欠点
それから屋敷内を案内してもらい、使用人の前で仲睦まじさをアピールして部屋まで戻った。グラッドに来客予定があったので部屋の前で別れる。
ミランダは出かけているのか、一人きりになった。室内履きとして用意されたヒールを履き、歩いてみる。
ヒールを履く経験がないので、歩きづらい。
クラリスの動きを思い浮かべながら歩く。
しばらく練習をしたが、ミランダが戻ってくる気配がない。ベッドに横になって、クラリスの記憶をもう一度辿っていく。
「十歳かぁ、私も十歳の頃だったなぁ。……いやいや」
ふと浮かんだのは、クラリスも神様に会ったのでは?という考え。
「だとして、記憶がないのは説明ができないし。それに加護自体は五歳の頃からあるわけだし。私との共通点って単独加護、?単独加護じゃない。クラリスは光と風属性持ちだ。」
思いついて、鞄からグラッドに借りた加護障害の本を出す。
光属性加護の項目を開く。
光属性加護は不思議なことに属性レベルがない。
そしてその多くが消息不明になる。
「これは、千加が言っていた追い出されるって特徴のことか、?何これ」
中には眷属になる人物もいた。
「人由来の眷属ってこと?嫉妬深い神様が自分の部下にするならどんな人だろう。旦那さんに意識されない人?とてつもなく一途とか?同性カップルならありかな?女性はいいとして男性はなぁ、男性の部下を自ら作るって誤解を与えそうだし、ないかな?」
精神不安の傾向あり。一定期間後回復。
頁を捲る手を止める。
「クラリスは全然そうはみえないけど、不安だったのかな。珍しがられて遠巻きにされて。色んな視線や言葉に晒されて……ちょっと待って。違和感」
ぶつぶつ呟きながら、記憶を探る。
グラッドは十歳頃だと言っていたけど、気になったのは八歳九歳の頃だ。反抗期かな?位にしか考えてなかったけど、不安定な時期があった。そこの記憶を重点的にみていく。
ベッドで枕を激しく叩いて破いたり、意味もなく癇癪をおこしたり泣いたりしていた。
その度にミレニアが抱きしめて宥めていた。
『もーなんなんですの?!』
『お母様はわかっていませんわ』
『お父様もお母様も嫌い』
「反抗期にありがちな台詞だと気にもしてなかったけど、これが精神不安の時期だとしたら、十歳頃には落ち着いて振る舞いが今のクラリスになる、かぁ。嫌な想像しかできないよぉ」
ぶつぶつ呟きながら、ベッドの上をごろごろする。気持ちが落ち着かない。
いずれ追い出される世界に未練がないように作り変えられるのが、光属性の加護障害なのだと仮定して。
消えた記憶はクラリスをこの世界と繋ぐ大切な記憶。
家族への愛だったのなら、とても悲しい。
もしかしたら、五歳以降の大切な記憶もいくつか消えている可能性もある。
「なんか、釈然としない。ムカついてきた。あーでも違うかもしれないのに、うー」
ささくれだった心のままに、手鏡を取り出し呼びかける。
『ただいま家族会議中』
ぬいぐるみが千紗さんの字で書かれたボードを持っているのが映る。
あまりみない展開に再度文字を読む。
「え、初耳」
取り敢えず大人しく千加が戻るのを待つ。
家族会議かぁ、どんな話し合いするんだろう。って会議とかするんだ、意外すぎる。
議長は確実に千紗さんでしょ、兄貴も混ざってるんだよね、なんだろ荒れそうだな。
勝手に他人の家の家族会議の想像をして楽しんでいた。
『はぁー疲れたー。って、理央じゃん。いいところに』
千加が戻ってきた。疲れたと言っていたのに、私の顔をみるなり胡散臭い笑顔になる。
『あ、ごめん。やっぱ、いいわ』
こういう時は、関わらないほうがいい。
『いやいや、逃げないで。』
『絶対千紗さんに怒られるやつでしょ』
前科がある。
『そんなことないよ。逆に喜ばれるかもよ?』
喜ばれる?鏡を閉じようとした手を止める。
『取り敢えず聞いてから考える』
『よし。姉貴達の子供の名前を考えて欲しいって』
子供の名前?え?兄貴と千紗さんの?
『おーい!理央?まだだから!まだできてもないから!これから先の話だから!』
『は!はぁー、びっくりしたぁ。』
『うん、びっくりだろ?で、どんなのがいい?』
さらっと私も考えることになっている。
『決まった文字いれるの?』
『んにゃ、うちはそんなのないから。』
『でも女の子なら千の文字いれたいよね。チアキ、チユキ、チヒロ、チサト、チナツとか可愛いかな。』
『音はチサト、チヒロが好きだな。男の子は、漢字一字で三文字読みかな。サトル、マナブ、ススム、アキラ、ツカサ、リョウ、リュウ、シュウとか?』
『アキラ、シュウ、ツカサあたりは、兄貴好きな音かも。』
『うんうん。よしこれを提出しよう。』
『由来は?』
『へ?なんで?必要?』
『いや、あったら嬉しいかなって思って。私は事象の理由を追求して広い世界に飛び出していくような、好奇心旺盛な子になるようにって意味がある。』
『へぇ。ぴったりじゃん。そっか、うーん。考えてみる。ありがと、でどうかした?』
『クラリスのことで聞きたいことがあって』
『いいよ。』
私はクラリスの記憶について考えたことを話す。それを千加は何も言わず全て聞く。
話し終えると、千加が
『やっぱり理央は面白いね。その加護障害の本全部読んだ?』
真面目な顔でそう言った。
『ううん、これから読む』
『これは理央が好きで調べてないよね?誰かが悩んでたり悲しんでるから調べてる。フレッド様やミレニア様のためでしょ?』
『なんで、』
『理央は誰かの為に自分が出来ることをしたい人だってのは知ってるし、尊敬してる。だけどそういう時の理央は答えを早急に求めたがる。普段はもっと資料を揃えてしっかり読み込んで疑問を一つ一つ消していくでしょ?駄目だよ、それでは結局相手を悲しませるだけだ』
『悲しませる、』
『冷静になって考えよう。精神不安は光属性が珍しいからみんな調べたがる。最初はいいけど、度重なる検証や実験でどんどん疲弊していく。ストレスが溜まって発散できなければ?どうなるかは、火を見るより明らかだね。』
『うん、一定期間後回復するも、わかった。精神不安になった相手に然るべき治療を施すから』
『うん。冷静になって考えると加護障害でもなんでもない。そういうこともある。クラリスの記憶だってそうだ。襲撃がトラウマになってない?怖い記憶なら忘れる人はいるよ』
そうだ。クリスも神殿での出来事を忘れていた。アランも転移当初の記憶が抜けている所があると資料を読んだのに。
『私、全然、駄目だった。ありがと、千加』
『いいってことよ。理央、何度も言うけど神様の事を人の常識ではかってはいけない。クラリスのことは完全に光の女神が悪い。でも、それを裁く権利が人にはない。天災のようなもの、彼等がその気になれば、この世界は無に戻る。そのことは忘れないで。私も一緒だ、神様の力を借りてるけど、いつ離れていくかわからないし、それを繋ぎ止める術もない』
『千加』
『クラリスの記憶に関して言えるのは、本来クラリスが持っていた風属性と女神が与えた光属性の加護が反発してその余波で失われている。』
『反発ってなんでそんなことがわかるの?』
『ん?あー、他の光属性持ちを探して視た。追い出されてるならこっちにいるはずだからね』
色々ついていけなくて絶句した。




