意外な側面
目が覚めると、グラッドがいた。
一瞬混乱したが、昨日一緒に寝たんだと思い出した。
寝顔は、大分幼くみえる。いや年相応にみえるのか、普段は自分の中の十五歳の定義が揺らぐくらい大人びている。
体を起こす。
グラッドを上から横から観察する。寝癖がついてる。可愛い。ずっと見ていたい位だ。
しかし、気持ち良さそうに寝ているところ忍びないが、ミランダが来る前に起こさなくては。
「グラッド、起きて下さい。ミランダがくる前に戻ったほうが、」
肩をゆする。
「う、ぅぅん」
グラッドは寝ぼけ眼のまま、半身を起こした。かと思いきや、私の腰に抱きつく。
「グラッド?ねぼっけーなのかな、、ミランダがくる前に戻って下さい」
暴れたりしないよね?とグラッドの頭を撫でる。
「ん?リオさんは面白いことをいいますね。ミランダなら、そこに居ますよ?」
グラッドの言葉に恐る恐る振り向くと、無表情に此方を見つめるミランダがいた。
「グラッド様、少し羽目を外しすぎではありませんか?」
「気のせいですよ」
腰に抱きついたままグラッドがそう宣う。
いやいや気のせいなわけあるか!と私は内心突っ込む。
「わかりました。では、すぐに部屋にお戻りください」
「もう少しは、流石に叩き出されてしまいますね。仕方ありません。戻ります。」
グラッドが私の腰を解放する。軽く頬にキスされた。
「魔法は必要ですか?」
ミランダからの問いに
「そうですね、軽めに短時間でお願いします」
と返す。
グラッドはベッドを降りると、爽やかな笑顔で部屋を後にした。
「さて、リオ様」
「う。ひゃい」
ミランダはベッドに腰掛け、私の表情をじっと観察する。
「元気になられたようですね。苦しい気持ちはグラッド様に言えましたか?」
「あ、はい。気づいていたんですか」
「ええ。リオ様はあまりそういう気持ちを言いたがらないのでよかった。ですが、無防備にも程があります。グラッド様だから堪えられるものの」
はぁと大きなため息をつく。
「あの、ミランダ。なんでグラッドなら堪えられるんですか?」
素直な疑問を口にした。
「水と金属性加護を持っているから、です。水は冷静を金は冷徹という加護分類的な意味合いがあります。自制心の高さは保証しますよ。まぁ、グラッド様の場合同時に火も持っているので短時間ならってとこですね。昨日は魔法で補強していたんでしょう」
なるほど。
因みに金属性のみは頑固な性質に、金と火の組み合わせはより情熱的になる傾向があるそう。
「金属性加護があると指揮官としては優秀になる傾向がありますね。判断の速さと割り切りが出来る方が多いので、あ、失礼しました。つい熱が入ってしまいました」
ミランダが好きな話題だったようだ。凄く活き活きしていた。
「今日も別の侍女をつけても構いませんか?」
「はい。お願いします。あ、あのミランダ少しお願いが、あって」
「?はい、なんでしょうか?」
「クラリス様の記憶の中から性教育の知識が抜け落ちているんです。それで、その。私に教えて欲しくて」
「なるほど。クラリス様はお風呂の際に体の隅々まで確認する習慣がございましたが、その記憶はありますか?」
「?いえ、無いです。」
「確認ですが、召喚前日のことです。私がお風呂の備品確認中にクラリス様が入ってきてそのまま気にせず入浴されました。その時に丁度いいから背中の確認をしてと髪をあげて私に見せてきたことは?残っていますか?」
「はい」
「その後の胸が大きくなるにはどうしたらいいのかという会話は?」
「ないです」
「なるほど。もしかしたら、記憶の喪失には召喚が影響しているのかも知れませんね」
ミランダは少し考え込み、
「リオ様への性教育は、チカ様がいらしてから二人同時にしましょう。友人ということは教育の進度は似たようなものでしょうから」
そう提案した。
「は、はい。お願いします」
「それでは、侍女を呼んで参ります」
ミランダも部屋を出て行った。ドアが閉まるのを確認して、ベッドの上で防音室を発動する。
いやああああぁぁぁぁ!!恥ずかしいー!!
きゃああああぁぁぁぁ!!
と散々昨日の事を思い出し、のたうち回る。
そして、最中にリオと呼び捨てにされたことも思い出して叫ぶ。
恥ずかしいぃ!でも好き!!まじカッコ良すぎだよぉ!
つか、どんな教育課程!?気になる!
叫びに叫びにまくって、落ち着いたので防音室を解除した。
今日の侍女は昨日とはうってかわって地味な方だった。
焦茶の前髪は目にかかるほど長く彼女の視線をわからなくさせていた。背中で三つ編みが揺れているが、気にならなかった。背が高く、歳は同じ位か。
朝食の後、婚約パーティーの会場になる広間へと向かう。
そこで社交の準備についての説明を受ける。お茶会、夜会、様々な場面の基礎の基礎から、応用まで。昨日覚えたリストを元に指示をだす。
女主人の情報収集能力が試される場だと認識した。
「相手が隠したい情報を知っている事を仄めかして主導権を握るなり、敢えて知らないフリをして油断させたり。そういう事ができると色々便利だと大奥様に言われたわ」
「頑張ります。」
「情報を集められる配下を持ちなさいってことだとは思うけれど、難しいわ。年嵩の貴族の方々からは、まだ怖さが足りないと言われるもの。」
「それは、大奥様は凄い方だったのですね」
「そうね。美しくて、なんというのかしら妙な圧迫感のある方だったわ」
美しくて圧迫感のある、女性。
「リオさん。ミランダから聞いているとは思うけれど。選べそう?」
「あと二人を探している途中です。」
「一人目はどなた?」
「ニーナを考えています。」
今日私についている侍女をそっと確認する。彼女は個性がないのが個性なほど掴めない。話をしてみたけど、よくわからなかった。
「そう、一人でも見つけられて良かったわ。」
「ですが、」
「明日は取り敢えずニーナだけを指名して、ニーナとミランダの意見を聞いて相性をみながら選べばいいわ」
「明日までに決めると思っていました。」
「ふふ、納得するまで考えて下さいね」
使用人達の動きを監督しながら、指示の出し方なども練習する。
一通り手順を確認して、部屋に戻る。
部屋の前に一人の侍女が立っていた。派手な顔立ちの彼女は、私に気づくと近づいてきて、私の前で跪いた。
「リオ様、無作法をお許しください」
「あ、貴女は、」
昨日の彼女だ。ただ、一つ違うのは
「イザベラです。リオ様、私をリオ様の侍女にして下さい」
長かった金髪が短髪になっていた。
「どうして、髪を」
それを指摘すると、
「あ、いえ、これは切ろうと思っていただけで、特に深い意味は」
焦ったように言い訳し、笑う。
「イザベラはリオ様の具合が悪くなったのは、自分のせいではないかと思い悩んでいました。」
「アリーシャ!」
「髪を纏めるように言われたから、もしかしたら髪型が何かを想起させるのではと考えたようです」
初めてこんなに喋るアリーシャをみた。私が話をしてもこんな長文で喋らなかったのに。
「リオ様、イザベラはこんな派手な顔立ちをしていますが、休日はもっぱら街歩きしながら美味しいものを求める、ただの食い意地のはった町娘です」
「食い意地のはったは、言い過ぎじゃないかしら?」
流石にそれはどうだろうと思い、そう言ったが
「いえ、事実です」
はっきりと断言された。
「アリーシャ!!」
しれっと失礼なことを言いつつ、アリーシャはイザベラのフォローをする。
「何故、私の侍女になりたいの?」
イザベラを見つめ、尋ねる。
「私の、実家を笑いませんでした。それどころか工房巡りをしたいとおっしゃっていただけて嬉しくて、あと、」
真剣な表情のイザベラが、最後少しだけ言い淀んだ。
「リオ様の肖像画を描きたくて」
??肖像画?
「イザベラの趣味は絵を描くことです。中々の腕ですよ、リオ様。それに彼女は道具屋の娘ですので、手入れは得意ですし、素朴な人柄が弄り甲斐があっていいです」
しかし先程からアリーシャが饒舌だ。
「アリーシャはイザベラが好きなのね。こんなに饒舌になるなんて」
笑いながら指摘するとアリーシャが照れたように顔を背けた。
「イザベラ、少し考えさせて下さい。明日、お返事します」
「わかりました。失礼致しました」
イザベラが去り、部屋に入る。少し気になったことを尋ねる。
「アリーシャ少しいいかしら?何故侍女をしているの?」
「リオ様どうしてその様なことを、」
「だって、男性ですよね?」
私の言葉にアリーシャは驚きを隠さずに言う。
「いつ気づいたのですか?」
「先程イザベラの話をした時にです。それまでは気づきませんでした。」
「そうですか。」
「このことは、誰が知っているの?」
「リオ様以外は全員周知の事です。恐らくミランダ先輩が試しているのでしょう。」
「そうでしたか、焦りました。」
「?何故ですか?」
「?ミランダが知らない筈はないので、どのように隠していくべきか話し合わないとと思いまして」
アリーシャは呆れたように笑う。
「お人好しって言われませんか?気持ち悪くないんですか?」
砕けた口調でそう言われた。取り繕う様子はない。
「まぁ、お人好しとは言われたことはありますけど。気持ち悪くないです。アリーシャは違和感もないですし、」
「変なお嬢様ですね」




