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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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答え合わせ

屋敷の中と庭、後は屋敷南東部にある果樹林は自由に出入りしていいと許可を得ている。

書庫に行きたいですと言うとイザベラとノヴァは勉強熱心ですねと微笑んだが、ミランダは若干引き気味に頷く。

イザベラは午後から休み。ミランダはやる事があるため、伴はノヴァがつき、書庫へ向かう。

「書庫!あ、やっぱり素敵です。」

書庫に入り、本棚を端から端まで舐めるように見る。ひたすら端から端までぎっしり詰まった本棚を鑑賞する。

「はぁ」

とっても癒される。充足感を味わい幸せなため息をつく。

気になった本をとり開く。

読書三昧の期間に選ばなかった本達。サイス領の歴史。

サイス領初代領主は召喚者で、おそらく同郷だと考え、初代様のことが書かれた歴史書は読んだ。その後の歴史はクラリスの記憶にある概要しか知らない。歴史の試験の為だけに勉強した表面的な知識。家庭教師は細かいところまで教えようとしていたが、クラリスがそれを拒んだ。

自分で本を読むからと。結局読まなかったが。

「リオ様。もしよろしければ、部屋でお読みになりますか?」

「いえ、大丈夫。部屋で読んでしまうと夢中になりすぎますので。」

本を棚に戻す。読書が目的じゃないから、と切り替える。

また棚に視線を戻す。本の種類の確認にきた。

ミランダに一度棚全体を見せてもらったけど、ちゃんと自分で確認したかった。

魔素、術式、魔生物がやはり多数を占めている。次に自然科学、歴史と続く。

ここには初代様から続く代々の領主一族が、サイス領にとって重要だと考えた知識が並んでいる。

私もここに知識を並べたい。サイス領の歴史の一つになりたい。

私は一冊の本に手を伸ばす。

初代サイス伯爵手記。

以前軽く中を捲って前書きを読んで、ただの日記だと結論づけた。他人の日記なんて読めないと言った気持ちに嘘はない。

それでも読まなければいけない。細部まで確認できていない。サイス領にとって有益な情報があるかもしれない存在を放置はできない。

この手記が、ただの日記だったと証明するために。

防音の魔力壁を張り、詩歌の作者名を口にする。

深呼吸を繰り返し、心を落ち着ける。

一つ考えている事がある。

読書三昧の日々に初代様って『お兄ちゃん』みたい、趣味が合うなぁと思った事があった。

『〇〇月〇〇日召喚されて一年が経った。王都の情勢も落ち着き、王から領地を与えられることになった。希望を聞かれたから、温かいあの地がいいと伝えた。魔障という危険もあるがやれることもあるだろう。しかも彼女の故郷だという。』

『〇〇月〇〇日サイス領領主となった。俺の名前は消してもらった。名前を残す気は毛頭ない。最初からサイスと名乗っていたから受け入れてもらえた。良かった。趣味の家庭菜園と美術建築鑑賞が役に立っている。農業はやりたかったことの一つだからやれてよかった。』

『〇〇月〇〇日子どもが産まれた。親父も俺が産まれた時はこんな気持ちだったのだろうか。家族ができる喜びとあの孤独の日々を思い出して苦しくなる。弟は俺が兄で良かったのだろうか。親父は俺を残して死ぬことをどう思っていたのだろうか。喜ばしい日にこんなことを考えるなんて』

『〇〇月〇〇日二人目の子が産まれた。身体が弱いと医者が言っていた。弟を思い出す。あの子も身体が弱くて、十一歳で亡くなった。よく病室で異世界転生物の小説を読んでいた。どうしてそんなものを読むんだと、もう死を受け入れているのかと苦しかった記憶が湧き上がる。生きていてほしかった。』

『〇〇月〇〇日シノノメも結婚した。召喚仲間でいい奴だ。妹思いな所が昔の親友を思い出す。あいつは度を超したシスコンだ。確かに妹ちゃんは可愛いかった。初めて会った時は無表情で俺をじっと見ているだけだったけど。何度か遊びに行ったら慣れたのか一緒に本を読む仲になった。ウフィツィ美術館が好きなんだと話したら、彼女はセビーリャ市庁舎が好きとページをめくって話してくれた。弟のお見舞いにも何度か来てくれた。十歳になってからは家からでたがらなくなってしまったから弟は寂しがっていた。あいつはどうしているだろうか。まだシスコンなのかな』

『〇〇月〇〇日召喚されてもう十年が経った。あの世界の俺はもう死んだことになっているのだろうか。身寄りもない、未練は殆どない。ただやっぱり思い出す。感傷に浸れるのはこの日記をかいている時だけ。親父と弟の写真は持ってこれた。でも、翔や理央ちゃんとの写真は家に残したままだ。要さん達も元気にしているだろうか。』

めくってもめくっても綴られているのは、故郷への、残してきた人達への思いだけだった。

ああ、やっぱり。

初代様の歴史書を読んで思ったことが正解だった。

兄貴の親友で、ある日突然行方不明になった『お兄ちゃん』。お父さんと弟さんの葬儀が終わってすぐだった。趣味の書籍数冊と家族の写真が無くなっていたと兄貴から聞いた。その他の荷物も綺麗に片付けられていたこともあり警察も事件性はないと判断した。失踪届をだした。

「そっか。そうだったんだ。ごめんね、不運体質になっちゃってお見舞い、行けなくなっちゃった。」

涙が溢れる。本当にただの感傷、ただの日記だ。

『お兄ちゃん』が私達を大切に思ってくれていたことを知れて嬉しかった。

どうしていなくなったんだろう、嫌だったのだろうかと考えたこともある。

でも兄貴はあいつはそんな奴じゃないと、居なくなった理由はわからないがどこに行ってもあいつは生きていける凄い奴なんだと、案外どっかで農業してるかもなと笑ってた。

詩歌を口にして戻す。

涙を拭いて、魔力壁を解除した。

「よし、頑張ろう」

自分に喝をいれる。

「ノヴァ、やっぱり此方は借りていいかしら」

「かしこまりました。お預かりします」

ノヴァに手記を預けて、書庫を後にする。

「ノヴァ。果樹林まで行きたいのだけれど、いいかしら?」

「かしこまりました。お供いたします。」

ノヴァは私の目が赤いことに気づくも何も言わずにいてくれた。

ノヴァが操る馬車に乗り、果樹林へと向かう。

初代様が作ったとされる半自然の果樹林。最小限の手入れだけされた果樹林に足を踏み入れる。

魔法実験をした広場に着く。最初来た時は気づかなかった。

『お兄ちゃんの作ってみたいお庭、ちゃっかり作ってるじゃん』

呟く。大きく息を吸い、意を決して虚空に話しかける。

『お兄ちゃん。兄貴も母さん達もみんな元気だよ。私はこっちに来ちゃったけど、元気だよ。遊んでくれてありがとう、楽しかった。時間を超える召喚はずるいね。兄貴が知ったら乗り込んでくるよ。私は、これから、サイス領のために頑張りたいって思ってる。頑張るからみててね』

ソルシエールは火葬で墓はない。骨は海へ撒く。声を届けたい時は故人の思い入れのある場所、物へ祈る。

呼吸を整えて、果樹林を後にする。

「ノヴァ。付き合ってくれてありがとう。」

「いえ。リオ様のお心のままに」

私達は屋敷へ戻った。

「夕食の時間まで、一人にさせてほしい」と部屋で手記を読み、『お兄ちゃん』を思い泣いた。


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