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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
119/605

ドレス

並んだドレスを端から端まで見比べる。

試着を繰り返し一着を選ぶのに大分時間がかかった。

「こんなにあるとは思いもよりませんでした」

「今回選ばなかったドレスは今後別のパーティーで着ることになるので気にしないで下さい」

服飾係の針子のお姉さん達も忙しそうに広間を行ったり来たりしている。

というか、本当に悩んだ。三人でドレスの色形状からデザインまで考えて発注したという。私の趣味が知られているのは嬉しいけどここまで悩ましい自体になるとは。

ミレニアも試着の様子を眺めている。

最終的にスタンドカラーのAラインドレスを選んだ。形はシンプルだけどサイスらしいし、刺繍が丁寧で細かくて綺麗だった。濃い藤色と淡い藤色のグラデーションが魅力的なドレスだ。胸は少しきつかった。やっぱりサイズアップしてる。

最後まで悩んだレースのドレスは、結婚式の時に着たらいいわとミレニアに言われて、照れると周りが生温かい目で私を見る。

髪型は、サイドを編み込みリボンで纏める。アクセサリーはシルバーでまとめ、統一感をだした。

グラッドと並んだ姿を見たミレニアが少し目を潤ませた。

グラッドのスーツ姿は見慣れている自信があった。けど、普段のスーツとは生地も刺繍もデザインも一味も二味も違った。しかもヘアセットで違う雰囲気になっている。

思わず

「格好良すぎです」

と口にしてしまった。

針子のお姉さん達は何事もなく作業していたが絶対後で騒がれるやつだ。

「リオさんも美しいですよ」

にこにこと楽しそうにしているグラッドにドキドキが止まらない。この前結構大胆なことしたはずなのに、と戸惑う。

「グラッド、様はどのドレスがお好きですか?」

身内だけなら呼び捨てでもよかったが、流石にこの場ではそれはできない。

「どのドレスも素敵で、私も二つのドレスで悩んだ貴女の気持ちがわかります。こちらのドレスは刺繍が貴女の魅力を引き立ててると思いますし、そちらのレースのドレスは貴女の可憐さに花を添えていると思います。甲乙つけ難いですね」

二人で微笑み合っていると、ミランダが近づいてきた。

「リオ様、細部の調整が終了しました。再度袖を通していただけますか?」

「はい」

試着室で再びドレスを身につける。

針子さんって凄いなぁ。こんな短時間でお直しできるなんて。

「いかがでしょうか?」

「はい。胸もキツくないです。腕も動かせますし」

再び広間に戻り、グラッドと並んで全体のバランスを確認する。

ミレニアが良いでしょうと許可を出す。

「少し踊ってみますか?」

グラッドが私の手をとり、腰を抱いた。

それを見ていた針子と他の使用人達がきゃあと色めき立つ。

数度ステップを踏み、靴の具合も確認できた。

「裾の広がり具合も綺麗ですね。」

ミランダが淡々と確認しているが、私はそれどころではない。ダンスのステップを必死に思い出していた。

「ゆっくりでいいですよ。」

「はい」

グラッドの肩口に手をかけ、踊る。少しぎこちなかったが、グラッドの足を踏むこともなく踊れた。

確認が終わり服飾係の皆がドレスや靴、アクセサリーを持って撤収する。

着替えた私とグラッドはそのまま広間に残り、婚約発表パーティーの際の受け答えの練習をする。

ミランダの指導で想定される質問と答えを確認していく。

「あと先程のダンスをみて思ったのですが、動きを再確認させて下さい」

もう一度二人で踊るよう依頼される。さっきと同じステップで踊ると、ミランダが

「足元を気にしすぎです。グラッド様をみてください」

と気になった点を告げていく。

「グラッド様、歩幅の調整をお願いします。はい、結構です。」

「ミランダはダンスも出来るのですね」

「セシルに教えていただきました。」

へぇそうなんだと内心にやにやした私とは別の反応をグラッドが返した。

「それは、大変でしたね。」

苦笑いだ。

「リオ様、ステップしっかり。……なんでダンスの時だけ性格変わるんですか、あの人。背筋伸ばして」

??セシルさんの性格が変わる?

「お母様の影響らしいですよ」

踊りながら交わされる話と指示に戸惑う。

「リオ様もう少し腰を、入れて。はい上出来です。」

少しの間しか踊ってないのに、普段使わない筋肉が痛い。

「ももの裏と背中の筋肉が痛いです。」

「筋肉痛で当日踊れないということがないように調整しますので安心して下さい」

「調整まで、『スポーツトレーナーかな』」

「?」

「いえ、なんでもないです」

ダンスの指導も終え、部屋へ戻る。その途中で、ヒューゴとハロルドと鉢合わせた。

「グラッド様、」

「ヒューゴ、ハロルド。私の婚約者のリオさんです。挨拶を」

「お初にお目にかかります。ヒューゴ・クラークウッドです。以後お見知り置きを」

ヒューゴは青味がかったさらさらストレートの長髪を後ろで一つに纏めていた。いつも冷静な目が少しだけ焦っているようだ。

「ハロルド・フランです」

こちらはいつも通りのやる気のなさで必要最低限の挨拶しかしない。

挨拶の礼を取る二人に、私も挨拶を返す。

「二人して、どうしたのですか?予定は入っていなかったと思うのですが」

「グラッド様、申し訳ありません。コランダムの視察の件でお返事をと思い伺いました。」

「養父上の所へ向かう途中でしたか、失礼。あまり引き留めるのもいけませんね。どうぞ向かってください」

「はい。ありがとうございます。失礼致します」

ヒューゴとハロルドは、執務室の方へ去っていった。

二人の姿をみて、グラッドが微笑む。どうやら、以前言っていたことが上手くいったようだ。

「グラッド様が楽しそうで何よりです」

「今は二人きりなのに様付けですか?」

「だって、他の方にみられたら」

所々でいちゃつくようにと部屋に戻る前にミランダからまた雑な指示を受けている。

いちゃいちゃしたいとはいえ、

「恥ずかしいです」

目を伏せた。そんな私の耳元で意地悪く囁く。

「今日は髪を整えて印象が違うから特にドキドキしますか?」

「く、当たりです。」

「そういうとこ、好きですよね?」

「〜〜!、うぅ好きです。」

抱きつくのを我慢してるのに、と不満そうにグラッドを睨むと、可愛いですよと揶揄われた。

部屋に二人きりだと絶対押し倒しそうに私がなるからと、入室を断るとグラッドが肩を震わせ笑った。

「わかりました、それでは」

部屋の前で別れる。

部屋で大人しくダンスや受け答えの復習をしたり、加護障害の本を読んだりして過ごした。

やっぱり性急すぎたようだと反省する。

この本は加護障害についての検証結果が主ではなく、状況や聞き取り調査から鑑みた推察も多々含まれると前書きにあった。

「本当、直さなきゃだよ」

はあ、と大きなため息が漏れる。

「ちょっと気分転換しよ。」

テーブルに本を置いて、ベッドに横になる。

そして、闇属性特化魔法を使い屋敷内を散歩する。

トカゲ型はあの後私好みの柄に改造してより格好良くなった。

まずは、何処に行こうか。侍女の控え室か、服飾係の部屋か。服飾係かな。

トカゲの運転も大分上手になった。あっという間に服飾係の部屋に着く。扉は閉まっている。出入りする人がいない。

じっと待つ。すると、

「ただいま戻りました」

一人の針子服の女性が扉を開けた。一緒に中に入る。

室内には私が試着したドレスが並べられていた。数人の針子さんは作業をしている。

「ダイアナ、補充分の糸をお持ちしました」

「ありがとうございます。ヒルダ。」

金髪をポニーテールにした女性、ダイアナがヒルダから糸を受け取りすぐ側にある棚に入れた。

ヒルダは作業するダイアナの手元を覗き込む。

「あら、ダイアナはリオ様のドレスのデザイン画を描いてますの?もうドレスは出来上がってますのに」

ヒルダは頬に手をあてドレスを見渡す。

「ヒルダもっと言ってよ、ダイアナったら戻ってきてからずっとデザイン画ばっかりなのよ」

ドレスの直しをしている女性が声を上げる。私のドレスの直しで中心となっていた女性だ。確か、ソフィアだったか。

「まぁ、わからないでもないのよ?あんなに美しい方だなんて思わなかったわ。それに、仲睦まじい姿に奥様が喜んでらして良かったわぁ」

離れた所で小物を作成している女性が賛同する。

「貴女は奥様のこと本当に好きよね」

「趣味が合うんですよぉ。」

「ダイアナ?デザイン画もいいですけど、それは優先すべきことではありませんよ?」

「わかっています。ですが、今描いて仕舞わないと素晴らしいデザインが溢れていくようで」

「そんなもの溢れていけばいいわ。」

「ヒルダ言い過ぎでは?」

「最優先事項はリオ様のドレスを仕上げること。その仕事を全うしてこその服飾係ですよ。仕事をしているだけなのにこぼれ落ちるデザインなんて最初からなかったようなものです」

凛とした物言いのヒルダにダイアナは、

「すみません」

謝る。デザイン画を片付けてドレスの直しを始めた。

「リオ様の下着見ました?」

「新しい形の、胸の大きさや形に沿った下着でしたね。素敵でした」

私とグラッドのいちゃいちゃ作戦が功を奏しているのか、ちょっとわからなかったが、彼女達の仕事への情熱や矜持がみれて良かった。魔法を解除する。


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