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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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召喚11

いつの間にかぐっすり眠っていた。私が気付かなかっただけで、本調子ではなかったみたいだ。

夕食の時間も通り越し、お腹が空いて起きたのは、翌日の朝だった。

朝食をおかわりしたので、ミランダに「もうすっかり元気ですね」と微笑まれた。

結構ミランダは感情の揺れが分かりやすい。無表情ではあるが。

朝食の後は、昨日の報告書の続きを書く。後半は、グラッドの情報をリリアナに話していた。中指の甲で唇の下を触る時は、何か考え事しているとか。名前を呼ぶ速度で怒り具合が分かるとか。恐らくリリアナはグラッドの婚約の情報が欲しかったと思う。クラリスに遠回しに言っても伝わらないから、直接的な言葉で聞いている。

『クラリス様とグラッド様は、婚約しないのですか?』

『わたくしですか?まだ恥ずかしながら、そういうお話がなくて。グラッドの方はどうかはわからないんですけど、お父様が考えていると思いますわ』

お父様が考える、伯爵の意向による婚約が濃厚。という事は、養子が伯爵を継ぐとなると、血の濃さで一族間が揺るがないように一人娘との婚約を考えるのでは?とリリアナが考えていたら。

その考えは分からなくもない。けど、サイス領では少し考えが他領と違う。

領地全域を守る魔法陣を起動させることができる者から、次期当主を選ぶ。血の繋がりは二の次だ。

サイス領を守る気概があり、邪心がない、魔力が豊富。それらは魔法陣を起動させることができれば証明できる。その上で、サイス領の役割を果たせる者を選ぶ。

この基準は領主一族にしか伝えられない。役割については、明確な答えをクラリスは分かっていなかった。フレッドから質問された事がある。学園に入る直前だった。

『クラリス、君はこれまでサイス領について沢山学習してきた。学園に入学した後は、サイス領以外のことを沢山学ぶだろう。さて、クラリスは我らサイス領の役割についてどう考えているかな?』

その問いにクラリスは『王の剣として王の敵を討ち果たす』と答えた。

フレッドはそうかと笑い、それ以降はこの話題はでなかった。恐らく不合格だったのだろう。

何が正解なのかと、考えようとして気づいた。私が考えたとして、何になるのかと。無用の長物だ。私の悪い癖だ。また、思考が脱線している。

「ミランダ、これをグラッドに。ここに書いた彼についてはニコル様へも連絡お願いします。後、長期休暇の件を確認したいんだけど」

側に控えていたミランダを振り返り、報告書を差し出す。

それを受け取ったミランダは、内容に目を通し、「こんな話を…」と二の句を繋げなくなる。暫く沈黙が続いた。

「クラリス様は、一体何を考えていたのでしょう。私は、私の言葉は何一つクラリス様の為になっていなかった。」

悔しそうに絞り出す声は、後悔と悲しみに満ちていた。

「ミランダ」

「申し訳ありません。…長期休暇の件ですが、」

瞬時に切り替えたミランダから、計画の流れが説明された。

伯爵からの指示で、クラリスが召喚事件に巻き込まれたことを公表する事になった。ただし、一部脚色を加えるそうだ。

悪戯計画の主導は召喚クラブという面目を保つための召喚術式を模した術式を使用した。だが、運悪く本当に召喚術式が発動してしまった。クラリスとは正反対の属性を持つ異界の生物がクラリスの前に現れた。それを、クラリスが持てる全ての力を使い、退治した。その時の異界の生物から受けた攻撃のせいで体調が思わしくない。だから、早めの長期休暇にはいることになった。

「真実が組み込まれた嘘は見抜きにくいですからね。それで、私はいつ頃から移動をするんですか?」

「その前に、リオ様にはクラリス様の振りをして、級友の方々へ手紙を出していただきます」

意外な言葉に思わず、「へ?」と間抜けな声が出た。

「長く休みを取っているので、お見舞いの手紙が届いています。そのお返事をお願いしたいのです」

「わ、わかりました。つまりは、筆跡を似せないといけないんですよね。頑張ります」

クラリスの書く文字は、優美で繊細な女性的な文字だ。かたや、私は角張った感じの男らしい文字をしている。

「内容は、僭越ながら私が考えてあります。筆跡も、きちんと確認しますので、ご安心ください」

「合格までの道のりが長そうです」

肩を落とす。ため息も出てきた。

「最難関は、カルセドニー子爵令嬢マリア様です。」

「あぁ、クラリス様に心酔気味のあの子ですね。あはは」

ミランダの危機迫る真剣な声に、私はクラリスを慕うマリアを思い出し、乾いた笑いが零れる。

何故かクラリスに心酔している。そして、クラリスも可愛がっていた。

前髪を数ミリ切っても気づき、香りを変えればすぐに新しい香りですねと目を輝かせる。

筆跡が違うものならば、直ぐに気づかれるかもしれない。

「とりあえず、練習します」

難関すぎると意気消沈しかけるが、やらないわけにはいかないと言い聞かせて、無理やり気分を上げる。

「こういう時は、『成り切ることが大事。形から入るのよ』です」

学芸会で劇をする事になって隠れて練習していた時に兄が自分自身に言い聞かせていた言葉だ。兄の役はシンデレラの継母だった。

最終的には高笑いまで披露していた兄の姿を思い出し、自分にも気合をいれる。

「よし」

左手で頬杖を付き、しなだれる。退屈そうに、唇を尖らせてペンを走らせる。

数度マリアの名前を書いて、出来を確認する。

「こちらの装飾が少し甘いように感じます。」

「そうかしら、うーん。じゃあこうね。どうかしら、ミランダ」

「はい、とても良いと思います。クラリス様。あ」

「よかったわ。…これで、乗り切れますね」

口調も声のトーンも真似て話すと、ミランダが自然に「クラリス様」と言った。長い間の習慣はたかだか一週間ではなくならないと証明された。それと同時に、郷愁の気持ちが襲ってきた。

あぁ、早く帰りたいな。

その気持ちを振り切って、ひたすら見舞いの返礼を書き続けた。

「ミランダ、マリア様には念入りに体調が優れないけど、どうしても直筆で返事をしたかったことを伝えて下さい。マリア様の同情を買うように、お願いします」

「かしこまりました」

ミランダが部屋を出て行くのを見送って、机に突っ伏した。

「やっと、終わったー、疲れたー」

クラリスっぽく頑張るってこんなにもエネルギーが必要なのかと驚愕している。出来る事ならもう二度とやりたくない。


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