お茶会の難易度は
ドレスを着替えて、部屋に戻る。
夕食は夜会もあるため、食堂ではなく部屋で食べることになった。婚約パーティーや夜会で出されているメニューをニーナとイザベラが取り分けて持ってきてくれた。
「美味しい」
食事の後、イザベラに明日の予定を教えてもらい就寝準備にはいる。
「お茶会がきてしまった。」
千加が屋敷にきた日に、ミレニアから誘われたお茶会。
婚約パーティーのため各地から集まった女性貴族を招いたミレニア主催のお茶会だ。
「何を話せばいいのか、見当もつかないよ」
ミレニアからは気楽に参加してほしいと言われているけど、お喋りが上手いわけではないから緊張する。
恐らくグラッドとの婚約については聞かれるだろうし、魔法省で働いてることも聞かれるかな。私ができてかつお茶会っぽい話は刺繍とか裁縫、紅茶とかかな。
あんまり熱を入れて話さずに周りの話を聞く姿勢でいこう。
と思っていました。
最初の滑り出しは良かった。各テーブルを回り、グラッドとの婚約について改めて祝いの言葉をもらい、魔法省で転移者支援のための仕事をしていると話し、それをミレニアがフレッドが強化したい領の課題で今後私が中心に進めていくと補足してある程度の理解を得られた。
「リオ様は冒険者としても活動されているのよね?」
発言したのは昨日も私を下に見ていたお嬢様だった。確か名前は、
「フレイア様。まあ覚えていて下さいましたの?ありがとうございます。」
フレイア・ルーン。優秀な文官を輩出している名家の長女で彼女自身も文官として働いている。
「冒険者って文官や騎士とは違いますでしょ?粗野といいますか、ねぇ?」
周りの人達に向け笑う。
おいおい、冒険者産業はサイス領の外貨を稼ぐ重要な柱だぞ。何言ってるの?
「あら。フレイア様はどちらの部署で働いていらっしゃいますの?」
私の突然の質問に
「え、わたくしは刑務部ですわ」
フレイアは面食らったのか、驚きを露わにしている。
にっこりと笑顔を作って話す。
「ならご存知ですわよね?サイス領所属冒険者の素行の良さが。犯罪割合が大分低かったと記憶していますよ。確かに冒険者は騎士や文官と比べると荒々しい印象を与えるかもしれませんが、文官たるもの、きちんとした数字に基づいた正しい認識で話していかなくてはいけませんね。」
「……申し訳ありません、誤解を与える発言でした」
悔しそうな表情で私を睨め付けるフレイアに表情を崩さずに、続ける。
「フレイア様は刑務部ですから、荒くれ者の冒険者と対峙しているのでしょう?人の悪い面と向き合う大変なお仕事ですもの。無理もありません。これから冒険者の別の一面を知ってほしいと思っています。」
「はい」
「フレイア様。刑務部が相手をする冒険者はどのような方がいますの?宜しければ教えて下さらない?そして一緒にどうしたらサイス領の冒険者の質をもっと良くしていけるのか考えませんか?」
「は、はぁ……」
呆気に取られたフレイアが気の抜けた返事をする。
「リオさん。フレイアを困らせてはいけませんよ。ごめんなさいね、フレイア。この子ったら夢中になると暴走する癖があって」
「ミレニア様、申し訳ありません。出過ぎた真似を致しました」
ミレニアに嗜められた。そして次のテーブルに移動する。
「リオさん」
「ごめんなさい」
「まぁいいわ。」
次のテーブルには美術系の女性達が集まっていた。終始婚約パーティーの私達をどう描くかという話をしていた。
話を振られた時は、恥ずかしながら絵心がないことを素直に白状する。
驚愕の表情とはこういう表情をいうのかと納得するほど皆が同じ顔をした。
いくつかのテーブルを回った頃、次のテーブルで「きゃっ」と悲鳴が上がった。すぐさま向かうと、
「どうされましたか?!」
「む、虫が」
一人の令嬢の頭に一匹の虫が止まっていた。
赤く丸いボディに黒の水玉模様が愛らしいあいつだった。ただしこの世界のてんとう虫はサイズが大きい。
令嬢に近づき、虫を捕まえる。
「大丈夫ですよ。はい、取りましたから安心してくださいね。」
「ふふ、頭に虫がつくなんて、虫に好かれているのではなくて?」
同じテーブルに座る別の令嬢が揶揄う。虫に止まられた令嬢が泣きそうになっている。
私は掴んでいるてんとう虫を自分の頭に乗せた。
「この種のてんとう虫は農作物を守る益虫で、とても可愛い見た目をしていますね。どうですか?似合います?」
揶揄っていた令嬢に見せる。驚きで固まる令嬢をよそに、泣きそうになった彼女に笑いかけた。
「どうやらこの子は貴女を守りにきたようですよ。ちょっと吃驚させてしまいましたが、嫌わないでくださいね。あ、そうだ。面白いものをみせましょう」
てんとう虫を指に乗せ、歩かせる。指先にきたてんとう虫が飛び立つ。
「まあ」
「どうですか?可愛らしいでしょう?」
頬を赤らめた令嬢が頷く。てんとう虫の愛らしさがわかるとは仲良くなれそうだ。
お茶会の後、ミレニアに呼び出され反省会が行われた。
まずフレイアの件。次に虫を素手で捕まえたこと。
最後に年嵩の女性貴族相手に下着の話をしたこと。
「あ、あれは裁縫話の流れで」
「ええ。確かにそうでした。しかも彼女達も盛り上がっていましたが!それとは別に慎しみを持って行動すること。良いですね」
「はい。申し訳ありませんでした。」
「もうこれ以上グラッドの恋敵を増やさないこと。」
「恋敵?」
「あの令嬢は完全に恋する乙女の目になっていましたよ。それに、」
「それに?」
ミレニアは少し躊躇いつつも
「どうやらニビ子爵が貴女に恋をしたらしいのです」
言葉にした。
「?へ?」
ニビ地方では黒髪が尊ばれるためではないかとミレニアは続けた。
「いい歳した大人が、何を考えているのか。しかもそれを他者に悟らせるなんて全く」
呆れた表情でミレニアが呟く。
「どうしたらいいんでしょうか」
「これまでと変わらず過ごして構わないわ。誘いは断る、グラッドと一緒じゃないと会わないくらいかしら。」
「わかりました。」
初めてのお茶会は中々難しかった。




