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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
121/605

手合わせ

庭を歩き、植木の剪定をしている庭師の仕事を眺める。

近くに寄り剪定技術の高さに感嘆する。

植物の手入れに関してもいい記憶がないので、こんなに近くで観察できるのは嬉しい。

「リオさん」

グラッドの声が聞こえた。振り向くとグラッドがヒューゴとハロルドを連れてこちらへ向かってくる。

「グラッド様。どうされたのですか?皆様もお散歩ですか?」

微笑み尋ねると、

「庭に貴女の姿を見つけたので」

微笑み返された。気障だなぁ、でもとても似合う。好きだ。

「まあ、グラッド様ったらお上手ですね」

高鳴る鼓動は無視して軽く流す。

「先程紹介したヒューゴとハロルドが貴女と話がしたいと言うので誘いにきました」

「ヒューゴ様とハロルド様が。私とでございますか?」

驚いた。ヒューゴとハロルドは良くも悪くも、なんというかドライだと思っていた。クラリスも恐らく同じように思っていたはずだ。

「ええ、宜しければ」

「かしこまりました。」

グラッドに手を引かれ、庭の南のほうにある温室で話すことにした。庭が結構広くて、クラリスは縦横無尽に駆け回りスケッチをしていたから場所は分かる。

理央としては屋敷側と庭園中央部、西側にある東屋しか行ったことはない。更に奥の温室は初めてだ。今日散策していた場所からはすぐの場所にある。

温室にはサイスより熱い地帯の植物を取り寄せて育てている。原色の花々が綺麗に咲いていた。

「綺麗ですね。こんなに鮮やかな」

お茶会や花々を鑑賞するために元からテーブルや椅子が設置されている。クラリスがスケッチをするようになってから入れられた家具だ。

「リオさん、こちらへ」

花々を眺めながら、椅子に座る。

「あの、それで私に話とは一体どういった内容でしょうか?……グラッド様が騙されていると心配されているのかしら?」

いきなり婚約者と紹介されたから心配してるのかな?と思い切り出してみた。

「いえ、その心配はありません」

「グラッド、様は騙されないので大丈夫」

二人が否定する。

「魔法省での魔獣暴走事件の現場にいたとうかがいました。それで、お話しをしたいと思いこの場を設けていただきました。」

ヒューゴの言葉にハロルドも頷く。

「何が聞きたいのでしょうか。私に話せることであればいいのですが」

「あ、いえ。事件の話はグラッド様から聞いているのでリオ様に尋ねたいのは」

「リオ様は戦闘好き?」

ハロルドが尋ねる。敬語はどこかに行ってしまったらしい。

興味津々といった表情をしている。初めて見た。

しかし質問が、戦闘が好きかどうか?

「あ、こら。ハロルド、待ちなさい」

ヒューゴがその発言に驚き、

「いえ、特には何とも思っていませんが。ハロルド様は好きなのですか?」

私の答えに動きを止めた。

「うん。好き。その時は目が覚めるから」

「なるほど。私は実戦経験が乏しく魔法省での一件が初めての実戦でした。あの時は、守るべき相手がいたので、立ち向かえたと思います。」

「初陣。なら戦闘訓練は好き?」

「そうですね、どちらかと言えば好きです」

「俺と手合わせしよう?」

「騎士の方と、ですか?」

「手加減するよ?」

「ハロルド、そういう問題ではありません。リオ様、無礼をお許しください」

「ヒューゴ様。別に怒っていませんから。あのハロルド様はどうしてたかが新人冒険者と手合わせがしたいのですか?」

「新人冒険者?」

「?なんだと思ったのですか?」

「?なんだろう」

ハロルドが首を傾げる。意味がわからない。私も首を傾げた。

私達のやり取りをグラッドは面白そうに眺めているだけで、口は挟まない。ヒューゴは顔色を悪くして、

「リオ様、申し訳ありません。ハロルドはリオ様のことを戦闘強者だと勘違いしていたようでございます。どうぞ今の話はお忘れください」

謝罪の礼を取る。

ヒューゴはハロルドが私に興味を示したので、話をする機会を申し出たとのこと。どんな話をするつもりだったのかは知らなかったようだ。

「ハロルドは他者に興味の薄い男でございます。リオ様の話を聞き興味を抱いたため力になってやりたくて気が逸りました。こんな事になるとは思いもよらず、申し訳ありません」

「いえ、構いませんよ。ハロルド様、どれほど手加減をしてくれるのですか?」

「?素手と魔法魔術禁止。リオ様は使っていい」

「リオ様?」

「いいですよ。じゃあ手合わせしましょうか。」

席を立ち、温室の外に出る私とハロルドの姿をヒューゴは茫然と見つめた。

「ヒューゴ、行きますよ」

「グラッド、止めて下さい!素手とはいえハロルドは!」

「何かあれば介入します」

「手合わせ自体をです!」

「リオさんが承諾したことです。ほら行きますよ」

グラッドが温室を出ると、そのあとをヒューゴが慌てて追いかける。

「グラッド様。膝をついた方の負けで手合わせします。合図をお願いします」

少し距離を開け、ハロルドと向き合う。グラッド達が温室から出てきたのをみて声をかけた。

ヒューゴとニーナは顔面蒼白。グラッドは右手を上げ、

「手合わせ、始め!」

振り下ろした。


服の術式に魔力を流し魔力壁を張ると同時に衝撃があった。凄まじい速さで飛び込んできたハロルドの拳がもたらしたものだと瞬時に理解する。

魔力鞭を作り、攻撃を仕掛ける。

ハロルドは鞭の軌道を読み避け、それを手掴みした。

足元からも別の魔力鞭で攻撃する。それを華麗な体捌きで上空に逃げた。その瞬間に掴まれた鞭を切り離す。空中でバランスを崩すかと思ったが、そうはならなかった。

距離が開いた隙に前方に捕縛陣を張る。ハロルドが真っ直ぐ突っ込んできたが、少し動きが鈍っただけで力づくでふりほどかれた。

威力を高める。と動きを止められた。が、安心したのも束の間。ハロルドの姿が消えた。

「は?」

残されたのは、靴のみ。周囲を見回すがいない。

「上?!」

ふり仰ぐとハロルドと目があった。いきいきとした表情で、私を見る。笑っていた。

魔力壁に衝撃があった。先程よりも強い衝撃に反射的に目を瞑り、

「きゃあ」

頭を庇い尻餅をついた。

「そこまで。勝者ハロルド」

グラッドの声に、目を開けるとハロルドが笑いながら小躍りしているのが映った。

「大丈夫ですか?リオさん」

「あ、はい」

差し出された手に掴まり立ち上がる。

「びっくりしました。」

素直な感想にグラッドが笑う。

「俺もびっくりした」

「ハロルド、やりすぎですよ」

「手加減、したよ?」

「最初のアレは、魔力壁がある前提の突進ですよね?無ければどうしたのですか?」

「寸止め?」

あのスピードで出来るんだ寸止め。凄いな。

「当てる気はないよ?」

「知ってます。それで、どうでしたか?手合わせして」

グラッドの質問に、ハロルドが笑ったまま

「面白かった。またしたい」

答える。

「絶対駄目です」

ヒューゴが却下した。ハロルドに近づき説教しだした。

「靴を脱げば逃げられるとは思ってもみませんでした。脱皮する魔獣には使えませんね。改良しないと」

呟いた私に、グラッドが肉に突き刺せば問題ないのでは?と指摘する。

「なるほど。ありがとうございます」

「では、戻りましょうか。」

グラッドは青ざめているニーナに視線を向けるとヒューゴとハロルドに声をかけた。

その言葉に我に返ったニーナが急いで近づき、

「リオ様、後ろ失礼致します」

ハンカチでスカートの汚れを払った。

「ニーナ。驚かせてしまってごめんなさい」

「いえ、リオ様が無事でよかったです。」

動揺を隠せていないニーナの手を握り、撫でる。

「私は大丈夫ですよ。安心して下さいね」

「リオさん。これ以上私の敵を増やさないでほしいのですが」

「ん?増やしてないですよ?」

何のことだろう?

「その手を離していただければ、許します」

「あ、はい。すいません」

可愛い嫉妬だった。


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