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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
111/605

貴族屋敷1

翌日。

迎えの馬車に乗り一度王都の貴族の屋敷や別邸が集まる区画へ向かう。そこにあるサイス領貴族屋敷はクラリスの記憶通り他の屋敷より地味だった。

しかもサイス領貴族屋敷ということは他の貴族も兼用する屋敷らしい。それを知ってからはクラリスは寄りつかなくなった。

一応伯爵、子爵一族の部屋は決まっている。

が、そこ以外はサイス領の貴族であれば使用可能という他の領地では考えられない貴族屋敷だった。

内装も地味ではあるが、格式高い装飾が施されている。

「他の貴族達はどう思ってるんですかね」

つい心の声が漏れた。

「一般貴族や騎士爵の方々は喜んでいるようです。個別で別邸を持つ方もいらっしゃるのでそういった方達からは不評ですね。爵位持ちの王都別邸ではないとかどうとか言われていますが、子爵様方も特に問題視しておりません」

「うん、そんな感じがサイスらしいです」

基本的に予定通りに動く高位貴族達が屋敷で鉢合わせることはない。

馬車が止まった。

深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

「リオ様、どうぞこちらへ」

ミランダの声に立ち上がり、馬車のドアが開くとそこにはグラッドがいた。手を差し出され、その手を取る。

ゆっくり少しでも優雅にみえるように気をつけて馬車を降りた。

「その服、とても似合っていますよ」

「ありがとうございます」

ミラとの買い物の時に買った外行きの服で、着る機会があるのかと思っていた。ぼんやりどころではない。

玄関の造りはどこか懐かしさを感じる。

「どことなくサイスのお屋敷と似た雰囲気を感じます。」

「屋敷の意匠を元に作られています。ほら、あの柱の彫刻は凄く似ていると思いませんか?」

「あ、本当ですね」

「いらっしゃいませ、リオ様」

侍従長が玄関で待機していた。

「旦那様と奥様がお待ちです。」

「宜しくお願いします」

挨拶の礼を返す。と侍従長の頬が少し、ほんの少しだけ緩んだ。

侍従長の先導で伯爵夫妻のいる部屋を訪れる。

扉の先で、フレッドとミレニアが出迎えてくれた。

「フレッド様、ミレニア様。お久しぶりでございます」

挨拶をすると、ミレニアが近寄り心配そうに手を握られた。

「リオさん、大変だったでしょ。大丈夫?怪我はない?」

「はい。ミレニア様。大丈夫です。グラッドが助けてくれたので」

「養母上、リオさんが困惑しているではありませんか。それに何度も説明しましたよ」

「わかっていますが、実際に会うまで心配だったんです。元気そうでよかった。」

心配されていることは照れ臭いけどとても嬉しい。

嬉しいが、フレッド様の笑顔が怖いので手は離して欲しい。言えないけど。

「ほら、ミレニア。そんなところで立ち話もなんだろう?こちらで話そう」

フレッドの言葉に、ミレニアが恥ずかしそうに微笑む。

「ごめんなさいね、リオさん。こちらへどうぞ」

ソファにグラッドと並んで座る。

今日のお茶は侍従長が淹れていた。

「……!美味しい」

フレッドの淹れたお茶も美味しかったが、侍従長のお茶は更に美味しい。

「本当に羨ましい。この味にはどうやっても追いつけないんだ」

フレッドの腕も趣味を超えている。

「私も精進しなくては」

「旦那様、リオ様もお茶の技術よりもすべき話があるのでは?」

侍従長に釘を刺される。

「そうだな、失礼した。婚約発表の日程についてだが、明日サイス領に戻る。それから進んでいる準備が整い次第、領内発表を予定している。その日は領内から他の貴族達が集まり婚約披露パーティーになるからそのつもりでいて欲しい。予想される質問やその答えについては後でミランダに指導させよう。」

事前に婚約発表については連絡を入れている。正式な招待は帰領してからとなるそうだ。

「はい。わかりました」

「冬の間、魔法省で過ごしてどうだった?」

約三ヶ月。たくさんのことがありすぎた。

「私自身の勉強不足と課題の多さを痛感しています。あと神殿という場所の厄介さ、貴族間の繋がりや背後関係等勉強になることばかりでした。少しでも現実を、現場で起こっていることを見ることができたのはとても糧になっています」

「そう。顔つきが少し変わっているから、色々あったのだろうと思っていた。良い経験を積めたのなら良かった」

「ミランダが冬の間、リオさんの話ばかりするから気になっていました。」

!?ミランダ?!

「そ、そうでしたか」

「ミランダから逃げる訓練の時のリオさんが使った魔法の分析をしていたわ。もしかしたら一度挑まれるかもしれないわね」

あの訓練は逃げ切ったから終了したと思っていたら、まさかの十五秒の壁を再び築くつもりだったとは。

「戦闘に関しては研究熱心だから。こちらも凄く助かっているの。クラリスにつける前は、騎士団の訓練に単身乗り込んで大暴れしたり、わたくしが組んだ術式を試して実用性があるか判断してくれたりしていたから、あの頃のミランダに戻ったようだったわ」

ミランダに関しては学園入学前から大体三年半の記憶が主だ。その前はミレニアの侍女の一人で、他の侍女達より距離が近い印象。

「ミランダのおかげで騎士達の意識が高くて助かる。」

フレッドは当時を思い出したのか苦笑いをする。

騎士団の団長から勧誘があったり、新人騎士との決闘、騎士団の魔獣退治に従軍したり。

ミランダが有名人すぎる。

「凄いですね……ん?あれ、そういえば魔法省で新人騎士に絡まれてました。軽くあしらってましたけど」

私の言葉に

「数日でこれですか。」

「しつこく食い下がられていました」

「面倒臭そうにしているミランダが目に浮かびます」

「いくら面倒だからって私に対処を丸投げはやりすぎですよね」

ミレニアとフレッドが頭を抱えた。ただグラッドは面白そうに聞いている。

「新人騎士との勝負はどうでしたか?」

「ミランダの凄さがわかりました。ミランダが武器を抜かずに膝をつかせた相手に私は魔法使用してじゃないと勝つ光景を描けませんでした。」

「楽しかったですか?」

「楽しい、ですか?んーどうでしょうか、あまりよく考えてなくて。ミランダへの感心やもっと頑張ろうって気持ちが強かったです。あ、そういえばミランダが騎士の方が面白い武器を使っていると言っていました。グラッドが好きそうだって」

「へぇ。後で聞いてみますね」

私達の会話を聞いていたフレッドが、

「ミランダに師事するとこういうことは日常なのかな?二人とも慣れてるね」

尋ねる。

日常かと問われれば、ほぼ日常と答える。

「戦闘に関していえば日常でしょうか。ミランダは基準が少し変わってるので驚くことが多いです」

「そうですね。戦闘の判断基準がミゲルだと言ってましたので」

私達の答えに力無くそうかと頷くフレッド。

「確かにミゲルを基準にしてる節はありますね。二人に師事していた時はミゲルが主導権を握っていましたし、判断を委ねる所もありました」

グラッドが楽しそうに話す。

確か鬼指導だったはずだが。私もだと思うが、グラッドもかなり毒されてる気がする。


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