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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
133/605

婚約パーティー2

まさか泣くとは思ってなかった。

「ミランダ、すみません。」

化粧を直してもらう。

「いえ、もう落ち着かれましたか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

「じゃあ、理央。繋いでいい?」

婚約パーティーの後にドレス姿を見せる約束をしていた。椅子から立ち上がり、ドレスを整えて鏡に近づく。

グラッドが側に立った。

「千加、お願い」

千加がこの世界にきてから初めての通信になる。神社内であること、神様の分体と私の刺繍が通信の鍵らしいのだけれど、全然理解は出来なかった。

「あ、繋がったね。わぁ、理央ちゃん綺麗!」

鏡に千紗の姿が映る。満面の笑顔の千紗が鏡の前からどくと、スーツ姿の要と聡史が映った。

「理央。久しぶり。……綺麗よ」

「あ、ありがとう。母さんもかっこいいよ」

照れて何も言えなくなった私にやれやれと笑う。

「グラッド君はいつにも増して男前だね」

「ありがとうございます」

「理央。無理はしていませんか?」

「父さんこそ。また痩せたでしょ。兄貴は?」

「要さんが縛って奥に転がしてますよ」

???

「祝いの日に水を差しそうだったから、ね。まぁ、後で写真みせるから気にしないで」

「相変わらず翔くんはシスコンなんだから、もう」

千紗は呆れ顔でそう言いながら、写真をひたすら撮っていた。なんだろついていけない。

「千紗さん、順応し過ぎてやいませんか?」

「あら、今更よ。翔くんは昔から変わらずシスコンだし、千加も男の子みたいな格好しかしないし、神様案件はなんでもありが普通だし。グラッド様はイケメンで理央ちゃんは可愛いから写真に収めないとね!」

「リオ。これは」

「ごめん、グラッド。アレは肖像画を量産する魔道具みたいなもので、好きにさせてください」

「それは構いませんが、」

「ごめんなさいね。千紗、やり過ぎですよ。」

要が千紗を注意する。夢中になっていた千紗は我に返ると、すごすごと引き下がった。

「理央。婚約パーティーはどうだった?」

「グラッド君の家族にも会えた?」

二人の質問に答える。

「緊張したけど楽しかったよ。グラッドの家族にも挨拶できた。クラリス様から聞いたの?」

グラッドの家族について話したことはなかった。

「まぁね。娘の旦那になる相手のことは調べるのが普通です」

「クラリスが何を言ったかがとても気がかりです」

「でも僕は話を聞いて、安心しましたよ。ちゃんと注意できる子なんだと感心しています」

あ、これ確実に口うるさいとかなんとか言ってる。

グラッドの笑みが若干引き攣った。

「グラッド君は理央と一緒にいて、楽しい?」

聡史はグラッドに向かってそう尋ねる。

「はい。楽しいです。それからとても心が温かくなります。」

「それは良かった。偶に驚くほど無鉄砲な娘ですが、今後とも宜しくお願いします。」

深々とお辞儀をした聡史にグラッドも感謝の礼を返す。

「理央はグラッド君より年上だからっていい格好しようとし過ぎないように。」

バレている。

「バレていますね、リオ」

「もう何かやらかした後か、はぁ。」

「いつもカッコつけな要さんが言うことではありませんよ。理央、無理はしないでください。頑張り屋の貴女は自分のことはいつも後回しにするから心配です」

「うん。わかった。無理はしないよ、父さん」

優しい笑顔に泣きそうになる。涙を我慢していたら、鏡の奥の方に縛られたままの翔の姿が映って、一気に涙が引っ込んだ。芋虫みたいになってる。

「本当に縛っていたのですね」

グラッドも驚く。何かの冗談だと思っていたらしい。

「理央、考え直せ、こんな勉強も運動も出来て、イケメンとかあり得ない!性格が悪い筈だ!」

そして酷いことを言っている。

はぁとため息をつき、低めの声で問いかける。

「兄貴。言いたいことは、それだけか?」

「ち、違う!理央!」

「何も違わないなぁ、そうか。兄貴は私を怒らせたいのか。母さん頼んでもいいですか?」

「勿論だ。今度は猿轡も欠かさないと誓おう」

要が悪どい笑顔でサムズアップする。そして、翔を引きずって行く。ぎゃああと叫び声がしたが、あっという間に静かになった。

「グラッド君、馬鹿息子が失礼しました。彼は理央の好みを知らないみたいでね。」

「リオの好み、ですか」

「うん。君みたいな自覚のある美形に滅法弱いんだ」

ごふっと後ろから笑いを我慢出来なかった声があがる。

「三歳頃からそうだったから」

初耳だ。恥ずかしい。

しみじみという聡史の言葉にグラッドが興味津々で食いつく。

「詳しく聞いてもいいですか」

二人が楽しく私の幼い頃の話をするのを止めるに止められずにいると、

「あ、お義父さんそろそろ時間が」

千紗が声をかける。どうやら時間制限があるようだ。

「慌ただしくてごめんね。理央、グラッド君。お互いのことを思い遣る気持ちを忘れずにいて欲しい。体に気をつけて。またね」

鏡が私達の姿を映す。

「いつも締まらないなぁ、ほんと」

ぽつりと呟くと、グラッドが腰をだいて私を引き寄せる。それから額に軽く口づけられた。

「あのグラッド、恥ずかしいです」

「おぉっと、流石グラッド様です」

「サトフミ様の言葉を実践していますね」

千加とミランダの実況と解説のような言葉に一気に冷静になる。

「リオの好みでしたか?」

グラッドが首を傾げる。

く、否定出来ない。ずるい。かっこいい。好きだ。

でもすんなりと肯定するのも癪だったので無言を貫くことにしたが、

「もっと色々した方が良かった?」

頬に手をあて、至近距離で目線を合わせたグラッドに観念して頷く。

嬉しそうに笑うグラッドに胸が高鳴る。

完全に把握されている。けど、それも嬉しかった。

「幸せです」

「私もですよ、リオ」

「こらー、いちゃいちゃしなーい」

千加の野次に笑いが零れる。

千加とミランダは着席しお茶を飲みながらこちらをみていた。

「チカ、私達は退室しましょうか?」

「いやいやミランダ先輩。二人きりにしたら、いちゃいちゃ止まりませんよ?」

「もういいかなと」

「なげやりな。理央どうする?私達退室する?」

「いてください。今後の話をしましょう」

グラッドと並んで座り、リストの情報確認とこれからの予定を話し合う。

グラッドは一週間後から文官の新人研修に参加することになっている。

千加はサイス領で自分の使用人の選定など生活に慣れるため行動するようだ。

私は専属侍女を選び次第、王都に戻ることにした。

「リオ様、選べますか?」

昨日ついてもらった侍女達を思い浮かべる。ミランダセレクトの気配が地味な彼女達は中々良かった。

「甲乙つけ難いです」

「ニーナとイザベラとの相性をみようか?」

千加の申し出にグラッドが賛同する。

「それは大事ですね。専属筆頭はミランダですか?」

「はい。」

「ミランダ、仕事のし易い相手はいないのですか?」

「?あまり意識した事はないです。リオ様の御心のままに」

グラッドの専属筆頭はセシルで、他の専属を決める際に参考にしたそうだ。

「リオ様。まだまだ侍女はいますので焦らずゆっくりと決めて構いません」

「はい、妥協はしない、ですよね?」

「わかっているのなら結構です」

「ミランダ先輩は結構『スパルタ』あー、厳しいですよね。」

「リオ様には必要なことですので。」

ミランダ曰く私は人に合わせるところがあるそう。それでは駄目な事もあるから、自分の為に決める勉強なのだとか。

その点グラッドは問題ないようで心配したことがないとミランダが太鼓判を押す。

「羨ましいです」

「羨ましいか、凄いな理央。」

?千加の驚きが理解できなかったが、特に追及はせず話はリストの情報について移っていった。

「この内容は旦那様にも報告致します。他方面からの情報も出てくると思います」

「チカさんは、ニビ子爵について何か視えたりしますか?」

グラッドがパーティーの挨拶時の子爵が変だったことを伝えるが千加は首を横に振る。

「特には何も。悪い感じもしませんでした。他の方より少し不安が強い方だと思っただけです」

「不安。最近子爵位を継いだばかりですから、わからなくもありませんが。何もないと思いますが、気をつけください」

「はい」

グラッドの言葉に三人が頷く。

それから解読出来なかったリストを埋めていく。

ミランダも分からなかった箇所だけ残して全て埋まった。

「ではこれを侍従長に渡して下さい。チカ」

「わかりました。それでは失礼します」

リストを文箱に入れ、ミランダが千加に渡す。千加はわくわくした様子で部屋を出て行った。

「何故あんなにウキウキしているんでしょうか」

「侍従長がユル様の怖さを真に知っているからと言っていましたが」

屋敷で対面した時侍従長は直ぐに魔力武器を構えたと言う。

「そうでしたか。そんな事が」

「鋭敏な者として正しい行動だとユル様はおっしゃっていました。恥ずかしながら私も武器に手を伸ばしました」

千加の喜びそうな出来事だ。霊感のれの字もない私ではわからない感覚で、少し敏感な人は反射的に怯むか身構えるかするらしい。

予想の範囲外の行動を千加は好む。

ミランダに懐くの早いなぁと思ったらそういうことか。


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