車の中で、どうぞ」
「わかりました。」
千加が下がる。私はグラッドに向き直り、
「グラッド。あの、しばらくしたら連絡しますから、グラッドからも連絡、欲しいです」
照れつつ言葉にする。
「はい。必ず連絡します」
グラッドが寂しげに笑う。
私は、勢いをつけグラッドの頬に軽くキスして素早く馬車に乗り込む。
「行ってきます。」
私の行動に驚くグラッドとニヤニヤしている千加達を残し、馬車のドアをミランダが閉める。そして、馬車が動き出した。
窓からグラッドに手を振り、見えなくなるまで窓にはりついていた。
「リオ様。」
ミランダがお茶を運んできた。
馬車に二人だけ、やっぱり少し寂しい。
「ありがとうございます、ミランダ」
今日の馬車は中型で一両編成だが、簡易キッチンもある。
そして馬車はどのサイズでもふかふかだった。
ミランダと向かい合い座り、気になっている千加から渡された包みを開ける。
「早速開けるのですね」
「気になるので、?これは、」
中に入っていたのは
「本でしょうか?」
日本語、英語、フランス語に中国語、スペイン語にロシア語の簡易辞書だった。薄い本が各言語分ある。
「千加が、向かうから持ち込んだものです。こんなに、しかもかさばらない薄さの本です」
本をパラパラ捲り中を確認する。
「日常会話や挨拶が書かれています。どこの『出版社』だろ、えーと、???」
見たことのない本だったからどこから出ているのか確認しようと奥付をみると、
「リオ様?」
「これ、父さんが作ってくれたみたいです。」
聡史の名前がある。それといつも書籍を出す時の出版社の名前も。
「父さん、」
涙が出た。
ミランダが差し出したハンカチを受け取り、顔に当てる。ひとしきり泣き、深呼吸を繰り返し落ち着きを取り戻してから
「父さんは元々研究者だったんです。でも体が弱くて続けられなかった。今は体調の良い時に近くの学校で講義したり自然保護の活動をしてて。その活動が縁で何冊か子ども向けの本を出してるんですけど、その印刷所と一緒に作ってくれたようです。」
ミランダに説明する。
出版社に該当する言葉がわからなかったが、なんとか伝わったようだ。
「リオ様の研究熱心なのはお父様ゆずりでしたか」
「そういわれるとなんだか恥ずかしいですが、嬉しいです」
本を読むと、更に気づいたことがあった。前半は挨拶や日常会話だが、後半は
「ミランダ、これを見て下さい」
ミランダに本を見せる。受け取ったミランダは目を見開く。
「クラリス様の文字です。」
「こちらの絵も」
ミランダは黙って、本を見つめる。
本の後半は対訳本になっていた。本の箇所箇所を彩るイラストもクラリスのものだった。ユル様が、描かれていた。
「クラリス様はこのような絵も描かれるのですね。知りませんでした。ふふ、とても可愛らしい絵です。」
私も種類のある本を捲りクラリスの絵をみて気づいた。
「この絵、ミランダに似てます」
他の本も確認すると、ミレニアとフレッドに似たイラストもあった。
ミランダはイラストを見て、一瞬泣きそうな顔になる。
私は急いでミランダの周りに防音室を展開した。
「あ、説明省いたから怒られるかも」
しばらくして、防音室が内側から破られた。
「リオ様。」
ミランダの低い声に
「うひぃ」
変な声がでた。
「ありがとうございました」
予想に反してお礼を言われた。怒られるかと思ったが、よかったと胸を撫で下ろす。
「ですが、急な魔法使用は控えて下さい」
「はい」
しっかり注意もされた。
「しかし、クラリス様は本当にグラッドのこと、どうでもいいんですね。」
本のイラストの中にグラッドっぽいのがない。
「はい。両人とも互いのことがどうでもいいようで、貴族達の間で二人を婚約させようかと話が出たこともございましたが、二人の仲を知っているスレート子爵が全力で阻止していました」
「なんというか、光景が浮かびます」
そのあとは二人で対訳に間違いがないか確認する。何度確認していても見落としはあるものだ、しかも校正できるのがクラリスと千加だけ。千加は日によっては使えない場合がある。クラリスの負担は大きいだろう。
しかもこの対訳、各国の特色があって例文がちょっとずつ違う。中々に手がこんでいる。
『自費出版だとして、いくらかかってるんだろ。』と思わず心配するほどだ。




