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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
124/605

キラキラ闇魔法

「と、いったところでしょうか。質問はありますか?」

婚約期間の教育、肌合わせ、結婚後の妊娠出産や跡取りについて。サイス領特有の内容も多かった。

「あの、肌合わせの話とか性教育はもっと早く話あったほうがいいのではないでしょうか。」

「?」

性教育の知識がない状態でこの話をされると困ると思う。私はある程度、教育を受けたから理解できるけど。クラリスにはその知識はなかった。

防音の魔力壁を張り、

「クラリス様は知識としてなかったので、そのどのようにしたら子どもができるとか」

と伝える。

「リオさん、十歳の誕生日の記憶はありますか?」

ミレニアの顔色が悪い。まさか、

「ありますが、祝いの宴があって、でもそれだけです。記憶が抜けてますか?」

「えぇ。祝いの宴の後、男女の体の違いについてや子どもをつくる方法を話しました。クラリスは衝撃を受けていましたが、真摯に受け止めていました。」

消えた記憶の類似性がわからない。千加は風属性との反発と言っていたが。

「あ、で、でも私は知識があるのであちらで困ることはないかと」

慌ててフォローをする。

「そ、そう。……駄目ね、あの子の事ばかり心配して。訣別すると決めたのに」

「ミレニア様、そんなこと言わないでください。クラリス様はミレニア様とフレッド様の娘です。ずっと何があっても二人の子どもです。クラリス様のことを嫌いになったのでなければ、心配も愛情も隠さなくていいです。と、私の母ならそう言うかも、です」

「全く貴女は。性分なのでしょうね」

ミレニアは立ち上がると私の隣りに移動し、私を抱きしめる。

「ありがとう。リオさん。」

「いえ、」

大人しく抱きしめられていると、ライラが部屋に入ってくるのが見えた。少し具合が悪そうだ。

「ちょっとだけ、失礼するわね」

それに気づいたミレニアは席を立ち、侍女達に指示を出している。魔力壁を解除して、その様子を伺う。

「ごめんなさいね。リオさん。」

ミレニアが戻ってきた。また向かい合うように座り話を再開する。

「いえ、ライラさんは大丈夫でしょうか」

「今、妊娠中で無理せず休めと伝えているのだけど、働いているほうがずっと楽だと言って働こうとするの。わたくしはクラリスを妊娠していた時はベッドから起きあがるのも億劫だったのに」

「個人差はあって当然だと思いますが、対極にいますね」

「もうしばらくしたら、完全に休みにはいると本人が宣言してくれて良かったわ。三人目だからなんとなく分かってますって言われると強気にでられないというか」

最後の方は愚痴っぽくなった。

「ライラさんって幾つなんでしょうか。」

「わたくしと同じ歳だったかしら。三十四ね」

「あの。不躾な質問なんですが」

「なにかしら。」

「もしミレニア様に子どもが出来たらその子が跡取りになったりはしないのですか?……すみません。そういう歴史上の出来事を知っているので気になって」

「条件にあう子どもなら、後継者候補にはなるでしょう。ただ、領主はサイス領の役割を理解している者の中から選びます。候補者が複数いても構いません。それから次期領主が理に反するような行動を取らない限り現領主が認めた次期領主を下ろすことはありません」

「わかりました。ありがとうございます。それから失礼なことをいって申し訳ありませんでした」

妊娠出産はデリケートな話題だと教えてもらったことがある。

「いいのよ。無知は不信に繋がる、だから聞いてくれて良かったわ。子ども、か。……リオさん、ちょっとだけ聞いてくれる?」

「はい」

「わたくし、クラリスの後にも子どもができたことがあるの。でも、流れてしまって。それからは、怖くて子どもをつくれなかった。また流産したらって。だからグラッドが養子になってくれて、内心ほっとしたわ。フレッド様には本当に申し訳ないと思っているの、だから」

ミレニアが自嘲の笑みを浮かべた。その苦しそうな表情に、何か言葉が続く前に私は

「ミレニア様、キラキラ闇魔法を体験してみませんか?」

殊更明るく笑顔で提案する。

「キラキラ、闇魔法?」

「そうです。ミランダに教えてもらった魔法なんですけど、すっごく綺麗なんです。」

「え、ええ」

「じゃあ、いきますよ」

呆気にとられ半ば反射的に頷いたミレニアに、魔法をかける。

部屋にいた侍女の一人が、突然展開された魔法に驚き駆け寄る。

「奥様!」

その声に控え室に下がっていたライラも姿をみせた。私はソファから立ちあがり、両手をあげる。

「大丈夫です。何も悪いことはしていません。ミレニア様はキラキラ闇魔法を体験しているだけです」

笑顔で説明するも、警戒は解けるはずもなく、詰め寄った侍女に拘束される。

「早く解きなさい」

その拘束は抜けようと思えば抜けられるものだったが、大人しく受け入れる。

「わかりました」

魔法を解くと、ミレニアが涙を流して嗚咽を堪えていた。

「奥様!……貴様!」

拘束が強まる。ちょっと苦しいし痛い。

「やめ、やめなさい。リオさんを離しなさい」

私の状態を見たミレニアが慌てて命じる。

「ですが!」

「わたくしはなんともありません。いいから手を離しなさい」

「かしこまりました」

拘束は解かれた。が、まだ近くで監視している。

「ミレニア様、如何でしたか?キラキラ闇魔法。」

ソファに着席し、何事もなかったように話す。

「リオさん。ありがとうございます。苦しいのが和らぎました」

「それなら良かったです。私が辛い記憶を思い出させてしまったので苦しい気持ちを取り除ければと思いました。」

「ふふ。本当に綺麗でした。」

ハンカチで涙を拭うミレニアの表情は先程よりも大分良くなった。

「後で教えてくださいね。フレッド様にも体験して欲しいから」

「はい。喜んで」

「では、次は」

私の監視をしていた侍女が、文箱をミレニアに差し出した。

ミレニアから渡されたのは、

「このリストを見て下さい」

婚約披露パーティーに出席する貴族の一覧だった。

クラリスの知っている貴族と知らない貴族の名前がある。

そして、驚きの特徴があった。

「これは今回出席する方達です。覚えて下さい。」

「はい、わかりました。……この似顔絵は」

絶妙なタッチの似顔絵が描かれていた。

「わたくしは名前と顔を一致させるのが苦手で、苦労しました。それで、描いてもらっているんです。彼女に。特徴をよく掴んでますよ」

ミレニアは文箱を持ってきた侍女を見る。彼女は私と目が合うも厳しい目つきのままだった。いや、仕方ない。

「ありがとうございます。助かります」

「サーシャ、お茶のおかわりを。それから下がっていいわ」

「はい。かしこまりました」

彼女、サーシャはお茶を淹れると控え室に下がる。

「ごめんなさい。リオさん。サーシャが失礼な態度をとってしまって」

「いえ、元を正せば私が疑われるようなことをしたので気にしていません。どちらかと言うと拘束はもう少しちゃんとしたほうがいいのではないかと思いました」

「ミランダは容赦ないものね」

「はい。ピクリとも動かないので、ってミレニア様は何故ミランダの拘束技術を知っているんでしょうか。まさか、」

「えぇ、一度強制的に部屋に戻されたことがあって。」

「十年前の事ですか」

「ごめんなさい、やっぱり忘れて頂戴」

顔を手で覆うミレニアの耳は真っ赤だった。フレッドに怒られる気がする。

「はい、直ちに忘れます。」

気を取り直すように咳払いをして、ミレニアが話を再開した。リストにある貴族の性格や趣味嗜好をより細かく話し合った。

私が注意しないといけないのは、クラリスの記憶にある貴族だ。誰も彼も初対面なのだから、迂闊な事を言わないように気をつけないと。

「グラッドの実の両親、兄妹が参加します。妹さんとはグラッドも数度しか会ったことがないようです。」

アシュレイ・フロスト、フローラ・フロスト、オリバー・フロスト、ティエラ・フロスト。

初代様の子ども達の家系の一つ。フロスト家。

フォッグ地方では子爵に次いで名のある家。

「領地の高位貴族は殆ど参加します。お祝いの気持ちもあるでしょうが、主に次期伯爵夫人となるリオさんを自らの目で見極める為です。そこは意識して臨んで下さい」

「はい」

リストを握る手に力がはいる。

「明日はパーティーの会場となる広間で会場準備の監督と指揮をとる練習をしましょう。」

「はい。宜しくお願い致します」

ミレニアにキラキラ闇魔法を教えて、部屋を後にした。


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