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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
13/605

召喚12

一番心配したカルセドニー子爵令嬢マリア様への返礼も終わり、翌々日にはサイス領へ帰る事になった。

ちなみにマリア様は「おいたわしい」と涙ぐんでいたそうだ。

寮を出る当日、繊細な刺繍のあしらわれたベールを被りグラッドに支えられて、馬車に乗り込む。御者が馬を宥めているのが目に入る。

人目を忍んで、授業が始まって暫くして出発する。

馬車の停まっている場所には屋根がついているので、落下物への心配はない。また伯爵家の玄関の馬車寄せも屋根付きだ。なるべく体質の事がバレないように回避と軽減策を自然に行えるよう2日間考えた。

千加曰く気持ちを込めて作った物に力が宿り、私の不運が分散される。本来なら物が残らない方がいい。燃やせるなら燃やした方がいい。料理や趣味の刺繍は効果的だった。

一日一回手のひら大の刺繍の作成を毎日続けると、外出時の落下物被弾数、不審者遭遇率が大きく減った。半分以下になる。

だが、体質のことを内緒にした状態で料理と刺繍は危険だった。処分に困る。耐性のない人が持つと、何でもない所でこけて怪我したり、動物に追いかけ回されたり、鳥の糞が当たったり、ちょっとついてない状態が一週間は続くらしい。

不運体質と加護が関係しているなら、この世界でしか出来ないことをしてみようと、効果の程を検証するには時間が足りないが、魔法を使ってみる事にした。

魔法には、属性特化魔法という種類がある。自らが持つ加護と加護レベルが影響を及ぼす魔法だ。

例えば、火属性は火を、水属性は水を生み出したりする事が出来る。

ミランダに魔法の使い方を教えてもらった。知識はあるが、体験していないから、よく分からないからと理由をつけて。実際、興味はあったからこの機会にという下心もあった。

「火や水の属性特化魔法は、想像しやすいんですが、闇属性の特化魔法ってどういう魔法があるんですか?」

素朴な疑問なんですけど、と問い掛けると、ミランダから返ってきたのは、

「影を操ったり、気配を消したり、姿を隠したり、暗闇を作ることもできます。でも、地味ですよ。」

残念でしたねという言葉だった。

え?めちゃくちゃ汎用性のある魔法だよね。情報収集に役立つし、気配が消せれば余計な事に巻き込まれなさそう。目立たないのも利点。なんで、残念でしたって言うんだろう?

「そうなんですね。でも、使ってみたいです」

ミランダが教えてくれたのは、魔力の流れを意識する方法。これができれば、魔法は使える。

ミランダは私の手を握り、魔力を微量流す。静電気が発生したようなピリッとした感覚。

「少し強めます。自分に合う言葉で形容して下さい。そうすると、より容易くなります」

この感覚を表すなら、なんだろうか?まずヨガ、気功のような何かが身体を巡るイメージする。何かしっくりこない。脳波のような電気信号でイメージする。

パチッと指先で音がした。

「これで終わりです。後はどういう現象を起こしたいのかを明確に思い浮かべ、魔力を流すだけです」

自分の影から影人形が立ち上がり、ダンスするのをイメージし魔力を流す。すると、テディベアのようなずんぐりむっくりとした黒い人形が影から出てきた。よいしょと掛け声を発しているようなゆっくりとした動きだ。そこから、盆踊りのような動きでゆらゆらし始める。

「ヒップポップはイケるかな?」

イメージを足す。影人形も私のイメージ通りの動きをする。パントマイム、フラダンス、バレエ様々な動きで試す。

「リオ様、魔力を使い過ぎると疲れてしまいます。ほどほどになさって下さい」

ミランダに止められたので、人形を影に帰す。バイバイと手を振り、影に溶けて消えた。

「愛嬌のある影人形でございましたね」

「その方が可愛いかと思って」

「リオ様はダンスも嗜まれているのですね」

「いえ、見た事があっただけです(テレビで)」

ミランダが興味深げに頷いている。そして、今度は自分の影で人形を作りだす。さっきの私が出した人形と似ていた。

「可愛く作るという考えがありませんでした。結構いいものですね」

闇属性特化魔法でよく使用されるのは、姿を隠す魔法。

属性耐性がない人には完全に姿が見えなくなるという魔法。耐性があってもレベル差があると感知はできない。なんとなく何かがいるぐらいにしかわからないらしい。

「リオ様が本気で使えば誰も感知できませんので、覚えていて下さい」

ミランダからどこまで本気かわからないことを言われた。

気持ちを入れて使った魔法が不運の軽減策となれば、ここにいる間だけでも安心できる。

色々応用出来そうな魔法を考えては試しの繰り返しで出発当日を迎えた。

馬が若干怯えているが、その程度で済んで良かった。何もしなかったら、逃げられてる所だ。属性特化魔法のでの不運軽減策の効果を感じる。

馬車で王都郊外まで移動し、サイス領へ通じる移動術式を使いサイス領の首都近くまで移動し、屋敷を目指す。

学園は王都の中心部にあるので、五時間程の道のりだ。休憩を取りながら向かうので、そのくらいかかるのが一般的だとグラッドに教えてもらった。

学園の敷地を出る。外から見た学園は石造りの外壁が、要塞のように見えた。もしかしたら、要塞としての機能もあるのかもしれない。余り目につく行動はできないので、窓に張りつき外を眺めたい気持ちを抑えた。

その一助となったのが、馬車だ。馬車の中は、思ったよりも広い。しかも、シートはふかふかだった。お尻が痛くない。

「凄いふかふか」

「サイス領の馬車は、特別製なんです。初代様が馬車のシートの改良に熱心だったので、代を経てもその技術改良に余念がなくて。こんなにふかふかになっています」

確かにこんな馬車見たことない。写真集とか図鑑で見た馬車とは作りが全然違う。ミニバン二台分位の大きさがある。二両編成で、先頭車両はふかふかのシートがテーブルを挟んで向かいあっている。その横に細い通路があり、後部車両と繋がっている。後部車両には、侍女や侍従の控えている。今日はミランダだけが乗り込み、セシルは馬車には乗らず、単騎で周辺の警戒を行なっている。

また軽食などが用意できるように設備が整っている。その間はカーテンで区切られている。

イメージは寝台列車かな?と思わずにはいられなかった。

サイス領の初代サイス伯爵は召喚者だ。その当時、国は荒れて王族同士で争っていた。末の王子が国を平定するために自らの腹心となってくれる人物を二人召喚した。初代シノノメ侯爵と初代サイス伯爵だ。

クラリスは歴史は余り好きではないようで、概要しか勉強していなかった。まさか、こんなふかふかシートに座れるのも初代様のおかげとは知らなかった。

サイス領についたら歴史書を貸してもらおうと心に決めた。

「振動はどうやって軽減してるんだろう。魔道具かな」

振動が少ない事に驚き、呟く。

「はい、その通りです。6個の魔道具で、振動を軽減しています。そのおかげで防音になっています」

グラッドが答えてくれるので、思いつくままに、質問を重ねる。

「魔力式ですか?加護式ですか?」

「設計者はどなたですか?」

「馬車という概念を超えてますが、車両をひく馬は二頭で足りているのですか?」

などなど。夢中になっている間に王都の中心部(一般的に王都と呼ばれている場所)から外に出ていた。

教えてもらっている間は、グラッドの顔を見ていられたのだが。我にかえると、つい視線を逸らしてしまう。

「リオさんは、勉強家だとミランダからきいています。宜しければ、こちらの本を読みませんか?分からないことがあれば、教えますので」

グラッドが鞄から一冊の本を取り出す。応用術式の教科書だった。クラリスは基礎術式しか受講していなかったから、気になっていた。

「いいんですか?グラッドが、読む為に持ち込んだのでは?」

「いえ、最初からお薦めする為に持ってきたので、遠慮なく」

グラッドは確か、応用術式ではとても優秀な成績を収めている。座学、実技の総合一位だ。

「ありがとうございます」

教科書を受け取り、早速読み始める。最初の休憩で馬車が止まるまで、読書に夢中になった。

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