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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
125/605

苦手

午後から別の侍女に代わる。

私の周りにあまりいない種類の人だった。なんだろう全体的派手だ。化粧っ気はないのにまつ毛はバチバチ、唇は赤い。

クラリスの記憶には何度か登場している。クラリスとは美的センスが同じなようだが、私とは微妙に感覚が合わない気がする。

昼食のあとリストを覚えるために集中しようとするが、目の端にちらっと映る彼女に意識を割かれ全然集中できなかった。

「お茶のおかわりをお願いします」

お茶を淹れる技術は凄く高い。高いのだが、それだけだ。

味に彼女の特徴がでない。それは良いことなのかもしれないけど、私はニーナのお茶のほうが好きだった。

「少しいいかしら?」

「はい。リオ様」

「私、サイス領にきたばかりでまだサイス領のことを良く知りません。クロムで人気のあるお店を知っていたら教えてくれませんか?」

ちょっと話してみよう。第一印象で苦手だと思っているだけかもしれないし、誤解ならもったいない。

「はい。現在クロムで人気があるのは」

彼女は飲食店から服飾店、人気の冒険者や新進気鋭の職人まで色々な情報を教えてくれた。

「凄いですね。良く街には出るのかしら?」

「はい。好きでよく街歩きをしています」

「職人工房まで知っているのはどうして?」

「私の実家は職人工房で道具の製作をしています。ですから、皆顔馴染みで」

「そうなのね。少し落ち着いたら工房巡りをしてみたいわ」

「その時は是非ご案内致します」

「ありがとう」

それから老舗のお店や伝統の味について話し、彼女の話の中立性に気づいた。どの店に対しても良い点と悪いとは言わないけど他店より遅れをとっている点をあげる。

その感想が面白いと思った。

「それで、その、お使いをお願いしてもいいかしら。さっきの話に出た焼き菓子なのだけど」

「かしこまりました。人気店と老舗店の両方ともご用意致します」

「ありがとう」

「失礼致します」

彼女が部屋を出て行った。

ぱたんとドアが閉まる音を聞いて、

「話すと印象が変わるパターンだったな」

思わず呟く。

午前中のララは最初の印象、話した印象は悪くなかった。

ただ、私との歩幅の違いを修正する気がない姿勢が嫌だった。

彼女は最初の印象が良くなかった。一目みて心の何処かが騒めく、そんな気持ち悪さがあった。

でも話してみると全然悪い気はしない、ただの派手な普通の人だった。

「難しい」

彼女は濃い金色のカールした髪を後ろで一つ纏めて垂らしている。あの髪型が気になるのか?ポニーテールだから、揺れる度に目を引くのか?

戻ってきたら髪をお団子にしてもらう?一度無理でないならお願いして試してみよう。

彼女が不在の間、先程読むのをやめたリストをもう一度読む。

「リオ様」

しかし良く描けている。記憶にある顔と似顔絵を見比べてそう思うなら知らない貴族も会ったらすぐわかるかもしれない。顔と名前が一致するのは助かる。その他の情報も覚えやすい。

「リオ様」

へぇ、ダンスが趣味。優雅なダンスで有名な方なのか。なるほど、パーティーでみれるかな。

「失礼致します、リオ様。」

リストに影が落ちる。

私はふと顔をあげて影の原因を探ろうとし、彼女と目が合う。

「リオ様、勉強中に申し訳ありません。グラッド様がいらしております。お通しして宜しいでしょうか?」

「は、はい。お願いします。知らせてくれてありがとう」

「いえ。お菓子は先程購入した焼き菓子をお出しします」

購入してきたってどれだけ無心で読んでいたのか。

テーブルの上に広げたリストを片付けて、立ち上がる。

「リオさん。すみません、なんの連絡も無しにきてしまって」

グラッドが部屋に入る。何かあったのだろうか?

「いえ。ですが、どうされたのですか?」

「会いたくなって」

「グラッド様、ちょっとつねっても宜しいですか?」

侍女の手前、様付けで呼ぶ。

「冗談です。忙しいのは分かっています。話があって」

「もう。ではこちらにどうぞ。」

テーブルに招く。お茶とお菓子の用意が整ったら、控え室に下がってもらう。

「これは、」

「先程の彼女に、話を聞いて用意してもらいました。人気店と老舗店の味を食べ比べてみたくて」

「なるほど。」

お茶とお菓子を楽しみ、グラッドが本題に入る。

「魔法省で確保中の魔獣が死にました。」

私が何も言わずにいると、グラッドはそのまま続ける。

「私達が領地に戻った日に死んだと報告書が届いたと先程養父上から話がありました。貴女には私から伝えるようにと」

グラッドが死期を調整したボス特性をもった魔獣。

「報告書には、他に何か」

「いえ、特には。研究施設が復旧作業中だったので魔素濃度を測るくらいしか出来なかったようです」

「そうでしたか、」

「複雑な気持ちですか?」

「はい。ですが、少しほっとしています。」

「ところでリオさんは、どこまでリストを覚えられましたか?」

「リストですか?えっと」

片付けたリストを文箱から出して、グラッドにみせながら

「こちらの方のダンスが優雅だという、ところまでです。」

覚えていた箇所を指差す。

「これは、面白いですね。似顔絵?」

「はい。ミレニア様の侍女が描いた絵なんですが、特徴を捉えているとのことでしたので会えるのが楽しみです。」

「楽しみながら覚えられるなら良かった。」

「グラッド様はリストの方達の名前と顔は一致していますか?ミレニア様はこういうのが苦手だとおっしゃっていたので、グラッド様はどうなのかな?って気になりました。」

「私は特に苦労はしませんでした。」

凄いな。父さんは人の名前は完璧なんだけど、顔を覚えるのが下手だった。私もちょっとだけ苦手な部類だ。クラリスの記憶があるから助かっている部分もある。

「グラッド様って苦手なことないんですか?」

クラリスの記憶にある限り、グラッドに苦手なことなんてない。勉強も嫌いじゃないし、運動神経もある。絵もある程度描けて、楽器も弾ける。ダンスも出来た。

「苦手、ですか。」

「はい。私はちょっとだけ人の顔と名前を一致させるのが苦手で、あと計画を立てて行動する経験が少なくて上手くできません」

不運体質の厄介なところは計画をたてればたてるほど影響が出た時のショックが大きいところだ。

計画途中に膨れあがった期待感が全部負の感情として戻ってくる。計画をたてることが出来なくなったし、学校行事には殆ど参加していない。

「グラッド様が助けてくれたから、今は将来の計画をたてられることが嬉しい。やっと実感しています。ありがとうございます。だから私もグラッド様の力になれるようになりたい」

「リオさん」

グラッドは私の隣りに立ち私を優しく抱きしめる。

私も抱き締め返しながら、気持ちを吐露した。

「学生じゃなくなったら、どうやって生きていけばいいのか、全然分からなくて不安で苦しかった。だから本当に感謝しています。私、」

優しく背中をさすられて、涙腺が緩む。

「リオさん。泣かないで」

零れる涙をグラッドが拭う。それから軽く口づけられた。

「うぅ、無理です。グラッドがいっぱい抱きしめてくれたら泣き止みます」

「わかりました。」

手を引かれ、立ち上がる。まるでダンスを踊るかのように腰を抱かれ強く抱き締められた。

「泣き止みましたね?」

「まだ駄目です。もう少しこのままがいいです」

仕方ないなと小さく笑ったグラッドは、

「怖い話は苦手です。魔霊って知ってますか?」

軽い口調で尋ねる。

「まりょう、ですか、確か精霊が死んだ人間と一つになって夜な夜な彷徨うという怪談話にでてくる、アレですか?」

「はい、アレです。」

ゾンビタイプと幽霊タイプがいる。でも怪談の中だけで実際はいないと言われている。

「意外です。」

「母はこの手の話が得意でよく寝物語で話してくれたのですが、怖くて眠るどころではなくてですね。毎晩泣き疲れて寝るという時期を経てからは苦手になりました。」

うわぁ、寝物語のチョイス。

「しかも母が好きで色んな話を仕入れて聞かせるものですから、話をたくさん知ってるんです。知ってても怖い」

「確かに怖いものは怖いですね」

グラッドの背中を撫でて慰める。

「でも安心して下さい。ゴーストタイプの魔霊が出たら私が殴りますから。」

「?殴る?」

「はい。千加から『幽霊』『お化け』魔霊のようなものですね。それを見ちゃったら殴れと教わりまして、殴り方も伝授してもらいましたので安心して下さい」

「ふふふ、豪快ですね。わかりました、すぐに呼びます」

「大概は不安と錯覚ですから」

「身も蓋もない言い方」

今日もグラッドはいい匂いがする。

「リオさん、リスト覚えなくていいんですか?」

「うぅ、覚えます。けどもう少し一緒にいたいです」

「なら一緒に覚えましょう」

グラッドと並んで座り、リストを読む。一通り読んで、グラッドがリストから特徴を読み名前をあてるというクイズ形式をとる。

クリスとの動物クイズを思い出して楽しくなった。


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