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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
122/605

認識

「一度戻りましょう」

服が汚れてしまったので、部屋に戻る。

その道中、グラッドに手を取られ、ハロルドからは話しかけられる。

「あの魔法?魔術?どうやってやるの?」

興味津々のハロルドをグラッドは止めない。

「魔術に関しては、秘密です」

「そっかー、じゃあさ、なんで魔力弾じゃなくて鞭なの?趣味?」

「弾は当てられないので、鞭です」

「剣は?」

「まだ接近して戦えるだけの心が育ってないので」

「あーわかる。俺も最初は剣が怖くて弓にしてた」

「リオ様、ハロルドの怖いは真に受けないでください」

「殺しそうになるから、怖いじゃん。」

「そうですね。傷つくのも傷つけるのも怖いです。対人なら尚更です。でも私は」

「リオ様は躊躇わないよ。それに心配いらない。そんな事が起こらないようにグラッド様が頑張るし、有事の時は俺がリオ様のこと守るから。」

ハロルドが言い切る。

「心強いです」

「ハロルド、人を守る戦い方出来るんですか?貴方」

ヒューゴの言葉に、ハロルドが意味がわからないと言った顔でいつも守ってんじゃんと言う。

「ハロルドとヒューゴは冒険者登録もしていて二人で活動する事が多いから」

とグラッドが補足する。

「あれは、守っているじゃありません。私が貴方について行ってるだけです」

二人の言い合いが始まった。やっぱりグラッドは止めない。

「グラッド様は二人の言動を諫めたりはしないのですか?」

「ええ、楽しいのでそのままにしています。ハロルドの中の優先度が私よりリオさんが上かもしれないことには説明を求めたいですけど」

「お友達ですものね。寂しいですよね」

私の言葉にハロルドが不思議そうにグラッドを見る。

「グラッド、様そんなに俺のこと好きだった?知らなかった。」

知らなかったんだ。グラッド、可哀想だな。

「ハロルド、あんなに手合わせしてもらっていながら」

「そんな気はしてました。いいですよ、もう。流石ハロルドだと感心しています」

グラッドが苦笑いする。その表情はやっぱり寂しそうだ。

重ねた手を握るとグラッドが大丈夫ですよと微笑む。

「グラッド様は戦闘狂だと思ってた」

評価が酷い。

部屋に着くと、

「夕食の前に迎えにきます」

と頬に軽いキスをされた。

「お待ちしております」

動揺を隠して礼をする。まさかここでしてくるとは思ってもいなかった。

部屋に入り、服を着替える。動揺は中々収まらない。

「リオ様お茶をお淹れしました。一杯如何でしょうか」

ニーナがお茶とお菓子ののったカートを押して控えスペースから出てきた。

「ありがとうございます」

椅子に座り、お茶をゆっくり飲む。じんわり温かくなる。

思いの外冷えていたようだ。

「少し落ち着きました。」

「それはようございました」

「ニーナ。先程は驚かせて本当にごめんなさい。」

「いえ、リオ様が謝られることではありません。わたくしの認識が甘かったのです。申し訳ありませんでした」

ニーナが謝罪する。

「聞かせていただける?」

「はい。わたくし達は前もってリオ様がグラッド様の婚約者として滞在することを知っていました。それなのに、リオ様のことを、知らなさすぎました。本当に申し訳ありません」

「奥様が私を歓迎していないと取られかねない、そうですね?」

「はい。」

「ミレニア様や侍女頭のアンナは、私のことをどう説明したのかしら?」

「リオ様はラングストン家の当主様が直々に望まれ魔法省で働くことになった才女で、冒険者としても活動している方だと。」

才女かぁ。恥ずかしいな。

「以前サイスに滞在した際にグラッド様が一目惚れをして婚約を申し込んだと聞いています。婚約後はミランダが専属としてつくと」

「なるほど。ミランダがつくならと情報収集を怠ったってことかしら」

「はい。申し訳ありません」

これは私をダシにして色々教育を強化していく予定なのだろうか。それともミレニア様の苦手な部分とか?

「分かりました。このことは報告させていただきます。が、自らの非を認めることは容易いことではありません。ニーナはとてもすごいですね。私も見習わなくてはいけません」

「リオ様」

私は立ち上がり、ニーナの手を握った。

「これからも頑張りましょうね?」

「はい」

頬を紅潮させニーナがはにかむ。またグラッドに怒られるかもしれないなぁと思った。


夕食前に約束通りグラッドが迎えにきた。当たり前のように手が差し出される。手をのせ、食堂まで歩く。

庭の植木や温室の花の話をした。

今晩の献立はスレートの魚料理だった。以前はアクアパッツァだったが、今回は白身魚のソテーだ。スープも魚の出汁が効いてて美味しい。

食後のデザートは、チーズケーキのレモンジュレがけ。

料理長が夕食の献立を考えているそう。因みに昼は副料理長で、朝は料理人全員が作った物の中から出来の良い人のものを、それ以外は使用人の朝食になるそう。

「今晩もとても美味しかった」

フレッドも機嫌の良さそうな笑顔で、今日の報告を促す。

ドレスの試着や婚約パーティーに向けての準備状況の報告、領内での事件事故の報告、コランダム視察の人員が確定したことなど多岐に渡り報告があった。

これはクラリスだった時の夕食ではあった光景。リオとして滞在した時にはなかったものだ。

それが凄く嬉しかった。

報告を聞き終え、部屋に戻る。

ニーナに代わりミランダがつく。

「ミランダ、少しいいですか?」

今日ニーナと話した事を伝える。ミランダは神妙な表情で聞いていた。

「リオ様。申し訳ありませんでした。」

「その謝罪は私をダシに侍女教育をしようとしたことに対するものですか?それとも侍女達の不勉強に対する謝罪ですか?」

「両方でございます」

「あと、私は試験に合格をとれそうですか?」

「……気づいておりましたか。合格でございます。あまり心配はしておりませんでしたが」

ニーナが既に私にメロメロだと淡々と告げられる。

侍女達の対応に関して指摘できるか、をみたかったそうだ。

「リオ様は婚約後も魔法省で働き、結婚と同時にサイス領へ居を移します。サイス領は婚約期間で諸々の教育を行う傾向がありますので懸念事項があれば今のうちに知れればと考えてのことです。奥様は婚約期間が短く、結婚されてから少し苦労されたそうです。」

「クラリス様の記憶では補えない所でしょうか。」

「はい。今のところグラッド様が爵位を継ぐのはもうしばらく先のことになるでしょうが、何があるかはわかりません。先代伯爵様も旦那様も若くして爵位を継がれております。教えを十分に請えない状態は厳しいものがございます」

クラリスの記憶にいない先代伯爵様、クラリスが生まれる前に亡くなったことは知っている。

「わかりました。見極めをお願いします」

いつでも指導を受けられるわけではないんだ。当たり前のことだけど、当たり前だと思っていなかった。死が近い世界。

「明日は別の侍女がつきますので、自身との相性をはかって下さい。婚約後は私がつきますが、屋敷にいる時は別の侍女をつけます。三人選んで下さい」

「三人ですか。」

「侍女はリオ様の私生活を支える大切な相手です。絶対に妥協してはいけません。貴女が心安らげる相手を選んで下さい。いいですね」

「は、はい」

ふと浮かんだのはニーナだった。

「明日から、午前午後と侍女を変えて生活することになります。気苦労をお掛けしますが、宜しくお願いします」

「はい。自分に合う侍女を見極めます」


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