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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
123/605

婚約期間

翌日。

ミランダから紹介されたのはララという侍女だ。ミランダと同年代の背の高い女性で、栗色の髪を結い上げシニョンキャップをつけていた。

刺繍がワンポイントで入っている。

ララには朝食の準備を任せた。

サイス伯爵家では基本的に夕食は食堂で揃って食べる。が、朝と昼は自室で食べても食堂で食べても構わない。

クラリスは食堂へ行きたがった。『部屋で食事をするクラリス』が使用人達に与えた衝撃は相当のものだったと今なら考えられる。

今朝のメニューはサラダとオムレツ、スープとパン。

結構この組み合わせはあるが、今日は

「ラビさんの卵料理ですね。美味しいです」

作り手によって味が変わる。

ラビの卵料理は料理長にも引けをとらない。凄く美味しい。

朝食を堪能した後は、ミレニアとの話し合いの為の支度を済ませる。

「ララ、場所はどちらでしたか?」

「奥様の自室で行うと」

「わかりました。案内をお願いします」

「はい」

ミレニアの部屋へ向かう。ララの歩行速度は少し速い。絶妙に私と距離ができる。私の方から合わせることはしない。

時折り振り返り私を待つが又距離があいてしまう。

「リオ様、こちらです」

ミレニアの部屋の前にライラが立っている。以前より少しふっくらとしていた。

ライラは私とララを見て、少し眉を顰めたが、

「ようこそいらっしゃいました。リオ様。どうぞ中へ」

一瞬で笑顔に戻った。

室内に通された。

ミレニアがソファから立ち上がり、私を手招く。前回は円卓だったが、片付けられている。ソファとローテーブルに代わっていた。

「リオさん、こちらへ。」

「はい。本日は宜しくお願い致します」

ミレニアと向かい合って座る。

婚約結婚夫婦についての話ということだが、どんな話だろうか?

お茶を勧められて飲む。仄かに花の香りのするお茶だった。

口の中で広がる香りに心が落ち着く。

「それでは、話を始めましょうか。まずは婚約期間中について」

婚約期間はおよそ一年から二年。その間に次期伯爵夫人としての教育を受ける。

「リオさんは婚約後も魔法省で働くので、この教育についての時間が取りにくくなります。結婚してからでも教育はおこなえますが、婚約期間中は何度か長めの休みを設けてサイス領に滞在してほしいですね。」

「わかりました。休みに関しては相談してみます」

「それで教育内容なのだけど、」

人を使う方法や領地内貴族との社交、使用人達の採用解雇、教育の指導等多岐に渡っている。

「人を使うことを覚えてもらうために侍女をつけています。なにもかも自分でやらないように注意しましょう。わたくしはこれと社交が苦手で大奥様によく注意されたわ」

「そうなのですか?」

意外だった。凄く完璧な印象と記憶がある。

「幼い頃から部屋に篭って術式構築ばっかりしていたし、学園でも一人でいることが多くて社交界は縁のない場所だと思っていたわ」

「それは大変でしたね?」

大変だったように見えないのでつい疑問符がついてしまった。それをミレニアに笑われる。

「ふふ、サイス領はそこまで頻繁にお茶会や夜会があるわけではないのでやっていけてます。苦手は誰にでもあるものです。それを上手く補っていく方法を教えていきますから、安心して下さい」

「はい。ミレニア様」

「それから、これからが本題なのですけど」

ミレニアが少し声を潜めて話す。

「婚約期間中に行う『肌合わせ』という制度があるのだけれど知っていますか?」

クラリスの記憶にもない単語だ。肌合わせ?

「いえ、初耳です」

「婚約者同士、互いの体に触れ合い相性を試します。これで相性が悪い場合はどんな婚約も解消が可能になるというものなのです」

?体に触れ合う?それって

「えっと、ミレニア様。一つお聞きしても宜しいでしょうか」

「はい、どうぞ」

「こちらでは女性に処女性を求めたりはしないのですか?」

「?いえ。あちらにはございますの?」

「そういう風潮のあった時代もありましたけど。」

「それよりも子を授かる為の行為が可能かということに重きを置いています。肌合わせの時は部屋に特殊な魔術で結界を張り、拒絶に反応して発動するようにして行います。」

生理的な嫌悪は抑えられるものではない。それに無理強いされた婚約も覆すことができるのか。なるほど。

「これは国全土にある制度なのですか?」

「選択制です。サイス領とシノノメ領、王都は採用していますが他の領は本人達が望めばというところでしょうか」

「その肌合わせの時に授かることもあるのでは?」

「その疑問は答えるために、避妊の話をしましょう」

「避妊、ですか」

「はい。魔力を持つ者は魔術や魔法を用いて自身や相手の体液を体外へ排出することが可能です。それで子ができるのを防ぎます。飲み薬もあります。また、病気に気をつけたい場合は専用の薬もあります。」

「それは大切ですね」

「肌合わせが終わるとその婚約はほぼ覆ることはありません。まぁ中には御破算になった婚約もありますけど」

「ミレニア様、それは今言わなくても」

「失礼。」

「でもどうして駄目になったのですか?」

「シノノメ領では相手の家が罪を犯し貴族位を剥奪されたことが、王都では婚約を複数人に申し出ていたことが判明した方がいました」

基本的に候補者は複数いてもいい。だが、婚約者に確定するのは一人だ。そこからの肌合わせだと考えると不誠実だ。

「うわぁ」

「……サイスでは肌合わせのあと、相手が自死してしまったこともありました。」

その言葉に顔が強張る。

魔術に反応は無かった。亡くなった本人も肌合わせの後も周りに幸せだと話していたという。

「理由は肌合わせの後にありました。婚約者が暴力をふるい無理やり行為に及んだことが原因でした。」

ミレニアはお茶を一口飲むと、

「肌合わせでは、お互いの体の違いを認識したり、互いに相手の事を考えて行動しなければなりません。初めての行為は女性の体への負担も大きくなります。相手に自分の状態を伝え、負担を軽くする努力をしてください。誰か一人だけが我慢をするのではなく、お互いに相手を尊重しなくてはいけないのです。貴女達は夫婦になるのですから。いいですね?」

「はい」

その後も婚約期間にすべきことを話し合った。


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