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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
135/605

ニビ子爵

千加はあっという間に使用人を雇った。

「もっと難航するかと思ってたよ」と笑っている。

神殿の職業案内所に集まった人達を見て、直ぐ決めたそうだ。執事とメイド、料理人の三人。

「『マルチタスク』あー、色々出来る人達だから助かってます。ユル様も張り切って指示してるので安心です」

ユル様は丸一日挨拶回りに費やし、戻ってきたらそれはもう楽しそうに話をしていたようで、

「眠い」

千加は若干寝不足気味だ。

「では理央様、また後程」

情報官として訪れた時は似合わない敬語で話す。切り替えが難しいようで、偶にミランダから注意されているとか。

でも大分馴染んでいる。

千加から渡された資料を読む。ユル様が話していたこの世界の神様事情だった。

確実に何処から仕入れたと疑われること間違いのない内容だ。

一応日本語で書いてくれている。

光と闇以外の属性神は代替わりするとか、水の神は男女の双子神とか。風の女神は美人が好きで、美人には大体風属性がついてるとか。どこからどこまでが知られている内容かが私にはわからなかった。

テーブルの上のベルを鳴らす。

「はい。お呼びでしょうか、リオ様」

控えスペースから侍女が出てきた。

「少し尋ねたいことがあるのですが、宜しいかしら」

「なんなりと」

肩口で揃えたシナモン色の髪に、焦茶の瞳。ミランダに次ぐ無表情と噂の彼女に尋ねる。

「日常的に神殿に行きますか?」

「はい。」

「何のために?」

「お祈りのためです」

「それは他の人も似たようなものですか?」

「私は特別多いと思います。」

「何故?」

一瞬彼女が答えを躊躇った。

「神殿で育ったので。」

「なるほど。では、神様への理解も深そうですね。」

「……リオ様は、神殿育ちであることを責めるために呼んだのではないのですか?」

「?神殿育ちは責められることなのですか?しかも何故わざわざ今。」

神殿には孤児院の側面もある。孤児院もある事にはあるが、神殿がある街では神殿がその役割を果たす。やっぱり孤児だからと言う人達は何処にでもいるのか。

「チカ様が情報を持ってきたのかと」

「そうではありませんよ?私は、神殿に良い思い出がなくて近寄らないと決めています。ですが、神様の本は読みたいんです。けれど、神殿にしかない。あと神様の話を皆がどれくらい知っているのかも知りたいんです。ごめんなさい、回りくどい聞き方をしてしまって」

そういうと彼女は安堵したように笑った。初めて見せた表情だった。

「そうでしたか。それなら私がお役に立てると思います」

神殿にある本は大体読みましたと教えてくれた。

領域神がこの世界の主神。始まりの神様。領域神がこの世界を作った際に出来たのが大陸神、四柱の女神。

闇と光の神が生まれて夫婦神になる。属性神の始まり。

その他の属性神は世界を構成する精霊の中から生まれる。

火の男神、水の双子神、風の女神、土の女神、金の男神は巡りながら世界を見守る。

というのが神話の概要だった。

彼女が誦じてみせた神話を聞きながら、

「巡るとは、神々が世界を見て回っているということ?」

質問を投げかける。

「いいえ、光と闇以外の神様達は自身で寿命を決めることが出来るのです。元々精霊であったことの名残です。精霊は死を迎えることもありますから」

確か自然破壊で棲家を追われるという話があったと記憶している。野生動物と一緒なんだなぁと思った覚えがあった。

確か眷属が過度な自然破壊は粛正すると書いてあった。

「これは皆知っている神話なの?知らなかったら恥ずかしいかしら」

困ったわと頬に手をあててみる。

「いえ、リオ様。他の皆様も変わらないと思います。皆様神々の数や属性は知っていますが、神話等は知らない方が多いんです。」

「どうしてだと思いますか?」

「神殿は元々狂信の加護障害をもつ方が設立したとされています。その方は自身が知り得た知識を他者に伝えることを良しとしませんでした。神を独占したかったのだとか。その精神が引き継がれていると思います。」

「なるほど。貴女は違うのですか?」

「私は、神々の話をするのが好きなのです。ですから、話のわかる方が増えたら沢山お話しできるのにと考えています。」

「神殿の方達では駄目なの?」

「神殿ではお祈りや研究が重要で布教は二の次なのです。知りたいなら来ればいいという態度は傲慢で、あまり好ましくはありません。加護を司る神の理解が深まればより一層加護の理解が深まり、それが神への感謝となる。そうすれば自然と神に祈るようになると私は思います。」

こんなに喋れるんだと驚きながら彼女の話を聞いていた。そして親近感が湧く。

「神様達のお話を聞かせてくれませんか?話の最中にメモを取りますけど気にしないでね」

「はい」

席を勧めたけど、断られた。

神様の性格等は伝わっていないようだ。特性は代替わりしても特に変化はない。眷属達は神殿に度々訪れているらしい。

美人の属性については眷属の軽口がそう残っている程度の認識。

「面白い話をありがとうございます」

「いえ。……あのリオ様は何故、神殿が苦手なのですか?」

少し俯き、困ったような表情を浮かべ

「私のいた所では加護レベルの高い方が少なくて。それで実験と称して何度も魔力を搾取されました。」

と答える。

「!ごめんなさい、私、何も考えずに口にしました。申し訳ありません!!」

顔色を悪くして謝る彼女に心の底から申し訳ない気持ちが湧き上がる。地方都市の神殿ではよくあることだから神殿に行かない理由を聞かれたらこう答えるようにとフレッドやジャックから教わっていた。

「いいの、気にしないで。あ、お茶をいただけるかしら」

「は、はい。ただいま」

こんな反応が返ってくるのか。知らなかった。

お茶を飲み、別紙に書いた神様の内容と照らし合わせながら千加の書いた情報を読み直す。

しばらく読んでいると、

「リオ様、申し訳ありません。ニビ子爵がいらしています。」

と声をかけられた。

「丁重にお断りしてください。」

「かしこまりました」

?なんで?取り敢えずミレニアに言われた通り二人では会わない。このまま帰ってもらおう。それから、

魔力人形を窓から出して、グラッドやミランダを探す。最近は片目だけ視覚を繋ぎ操作が可能になった。上達が著しい。

「でも、訓練してて良かった。」

心底思う。

「ですから、」

入り口では、ニビ子爵が粘っているようで問答を繰り返している。

「きゃっ」

ニビ子爵が侍女を押し退け部屋に入ってきた。

「リオ殿、」

何を考えているの?子爵ともあろう人が。礼儀もなにもあったもんじゃない。

ニビ子爵が何か話し始める前に宣言する。

「不審者は拘束します」

魔力を伸ばし足元から固める。ジャックがやったことと似ているが私のイメージは凍結だ。ニビ子爵も抵抗するがそれを上回る量の魔力をこめる。

鼻以外の全身を固め、グラッド達を待つ。さっきやっと見つけてズボンの裾を引張り吃驚させたとこだった。ハロルドとヒューゴも一緒だった。

「ルルー、グラッド様を呼びましたから、駆けつけるまでこちらで待機してください」

侍女、ルルーを呼び寄せる。

「は、はい」

固まって動かないニビ子爵を恐る恐るみながらルルーは私の側へ移動した。

視線は動かさず、油断はしない。仮にも子爵だ。何かしてくる可能性も大いにある。

「リオ様、ニビ子爵は」

「黙って。」

集中が途切れないように、呼吸を整える。

バキバキとニビ子爵を拘束している魔力壁が崩れた。何をされているのかがわからない。

ニビ子爵の上半身が自由になる。

「リオ殿。素晴らしい、貴女こそ精霊姫に相応しい。」

精霊姫?何のことだろう?

不審者っていうのは何でみんな意味の解らないことを口走るんだろう。だから、口を塞いだのに剥がれるとは。

グラッド達はまだかかるか。?ハロルドが先行するってことは、

「意味不明ですね。ニビ子爵。なにが目的です?」

「貴女はニビにくるべき人だ。ニビなら貴女を本来の姿に戻せます。グラッド様なぞ捨てて、是非ニビへ」

ルルーを庇いつつ、窓からちょっとずつ離れる。

闇属性特化魔法を追加する。魔力壁が崩れるのを防ぐことに成功した。

「何を馬鹿なことを。ふざけるのもいい加減にしてください。自分が何をしているのかわかっているんですか?!」

ニビ子爵の目の芯が合っていない。自分に酔っておかしなことを言っている。不審者の特徴がでていた。

防御の魔力壁を張った。

と同時に窓が大きな音を立てる。

「お待たせしました。」

物凄い勢いで窓を突き破ったハロルドが私を背にして立つ。

繋いだ視覚を解除する。

「邪魔をするな!」

ニビ子爵が魔力弾を派出する。ハロルドはそれを全て剣で叩き落とす。

「黙れ」

ゆっくりと近づき、剣をニビ子爵の喉元に突きつける。

ニビ子爵が動こうとすると喉を剣の刃で押す。

ぐぅっと呻き声をあげることしか出来なくなる。

「ここで何をしているのですか?ウィリアム・ニビ子爵?」

底冷えのする声が聞こえた。グラッドが部屋に到着した。

ハロルドも思わず、一歩後ずさる。

「私は、精神姫を解放して差し上げようと」

「へぇ?精霊姫を、ねぇ。何を勘違いしているのか知りませんがここに精霊姫なんていませんよ」

「リオ殿が、ぐぁっ」

グラッドがニビ子爵の首を握り締める。

「貴方にリオの名を呼ぶことを許した覚えはありません。彼女は私の婚約者だ。理解したか?」

顔色が変わっていくニビ子爵は恐怖の表情を浮かべ、頷く。

それを確認したグラッドは手を離す。

「リオ、無事ですね?」

「はい。勿論です」

「魔法を解除して下さい。ハロルド、拘束を」

「はい」

ハロルドがニビ子爵に近づくのを確認して拘束用の魔力壁と闇属性特化魔法を解除する。

ハロルドが目にもとまらぬ早業でニビ子爵を拘束した。

「グラッド様、一体何が!ニビ子爵、これは一体」

侍従長が駆けつける。その後ろからヒューゴとミランダがついてきた。

「リオ様。ご無事ですか!?」

ミランダが焦った様子で私に近づき、怪我がないか隈なくチェックされる。ミランダの珍しい姿に驚きを隠せない。

「大丈夫です。」

ニビ子爵は侍従長とハロルドに連行されていく。

それを見てほっと一息つく。

「リオ。部屋を移動しましょう。ミランダ、ここは任せます」

「かしこまりました」

机に置いたままの資料を文箱にいれ持ちグラッドの横に並ぶ。自然に差し出された手に手を乗せ、部屋を出た。

グラッドはいつもより少しだけ固い表情で、何も言わない。

連れてこられたのは、グラッドの部屋だった。

「私、入ってもいいんですか?」

「?勿論ですよ?婚約者なのですから」

グラッドの部屋にいくのは、何気に初めてだ。

クラリスは行かないし、リオは最初は客、今回は発表まで忙しくて余裕がなかった。

「緊張します。」

「特に何もないですよ?」

部屋の造りは、変わらない。奥に寝台等の生活スペース、手前は応接用のスペース。ソファとローテーブルがあり、側務めの控え室がある。

そして棚には沢山の鉱石や鉱物が飾られている。クラリスは画集を並べていた。

「ここがグラッドの部屋。」

思わず室内を見回す。側務めの控え室からセシルがでてきた。

「おや?リオ様いらっしゃいませ」

「セシル、お茶を頼めるか?」

「はい。すぐに」

「リオ、こちらにかけて」

応接用のソファに並んで腰掛ける。脚長の机やテーブルが見当たらなかった。

「グラッドの部屋には机やテーブルがないんですか?」

「奥にあります。」

「まさか、ベッドの隣りに」

「そのまさかですよ」

資料が積みっぱなしとかじゃないですよねと話していると、セシルがお茶とお菓子を運んできた。

「お待たせ致しました。リオ様、こちらは新作クッキーです。あとで感想を教えてください。何かあればお呼びください」

美味しいお茶とお菓子に気持ちが落ち着いてきた。

「リオ。」

グラッドが私の手を握る。

「怖い思いをさせて申し訳ありませんでした」

謝る姿をみて驚く。大丈夫だと言う前に

「リオが無事でよかった。」

グラッドが気持ちを吐き出すように言った。その声が震えていた。

激しく脈打つ鼓動に身を任せて、考えるより先にグラッドの頭を引き寄せ抱き締める。

「グラッド、助けにきてくれてありがとう」

「リオに何かあったら、完全に殺してました。危なかった」

「うん、そんな感じがしてたよ。怒ってるグラッドも貴重だったしカッコよかった」

「そう、ですか」

グラッドは私に抱き締められたままされるがままになっている。頭を撫でていると、

「何があったか聞いてもいいですか。聞きたくないですけど」

「約束もなく勝手にやってきて、断ったのに粘って部屋に不法侵入したので魔力で拘束しました。けど、何故か破られて拘束だけ続けていたところにハロルド様が窓を突き破って到着。子爵に剣を向けて黙らせたところにグラッドがやってきた。そんなところです」

その間ニビ子爵が精霊姫がどうのこうのと宣っていたことも付け加える。

「はぁぁぁ」

グラッドは長い長いため息をつく。

「精霊姫って何ですか?」

「ニビ地方に伝わる話です。精霊の力を借りて奇跡を起こす女性のことを精霊姫といいます。彼女達は揃いも揃って美しい黒髪の持ち主だったと伝承には残されています。」

「あー、それで。全くとんでもない人に遭遇してしまいました。不審者ランキング1位ですよ」

「もう、ニビ子爵の話はしたくありません」

「わかりました。では、いちゃいちゃしましょうか?」

「今いちゃいちゃしたら止まらなくなるので却下で」

「可愛いですね。もう一度お願いします」

「却下」

「ふふふ、じゃあユル様が聞いた神様事情を、あ、」

肝心な事を思い出しグラッドを抱き締めていた手を緩める。

「?どうしました」

「千加にこの件は伝わりますよね。」

「もうすでに伝わっていますよ?」

???なんだと??

グラッドが私の部屋へ急いでいる途中、ハロルドは先行、ヒューゴには侍従長かミランダに連絡するように指示して別れた。その様子を千加が見ていたという。

「絶対ブチギレて手に負えなくなる」

慌て出した私をグラッドが宥める。そこにドアをノックする音が聞こえた。セシルが対応にでる。

「リオ様、ミランダがきていますが通しても宜しいでしょうか」

何かあったようですと付け加えられた言葉に嫌な予感がした。ミランダを通してもらう。

「リオ様。チカを止めていただけないでしょうか」

うん。そんな気はしてた。


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