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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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ドキドキ

昼食の後に、アリーシャの代わりについたのはジルだった。

「久しぶりね、ジル」

「はい。リオ様」

「お茶をお願い。私は少し資料を読みます、控えていて」

ミランダめ、と内心思いつつ微笑む。

質問対応集を読みながら、お茶を飲む。以前より上手になっていた。

そうして暫く過ごしていると、ミランダが部屋に入ってきた。そこまで集中していなかった私は、すぐ顔をあげて迎える。

「リオ様、お待たせいたしました」

「宜しくお願いします」

この後はダンスの練習だ。ヒールで踊る。

「お一人で練習されたようですね。お上手ですよ。」

男性パートを楽々と踊るミランダに褒められてもあまり嬉しくない。

「背筋伸ばして、そうです。疲れたら腰がひけるので気をつけて、はい。足は大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「ステップもいいです、相手のことをみて。照れないこと。実際はそこまで長くは踊りませんが、練習が足りないことは見ればわかります。落ち着いて、当日はグラッド様に任せておけば大体のことはなんとかなります。リオ様自身のダンスも悪くありませんので、失敗を恐れず踊りきって下さい」

「どれだけグラッド、様って凄いんですか。」

「あのセシルのダンスレッスンを未だに受けているんですよ?私は嫌です。もう絶対、セシルには習いません」

うわぁ、ミランダにそこまで言わせるセシルさんのダンスレッスンって一体……。

「いいでしょう。リオ様のダンスは問題ありませんね。申し訳ありません、結局今日しかダンスレッスンの時間が取れなくて」

踊り終え、呼吸を整えていると突然ミランダが謝る。

「いえ、元を正せば私のせいでもありますし、色々急な事ばかりだったので。こちらこそ申し訳ない気持ちでいっぱいです」

どう考えても私のしたいことを優先して進めてくれた結果だ。それをとやかく言う資格はないし言うつもりもない。

ありがたい気持ちしかないのだ。

「そう言っていただけると助かります」

「ミランダ、一緒にお茶でもいかがですか?それともまだ忙しいかしら?」

「いえ。この後の予定はありません。ご一緒させていただきます」

席を勧める。ミランダが席に着くと、ジルがタイミングよくお茶とお菓子を運んできた。

以前より動きが改善されている。お茶を淹れ、彼女が下がるとミランダが口を開いた。

「目星い侍女はいましたか?」

「ニーナは確定で、イザベラは考え中です。先程侍女にしてほしいと直談判されました。」

「そうでしたか、他の方々はどうやら駄目でしたか」

「ミランダ。アリーシャのことですが、」

「あ、バレてしまいましたか」

「侍女にするわけにはいかないのではなくて?」

「そうですね。グラッド様に私が怒られます。ですが、彼は女として育てられ、男と女をどちらも利用する強かさがとても好感がもてます。後、イザベラしかみていないところが安心ではあります。」

あの饒舌さはそういうことか。

「明日は午前中だけ新しい侍女をつけて、午後からは私がつきます。話し合いがあるので」

「いよいよですね、ちょっと緊張します」

明日の予定を確認しながら、お茶を飲んだミランダが顔を顰める。一応、良くなってますよとフォローしたが、小声で特訓ですねと呟いた。


夕食後、ジルを下がらせた。ベッドに寝そべって考える。

イザベラのことだ。

髪を切った彼女を見た時、特に何も感じなかった。

グラッドに話したから落ち着いた?本当に髪型だけ?

彼女を思い出して具合が悪くなったと自覚したから?

髪型を変えただけでちょっとは良くなったから、やっぱり髪型の問題なのかな。

他の要素は、悪くなかった。話も面白かったし、集中した私を引き戻すのも上手かった。

「よし、決めた」

イザベラも専属侍女に加えよう。

ジルは申し訳ないけど、なしだった。良くはなっているだろうけど、間が合わないのはどうしようもない。

「明日か、ドキドキする。」

枕に顔を埋める。

千加が、この世界にくる。神様の依代は合格だろうか。一応予備のパーツを何種類も作ってある。気に入ったパーツを付け替えるためだ。洋服も種類を揃えたし、神様に会ったらちゃんとお礼しないと。

「何か要求されるかな、はぁ。変顔は嫌だな。辛かった」

何度かお世話になったことがあり、その度にヘンテコな要求をされている。

逆立ち、クワガタに挟まれる、変顔、等等。

変顔は何度もやり直しさせられ、最終的に面白くないで神様が諦めた。あれは、半泣きものだ。

「はぁ、緊張する。」

と言ったことまでは覚えている。気づけば朝だった。

やっぱり神経図太いんだなと感心する。早い時間だったが、風呂にも入らず寝ていたのでまず入浴しようと行動を開始した。

ミランダがくる前に支度を済ませ、こっそり側務めの控え室でお茶を淹れる。見られたら叱られるのでさっさと飲んで片付ける。

普段は水差しが用意されているが、ジルが用意を忘れたのか今日は何もなかった。

「香りがするなぁ、バレるよね。うーん、吸収の可能性を試してみる?」

闇属性の性質に吸収がある。概念的なものとされているが、物質も可能なら色々活用できる。

取り敢えず、空間に漂う紅茶の香りを吸収と想像する。イメージは脱臭剤だ。

魔法を発動する。紅茶の香りがしなくなったが、結構魔力を消費する。

「なんでこんなに消費したんだろう?細部まで想像してないからかな。でも、概念の吸収はあまり消費も多くないのに」

取り敢えずメモっておこう。テーブルに備えている用紙に実験概要、手順、結果、疑問を書き連ねる。

「ミレニア様なら、わかるかな。」

空間消臭だったけど、吸水も可能かな?消火もできる?空間から酸素を吸収できれば、、汎用性が半端ないな。

思いついたことを書き留めている間にミランダがやってきた。

「おはようございます、リオ様」

「おはようございます」

「朝からお勉強ですか?」

「いえ、これは。魔法の実験案です。後でミレニア様とお話ししようかと思いまして」

「ほどほどになさって下さいね」

ミランダはポケットから手鏡を取り出した。

「今日はこの鏡で、呼びかけていただけますか?」

「わかりました。でもわざわざ用意しなくても、私の鏡でよかったのでは?」

「グラッド様から贈られた鏡を持ち出すわけにはいきませんので。」

「思い至りませんでした、気をつけます。ミランダ、もう声かけてもいいですか?」

「はい。お願いします」

軽く息を吐く。鏡に向かって、呼びかける。

『千加』

「はいはい、おはよう。」

千加の気の抜ける挨拶に、思わず笑った。

「チカ様、本日は宜しくお願い致します」

「ミランダさん宜しく。じゃあ、行きましょうか」

鏡をミランダに返す。すぐさまミランダは踵を返し部屋を出て行く。

あ、今日の侍女って誰がつくんだろう。

と思ったら、アンナが一人の侍女を連れてきた。

「おはようございます。リオ様。本日つく侍女を紹介させて下さいませ」

「おはようございます。アンナ」

珍しい髪の色をした侍女が一歩前にでる。金髪なのだが、黄緑っぽい色味が混ざっている。不思議な色合いだ。サラサラの髪は肩の高さで切り揃えられている。

「お初にお目にかかります。ノヴァでございます。宜しくお願い致します」

人形みたいに整った顔が緊張で強張っている。

「宜しくお願いします、ノヴァ。」

安心させるように笑いかけると、ノヴァの肩の力が少しだけ抜けた。

黄緑の瞳が髪色と合っていて、とても綺麗だった。

朝食後、ノヴァと話していて分かったことがある。

彼女はコランダムの騎士爵の出身で、騎士だった。魔獣討伐任務中に負傷し騎士を続けられなくなった。旧知の仲のミゲルの紹介でサイス領へきたという。

「そうだったのですね、古傷は痛みませんか?大丈夫?」

「はい。私の所属していた部隊はコランダムの北部を拠点としていたので冬場は痛みましたが、サイス領は温かいので痛くありません。お気遣いありがとうございます」

ミランダやグラッド、セシル以外からミゲルの話が聞きたくて、そう伝えると

「ミゲル、ですか。」

眉間に皺が寄った。

え、?!そんな感じ?嫌なの?!

「ノヴァ、嫌ならいいんです。無理しないで、ね」

「ミゲルは男も女も関係なく生意気な相手は足蹴にします。たまに理不尽に足蹴にされるので、何が基準なのかはわかりません。横暴ですが、礼儀は弁えているので、彼の実力を認めている高位貴族は多いです。礼を尽くすにあたわない相手には傲岸不遜な態度は崩しません」

ノヴァはミゲルの話をしてくれたが、終始眉間の皺はそのままだった。足蹴にされたのだろうか?

「彼の戦い方は、相手の隙を執拗につきます。別に悪いことはないんです。勝てばいいのですから。ミランダと一緒に戦うことを考慮しているんだというのも理解できます。ですが、なんと言えばいいのか。やり方が嫌らしいです。わざと飛びつきたくなる隙を至って自然にみせて誘ってくる。しかも相手はそのことに気づかない」

「凄い方なんですね」

「凄い人ですが、態度と言動がそれを素直に認めたくない気持ちにさせます」

本当に苦々しい表情で答える。

「どうしたら勝てますか?」

「魔力差があれば、初手で押し切る。もしくは、至近距離まで一気に詰める。私に考えつくのはこのくらいでしょうか。私は彼に勝てたことがないので、想像がつきません」

「ノヴァ、面白い話をありがとうございます。」

そういえば、グラッドもミゲルの攻撃を避ける試験はクリアしたって言ってた。けど近中距離を得意としているんだったよね。攻撃手段が投擲系なのかも。詰められると弱いってことは中距離メインなのかな?

「リオ様が対戦する必要はありません」

考えていることが顔に出ていたようだ。すぐにバレる。

「その時はリオ様を連れて全力で逃げます。」

ノヴァは何かを決意したように力強く拳を握った。







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