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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
114/605

クロムへ

サイス領に戻る馬車の中。

昨日の夕食時、ミレニアの姿はなかった。

「少し疲れがでたみたいだ」

とフレッドが言っていた。

ミレニアの体調はまだ本調子ではないようだった。

フレッドの肩に寄りかかって眠っている。

無防備な姿をあまり見てるとフレッドに怒られそうだ。

「リオさん、こちらをどうぞ」

グラッドが本を数冊鞄から取り出す。

「?グラッド、これは。術式の解説書?」

「と、魔道具の基礎と加護障害の本です。」

「加護障害の本って神殿にあるんじゃ」

「加護障害の本は友人が以前神殿で写本した物を写しました。研究用で依頼していた物がこの冬に手に入ったので良ければどうぞ」

「ありがとうございます。」

まず最初に魔道具の基礎本を開く。設計図の本だけではわからなかった仕組みが書かれていた。

しばらく読み進めるが、専門用語が全然ピンとこない。

「グラッド。ちょっといいですか?」

防音の魔力壁を張る。

「はい」

「こことここにでてくる領石ってなんですか?」

クラリスの記憶を探っても出てこない。

火石、水石、土石、金石は何となく想像がつく。文脈からも属性効果を発現させる為に必要な石だ。

領石は文脈的に魔道具の基盤なのは分かる。でも基盤は祈石じゃなかった?違うのか?ただ加工工程にも頻出する。領石で領石に、術式をと書かれていると基盤じゃないのかと疑問が噴出する。

「ああ、これは」

祈石は未加工の物をいい、領石は加工済のものをいう。また領石には三種類ある。

基盤となる基領石、術式加工時に必要な小領石だ。他にも用途が異なる領石がある。ややこしい。

因みに属性効果を生む石は属性変換石という。

「領石に術式を刻むのは領石でないと出来ません。だから、このような表記になったのだと思います。ここに数字が打たれています。これで区別がつきます」

「これ、数字ですか?インクの染みかと」

「あはは、ハロルドには丁寧に写本しろと伝えておきます」

ハロルドはグラッドの友達で騎士の青年だ。ボサボサの赤毛と眠そうな目、やる気の無さそうな表情が特徴的だが、騎士爵の中の有望株だ。

「え、これ写本なんですか?文字整いすぎて原書だと」

「ハロルドは数字だけ何故か汚いんですよね。不思議です」

「騎士の方なのに写本するんですね。」

意外だった。

「ハロルドは魔道具が好きなのでこれは趣味の写本です。魔道具の本は発行部数が少な過ぎて買えないとぼやいてましたよ」

印刷技術はある。だがシノノメ領が独占して印刷物を作っている。印刷に対してシノノメを凌ぐ情熱を注ぐ領がないためその状態が続いていた。

「リオさん、養母上の為に魔力壁を張ってくださってありがとうございます」

元々静かだったからわからないかと思っていたけど、しっかりバレていた。

解除して読書を続ける。

以前読んだ設計図の本よりも仕組みの不思議が少しは解けたような気になる本だった。

領石に領石を利用して加護を持たない人が術式を刻むことで良質な魔道具の基盤が出来上がる。

加護レベルが低く、かつ加護数が少ない人でも術式を刻むことは可能だが加護なしの人の作った魔道具には遠く及ばない。

そして加護レベルが高いと術式すら刻めないのだ。

つまり、私では魔道具の基盤は作れない。外装、術式にしか関われない。

一冊を読み終えた所で一度休憩のため馬車が止まった。

「ん、あら?わたくしったら、寝ていましたのね。」

「おはよう。ミレニア」

「フレッド様、起こしてくださったら良かったのに」

「私が寝顔を堪能したいからね。」

二人がいちゃつき始めたので、私とグラッドは馬車の外へ出る。王都郊外は自然が多く暖かい地域だから、北の地方の貴族の保養地としても人気がある。

今日は日差しが温かい穏やかな日だ。背伸びをして、めいいっぱい空気を吸い込む。少しだけひんやりした空気が肺に入ってきた。

「はぁ、気持ちいいです」

他の馬車から侍従長が降りてきたのが見えた。

今回サイス領に戻る際、どの馬車に誰が乗るかで少し揉めたらしい。経緯は不明だが。

「グラッド、ミランダ。私ちょっと向こうに行ってきます」

「では、私が一緒に行きます。お手をどうぞ」

グラッドにエスコートされて、侍従長の出てきた馬車に近づく。

「グラッド様、リオ様。如何されましたか?」

侍従長が私達に気づいた。

その声に馬車から料理長とアンナが出てくる。

「改めてご挨拶をと思いまして、昨日そしてサイス領では大変お世話になりました。リオ・ヒグチと申します。今後とも宜しくお願いします」

三人に挨拶をする。

「リオ様。挨拶など」

「いえ。以前ご協力いただいたと聞いております。挨拶したかったので、気になさらないでください」

改めて挨拶するのは少し気恥ずかしい。照れ笑いすると三人の雰囲気が軟化した。

料理長からは味付けについて好みかどうか尋ねられたり、アンナは体調の心配をされる。

侍従長だけは、じっと私のことを観察するように見ていた。

「みなさん、出発します」

御者と馬の様子を確認していたセシルが声をかけにきた。

「リオさん、戻ろうか」

グラッドと一緒に馬車に戻る。すぐに馬車は動き、魔法陣の中にはいる。魔法陣が光に包まれ、サイス領へ移動した。


小休憩の後、クロムへ向かう。

道中特に問題なく進み、馬車は領主邸へ到着した。

玄関先に待機している人の数が多い。

「おかえりなさいませ」

フレッドとミレニアが先に降り、私もグラッドにエスコートされながら降りる。

侍従長が使用人達に荷解きの指示を出していた。

「我々は書斎に移動しようか。ミランダだけでいい。アンナ後は任せた」

「はい、旦那様」

フレッド達の後に続き、書斎へ移動する。

ミランダはドアの横に立ち、私達が入室した。

書斎のソファにミレニアを座らせるなり、フレッドは書斎奥へと入っていった。

「あそこにお茶を準備できる部屋があります。」

「なるほど。」

「養父上が誰もいれないので、観察はできませんよ」

「まだ何も言ってませんよ、グラッド」

ソファに腰掛けながらそんな会話をしていると、ミレニアが面白そうに私たちを眺めていた。

正確には、

「グラッドが楽しそうで良かった」

グラッドをだった。

「養母上、揶揄わないで下さい」

「ちゃんと素の自分を出せているようで何よりだわ」

フレッドがお茶を淹れている間、冬の学園での話を聞いていた。

グラッドの友達は顔と名前が一致するので、記憶での印象と変わっていて楽しかった。

「グラッドの友人達は愉快な子達ばかりだから聞いていて飽きないよ、お待たせ。」

フレッドが紅茶セットを持って戻ってきた。

「諸々の準備が整うまでゆっくりしてほしい。ああ、そうだ。グラッド、ハロルド君はコランダムへの視察に同行できそうかい?」

紅茶を淹れながら、グラッドに尋ねる。

「本人は興味がありませんが、ヒューゴが興味を持っているのでヒューゴを通して説得してもらっています。」

「彼にとってもサイス領にとっても良い経験になるだろうから是非同行してもらいたい。ヒューゴ君も加えて構わないからグラッド頼んだよ」

「はい。わかりました」

ハロルドは基本的にヒューゴの言うことしか聞かないらしい。確かにヒューゴにべったりだと記憶してるけど。でも、それっていいのだろうか。

「不思議かい?そんな顔してるよ。リオさん」

「ええ。」

フレッドに指摘される。そんなに顔に出てたのだろうか。

「サイス領の為になるなら別に我々に仕えなくていいと思ってる。ただ優秀な人材は確保したいから、色んな手を使ってサイス領を選んでもらうけどね」

「ハロルドの優先順位がヒューゴ第一ですが、わかりやすい分やりようはあります。それにヒューゴがそれを良しとしていないので少しずつ改善しています。」

グラッドの表情からはわかりづらいが、気づいた。

面白がってる。二人を見てて楽しいって思ってる、絶対。……指示には、従ってた記憶もあるし、なら大丈夫なのか?

はたからみていただけではわからない関係性があるのは知ってる。そういう類のものなのだろうか。

心配しつつ、状況を注視していればいいか。


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