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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
143/605

ミゲルという兄

「てめぇが、リオか。グラッド様にどうやって取り入った!あんな攻撃してくる女は性格が捻じ曲がってるに決まってるからな」

グラッドとミランダの頬が引き攣った。

「クラリス様を介して仲良くなっただけです」

「はぁ?あの鈍感女にそんなこと出来るわけないだろ。」

すごい言われようだが、外れてはない。

そしてミゲルは、ただひたすらに口が悪い。

「わかりました。伯爵屋敷を訪ねたらグラッド様と出会いました。これでいいですか?」

「おい、お前。俺のことを馬鹿にしてるだろう」

「してませんけど、それで納得しないので困った方だとは思っています」

ちょっとした口論の末

「ちっ。で?グラッド様の何処がいい。」

唐突にミゲルの試験が始まった。

それに

「まず美形です。」

即答していく。

「だな」

私の答えに腕組みしながら頷く。

「声も好きです。いい匂いがします」

「ほお」

「しかも自分の容姿がいい事をおりこみ済みの言動がいい。とてもドキドキします。」

「お前、わかってるじゃねぇか」

ニヤリと悪どい笑顔をみせる。ミランダの悪どい笑顔とはちょっと違うが、よく似ていた。

「心配性なのに何処かドライで、優しいのに意地悪なところも大好きです。あとは、意外と子供っぽいところも可愛いと思います」

「よし、合格。」

「ありがとうございます」

無事ミゲル審査を通過した私はミゲルと握手を交わす。

その横で真っ赤になったグラッドが蹲っている。ミランダの目が遠くを見ていた。

「ミゲルさん、今のグラッドも可愛いです。照れに照れまくってます」

「お前凄いな。あのグラッド様を照れさせるとか。」

感心するミゲルと

「抱きつきたい、あ、失礼」

本音が零れた私。

「リオ様。落ち着いて下さい。」

ミランダが取り敢えず場を収めようと口を開く。

「ミゲルも、黙って。グラッド様、大丈夫ですか?」

「、大丈夫です。ありがとう。」

グラッドが持ち直した。まだ頬が紅潮している。

はぁと大きなため息をつきつつ立ち上がるグラッドは、やっぱりカッコいい。可愛さと色っぽさに胸が早鐘を打つ。

「ミゲル。詳しい成り行きを聞きたいので、ついてきて下さい。いいですね?」

「わかりましたよ、グラッド様。」

グラッドは私の側に寄ると、髪に触れた。

「リオ。怪我はない?」

「ありません。手加減してもらってたので」

私達の後ろでミゲルが小声で話す。

「手加減に気づくか?、ミランダあのお嬢どうなってるんだ?」

ミランダはその問いを無視する。

「あの髪と瞳の色は、私とお揃いですか?」

「う、うん。嫌でしたか?似合わなかった?」

「いいえ。嬉しかったですが、こちらの色が好きです」

触れた髪を口元まで持ってきてこれみよがしに口づける。

「態と、だ」

「はい。態とです。でも、好きでしょう?」

返事の代わりに抱きつく。

「グラッド様。お時間が、」

「わかりました。リオ。私はこれから出かけますので、帰ってきてからお話ししましょうか。いいですね?」

声のトーンがお説教モードだった。

背筋が伸びる声に、はひ、と返事をして急いで離れる。

「ミゲル。行きますよ」

「へいへい」

ミゲルを引き連れグラッドがこの場を去る。その後ろ姿を見送り、はぁと息を吐き出した。

お説教かぁと憂鬱な気持ちになるも、明日だけじゃなく今日もまた会えることが嬉しい。

「リオ様。本当に怪我はありませんか?」

「大丈夫ですよ?スカートが破れただけです」

「一歩間違えば怪我していたではありませんか。リオ様。私は実力差を見極めて逃げるように指導したと思っていますが、そこは理解していますか?」

「理解していますよ。ですが、ミゲルさんは私を見極める為にきたと言っていました。ですから私が逃げるわけにはいかなかった。人目につきやすい庭ならミランダがすぐ駆けつけてくれるって思ってましたし」

ミランダが私を強く抱き締める。

「リオ様は私を過信し過ぎです。ミゲルが失礼致しました。酷い事を言われませんでしたか?口が悪いので心配です」

ブスを連呼されたことは言わない方がいいかな。

「大丈夫です。ミランダとグラッドはすぐ私の変装を見破りましたよね。バレバレでしたか?」

「いえ、髪色とそばかすで大分印象が違いましたから、気づかない方は多いと思いますが、私達はリオ様のことをずっと見ております。だから、かと」

「そっか。嬉しいです。ありがとうございます」

ミランダはまだ私を離さない。珍しいな。私もミランダを抱き返す。

「どうしましたか?ミランダがぎゅってしてくれるのは嬉しいので構いませんが」

背中を撫でると

「なんでこうも厄介事が降って湧いてくるのか。もっとリオ様を鍛えないと。今はまだなんとか凌げているけど、はぁ」

不穏な言葉が耳にはいってきた。

確かにその通りだけど。望んでる訳ではないのだが、備えておくのは無駄ではない。

「宜しく頼みます」

ミランダは体を離すと、かしこまりましたと礼を返す。

服飾係の部屋にいたことを話しながら、戻る。

その移動中に指輪を戻すのも忘れない。

やっぱりこっちがいい。

婚約指輪をみるとつい笑みがこぼれる。

服飾係の部屋に顔を出す。急に現れた私に三人が心配そうに声をかける。

「リオ様ぁ」

ソフィアが安心した反動で泣き出し、それを慰める。

最初に冷静になったのはヒルダでリリの所在を確認した。

「リリはわたくしの代わりにミゲルを引きつける役目があり、こちらにお邪魔させていただきました。驚かせてごめんなさいね。リリはもう元のお役目に戻っているわ」

「そうでございましたか。」

「ソフィアも急にリリを託してごめんなさい。ありがとうございます」

「いいえ。あ、えっと楽しかったです。」

「そう。伝えておくわ」

服飾係の部屋を後にして部屋に戻ると、そこにはニーナがいた。心配そうに私をみる。

「ニーナも心配をかけましたね。」

「リオ様。わたくし、服飾係の部屋しか思いつかずに」

「構いません。とても楽しい時間を過ごせました。ミランダ、少し話があります、いいですか?」

「はい」

ニーナはお茶の用意をし、私は破れたスカートを替えに部屋の奥へ向かう。スカートを着替えて衝立から顔を出すと、ミランダが難しい顔で考え込んでいるのが目に入った。

「ミランダも座って下さい。」

声をかけ、席に着くよう促す。先に着席した私の後に続いた。

ニーナのお茶を飲み、落ち着ける。

「ミゲルさんのことです。」

「はい。どのような処分も覚悟しています」

「あ、違うよ?処分とかじゃなくて、なんで服飾係の部屋にきたのかを知りたいんです」

「それは、ニーナの匂いを辿ったからだと」

?犬なのかな?匂いを辿るとか

「変態?」

「魔法です」

「そ、そうですよね。ごめんなさい、つい正直な気持ちが」

「それについては私も同意見です」

「ミゲルはニーナがリオ様付きの侍女だと知ると匂いを嗅ぎその匂いを追い、服飾係の部屋に行ったのでしょう。直接匂いを嗅がないと追えないので直前まで一緒に行動したであろうニーナの匂いを追う事でリオ様の位置を特定しようとしたのだと思います」

なるほどねぇ。中々面白い魔法だけど、ニーナの恐怖は相当だったに違いない。

「ニーナ。怖かったですよね。今日は早く休んだ方がいいのでは?」

私の側に控えるニーナに尋ねると

「いえ、リオ様の側にいさせて下さい。それにミランダと同じ顔で全然違う行動は面白くもありましたから」

笑いながらそんな答えが返ってきた。

「そう、無理は禁物ですよ」

「そのお言葉をそのままお返し致します」

「全くです」

ミランダがニーナの言葉に頷く。

「あとミゲルさんの攻撃が、魔力壁を貫通しました。あれは以前ミランダが教えてくれた壁を破る方法を活用しているのですか?」

魔力壁は面、もしくは物理攻撃には非常に効果的だ。

だが点の魔法攻撃や魔力量が多い攻撃には破られることもある。その特性を利用したのがミゲルの攻撃だろう。

壁といっても千差万別。単純な魔力壁がフェンス、練度を上げると本当の壁になる。液体はプールの中にいるみたいなイメージだ。単純な魔力壁しか張っていないとこういうことになる。いい勉強になった。

私は今フェンスの網目を細かくする練習をしている最中だ。術式の見直しも一緒に行っている。中々奥深い。

ミランダは神妙な表情で肯定する。ただミゲルの魔法の正確な仕組みは解らないそうだ。

「そういえばグラッドはミゲルさんを何処に連れて行ったんでしょう」

「騎士団本部です。グラッド様は今日これから新人研修で世話になる部署への挨拶回りに向かう予定でした。ミゲルの来訪で少し予定がずれましたが、騎士団本部にミゲルを連れて行くことで騎士団は喜ぶことでしょう」

「そんなに凄い人なのですね」

「まぁ、一級や特級冒険者は武力が無くてなれるものではありません。騎士といっても全員が強い訳ではありませんし、強者への憧れは強い方達です。ミゲルはグラッド様と旦那様奥様には礼を尽くします。」

「そのミゲルさんを従えるグラッドに騎士は好感を持つということですか?」

「好感よりも高評価でしょう。ミゲルの失礼さは有名な話ですから。今頃、騎士団本部で大暴れしていることでしょう」

「大暴れ。ミゲルさんに勝てる方はどれほどいるのでしょうか」

「グラッド様とハロルド様、騎士団長、侍従長も恐らくは勝てるかと。サイス領内ではあと数名しか対抗できないと思います。最近一級に上がったばかりの冒険者がいますが、まだ勝てないと思います。今後は分かりませんが」

因みにコランダムには結構な数の特級冒険者がいるが、それでもミゲルが圧勝するらしい。加護属性が少なくレベルもそこそこなのにも関わらず強いというのは不思議で仕方ないそう。

属性特化した戦い方の相手には負けないとミランダが言う。

「ミゲルが負けるのは、魔力量で圧倒される、速さを上回る場合などです。結構弱点があるのですが、ミゲルがそれを悟らせない、攻撃させないように細工をするので負けない冒険者でいられます。」

「なるほど。ミランダは勝てないのですか?」

「ミゲルが本気でやらないので正直わかりません。でも勝てないと思います。同じ加護属性を持っていても加護理解度が違うので、そこの差が大きいですね」

なるほどねぇとお茶を飲みつつミゲルの強さを考えると、ふと疑問が浮かんだ。一応防音の魔力壁を張る。

「ミランダ。グラッドがミゲルさんに勝つと言いましたよね。」

「ええ」

「では、王都で私達を逃したのは何故ですか?」

「ああ。あの時の魔獣にグラッド様なら負けないのでは?ってことですか?」

「そうです」

「理由は三つあります。一つ、非戦闘員が二人いた事。二つ、あの魔獣は集団で狩りをすること。三つ、グラッド様の加護属性と相性が悪すぎること。それで退避を優先させました。」

モグラ型魔獣は地下から攻撃を仕掛けてくる。しかも土と金属のレベルが高く、グラッドが属性特化の壁を築いても突破される可能性があったこと。主人を危険に晒さないことが前提にあるのでと補足する。

「ありがとうございます。理解できました。あ、あと」

ノヴァがミゲルの戦い方は相手の隙をつく戦い方だと話していたことについても問う。

「あー、ノヴァが可愛いからでしょうね。」

「へ?」

「恐らく好みなのでしょう。いい格好したくて、ノヴァの前ではそんな戦い方をするのですよ」

隙をつく戦い方は自身の技術力の高さを誇示したい時にする戦法なのだそう。普段はそんな戦い方はしないと言う。

「ノヴァ、眉間に皺が寄ってましたけど」

「でしょうね。最初ノヴァと屋敷で会った時武器を構えられました。ミゲルは本命には奥手ですからね、困った兄です。各地に女がいるのにそういうところは馬鹿だなと思いますよ」

各地に女がいる。

「ノヴァは付き合っている方がいますが、」

「ミゲルは知らないでしょう。まぁ、知ったからって何もできないのがミゲルです。憎まれ口を叩くくらいです、暴れ女の癖に良かったな彼氏ができてって言うんじゃないですか?」

「それならいい、のかな?」

「いいと思います。ミゲルにノヴァはもったいないです」

ミランダのミゲルへの評価に、自分の兄貴への評価に似たものを感じて親近感が湧く。

「ノヴァのことは黙ってて下さい。本命だと悟られたと思われると八つ当たりされるので面倒です」

「わかりました。とんでもない人ですね」

「戦闘能力は高いのに他が残念でなりません」

防音の魔力壁を解除した。

因みにジャックはミゲルにも余裕で勝てるだろうとのこと。

だけど状況によってはジャックは私に負けるそう。色んな要素が絡み合うものが戦闘ですからとキラキラした目で話してくれた。

「まぁ、世界には天災に近い力を持った方もいます。あの『鮮血の眠り姫』が本気で国を転覆させようとしたらまず王都は三日で陥落しますよ。ジャック様がいなければ、一日かもしれませんね。」

「『鮮血の眠り姫』って確か、コランダム領の騎士爵の」

「ええ、そうです。サイスも持って四日でしょうか、王都や他の領地を制圧したとしてギリギリなし得ます。彼女の最大活動限界が一週間だったはずなので。彼女と戦い時間を稼げるのはハロルド様しかいないですね。」

魔素循環器の変異でおこる特殊体質。魔力変換の最大値が桁違いであるのと引き換えに普段は殆どの時間を眠りに費やす。魔力を使用しないと起きていられない体質だ。ハロルドは眠り姫ほどではないがその特殊体質だ。

『鮮血の眠り姫』というあだ名はコランダム領で大規模魔障が起こった際に、一週間一人で戦い続けたことからついたそうだ。

魔力の流れがおかしくて三半規管に影響を受けているのではないかというのがミランダの予想。

やっぱりミランダは戦闘の話が大好きなようだ。

「確か、ハロルド様は二日でしたか」

ミゲルとあって感覚が引っ張られているのだろうか。

冒険者の顔になっていた。

そのミランダを楽しみながらお茶を飲み

「闇属性加護持ちの性、ですか」

独りごちる。


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