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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
132/605

婚約パーティー1

婚約パーティー当日。

「胃が痛い」

朝早くから気合いの入ったミランダ、ニーナ、イザベラに髪を結われ化粧をされドレスを着てとされるがままになっていた。

図太い神経のためぐっすり寝られはしたが、胃の方は別らしい。

「リオさん、大丈夫ですか?」

グラッドが心配そうに私の顔を覗き込む。

今日はより美形度が増してるな。眩しい。直視は無理だ。

髪型もいつもと違うし、格好いい。語彙力が不在でどう表せばいいのかわからない。

「グラッド様、理央がいっぱいいっぱいになってるんでグラッド様の話をしてあげて下さい。すぐ持ち直しますから」

「私の話ですか?」

「クラリス様が知らない話ならなおいいですね」

千加はリストを確認しながら、グラッドにそう告げる。ミランダに用意してもらった騎士の人達が好む格好をしている。黙っていれば男の子にみえる。

「あー、アレはどうですか?ハロルド様との手合わせの話とか」

「何故それを知っているのかは追及しませんが、……リオさんはそれでいいんですか?」

大きく頷く。言葉はちょっと何処かへ出かけている。

学園で行ったハロルドとの手合わせは、手加減なしの実戦形式。グラッドは中遠距離がメイン、ハロルドは全距離対応のとんでも騎士だ。

前半は牽制も含めての中距離戦、そこからグラッドが勝つのは遠距離にもっていけた時。負けるのは近距離に持ち込まれた時。このせめぎ合いを自分のものにするために死力を尽くすのだそう。

「なるほど。どう自分の得意な形に持っていくかですか。私ももっと頑張ります」

「では、頑張りましょうか。行きますよ」

?グラッドに手を取られ部屋を出た。

いってらっしゃいと呑気な千加に見送られ、廊下を歩く。

広間の扉が開かれ、大勢の人々の視線がこちらを向く。

好奇心、憧憬、悪意、嫉妬、観察、好意、色んな感情ののった視線が私を見ている。それらに一瞬怯んだ私を勇気づけたのは

「リオ。前を向いて。絶対俯かないで下さい。」

グラッドの言葉。

「呼び捨ては、反則です」

ミレニアに言われた通り微笑みを浮かべて広間に足を踏み入れる。

参加者に見られながら広間の中央を歩き、奥へ進む。フレッドとミレニアの前まで進み、挨拶をした。

そして、フレッドが婚約に至るまでの経緯を参加者に説明する。

「まぁ、グラッド様が」

「ラングストンの当主が、まさか」

「才女ねぇ。どうかしら」

「いや、時期外れに入省した女性がいるって聞いたぞ」

「え、それでは」

会場が騒めく。子爵やその他静かにこちらをみている貴族がいる。ある程度の説明がされているのか、初めから情報を持っていたのか。

悪意の視線は判別がつく。彼等からは特に強い悪意は感じない。それよりも観察や好奇心のほうが強そうだ。色々な感情が混ざっている感じがする。

フレッドの話が終わると、グラッドと一歩前にでて

「本日はお集まりいただきありがとうございます」

婚約の挨拶をする。私がこの場で発言することはないが、ゆとりのある表情、態度を崩さないよう注意する。

予想通りというか女性陣からの厳し目の視線がいたい。

この後は子爵や貴族達との挨拶。

最初はテオ・スレート子爵夫妻。子爵位に差はないがいつも初めの挨拶は彼からだ。他の子爵がそうしている。

フレッドの幼馴染にして、クラリス大好きの大人の一人。

クラリスの留学に対しては不満があったようだが、

「グラッド様、婚約おめでとうございます」

快活な声に心底喜んでいる表情、裏を何処かへ置いてきたのが彼という人だ。

「ありがとうございます。彼女がリオです。リオ、挨拶を」

「お初にお目にかかります。リオ・ヒグチでございます」

「私はテオ・スレート。こちらが妻のシンディ。」

「初めまして、シンディ・スレートでございます」

一重の眼光鋭い夫人が粛々と挨拶をする。

特に心配することもなく挨拶が終わり、次にニビ子爵、フォッグ子爵が挨拶にきた。

ニビ子爵は不躾に私の頭の上から足の先まで見て、グラッドに失礼だと追い払われていた。

な、何かしたかな。リストには気難しいと書かれていたけど。

フォッグ子爵は次期子爵を連れ立って挨拶にきた。次期フォッグ子爵は女性だ。現子爵の長女だという。騎士服を着た凛々しい女性だった。アルトの声が色っぽい。

「グラッド様、リオ様お祝い申し上げます」

「ありがとうございます。アデル殿」

「ありがとうございます」

「グラッド様が婚約してしまったので、もう手合わせのお誘いが出来なくなってしまいました。寂しいですね」

「アデル様とグラッド様が手合わせでございますか?それはわたくしも見てみたいです。」

「リオの許しがありましたので、また手合わせを致しましょう」

「宜しいのですかな?」

「はい。その時はわたくしも呼んで下さい」

面白いお嬢様ですねとアデルは笑いながら下がっていった。

「婚約おめでとうございます」

「は、母上。」

グラッドが思わず零す。それを聞いてフローラが人差し指を口に当てた。

フレッドとよく似た風貌の美女と優しそうな男性が歩み寄る。その後ろには男性に良く似た青年と勝ち気そうな少女がいる。

グラッドの家族だと思うと一気に緊張してきた。

「アシュレイ・フロストでございます。こちらが妻フローラ、長男のオリバー、長女のティエラです。お見知り置きを」

アシュレイが家族の紹介をする。

「リオ・ヒグチでございます。お目にかかれて光栄です」

丁寧に挨拶する。

グラッドってお母さん似なんだ。激似だな。

防音の魔力壁を張りフローラが

「グラッド、駄目じゃない。わたくしのことはフローラと呼ばないと」

ウインクをした。それを皮切りに他の三人も肩の力が抜けて気軽な言葉にかわる。二人が前に出てきて

「グラッド。おめでとう。僕より早く婚約するなんて嬉しいけど少し複雑な気持ちだよ」

「オリバー兄上は奥手すぎるのがいけないのよ。グラッド、兄上からも何か言ってあげてください。」

兄妹からの言葉にグラッドが目を潤ませた。

「ティエラはオリバー兄上に合う人はどんな人だと思う?」

「そ、そうね。母上みたいに情熱的な相手がいいと思うわ。オリバー兄上は仕事ばっかりだから、余暇をつくってでも会いたくなるような人がいいと思う」

「あら、そうなの?オリバー」

ニヤリと笑ったフローラに

「完全に否定できない所が恨めしい」

オリバーが項垂れた。その様子をグラッドは楽しそうに見ている。

「リオ様。グラッドのことを宜しくお願いします」

アシュレイの言葉に、

「はい。お任せください。大切にします」

そう答えると「頼もしいですね」と魔力壁を解除して四人は下がった。

グラッドの腕に触れる。少し寂しそうにみえた。

「良いご家族ですね。また会いたいです」

「ふふ、ありがとうございます。リオ」

「呼び捨ては恥ずかしいです」

その後も挨拶は続き、高位貴族から一般貴族へと変わる中に

は悪意のある視線を向ける人もいた。

後で千加の情報と照らし合わせてみようと気持ちを切り替える。

遠回しにグラッドには似合わないや才女?笑えますね等等言ってくる。結構バリエーションがあって面白い。

少し挨拶が途切れたとき

「リオさん、大丈夫?」

とグラッドが尋ねる。

「恥ずかしいですが呼び捨てがいいです」

ちょっとめんどくさい我儘を言った。

「……私は大丈夫ですよ。色んな言い回しがあると感心していました」

「そうですか。なら良かった」

「グラッド様が愛されているのがわかって、嬉しい気持ちです」

グラッドへの悪意は殆どない。心配の気持ちが強い人が多く感じた。

「そのリオの気持ちが嬉しいです」

今日一番の笑顔に、疲れは吹き飛んだ。

そのおかげかダンスも上手く踊れた。勿論グラッドが上手にリードしてくれたからだが。

ダンスの後はグラッドの友人達と歓談したり、ミレニアの派閥の奥様達と交流したり目まぐるしく時が過ぎていった。

そうして長い長いパーティーは幕を下ろした。


婚約パーティーとは違った意味合いを持つ夜会が続いて行われるが、私達はひと足先に広間を出た。

控え室に戻り、やっとひと息つく。

「お疲れ様でした、リオ様。」

ニーナに促され席に着く。すぐさまお茶が運ばれてきた。

「リオ、どうでしたか。」

向かいの席に座ったグラッドが尋ねる。

「緊張しましたが、楽しかったです。」

「楽しかった、ですか?」

「はい。グラッドの家族にも会えましたし、グラッドの人気がとてつもなく高いことがわかりましたし、悪意って一つではないと勉強になったし色んな表現があって面白かったです」

「面白かったって、まぁいいでしょう。」

パーティーの時間が長時間に及ぶため朝からお茶も食事も最低限だけだった。お茶を飲んで落ち着く。ニーナのお茶だった。グラッドとパーティーであったことの話をしていると

「理央様、グラッド様。情報をお持ちしました。」

奥の方で作業をしていた千加がかしこまった様子でやってきた。

「ありがとう。ニーナとイザベラは少し下がって、会場にいるミランダと変わって下さい」

「かしこまりました」

千加から招待客のリストとリストと同じ並びの端的に記された情報を手渡される。それをグラッドと見ながらミランダを待つ。

大体の単語はグラッドでも解読可能だった。

私は悪意の視線の持ち主を印をつけていく。種類も忘れずに記入する。

「ん?これなんです?弱い悪意?」

千加が私の書いた文字を読む。

あからさまな悪意に陰湿な悪意。そしてその強弱。今日感じたのはこの四種類。

「あからさまな強い悪意は、あの人ですね。弱い悪意とは彼女か。」

グラッドはリストを見ながら頷く。

「厄介なのは、この陰湿な弱い悪意なんです。いつどこで爆発するか、火をつける人間がいるのかいないのかも定かではないですが原因を追求していたほうがいいと思います」

私を詰ったあの子はあからさまな強い悪意、それに同調した取り巻きの子はあからさまな弱い悪意。あの子の言葉で火がついたクラスメイト達は陰湿な弱い悪意。あの日は一気に爆発して恐怖を感じた。

「誤解なら取り除きたいですが、そうでないならこれ以上酷くならないよう手をうたないと」

心の中に焦りが生まれる。

「リオ。落ち着いて。」

グラッドに手を握られる。少し震えていたことに気づく。

「理央。今は取り敢えずお茶とお菓子を食べて頭に栄養を与えないと。心の方はグラッド様にお任せします。」

「千加。」

「そうですね。はい、お菓子です。あーん」

グラッドが皿からお菓子を一つ摘み私の口に向ける。その様子を見ていた千加は視線を逸らし笑いを噛み殺していた。肩が震えている。

恥ずかしい。

「あーん。」

楽しそうなグラッドに観念して、お菓子を食べる。

「もっと食べますか?」

「だ、大丈夫です!」

勢いよく首を振って遠慮する。「そうですか」と残念そうなグラッドに若干の罪悪感が生まれたが、いやいや違うとかき消した。

「お待たせ致しました」

ミランダが部屋に入ってきた。私達を見て、

「どうかされましたか?」

疑問符を浮かべる。

「なんでもありません。」

ミランダにリストを見てもらいながら不安要素の話をした。

「なるほど。あー、これは。ん?あぁそれでか。」

「ミランダ、何かわかりましたか?」

「えぇ。わかりましたが、なんというか逆恨みです。」

逆恨み、怖い単語が出てきた。

「才女と名高い方ですが、婚約が上手くいっていないと聞いたことがございます。また家族仲も悪く、仲睦まじいお二人に苛立ったのではないでしょうか。婚約パーティーに来ておきながらなんと愚かな」

確かに。どんなパーティーを想像したのか。

「しかし、リオ様は特異な特技をお持ちですね。悪意の質まで判別できるのですか。」

「悪意だけは、わかります。後は精度が高くないので」

「悪意の原因を追求することも解消することもできるかもしれない。将来の危険が先に分かるだけで打てる手がふえる。とても大切なことです。」

危険を察する能力だとミランダが力強く

「素晴らしい能力です」

言ってくれた。

鼻の奥がじんと痛い。視界が歪む。

「リオ。」

頬を伝う涙をグラッドが拭う。

「ミランダ先輩は人たらしの才能があるんじゃないですか?」

「リオ様、」

軽い口調の千加と戸惑っているミランダを横目にグラッドが私の側にきて抱き締めた。


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